飲食店経営などに携わる個人事業主にとって、お金の悩みや疑問は避けて通れない問題である。その中でも、今回は税金の仕組みや節税のやり方について触れる。
「せっかく稼いだのに支払う税金が多くてあまり手元に残らない…」
このような悩みを持ったことがあるのではないだろうか。さまざまな節税策を使うことで、そのお金をローンや子どもの教育費などに充てる余裕も生まれてくる。ここでは、個人事業主の置かれている環境を踏まえ、個人事業主の主な節税策や意外な手法を紹介する。
個人事業主だからこそ税金や節税について知ることで、お金と賢く付き合えるようになる。
目次
個人事業主の置かれている環境

少子高齢化という問題を抱える日本政府は近年、起業を積極的に推進・援助する姿勢を見せている。日本政府の狙いの背景には、雇用の創出や増加、新技術や仕組みの誕生、人材育成への期待がある。社会を発展させていくために、起業する人がもっと増えるべきだと考えているのである。
個人事業主のメリットとデメリット
個人事業主として起業することにはどんなメリットがあるのか。開業、事業変更、廃業の手続きがシンプルであることが長所として挙げられる。その上で、節税に配慮して仕事の経費を使えること、一定所得までは法人と比べて税金が得であることなどが挙げられる。
デメリットとして、開業届を出してからは確定申告が毎年必要になること、加入できる社会保険があまりないこと、厚生年金を払っている会社員と比べて将来もらえる年金額が少なくなってしまうことが挙げられる。
個人事業主が支払う税金の種類と課税の仕組み
個人事業主が支払う税金は、所得税、消費税、住民税、個人事業税の4種類である。このうち、所得税と消費税は自分で確定申告をして納税額を算出する必要があるが、住民税と事業税は申告情報をもとに、自治体が税額を算出してくれることになっている。
このような国税は、金融機関の窓口やコンビニエンスストアだけでなく、クレジットカードで納付することも可能だ。事業の規模によっては納税額が大きく、手元に現金を用意することが大変な場合もあるだろう。
クレジットカードであれば、現金を携帯することで起こり得る犯罪などのトラブルを避けることができる。また、カード会社によっては分割払いが可能であったり、納付額によってポイントが貯まるサービスがあるなどさまざまなメリットがある。自身の状況に合わせて納付方法を選ぶことが大切だ。
それでは、所得税、消費税、住民税、個人事業税それぞれについて、解説しよう。
1.所得税
所得税は、1月1日から12月31日の1年間に得た所得(売上-経費)に対して課せられる。課税にあたっては、所得が増えるほど税率が上がる累進課税方式を採用。その年の所得税は、原則として翌年の2月16日から3月15日までに確定申告して、国に納税する。
また、期限までに納税額を半分まで納めていた場合、残りの納付を延期できる。しかし、延期した金額に対して年率1.8%の利子がつくので注意が必要である。
2.消費税
消費税は、商品やサービスの対価にかかる税金を、消費者が負担する税金である。個人事業主の場合、事業年度の売上が1,000万円以上の人が課税対象となる。反対に免税対象となるのは、開業から1年目である、基準期間および特定期間の課税売上高が1,000万円以下の場合である。
基準期間とは納税義務になるか否かの判定基準となる期間のことで、個人事業主の場合は前々年になる。特定期間とは前年の1月1日から6月30日となっている。所得税と同様、自分で計算、申告、納税まで行わなければならない。
3.住民税
住民税は居住している自治体に収める税金である。住民税には、都道府県民税と市区町村民税がある。所得税額に応じて、自治体が税額を決定することになっている。確定申告して2~3ヵ月後の6月中旬から、個人事業主の事務所がある都道府県・市区町村から届く「納税通知書」に従って、住民税を納付する。納付は6月、8月、10月、1月の年4回払いか、6月の1回払いかの、いずれかを選択可能だ。分割払いでも一括払いでも金額は変わらない。
4.個人事業税
個人事業税は、各市区町村に納める。その税率は、事業内容によって以下のように異なる。
- 物品販売業や料理店業、出版業など…税率5%
- 畜産業、水産業、薪炭製造業…税率4%
- 医業や弁護士業、理美容業など…税率5%
- 鍼、マッサージ指圧などの医業、装蹄師業…税率3%
年間営業している個人事業主の場合、事業所得が290万円以下であれば納税の必要はない。事業税の納付は、都道府県税事務所から「納税通知書」が送られてくるので、それに従う。納付するのは、8月末と11月末の年2回となっている。この他、事業の内容によっては登録免許税や固定資産税が課されることもある。
個人事業主の節税策5選
個人事業主が節税策を考える場合、まずは事業にかかる経費の支出を見直すことを勧める。個人事業主が支払う税金の中で最も大きな割合を占めるのが所得税であり、その所得税額を算出する以下の計算式を見ると、経費にこだわるべき理由が見えてくる。
1.経費を見直す
- 所得金額=所得の合計額-必要経費-各種控除
- 所得税額=所得金額×税率-課税控除額
ここから、経費と控除額が多いほど課税金額が少なくなることがわかる。経費として申請できる資金の用途には、例えば仕事に伴う交通費(電車賃、バス代など)、宣伝費、交際費(取引先相手との食事代、送迎代、冠婚葬祭費など)、文具代、事務用品代などがある。
また、自宅を事務所として使用している人もいる。その場合、各固定費を経費とプライベート費用に分けることが可能である。これを「家事按分」という。家賃、インターネット料金、水道光熱費、固定電話代、携帯電話代、車のガソリン代、車検代、減価償却費、火災、損害保険料などがこれに当たる。
2.青色申告
確定申告には、白色申告と青色申告が存在する。2つのうち、できれば節税効果が期待できる青色申告で確定申告したいところである。「青色申告特別控除」では、以下の条件を満たせば65万円の控除が受けられる。白色申告では10万円の控除しか受けられないため、青色申告の方が断然お得である。
条件は以下の通り。
- 事業規模の不動産所得または事業所得を得られる事業を行っている
- 所得に関する取引を複式帳簿で記帳している
- 記帳に沿って作成した貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付する
- 控除の適用を受ける金額を確定申告書に記載し、法定申告期限内に提出する
申告期限に間に合わなかった場合、もしくは上記の条件をすべて満たしていない場合は、控除額は10万円となる。2020年以降は、65万円だった控除額が55万円になるので注意が必要だ。引き続き65万円の控除を受けるには、e-Taxまたは電子帳簿保存を利用しなくてはならない。 家族を従業員とすれば、家族に支払った給与を所得から控除できることにも留意しておきたい。支払った給与が適正水準であれば、すべて経費とすることが可能である。 白色申告では配偶者で86万円、その他の親族で50万円までが控除額上限である。やはりここでも、青色申告に軍配が上がる。その他にも青色申告のメリットはたくさんあり、利用価値は大きい。
3.保険・年金加入
保険や年金に加入することで、一定額を所得から控除することができる。契約が平成24年(2012)より前か後かで、生命保険料控除額が以下のように異なってくる。
- 平成23年(2011)12/31までの旧契約の控除額…上限10万円
- 平成24年(2012)1/1からの新契約の控除額…上限12万円
新旧の両方を契約している場合には、旧制度のみ、新制度のみ、旧制度と新制度の併用から、いずれかを選択できる。
4.iDeCo(イデコ)
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自分の年金を自分で積み立てるシステムである。原則として、20歳以上60歳未満の国民年金、厚生年金加入者は誰でも加入できる。iDeCoには、大きく分けて3点のメリットがある。
全額が控除対象
積み立てている期間は毎年、その掛金がまるまる控除の対象となる。そのため節税効果への期待を高く持つことが可能だ。運用利益が非課税
iDeCoの運用利益は課税されない。一般の投資信託などの運用利益は、税金として差し引かれるが、iDeCoではそのまま再投資できるため、有利に運用を続けられる。
- 受け取り時も一定額まで非課税となる
受け取る際は、一定額まで税金がかからない。積み立てた資金を受け取る際は、60歳以降であれば年金もしくは一時金という形で受け取れる。年金として受け取る場合には「公的年金等控除」、一時金として受け取る場合には「退職所得控除」が受けられるため、節税効果が見込めるのである。 以上のようなメリットがある一方で、どの金融機関からどの金融商品を選択するかという選択の難しさがあるのがiDeCoのデメリットといえる。普段利用している金融機関である、手数料が低いなど、納得できる理由を見つけて選択するといい。
5.小規模企業共済
「小規模企業共済」とは、個人事業主の退職金のような制度である。掛金月額は1,000~7万円と幅が広く、その間で金額を500円単位で設定できる。ここで支払った全額が控除される。
例えば、最高額の7万円を1年間払い続けた人は、7万円×12ヵ月=84万円。84万円もの控除を受けることができるのである。また、前払いで向こう1年以内のものであれば控除できる。最高額の7万円を払い続ければ、70000円×24ヵ月=168万円。168万円の所得控除が狙える。
こんな意外な手法も?その他の節税対策
さきほど紹介したオーソドックスな節税方法5つ以外にも以下のような節税方法が存在する。
短期前払費用の特例
レンタルサーバー料金など、継続的な支払いをまとめて行うことで、節税が期待できる場合がある。前払費用というのは翌期の経費の前払いである。これは原則的には当期の経費としては扱われないことになっている。
しかし、下記の条件を満たした前払費用については、当期の必要経費としての計上が可能だ。
1.年払いに関する記載のある契約書があること
2.継続的な役務提供であること(単発の役務の提供については「前渡金」)
3.実際に料金を支払っていること
4.支払った日から1年以内の役務提供を受けること
5.支払い方法や経理の方法を継続すること
(一度年払いにすると、毎年継続して同じ計上方法をとる必要がある)
6.売上に対応する費用については、認められないということ
一度年払いにしたけど、来期以降は月払いにする、といったように、計上方法をコロコロ変えることはできないので注意が必要だ。前払費用としての計上を考えるうえでは、1~6の条件を理解した上で、継続できるかどうかが重要な判断材料になってくるのである。
国民年金前納付割引制度
資金面に余裕が出てきたら、国民年金前納付割引制度の利用を検討したい。一定期間の保険料をまとめて納入するとことで、保険料が割引になる。前納の期間は、1ヵ月分、1年分といった具合に自分で選択可能だ。割引額は年利4%の複利現価法で計算されている。
最長の2年分を前納した場合、割引なしの時より1万5,000円ほど安くなる。また、前納方法が現金やクレジットカードか、あるいは口座振替かによって割引額が異なってくる場合があるので注意が必要だ。
また、家族の分もまとめて国民年金保険料を納める場合は、納付額が高額になるため、クレジットカード払いを検討するのも良いだろう。クレジットカード払いであれば、納付を忘れるリスクもなく、月々の支払いが難しい場合はリボ払いに変更することも可能だ。
加えて、カード限度枠を一時増枠できたり、ポイントやマイルが貯まるメリットもある。現金で支払うよりもお得になる場合もあるため、納付方法の一つとして頭に入れておくと良いだろう。
個人事業主でもしっかり学べば節税は可能
ここまで、個人事業主の税金・節税について紹介した。個人事業者が増えることで、経済の活性化につながることが期待されている。個人事業という働き方には一長一短あるが、税金関係の処理(確定申告など)をすべて自分でやらなければいけない点は少々やっかいだといえる。
ただし、青色申告などさまざまな制度を理解し、使いこなすことで、多くのメリットを得られることも事実である。しっかり勉強すれば、個人事業主としての成功の礎になることは間違いない。
文・Business Owner Lounge編集部