従来のビジネスでは、技術力を駆使して新製品を開発し、それを販売するのが一般的だった。しかし、商品のコモディティ化やIT技術の発展に伴い、単純に優れた製品を販売するだけではビジネスとして成立しなくなってきている。そのような変化を受けて、昨今は「良い製品を作る」だけでなく「ビジネスをデザインする」という考え方も重視されるようになってきた。

そこで今回は、ビジネスデザインの定義や手法、事例などについて解説する。

鈴木 裕太
鈴木 裕太(すずき・ゆうた)
横浜国立大学在学中に中小企業診断士を取得(現在は休止中)。Webメディアの立ち上げ〜売却に携わり、SEO対策をはじめとしたWebマーケティングを幅広く経験。現在はビジネスの分野に特化したライター業と、他社のメディアサイトの立ち上げ支援を行っている。また、情報サイト”BizLabo”の運営も行っており、会社経営に役立つ知識・ノウハウを伝えることにも力を入れている(月間1.5万PV:2020年1月時点)。

目次

  1. ビジネスデザインとは?
  2. ビジネスデザインの手法、デザイン思考とは?
    1. ターゲット顧客への共感・理解
    2. 顧客が抱える課題の明確化
    3. アイデアの創出
    4. プロトタイプの試作とテスト
  3. ビジネスデザインを事業に取り入れた事例3選
    1. 1.有限会社坪川製箱所
    2. 2.押入れ産業株式会社
    3. 3.株式会社アーク情報システム
  4. ビジネスデザインの学習に役立つ本3選
    1. 1.MBAビジネスデザイン 戦略設計の基本と応用
    2. 2.サービスデザインの教科書:共創するビジネスの作りかた
    3. 3.無印良品のデザイン
  5. ビジネスデザインは現代の経営に必須の概念

ビジネスデザインとは?

ビジネスデザインとは?定義や手法、事例などを徹底解説!
(画像= MIND AND I/stock.adobe.com)

ビジネスデザインとは、顧客の課題解決につながるような新しいビジネスを作り上げることだ。「デザイン」という言葉には、企画の立案や設計という意味もある。つまり、顧客の抱える課題をもとにマーケティング施策(ブランディングや販売促進など)や営業方法などを検討することで、新しいビジネスモデルを創出する行為と言える。

技術力の進歩や消費者ニーズの多様化によって、性能が良い製品を作るだけでは業績を伸ばすことが難しくなった。そこで、「ビジネスデザイン」という考え方が生まれた。

ビジネスデザインの手法、デザイン思考とは?

ビジネスデザインの手法はいくつかあるが、今回は特に有名な「デザイン思考」を紹介する。デザイン思考とは、製品デザインなどで用いる思考方法を用いてビジネスプランを設計する手法である。デザイン思考では、主に以下の4つのプロセスでビジネスをデザインしていく。

ターゲット顧客への共感・理解

ビジネスデザインやデザイン思考は、製品や自社のリソースではなく、製品を利用する顧客を中心に考える方法だ。したがって、自社製品を利用するターゲット顧客の持つニーズや課題を把握する必要がある。デザイン思考では、単にニーズや課題を知るだけでなく、顧客の悩みやニーズに共感することが重要だ。

悩みや不満に共感することで、顧客目線でビジネスをデザインできる。その結果、顧客が本当に求めている商品・サービスを作り出せるようになる。ターゲット顧客について理解を深める方法には、アンケートやインタビュー、行動観察などがある。

顧客が抱える課題の明確化

ターゲット顧客の課題・ニーズを洗い出したら、課題やニーズが生まれた背景を明確にする必要がある。たとえば「ジュースが飲みたい」というニーズの背景には「甘いものを摂取したい」や「喉を潤したい」など、人によって異なる潜在的なニーズが存在する。また、「太りすぎ」という課題は同じでも、人によってその要因は異なるはずだ。

顧客によって潜在的なニーズや背景にある要因が異なるため、それを見誤ると見当違いなビジネスをデザインしてしまうことになる。潜在的なニーズや課題が生まれた背景を明確にし、ビジネスを的確にデザインしなければならない。

課題やニーズが生まれた背景を知る際には、顧客と直接対話して背景を探るのが最もおすすめだ。アンケートやインターネット上でも情報収集できるものの、その情報が本当であることや本心から来たものであるかは分からない。また、人によって若干異なるニーズの差異も把握できないだろう。一方で顧客との対話を行えば、表情や声のトーン、何気ない一言などから、課題やニーズの背景を見いだすことができる。

たとえば、ジュースを購入する背景を知りたいならば、その前後の行動やその時何を感じていたかを聞くのが良いだろう。そうすれば、その人がどのような動機や感情からジュースを購入したかを知ることができる。

アイデアの創出

次に行うべきは、顧客の抱える問題を解決するアイデアを出すことだ。マーケティングや営業など、あらゆる観点から検討し、できる限り多くのアイデアを生み出すことが重要である。入念に検討しても、実際にやってみるとうまくいかない(ニーズに沿っていない)ことは少なくない。

時間を無駄にしないためにも、この段階では現実性や収益性などは考えずに、とにかく多くのアイデアを出す必要がある。

プロトタイプの試作とテスト

アイデアをたくさん出したら、後はそれを1つずつ検証していく。デザイン思考では、アイデアを検証する際に「プロトタイプ」を使用する。プロトタイプとは、必要最低限の機能のみを備えた試作品のことだ。低価格ですぐ作れるプロトタイプで検証することで、コストと時間を削減できる。プロトタイプが完成したら、限られた顧客に使用してもらう形でテストを行う。

テストでは、顧客からフィードバックを得ることで「実際にニーズや課題を解決できているか」を確認する。問題がなければ、本格的にそれを事業に乗せる。課題が見つかれば、再度プロトタイプを作り直したり、別のアイデアを検討したりすることになる。

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ビジネスデザインを事業に取り入れた事例3選

ビジネスデザインの考え方を用いると、どのような事業が生み出されるのだろうか?今回は、企業とクリエイターが共同で新規事業を作り上げるコンペティション「東京ビジネスデザインアワード」で優秀賞を獲得したアイデアの中から、特に興味深いビジネスデザインの事例を3つ紹介する。

1.有限会社坪川製箱所

有限会社坪川製箱所は、段ボールを加工した商品を製造する企業である。軽くて加工しやすい段ボールの性質を活かして、災害で役立つ段ボール枕や子どもの知育教育で使える段ボール玩具など、ユニークな商品を数々生み出してきた。今回のコンペで、同社がクリエイターと共同開発した商品が「非常用段ボールランタン」である。

懐中電灯を用意するだけで照明を確保できる上に、組み立てが簡単で持ち運びに便利であることが特徴だ。同社の強みである段ボール加工技術を用いて、災害時のニーズを満たせる商品を生み出したことが高い評価につながった。

2.押入れ産業株式会社

押入れ産業株式会社は、大型荷物を預かるトランクルーム事業、機密文書を保管する事業、販促物や個人の小物を預かるレンタル収納スペース事業でフランチャイズ展開している企業だ。空いているフロアを有効活用できる点や、業界初の「スピード契約」「無人見学」「キーレス」「非文書化」を同時に実現するシステムが、業界内外から高く評価されている。

同社が今回のコンペで提案したのは、レンタル収納の技術を使った展示空間だ。制作した製品を見せる機会を求めるハンドメイド作家をターゲット顧客とし、小さな展示スペースを低価格で貸し出すビジネスモデルである。閉じられたレンタルスペースを「展示場所」という新しい価値に転換した点は、ビジネスデザインのお手本と言える事例だ。

3.株式会社アーク情報システム

株式会社アーク情報システムは、イベント運営者と参加者をリアルタイムでつなぐサービスを開発している企業だ。イベント情報をクラウド上で随時更新できるシステムによって、イベントの中止や場所の変更などをリアルタイムで共有できるため、業界内で注目のビジネスモデルとなっている。同社がコンペで提案したのは、広告制作やTV業界に携わる法人やフリーランスを対象としたコミュニケーションツールだ。

チャット機能やカレンダー同期機能を備えており、スマホ1台で手軽に仕事上のコミュニケーションが取れるツールに仕上がっている。「スマホで業務のスケジュールや進捗状況などをリアルタイムで共有する」という斬新なアイデアが高く評価された。

参考:東京デザインアワード

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ビジネスデザインの学習に役立つ本3選

できるだけ網羅的にビジネスデザインについて解説してきたが、この記事だけでビジネスデザインを語り尽くすのは難しい。そこで、実践的にビジネスデザインを学びたい人に向けて、学習に役立つ本を3冊紹介する。

1.MBAビジネスデザイン 戦略設計の基本と応用

ビジネスデザインに必要な知識を網羅的に学ぶなら、『MBAビジネスデザイン 戦略設計の基本と応用』(日経BP)がおすすめだ。本書では、マーケティングやビジネスモデル、イノベーション、競争戦略など、ビジネスデザインで必須の知識について、事例を交えつつわかりやすく解説されている。ビジネスデザインを実践する手順についても書かれているので、ビジネスデザインに関して一通り学習したい人には最適だ。

参考:MBAビジネスデザイン 戦略設計の基本と応用

2.サービスデザインの教科書:共創するビジネスの作りかた

目に見えないサービスを提供する事業にビジネスデザインを導入したいなら、『サービスデザインの教科書:共創するビジネスの作りかた』(NTT出版)がおすすめだ。本書では、サービスデザイン(サービスに関するビジネスデザイン)の活用事例や、サービスデザインのプロセスについて詳しく説明されている。

ジャーニーマップやステークホルダーマップなど、ビジネスデザインを実践する上で役立つテクニックも載っているので、実践的な観点でも申し分ない。「根本的にサービスやデザインとは何か」に関しても説明されているため、基本から学びたい人にもおすすめだ。

参考:サービスデザインの教科書:共創するビジネスの作りかた

3.無印良品のデザイン

『無印良品のデザイン』(日経BP)は、ビジネスデザインの基本がある程度わかっていて、事例を通じて理解を深めたい人におすすめだ。タイトルにあるとおり、本書では無印良品の成功要因をビジネスデザインの観点で分析している。本書で説明されている無印良品の商品開発のプロセスを理解すれば、実際に自社でビジネスデザインを導入する際のヒントを得られるだろう。

参考:無印良品のデザイン

ビジネスデザインは現代の経営に必須の概念

ビジネスデザインは、顧客にとって価値のある商品・サービスを提供する上で不可欠な概念である。単に良いものを作るだけでなく、顧客の立場に立って課題解決のためにビジネスを作り上げる姿勢は、今後の時代を生き抜く経営者にとって必須の考え方と言えるだろう。特に海外進出や上場によってビジネスを拡大するためには、競合他社とは抜本的に異なる価値提供が必要になる。

事業が軌道に乗っている人は特に、さらなる飛躍のためにビジネスデザインの考え方を取り入れるべきだろう。

文・鈴木 裕太(中小企業診断士)