本業のビジネスが軌道に乗り、経営者仲間と予約の取りづらい店で遊興するような余裕が出てくると、えてして頭にこのような思考が浮かびがちではないだろうか?「当たると笑いが止まらないようだから、俺も飲食に手を出してみるか…」
しかしながら、飲食店経営は安易に手を出すと、失敗する可能性が高いビジネスである。つねに予約が入り続ける超人気店はあくまで例外であり、飲食業界は典型的なレッドオーシャンなのだ。
言い換えれば、確率こそ低いものの、大ヒットを放つ飲食店は必ず存在していることも意味している。超人気店が成功している理由を見極め、押さえるべきポイントをきちんと把握しておけば、自分も成功を収める可能性が高まり、けっしてギャンブルではなくなってくる。
くっきりと明暗が分かれているのはどうしてなのか? 飲食店経営で失敗しがちな理由、ごく一部の勝ち組が実践しているポイントを検証し、成功への道筋をつかもう。
飲食店経営は難しい。そのワケは?

飲食店経営が難しいことは、過去には行列ができるほど繁盛していた飲食店が現在では集客に苦戦している様子が後を絶たないことから窺い知れる。
その原因としてよく指摘されるのは、「店舗拡大が性急すぎた」とか、「飽きられてしまった」とかいったものだ。もちろん、それらはけっして的外れでないだろうが、自らの失策だけではない側面もあるように思われる。
飲食業界は競争が激しく、模倣が横行する業界である
「飲食業界は競争が激しい」とよく言われるが、そのために誘発されているのが「模倣の横行」だろう。そもそも競争が熾烈になるのは、相応の資金さえ工面できれば誰でも参入できるからだ。
そして、流行っている業態を安直に模倣し、二番煎じ、三番煎じでおこぼれに預かろうと追随する動きが活発化する。昨今のタピオカがその典型例であるし、先述の「いきなり!ステーキ」や「鳥貴族」、「塚田農場」などが人気を博した際にも類似店が増殖した。
いったん出店するとその場所に束縛される
追随する側が安直な発想でアテが外れるのは自業自得だろうが、近隣に似たような店が乱立すると、マネをされてしまったほうは客を奪われることになる。あまりにも増えてブーム化してしまうと、人気がピークアウトする時期を早めてしまうことにもなりかねない。
しかも、飲食業はいったん出店すると、そう簡単には移転できないのが大きなネックとなる。周辺に類似店が増えて自分の店の個性が埋没してきても、その場所で競い合うしか術がなく、消耗戦を強いられる結果にも陥りやすい。
意外と利益が出にくく、他業種にも客を奪われかねない
一口に飲食業と言っても、業態によって原価率は異なってくる。ただ、一般的な飲食店の原価率が25~30%と言われているのに対し、ラーメン店は平均的に30~35%と若干高めである。そのうえ、比較的狭い店舗面積で客の回転率が高い商売を見込むことが可能なことも多く、実際に大きな儲けを出しているケースも少なくない。
とはいえ、それは「途切れることなく客が来店する」ことが前提となっている話だ。かなりの好立地でない限り、味のよさで高い評価を受けなければ、リピーターの獲得やコンスタントな集客は期待しづらい。
しかも、飲食業が厳しいのは他業種とも競合することだ。コンビニやスーパーなどの弁当、総菜といった“中食”とも客の奪い合いを繰り広げるケースが出てくる。
体力的にもハードで従業員の離職率が高い
新型コロナウイルス騒動が一気にかき消してしまったが、少し前まで深刻化していたのが空前の人手不足だ。もともと飲食業界の仕事は体力的にもハードであるうえ、人の数も足りないとなれば、ブラックなイメージがいっそう色濃くなってしまう。
下手をすれば、「十分な人員を確保できない→仕事がさらにハードになる→離職率が高まる→さらに人手が不足する」という悪循環が発生しかねないわけである。「資金はけ出すが、店舗の経営のことは飲食のプロに任せる」というパターンであると、そういった状況になっていることに気づくのが遅れがちだ。
美味しければ流行るという単純な図式ではない
ロケーションが悪くても、わざわざ足を運ぶ客が絶えない超人気店は確かに存在する。だが、世界的なグルメガイド書や口コミグルメサイトなどから極めて高い評価を得ていなければ、なかなかそのようなパターンは見込めないものだろう。
すなわち、料理が突出したレベルで美味しかったり、その店でなければ体験しがたい何かがあったりしないと、人気を持続するのは難しい。競合と比べれば多少は美味しい程度の違いでは、つねに流行っている店とはなりえないのが現実であるし、評判が定着するまでにはそれなりの時間を要するのも確かである。
飲食店経営の典型的な失敗例
飲食店経営に失敗するのは、今まで述べてきたようなことを十分に理解しないまま、うかつに手を出すケースが少なくないからだ。ここでは、典型的な失敗例について列挙してみよう。
単なる思いつきや安直な発想で開業してしまう
本業のビジネスで抜群のひらめきを発揮している経営者ほど、飲食店経営に手を出して失敗しがちなのがこのパターンだろう。いくら美食家であったとしても飲食業に関しては門外漢であるにもかかわらず、「自分が客なら、こんな店があれば常連になるはず!」と直感した途端、綿密なリサーチも抜きにいきなり出店して失敗しまうのだ。
経営内容を判断できず、数値分析ができない
やはり、このパターンも飲食店経営についてシロウトであるがゆえに失敗を招くものだ。知見やノウハウがないから経営内容を数値分析で判断できず、運営をすべて他人に委ねてしまい、船(店)がどちらの方向に進んでいるのかも定かでなくなる。おかしいなと思い始めた頃には、難破寸前であったりする。
こだわりが強すぎて出費がかさみ、採算が合わない
こちらも美食家の経営者がはまりやすい落とし穴だ。外観や内装などにこだわって初期投資が多額になったり、食材を厳選して原価率が高くなったりして、なかなか採算が合わないというパターンである。どれだけ美味しいものを食べ慣れていても、しょせんは飲食業の専門家ではないため、こだわりと採算の折り合いをつけられないのだ。
顧客層のターゲティングが曖昧になっている
本業の業績は好調であっても、サイドビジネスとして始めた飲食店経営のほうは芳しくないという経営者の多くは、フレンチやイタリアン、中華や和食、あるいはラーメンなどといったジャンルでしか業態を捉えていない。だが、同じ中華というカテゴリーであっても、もっぱら個客(お一人様)が訪れる店とファミリーなどでの集団利用を見込む店ではメニューの品ぞろえや価格設定は大きく異なってくるものだ。
裏返せば、最初の段階でメインの顧客層ターゲティングが曖昧になっていると、メニューの選定や価格設定に関する判断を誤りかねない。その結果、コンセプトのよくわからない店になって、客から見向きもされないわけだ。
「使う」という発想で従業員と接している
飲食業の現場がハードワークであることが周知されている一方で、この業界が好きだという人が少なからず存在しているのも事実だろう。自ら好んで働き始めたにもかかわらず、やがて心が折れて離職してしまうのは、雇う側が単にその人材を「使っている」からだ。
ハードな仕事であっても、自分自身が成長していることを実感できれば、率先的に働こうとする意欲も芽生えやすい。待遇面などで従業員のモチベーションを高める仕掛けを講じることなく、調理器具のように使うだけに終始していると自滅するのは当然だろう。
飲食店経営がうまくいくポイント3つ
では、どうすれば飲食店経営を成功に導けるのか? 先述した失敗例とは真逆のことを実践すればいいというのがその結論である。ここではポイントを3つに絞って紹介する。
1.コンセプト設定が重要
その第一歩は、オープンさせたい店のコンセプトを明確に定めることだ。ジャンルはもちろん、どのような顧客層を中心に位置づけ、どういった独自性を訴求するのかについて徹底的に突き詰める。
本業と同様、綿密な事業計画書を作成するのは当然のことだ。リサーチも入念に行い、商圏としての規模も踏まえながら、メインターゲットとする顧客層の通勤・通学圏や居住エリアなどに出店場所を絞り込んでいく。
「ラーメン激戦区」などと呼ばれるように、特定のエリアに競合がひしめき合っているケースもある。こうした場所を避けるのも一考ではあるものの、「ラーメン好きがおのずと集う」という側面もあるため、競合店とは明らかに異なる差別化ポイントを備えることができれば、むしろコンスタントな集客を見込みやすいとも言えよう。
2.人材の有効活用
人材の採用や活用に当たっても、働きぶりをきちんと評価する制度を設け、各自のやる気を引き出す工夫が求められてこよう。人件費は重くのし掛かるコストではあるが、むやみに抑えようとすると悪循環の出発点ともなりかねない。
極論を言えば、全体的な人件費を抑えるためにギリギリの少人数体制を敷いたとしても、1人当たりの待遇を競合よりも向上させれば、雇われる側の受ける印象が変わってくるものだろう。
3.トラブルに備える
一方で、不測の事態も念頭に置いておく必要がある。新型コロナウイルス騒動のようなケースは極めて稀であるにせよ、原価の高騰や設備機器の故障、従業員の離職などといったトラブルがつきものであることは留意しておきたい。
くれぐれも、“サイドビジネス感覚”で始めるのは避けよう
成功するためのポイントについて振り返ってみれば明らかなように、結局のところ、飲食店経営でも結果を残したいなら、本業と同じように正面から取り組むことが不可欠となってくるということだ。
したがって、「サイドビジネスとして…」という発想で出店を検討し始めた時点で、うまくいかない可能性がかなり高まっているとも言えよう。「次は飲食店でも始めてみるか?」ではなく、「次は飲食店で勝負しよう!」というスタンスで臨みたいところだ。