やや複雑な側面がある「輸出戻し税」は、海外との取引をメインに行う企業や、海外進出を目指している企業に大きく関係する制度だ。輸出戻し税を正しく理解しておかないと、経営計画や資金計画にズレが生じてしまう恐れがある。

そこで今回は、輸出業者が還付を受ける基本的な仕組みに加えて、輸出戻し税を受け取るための条件や、押さえておきたい実情などをまとめた。制度を曖昧に理解している経営者は、本記事で正しい知識を身につけていこう。

目次

  1. 輸出業者は還付金を受けられる?「輸出戻し税」とは
  2. 輸出戻し税はなぜ発生する?輸出業者が還付を受ける仕組み
  3. 輸出免税が適用される条件とは?
  4. 輸出戻し税で大企業は得をしている?その実情を解説
    1. 還付金が多い大企業ほど得をする?例を用いてわかりやすく解説
    2. 輸出戻し税は「支払超過を調整するための制度」に過ぎない
  5. 【※注意】下請けへの値引きの強要はNG!
  6. 輸出戻し税は損得にはつながらない!正しく理解をして計画を立てよう

輸出業者は還付金を受けられる?「輸出戻し税」とは

輸出戻し税とは?輸出業者が還付金を受けられる仕組みと、知っておきたい実情
(画像=Feng Yu/Shutterstock.com)

「日本の輸出業者は還付金で得をしている」。こんな話を聞いたことはないだろうか?

得をしているかどうかは後述で解説するが、還付金を受け取っていることは事実だ。輸出業者が受け取っているのは消費税の還付金であり、この還付金は俗に「輸出戻し税」と呼ばれている。

輸出戻し税は輸出業に限った話となるが、消費税の還付金については、実は業種に限らずさまざまな事業者が対象に含まれている。たとえば、大幅な赤字を出したときや、巨額の設備投資をしたときなど、還付対象に含まれるケースがほかにも存在するためだ。

還付金を受け取れるのは「輸出業者だけではない」という点は、これを機に正しく理解しておきたい。

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輸出戻し税はなぜ発生する?輸出業者が還付を受ける仕組み

次は、輸出業者に還付金が発生するメカニズムを解説していこう。本来、納付するべき消費税額は、以下の式によって計算されている。

納付するべき消費税額=(預かった消費税額)-(支払った消費税額)

上記の式の「預かった消費税額」とは、商品・サービスを販売する際に消費者から預かった消費税のことだ。国内取引では販売価格の10.0%にあたる金額を預かるが、実は輸出取引に該当する場合、この消費税は発生しない。

一方で「支払った消費税額」とは、仕入れなどの際に代金と一緒に支払った消費税を指す。輸出業者に該当する場合であっても、国内の業者から仕入れを行うときには、一般的な消費者と同じように消費税を負担している。

では、前述で紹介した消費税額の式を、もう一度見てほしい。仮に、輸出取引によってすべての売上を得ている場合は、「預かった消費税額」が0円になるのに対し、「支払った消費税額」は仕入れの分だけ増加していく。つまり、計算結果である「納付するべき消費税額」がマイナス(=支払超過が発生している)となってしまうのだ。

このような仕組みによって、輸出業者には還付金が発生している。もちろん輸出業者でなくても、上記の式の計算結果がマイナスになる場合は、国から消費税の還付を受けられる可能性がある。

輸出免税が適用される条件とは?

事業者が消費税の還付を受けるには、以下の条件を満たす必要がある。

  • 免税事業者ではなく、課税事業者であること
  • 消費税の計算方法として、「一般課税」を採用していること
  • 消費税の支払超過が生じており、期日までに還付申請をすること

上記は業種に関わらず、すべての事業者に対して設けられている条件だ。消費税の還付を受けるための「前提条件」と言い換えてもいい。

輸出業者が輸出取引によって還付を受けるには、ここからさらに「輸出免税が適用される条件」を満たす必要がある。そこで以下では、輸出免税が適用される取引を徹底的にまとめた。


○輸出免税が適用される取引
・日本からの輸出として行われる、資産の譲渡や貸付
・外国貨物の譲渡や貸付
・国内および国外にわたって行われる、旅客や貨物の輸送
・外航船舶などの譲渡や貸付のうち、船舶運航事業者等に対するもの
・外航船舶などの修理のうち、船舶運航事業者等の求めに応じて行われるもの
・国内と国外、または国外と国外との間で、貨物輸送のために使われるコンテナーの譲渡や貸付のうち、船舶運航事業者等に対するもの
・国内と国外、または国外と国外との間で、貨物輸送のために使われるコンテナーの修理のうち、船舶運航事業者等の求めに応じて行われるもの
・水先や誘導、入出港、離着陸の補助、停泊、駐機のための施設の提供など、外航船舶等に係る取引のうち、船舶運航事業者等に対するもの
・外国貨物の荷役・運送・保管・検数、または鑑定等の役務の提供
・国内と国外で行われる通信や郵便、信書便
・非居住者に対する無形固定資産等の譲渡や貸付
・非居住者に対する役務の提供のうち、以下に該当しないもの
 【a】国内の資産に係る運送や保管
 【b】国内における飲食や宿泊
 【c】【a】または【b】に準ずるもので、国内で直接便益を享受するもの

上記を見てわかる通り、海外とのさまざまな取引に輸出免税は適用されている。現時点で適用されなくても、海外進出を狙っている場合は将来的に大きく関係してくる可能性があるため、海外志向の強い経営者はこれを機に条件をしっかりとチェックしておきたい。

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輸出戻し税で大企業は得をしている?その実情を解説

輸出免税が適用される取引が増えれば、仕入れによって「支払った消費税額」が大きくなるため、そのぶん受け取れる還付金も増えていく。つまり、大企業ほど多くの還付金を受け取れるので、「輸出戻し税は大企業を優遇している」と批判されることがある。

では、果たして大企業は輸出戻し税によって本当に得をしているのだろうか。結論から言えば、答えはノーだ。輸出戻し税は、そもそも「消費税の支払超過を調整するため」に実施されている制度なので、還付金は輸出企業にとって損得につながるものではない。その点を理解するために、以下でひとつ具体例を見てみよう。

還付金が多い大企業ほど得をする?例を用いてわかりやすく解説

まずは、販売価格を500円、仕入れ価格を300円、消費税率を10.0%と仮定した場合の、国内取引について見ていく。

〇A社の国内取引


 
税抜  消費税 税込
a.販売価格 500円 50円 550円
b.仕入れ価格 300円 30円 330円
c.消費税(納税分) 20円 20円
d.利益(a-b-c) 200円 0円 200円

商品の販売によって顧客から「預かった消費税額」は50円、仕入れによって「支払った消費税額」は30円となるため、納めるべき消費税額は20円(50円-30円 )となる。この20円はA社が納税することになるが、税抜ベースでも税込ベースでも利益(200円)は変わらない。

では次に、輸出免税が適用される輸出取引の例を見ていこう(※販売価格、仕入れ価格、消費税率は同条件)。

〇A社の輸出取引


 
税抜  消費税 税込
a.販売価格 500円 0円 500円
b.仕入れ価格 300円 30円 330円
c.消費税(還付金) 30円 30円
d.利益(a-b+c) 200円 0円 200円

輸出免税が適用される場合、商品の販売には消費税が課せられないため、販売価格の消費税は0円になる。その一方で、仕入れ価格の消費税は国内取引と同じ(30円)なので、発生する還付金は30円だ。

この還付金を踏まえてA社の利益を計算すると、国内取引と同じ200円であることがわかる。つまり、輸出取引によって発生した還付金は、A社にとって得にも損にもなっていない。

輸出戻し税は「支払超過を調整するための制度」に過ぎない

輸出戻し税の損得については、もうひとつ知っておきたい話がある。大企業が下請けの企業に対して、消費税の支払いを半強制的に負担させることで、「不当な利益を得ているのではないか?」という批判が存在する点だ。

では、具体的にどのようなケースが該当するのか、以下でひとつ例を見ていこう。


〇例
大企業であるA社は、下請けのB社から100万円分の仕入れを行った。これが国内取引に該当する場合は、A社は代金に消費税をプラスした110万円を支払うことになるが、A社は消費税分の負担(10万円)をB社に押しつけた。その後、輸出取引をメインに行っている大企業A社は、仕入れで消費税を負担していないにも関わらず、消費税の還付金(10万円)を受け取った。

たしかに、上記の流れで還付金を受け取れば、A社は不当な利益を得たことになる。しかし、そもそもこれは仕入れの金額を偽った「脱税行為」であり、輸出戻し税が直接的な原因となっているわけではない。

つまり、輸出戻し税の制度自体に、大企業のみを優遇するような側面はないのだ。輸出戻し税はやはり「支払超過を調整するための制度」に過ぎず、大企業にも中小企業にも平等に適用されている。

【※注意】下請けへの値引きの強要はNG!

前述の例で紹介した「下請けへの値引き行為」は、下請法において明確に禁止されている。下請代金の減額は、下請法違反行為の中でも処分される事例が多い禁止事項であるため、親事業者は細心の注意を払わなくてはならない。

では、親事業者と下請けの間で合意している場合はどうだろうか。一見すると問題がないように見えるかもしれないが、実は下請事業者の了解を得ていても、下請代金の減額は違法行為にあたる。

つまり、輸出戻し税の制度を利用して、不当に消費税の還付を受ける行為は、どのようなケースにおいても許されていないのだ。たとえば、消費税分を減額する代わりに継続的に発注を受けられるなど、双方にメリットが発生するような形であっても、下請代金の減額は処分対象に含まれてくる。

下請代金に関しては、ほかにも以下のような行為が禁止されているので、下請けが存在する企業や将来的に上場を目指している企業などは注意しておきたい。

  • 受領後60日以内に、代金を定められた期日までに支払わないこと
  • 類似品の価格や市価に比べて、著しく低い下請代金を定めること
  • 下請事業者から金銭や労務の提供等をさせること

下請けに対して禁止されている行為は、下請法の第4条にまとめられているため、不安を感じている事業者は細かい部分まで確認をしておこう。

輸出戻し税は損得にはつながらない!正しく理解をして計画を立てよう

輸出戻し税には複雑な側面があるものの、シンプルに「消費税の支払超過を調整するための制度」と考えれば分かりやすいはずだ。単に支払いすぎた消費税を還付金として受け取るための制度なので、基本的には輸出業者の損得にはつながらない。

この点を誤解して経営計画・資金計画を立てると、さまざまな部分に狂いが生じてしまう。本記事で紹介した内容はしっかりと理解し、余裕のある経営者はさらに「下請法」についても理解を深めておこう。

文・片山雄平(フリーライター・編集者)