中小企業経営者の中には、「マル経融資」を検討している人もいるだろう。マル経融資とは、小規模事業者の資金繰りを支援する、公的な融資制度だ。商工会・商工会議所の同一地区で1年以上事業を行っていることが条件であるため、創業資金に使うことはできないが、2,000万円までの事業資金を無担保・無保証・低金利で借り入れることができる。この記事では、マル経融資の条件や必要書類、審査落ちの理由などを徹底的に解説していく。
目次
マル経融資とは?

マル経資金の正式名称は「小規模事業者経営改善資金」で、小規模事業者の資金繰りを支援するための公的な融資制度だ。融資を行うのは、国が100%を出資する公的金融機関の日本政策金融公庫である。融資を受けるには、商工会や商工会議所の経営指導を受けていることが条件となる。
マル経融資は、2,000万円までの事業資金を無担保・無保証・低金利で借りられることがメリットだ。一方「1年以上事業を行っていること」が条件であるため、創業資金には充てられないことがデメリットと言えるだろう。
マル経融資を受けられる条件
マル経融資を受けられる条件は、以下の5つだ。
- 常時使用する従業員が20人以下の法人・個人事業主であること(ただし、商業または、宿泊業および娯楽業を除くサービス業は5人以下)
- 最低1年以上、商工会あるいは商工会議所の同一地区内で事業を行っていること
- 商工会あるいは商工会議所の経営指導を6ヵ月以上受けていること
- 税金を滞納していないこと
- 商工業者であり、日本政策金融公庫の非対象業種に該当していないこと(貸金業やソープランド、パチンコ店、取り立て業などでないこと)
マル経融資の内容
マル経融資の内容は、以下のとおりだ。
・貸付限度額 |
2,000万円 |
・返済期間 | ・運転資金:7年以内(据置期間:1年以内) ・設備資金:10年以内(据置期間:2年以内) |
・担保・保証人 | 不要(保証協会の保証も不要) |
・利率 | 年利1.21%(2020年3月現在) |
運転資金とは仕入資金や手形決済資金、給与・ボーナスの支払資金などのことで、設備資金とは店舗や工場の改装資金、車両の購入資金、機械設備の購入資金などのことだ。
「据置期間」とは、利息のみを支払えばよいとされる期間のことだ。元本の返済は、据置期間後にスタートすることとなる。
マル経融資のメリット・デメリット
次に、マル経融資のメリットとデメリットを見てみよう
マル経融資のメリット
マル経融資の最大のメリットは、2,000万円までの融資を担保も保証もなく受けられることだろう。一般的に銀行などから融資を受ける際は、経営者個人に担保や保証が求められることが多い。担保・保証を求められないマル経融資は、金銭的・精神的に負担が少ないと言える。
また、他の金融機関の融資に比べて低金利であることも、マル経融資のメリットと言えるだろう。
マル経融資のデメリット
マル経融資のデメリットは、創業資金として使用できないことだろう。マル経融資は、商工会・商工会議所の地区内で1年以上事業を行っていることが条件となっているからだ。また、マル経融資を受けるためには、商工会・商工会議所の経営指導を半年以上受けていることが条件となっている。それを満たしていなければ、緊急で事業資金が必要になっても利用することができない。
マル経融資を受けるためには、商工会・商工会議所に加入していなければならない。加入には、入会費や年会費などのコストがかかることもデメリットと言えるだろう。
マル経融資の必要書類
マル経融資を申し込むための必要書類は、以下のとおりだ。
- 直近2期の決算書と確定申告書、決算後6ヵ月以上を経過した法人の場合は最近の残高試算表
- 法人の場合は法人税・事業税・法人住民税の納税証明書、個人事業主の場合は所得税・事業税・住民税の納税証明書
- 設備資金の融資を受ける際は対象となる商品の見積書やカタログ
- 不動産を保有している場合は不動産の謄本
- 商工会・商工会議所の経営指導員による推薦書
- 企業概要書・事業計画書・創業計画書
- 源泉徴収票・給与明細表・売上帳・手形帳・売掛帳・買掛帳・総勘定元帳など
マル経融資の手続きの流れ
マル経融資の申請手続きの流れは、以下の4ステップだ。
ステップ1. 商工会・商工会議所へ加入する
マル経融資を受けるためには、商工会・商工会議所の同一地区で1年以上事業を行っていることが条件となっている。したがって、まず商工会・商工会議所に加入しなければならない。
商工会・商工会議所へ加入すると、3,000円程度の入会費と、個人の場合は1万円、法人の場合は資本金の額により1万5,000円以上の年会費がかかる。しかし、マル経融資を受けられることに加えて以下のメリットがあるため、加入する価値はあるだろう。
- 経営相談に乗ってもらえる
- 会員同士で交流できる
- 福利厚生支援がある
ステップ2. 商工会・商工会議所による経営指導を受け推薦状をもらう
マル経融資は、商工会・商工会議所による経営指導を6ヵ月以上受けていること条件になっている。よって、入会したらこの経営指導を受ける必要がある。
マル経融資を受ける際の必要書類に、商工会・商工会議所の経営指導員による推薦状がある。この推薦状は、経営指導を6ヵ月以上受け、経営の改善にしっかりと取り組んでいる場合は基本的にもらえるものだ。
ステップ3. 必要書類をそろえてマル経融資に申し込む
経営指導員から推薦状がもらえたら、必要書類をそろえてマル経融資に申し込む。申し込みをした後、日本政策金融公庫による審査が行われる。審査期間は、2週間程度だ。
ステップ4. 融資の契約と実行
審査によって融資の実行が決定した場合は、融資の契約を日本政策金融公庫と締結する。契約の手続きが完了すると、融資の金額が振り込まれる。
マル経融資の審査基準
次に、マル経融資の審査基準を見てみよう。
1. 融資の条件に該当していること
まずは、上で見た融資の条件に該当している必要がある。特に、「商工会・商工会議所の経営指導を受けている」ことは重要だ。経営指導を受けて商工会・商工会議所から推薦状をもらわないと、マル経融資を受けることはできない。商工会・商工会議所から推薦を得られるよう、しっかり取り組む必要がある。
2. 業績が黒字である
次に挙げられるのは、業績が黒字であることだ。なぜならば、マル経融資は運転資金あるいは設備資金としての融資だからだ。赤字を補填するために融資を受けると判断された場合は、審査に落ちる可能性が高い。
3. 事業計画書がしっかりとしている
事業計画書がしっかりとしていることも、マル経融資の審査基準の1つだ。事業計画書を通じて返済の見込みが判断できない場合は、審査に落ちることもある。一方で、現状が赤字であっても、事業計画書でその赤字が一過性のものであることがわかれば、審査に通ることもある。
マル経融資で審査落ちするケースとは?
マル経融資で審査落ちするケースには、どのようなものがあるだろうか。
1. 面談での印象が悪い
マル経融資の審査では、日本政策金融公庫の担当者との面談も行われる。面談の印象が悪い場合は、審査に落ちることもある。
面談では、融資を受ける必要性や今後の事業計画などについて詳しく聞かれることになる。ここで、数字の根拠なども含めてしっかりと説明する必要がある。
また、面談では熱意を伝えることも重要だ。熱意は事業を成功させるために不可欠なものであり、熱意のある事業者に対しては、マル経融資が実行されることが多いと言われている。
2. すでに資金を借り入れしている
すでに資金を借り入れしている場合も、マル経融資の審査に落ちることもある。特に消費者金融からの借り入れがある場合は、審査落ちする可能性が高い。消費者金融以外からの借り入れでも、金利が10%を超える場合は、審査落ちする可能性が高くなると言われている。
マル経融資を受ける際は、あらかじめ借り入れの状況を整理して、できれば返済を済ませておきたい。
マル経融資の利子補給制度とは?
マル経融資では、利子補給制度を利用できることがある。利子補給制度とは、マル経融資の利子の一部を市区町村が補助するものだ。全国一律で行われているものではないために、利子補給制度を利用できるかどうか、またその条件については市区町村に個別に問い合わせる必要がある。
利子補給制度には、以下のようなものがある。
東京都中央区
・補助の対象 |
中央区内に事業所あるいは住所があり、マル経融資を受けている事業者 |
・補助の割合 | 支払利子の30% |
・補助の期間 | 融資の実行月から25~36ヵ月 |
岡山県岡山市
・補助の対象 |
岡山市内において事業を行い、マル経融資を受けている事業者 |
・補助の割合 | 年利1%相当額 |
・補助の期間 | 約定利息の初回~12回目まで |
●神奈川県相模原市
・補助の対象 |
相模原市内で事業を行い、マル経融資を受けている事業者 |
・補助の割合 | 貸付金利の50%以内 |
・補助の期間 | 融資の実行後36回分 |
事業資金はマル経融資で調達しよう
マル経融資は、2,000万円までの事業資金を無担保・無保証・低金利で借り入れることができる、公的な融資制度だ。商工会・商工会議所での経営指導が前提となっているため、経営改善につなげることもできる。また、市区町村からの利子補給を受けられることもある。
金融機関からの事業資金を借り入れる際は、一般的に経営者個人の担保提供や連帯保証が必要となるため、ハードルが高い。マル経融資で事業資金を調達し、借り入れの負担を軽減しよう。
文・高野俊一(ダリコーポレーション ライター)