事業にともなう会計処理である減価償却の理解は、適正な納税や節税のために避けて通れない。固定資産の種類ごとに扱いが異なるほか、計算方法も複数あるので理解しづらい。会計処理で困っている方に向けて、今回は減価償却についてわかりやすく解説していく。
目次
減価償却をわかりやすく説明

減価償却とは、企業の会計や税務において実施される手続きである。建物や生産設備といった固定資産は、取得時にすべて費用にするのではなく、使用できる期間にわたって少しずつ費用にしていく。
ここからは、減価償却をする理由や仕分けの方法、関連用語について説明する。
減価償却をする理由
取得した金額を取得時点ですべて費用とすればよいと考える方もいるかもしれない。なぜ、複雑な手続きをとるのだろうか。
固定資産は複数年にわたって使用できる。取得年度にすべて費用とすると、固定資産の使用期間における取得年度の費用負担が重くなってしまう。
また、固定資産を使用して事業活動をおこなえば収益を獲得できるが、その費用は取得年度に計上されてしまう。
その場合は、「費用収益対応の原則」に反する。収益とその関連費用は、損益計算書で対応させなければならないという原則だ。
時間経過にともない固定資産の価値は減るはずだが、その減少分を正しく決算書に反映すべきである。例として、2年間だけ使用できる固定資産を取得し、取得時に全額を費用計上した場合を考えてみよう。
売上高 | 費用 | 利益 | 固定資産取得費用 | |
1年目 | 200 | 150 | 50 | 0 |
2年目 | 300 | 100 | 0 | 200 |
3年目 | 400 | 300 | 100 | 0 |
売上は毎年順調に増加している。2年目は固定資産取得にともない利益が生じなかったが、3年目に最大の利益をあげた。
売上と利益から3年間を評価する場合、評価の高さは3年目、1年目、2年目の順になる。
しかし、よく考えてみてほしい。2年目に取得した固定資産を使用しているのに、3年目は固定資産の取得費用を負担していない。
固定資産は2年間使用できるので、固定資産取得費用は単純に二等分して各年に100ずつ費用化すべきである。それを踏まえた決算書は以下のとおりだ。
売上 | 費用 | 利益 | 固定資産取得費用 | |
1年目 | 200 | 150 | 50 | 0 |
2年目 | 300 | 200 | 100 | 200 |
3年目 | 400 | 400 | 0 | 0 |
評価の高さは2年目、1年目、3年目の順になる。調整前と比べ、評価が最も低かった2年目と評価が最も高かった3年目が入れ替わり、結論が大きく異なった。
売上と費用を正しく計算しているのはどちらだろうか。固定資産の使用実態を反映させると、後者の計算が1年目から3年目までの損益をより正しく表している。
ただ、後者の計算だと3年目は利益が0で問題にみえる。反対に前者の計算では利益があるので問題がないようにみえ、潜在的な課題に対する意思決定が遅れる可能性がある。
このように、減価償却によって正しく損益を計算でき、適切な意思決定が可能になる。
減価償却の仕訳
減価償却の仕訳は大きく2種類ある。直接法と間接法である。建物を取得した場合のケースで説明していく。
方法1.直接法
建物にあたる額を直接減らしていく方法である。シンプルであるが、取得時の価格が貸借対照表のみではわからなくなるデメリットがある。
1,000で取得した建物の減価償却費を100として計上した場合の仕訳は以下のとおりだ。
(借方)/(貸方)
減価償却費 100 / 建物 100
減価償却後、貸借対照表に記載される建物は900(1,000-100)になる。
方法2.間接法
建物を直接減らさず、減価償却累計額という科目を使用する方法である。
1,000で取得した建物の減価償却費を100として計上した場合の仕訳は以下のとおりだ。
(借方)/(貸方)
減価償却費 100 / 建物減価償却累計額 100
減価償却後、貸借対照表に記載される建物は1,000である。同時に建物減価償却累計額も100として記載され、純額としては900(1,000-100)になる。 仕訳の方法は直接法と間接法から企業ごとに選択できる。表示が違うだけで、減価償却後に建物が900になった点は同じだ。
減価償却に関係する用語
用語1.減価償却費
減価償却した際に計上される費用の名称。固定資産の価値が減って費用化される。
用語2.減価償却資産
減価償却の対象となる有形や無形の固定資産をさす。土地や美術品など一部減価償却をしない資産を除く。
用語3.取得価額
固定資産を取得したときの価格。価額は貸借対照表に記載する金額を示す。取得価額には、資産本体の金額のほか、資産を使用できるようにするための付随費用も含まれる。
用語4.耐用年数
固定資産を使用できる期間をさし、通常は年単位となる。法人税法で定められた法定耐用年数と、資産の実態や使用状況から使用可能な年数を算出する経済的耐用年数がある。この期間にわたって減価償却費を計上していく。
用語5.償却率
減価償却費を計算するために用いる率。取得価額あるいは期首の帳簿価格に償却率をかけることで減価償却費を計算できる。
たとえば、耐用年数が5年の固定資産を均等に減価償却する場合、償却率は0.2と決められている。取得価額に0.2をかけると、減価償却費を計算できる。
用語6.償却方法
減価償却費を計算する方法である。複数の種類から選択でき、方法によって償却率が異なる。原則、一度選択した方法は継続して使用していく。
用語7.事業供用日
固定資産を本来の用途で使用し始めた日をさす。機械の試運転は事業供用前となる。使用前であっても、本来の用途で使用できる状態になっていれば、使用しているとみなされる。
設定がいらないパソコンは納品日、機械は据え付けた日などが事業供用日になる。
用語8.減価償却累計額
取得してから現在までの減価償却費の合計額。取得価額を超えることはない。
用語9.未償却残高
減価償却資産の取得価額のうち、未だ減価償却をしていない部分をあらわす。これが貸借対照表に記載される純額になる。
用語10.備忘価額
有形固定資産をすべて償却した場合に、管理の便宜上1円だけ残し、除却や売却をするまで固定資産台帳に記載しておく額である。
減価償却の対象となる資産
減価償却では処理できない資産もある。実務で判断できるように、処理の対象についても把握しておくべきだろう。
減価償却ができない資産・できる資産
減価償却の対象は長期的な使用にともない価値が減っていく固定資産である。減価償却の必要性を考えればわかるだろう。
裏返すと、耐用年数が1年以内の資産は対象ではない。そのほか、減価償却ができない資産の例を以下にあげる。
- 土地
- 出土品の一部
- 書画の一部
- 彫刻の一部
- 工芸品の一部
これらは時間経過にともない価値が減っていくとは考えられないためである。
減価償却の計算方法
ここからは減価償却の計算方法を解説していく。まずは計算に必要な要素から共有する。
減価償却の計算に必要な要素
減価償却費は以下の計算式で求められる。
- 取得価額 × 償却率
- 期首簿価 × 償却率
取得価額は、資産本体の金額に運賃や設置費などの付随費用を加えた額である。期首簿価は期首の未償却残額である。
償却率は以下の要素によって変わる。
- 資産の種類
- 耐用年数
- 償却方法
資産の種類は資産を用途ごとに分けたもので、建物や機械設備といった勘定科目よりもさらに細かい。種類の例は以下のとおりだ。
【建物】
- 鉄筋コンクリート造の事務所用建物
- 鉄筋コンクリート造の工場用建物
- 木造の住宅
【車両】
- 小型自動車
- 二輪自動車
【器具備品】
- テレビ
- パソコン
耐用年数は、資産の種類ごとに細かく決まっている。具体的な年数は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の別表第一から別表第六にて定められている。
直接条文を見るよりも、「建物 耐用年数表」などのキーワードでネット検索したほうが表を探しやすい。耐用年数が見直されることもあるので、最新の表を確認しなければならない。
減価償却の計算方法1.定額法
定額法とは、耐用年数にわたって毎月同額を償却していく方法である。建物など、価値の減り方が時間の経過に比例する資産と相性がよい。
定額法の償却率は、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の別表第八に定められている。計算例は以下のとおりだ。
取得価額:100万円
耐用年数:8年
償却率:0.125
取得日:期首
1年目の減価償却費=1,000,000×0.125=125,000円
2年目の減価償却費=1,000,000×0.125=125,000円
…
8年目の減価償却費=1,000,000×0.125-1=124,999円
毎年の減価償却費は定額になる。8年目は125,000円になるが、備忘として1円を残しておくため、124,999円とする。
減価償却の計算方法2.定率法
定率法は、期首簿価(取得年度は取得価額)に償却率をかけた金額を償却していく方法である。
減価償却費は、初年度が最大で経年とともに減少していくため、機械や器具など陳腐化しやすい資産と相性がよい。
定率法の償却率は、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の別表第十に定められている。別表第十には改定償却率と保証率も定められている。
期首簿価と償却率から求めた減価償却費が、取得価額に保証率をかけた数値を下回った場合、その時点の期首簿価に改定償却率をかけた金額が毎年の減価償却費となる。
計算例は以下のとおりだ。
取得原価:100万円
耐用年数:8年
償却率:0.25
保証率:0.07909
改定償却率:0.334
取得日:期首
1年目の減価償却費=1,000,000×0.25=250,000円
2年目の減価償却費=(1,000,000-250,000)×0.25=187,500円
3年目の減価償却費=(1,000,000-250,000-187,500)×0.25=140,625円
…
6年目の減価償却費=237,306×0.334=79,260円
7年目の減価償却費=237,306×0.334=79,260円
8年目の減価償却費=78,785円
6年目の減価償却費は、取得価額に保証率をかけた額(79,090円)を下回るので、その時点の期首簿価に改定償却率をかけた金額(79,260円)になる。
8年目の減価償却費は、期首簿価(78,786円)を超える額であるため、備忘価額1円を残して78,785円になる。
減価償却費が定額の場合に比べて、最初が大きく徐々に小さくなることがわかる。
減価償却と税の関係
減価償却にも税務処理がともなう。正しく納税・節税できるよう、基本的な税務知識に触れておく。
計算が税抜きと税込みで異なる
会社での経理処理は、税抜処理と税込処理の2種類があり、いずれかを選択できる。起業したばかりの企業や売上規模が小さく消費税が免除されている企業は、税込処理になる。
税込処理とは、消費税を含めた金額を売上や経費、固定資産に計上する。たとえば、税抜き100万円の固定資産を取得した場合、税抜処理なら固定資産は100万円、税込処理なら固定資産は110万円となる。
減価償却における節税対策
減価償却費が合理的に計算された金額であれば、会計上の金額が税金計算上の費用(損金)になる。
よって、多額の減価償却費を計上したほうが損金を多く計上でき、結果として税金を減らせる。定額法より定率法のほうが減価償却費を早く計上できるので、税金が少なくなる。
ただし、減価償却費の合計額は同じであり、減価償却費は徐々に少なくなる。つまり、節税というよりは課税の繰り延べといえよう。
減価償却の計上で最低限知っておきたい金額の基準
取得価額によっては固定資産として計上しないケースがある。具体的な金額の基準を示しながら解説しよう。
取得価額が10万円未満
取得価額が10万円未満の場合、固定資産として計上せず、購入時に全額を費用として計上できる。
取得価額が10万円以上20万円未満
取得価額が10万円以上20万円未満の場合、建物や機械といった資産の種類に基づく固定資産として計上せず、一括償却資産として扱える。特例により、資産の種類を問わず3年間で取得価額を3分の1ずつ損金にできる。
取得価額が30万円未満
取得価額が30万円未満の場合、一定の条件を満たす企業は固定資産として計上せず、相当する額を「少額減価償却資産」として損金に算入できる。12か月で300万円まで、この特例を使用できる。
条件の例は以下のとおりだ。
- 従業員が1000人以下
- 資本金が1億円以下
- 大企業の子会社でない
ここでの大企業とは、下記に該当する企業を指す。
- 従業員が1000人以上
- 資本金が1億円以上
- 大法人による完全支配関係がある法人
- 受託法人 少額減価償却資産の詳しい条件を知りたい人は、国税庁のサイトを参照してみてほしい。
まとめ
減価償却は、正しい損益計算と意思決定のために必要である。また、固定資産の種類によって費用化する年数が変わる点や、複数の方法から選択できることも知っておきたい。
会計上の利益や税金にも影響してくるため、今一度減価償却について正しく理解し、自社に最適な会計処理を実施してほしい。
文・新井良平(バックオフィスLABO代表)