開業の準備がわからず、ネットで検索したり、知人に相談したりする方もいるかもしれない。しかし、断片的に知識を獲得しても具体的な準備が見えてこないケースもある。この記事では、開業までに必要な準備を簡潔にご紹介する。開業に役立つ資金調達方法についても参考にしてほしい。
目次
開業までに必要な準備

準備が不十分だと開業しても失敗しかねない。開業前に必要な準備について述べる。
準備1.相談・報告
開業前に知人に相談して報告することもあるだろう。客観的なアドバイスを受けたいのであれば、公共の相談窓口が役に立つ。
相談窓口1.「TOKYO創業ステーション」
東京都の政策連携団体である東京都中小企業振興公社が運営する「TOKYO創業ステーション」は、創業支援を担う拠点である。
起業経験者による「コンシェルジュ起業相談」を利用可能だ。ビジネスアイデアのブラッシュアップや起業手続きのアドバイスに対応している。なお、利用の際は事前予約が必要だ。
相談窓口2.東京商工会議所
東京商工会議所が主催している「創業・起業窓口相談」では、個別に対応してもらえるため、込み入った相談もできる。
「専門家窓口相談」も設けているので、税理士や行政書士などの士業に相談することもできる。料金は無料であり、気軽に利用しやすい。
準備2.情報収集
ビジネスの分野を問わず、情報収集は必要である。隙間時間で情報収集できる手段はインターネットや書籍などだ。スマートフォンさえあれば、場所に関係なくサイトや電子書籍を閲覧できる。
ただ、インターネットで情報収集するときには注意点がある。サイトの運営者や情報のソースなどが不透明で、信憑性が薄いケースも少なくない。
それに比べて、書籍は著者の経歴や実績をもとに執筆されている。実体験に触れられるので、精度の高い情報を獲得しやすい。
ただし、読書は時間を取られるため、忙しいと熟読できない。電子書籍などで隙間時間を有効活用するとよいだろう。
そのほか、交流会に参加して情報を得る方法もある。たとえば、東京商工会議所は、職種別の交流会などを主催している。
それぞれの目的観が異なるため、無駄骨に終わる可能性もある。しかし、経験者から情報を得られるメリットは大きい。
準備3.事業の計画
開業前に実施する事業の内容を説明できるようにしておく。金融機関から融資を受けるためには、収益の根拠を示す必要があるからだ。
財務戦略の一環として事業計画書を作成する。ベンチャーキャピタルから出資を受ける際にも、判断材料として活用される。
準備4.開業資金の準備
開業には開業資金が必要である。個人事業主であれば生活費と事業資金を準備しなければならない。
法人の場合、起業者が大半のケースで株主になるため、出資する資本金の額に迷うだろう。
取引先からの信用を高めるために多額の資本金を出資したり、建設業であれば建設業許可の種類によって多額の資本金が必要になったりする場面がある。
いずれにせよ、開業前に貯蓄しておくべきだろう。
準備5.税務手続き
開業には税務手続きがともなう。開業後に必要な書類手続きは以下の通りだ。
【個人事業主の場合】
手続き1.個人事業の開業届出
新たに事業を開始したときに提出する届出だ。提出期限は事業開始日から1ヶ月以内である。
手続き2.所得税の青色申告承認申請書
青色申告の承認を受ける場合に必要になる。
原則として、青色申告の承認を受けようとする年の3月15日までに提出しなければならない。その年の1月16日以降に開業したケースでは、提出期限は開業日から2ヶ月以内となる。
手続き3.青色事業専従者給与に関する届出書
青色申告の特典として、青色事業専従者の給与を必要経費に算入するのに必要だ。
原則として、青色事業専従者給与額を必要経費に算入しようとする年の3月15日までに提出しなければならない。
なお、その年の1月16日以降に開業した場合や、新たに事業専従者を有した場合、提出期限は開業日から2ヶ月以内となる。
手続き4.給与支払事務所等の開設届出書
給与の支払いを行う事務所を開設したとき税務署に提出する。提出期限は事務所の開設日から1ヶ月以内だ。なお、個人事業の開業届を提出する場合は提出しなくてよい。
手続き5.源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
給与や税理士等の報酬に係る源泉所得税を半年にまとめて納付する場合の手続きである。
原則として、源泉所得税の納付は徴収した日の翌月10日が納付期限である。特例では、1月から6月分を7月10日、7月から12月分を翌年1月20日までに納付すればよい。
【法人の場合】
手続き1.法人設立届出書
内国普通法人を設立した場合に必要となり、法人設立の日から2ヶ月以内に提出しなければならない。
手続き2.青色申告の承認申請書
法人として青色申告の承認を受けるために必要だ。
原則として提出時期は、青色申告によって申告書を提出しようとする事業年度開始の日の前日までだ。
設立日の属する事業年度の場合は、設立日以後3ヶ月を経過した日と当該事業年度終了日のうちいずれか早い日の前日までが提出時期となる。
手続き3.給与支払事務所等の開設届出書
個人事業主に記載した内容と同じだが、法人の場合は開業届を提出してもこの届出書を別途提出しなければならない。
手続き4.源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
基本的に個人事業主に記載した内容と同じである。
開業前に準備するもの
開業の準備ではビジネス用品もそろえなくてはならない。準備しておくべきビジネス用品を説明していく。
用品1.印鑑
日本では実務において印鑑が用いられる。印鑑の種類は以下の通りだ。
- 実印
- 銀行印
- 角印
- 屋号印
実印は市区町村で登録され、公的に認められた印鑑である。
銀行印は、預金者の本人確認をするための印鑑である。銀行や信用金庫、信用組合などの金融機関に印影を届出する。
角印とは、見積書や請求書などのビジネス書類に押印する印鑑である。
屋号印とは契約書に押印する印鑑であり、実印や銀行印などの効力はない。
用品2.クレジットカード
昨今のキャッシュレス化にともない、会計の経費管理でもペーパレスが主流になりつつある。開業の準備でも、クレジットカードを作成することをおすすめしたい。
事業では、経費の管理が煩雑になりやすい。クレジットカードであればfreeeやマネーフォワードなどのクラウド会計と連携して自動取込みできる。
スタート段階から領収書をスマートに管理できる。
また、プライベートと事業の会計は区別しなければならない。その点からも、SBSビジネスカードなど事業用のクレジットカードを新規に作成しておくべきだろう。 なお、作成する際にはクレジットカードの限度額についてもよく確認しておこう。限度額は審査結果によっても異なるが、少なすぎるといざ使いたいときに使えないということも起こり得るので注意したい。
用品3.銀行口座
法人として開業する場合、事業用の銀行口座を開設しなければならない。提出書類が個人事業主と法人では異なるので注意が必要だ。
用品4.名刺
名刺を工夫すれば相手に与える印象を変えられるほか、連絡手段も提示できる。紙質やデザイン、顔写真にこだわり、QRコードやFacebook、Instagramなどの情報を印字するとよい。
開業準備に役立つ資金調達制度
開業をするにあたって、融資の不安はつきものだろう。開業の準備に役立つ資金調達制度をご紹介しよう。
制度1. 新創業融資
日本政策金融公庫は新創業融資制度を扱っている。新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方を対象としている。
資金使途は、新規事業のために必要な設備資金および運転資金だ。新規事業を応援する融資制度であるため、開業の際に活用してみてはいかがだろう。
制度2.創業助成金
「TOKYO創業ステーション」の創業助成金は、都内で創業を計画している個人、または創業後5年未満の中小企業者などを対象としている制度だ。
助成限度額は300万円(下限100万円)であり、助成率は助成対象経費の3分の2以内だ。助成対象経費は、賃借料や広告費、従業員人件費などがある。
なお、助成金獲得までに相当の日数が必要であるため、時間を確保できる方におすすめしたい。
丹念な準備をして開業しよう
以上、開業までに必要な準備について解説した。有益なアイデアがあっても、開業の準備がわからず足踏みをしている方もいるだろう。今回の内容を参考に、開業に向けて第一歩を踏み出してほしい。
文・関伸也