人事採用は企業経営の要となる業務である。中小企業の人事採用業務は、担当者任せにせず経営者も把握しておくべきである。今回は人事採用をテーマに、採用業務の内容から採用担当者の選び方、求人募集方法まで、経営者が知っておきたいポイントを解説する。
目次
人事採用業務とは?知っておきたい4つのポイント

人事採用業務とは企業が必要とする人材を採用する業務である。人事採用業務は、年間を通してこなしていかなければならない業務が多い。新卒採用のように年間でほぼスケジュールが決まっている業務もあれば、中途採用、パート・アルバイト採用、派遣スタッフ採用など、部門の人材ニーズに合わせて対応していく業務もある。
1.人事採用業務は実務をこなすだけではない
人事採用業務は、単に実務をこなしていくばかりではなく、現在から将来に向けて、どのような人材が必要なのかを絶えず考える役割もある。
人工知能(AI)やロボットの劇的な進化、グローバル化など時代の変化とともに企業の仕事内容が変わり、それに伴って社員に求められる能力やスキルも変化している。しかも変化のスピードは加速し、部門では変化に対応できる人材を求めているのだ。
2.部門が必要とする最適な人材を採用しなければならない
人事採用業務は採用した人数を求められているのではない。現在から将来に向けて部門が必要とする最適な人材を採用することが求められているのだ。
現場が必要としている人材と採用した人材との間にギャップが起こらないように、「どのような人材を採用したいのか」という一貫した明確な人事採用基準を採用に関わるスタッフ全員に共有化することが重要だ。
3.人事採用業務を必ずしも人事部に担当させなくてもいい
採用業務は必ずしも人事部に任せる必要はない。企業の実態に合わせて、面接や採用の決定を部門が実施することも可能だ。人材が必要な業務が決まっていて、その業務をこなせる即戦力を求める採用などは、部門での採用が効果的だ。人事採用業務は部門ごとに実施し、人事部は事務的なサポートを行う体制を採用している企業も増えている。
4.不測の事態も企業の採用に大きな影響を与える
近年は、災害やパンデミック(感染症の世界的大流行)など不測の事態も企業の採用に大きな影響を与えている。不測の事態が起きたときのリスク管理も必要となる。
2019年末頃から世界的に大流行している新型コロナウイルスは、これまで対面でのコミュニケーションを重視していた日本社会や企業に大きな影響を与えている。感染拡大により東京や大阪などの都市では緊急事態宣言も出され、多くの企業が会社説明会を中止・延期にせざるを得ない事態となったため、人事採用への影響も少なくない。
今後はテレワークが浸透していくだけでなく、人事採用においてもオンラインにシフトしていく可能性が考えられる。不測の事態において、企業がテレワークなどに柔軟に対応しているかどうかといった部分は、採用候補者にも見られることとなると考えて良いだろう。
新卒の人事採用業務の進め方
人事採用業務の進め方のポイントは、新卒採用、中途採用によって変わってくる。ここではそれぞれについて見ていこう。
新卒採用は年間を通して人事採用業務が計画化・スケジュール化されて進められていく。採用担当だけでなく、リクルーターとして部門ごとに若手社員を動員するなど、他部署との連携も必要となる。中小企業では経営者も含め全社を挙げて取り組む作業になる。新卒採用の進め方の例として次の4ステップの実施が挙げられる。
STEP1. 採用計画
採用計画は、最も重要なステップだ。人材は必要だが、人件費は企業経営にとって非常に大きいコストとなる。採用計画は会社業績や企業を取り巻く景気動向に影響を受けやすい。費用対効果を考え自社がどのくらいの人数の採用できるのかを考える必要がある。
そして最も重要なのが、どのような人材を採用したいのかという一貫した明確な人事採用基準である。基本となるのは自社の企業理念や目的を達成するために必要な人材を採用するという視点だろう。さらに採用計画は、自社の中期・長期の経営計画や経営戦略達成を意識することが重要だ。
企業は採用候補者を選ぶだけでなく、採用候補者から選ばれなければならない。特に近年は、売り手市場の状況が続いている。採用計画ではどのように自社をアピールしてくかという点を練り上げることも必要である。
自社がどのくらいの人数を採用できるのか、どのような人材を採用したいのか、どのように自社をアピールしてくかという計画が決まったら、実際にどのように採用を実行していくかという具体的な計画スケジュールを立てていく。
STEP2.求人募集
採用計画が決まったら、計画したスケジュールをこなしながら修正と改善を行う。求人についてはさまざまな媒体があるので、費用対効果を想定しながら選択していく。昨年度の実績で費用対効果が優れた媒体を見直しながら活用していくのが王道であろう。コストが許せば新たな媒体にチャレンジするのも良い。
求人媒体は大手求人サイトを活用するのが一般的であるが、近年は採用オウンドサイトやSNSを活用する企業も増えている。
STEP3.セミナーや説明会の実施
セミナーや説明会では、一般的に講師が多数の候補者に向けて自社について説明するが、他社と差別化をはかるためには工夫が必要となるだろう。
自社をアピールしてインパクトを与えるため、自社の社員を動員して求職者一人一人とコミュニケーションをとる場面を設定する企業もある。
STEP4. 面接・選考、内定者の決定
求人媒体からの応募、セミナーや説明会からの流入などから、企業に採用候補者の情報が入ってくる。ここで重要になるのが採用候補者のデータ管理だ。採用候補者は一人一人進捗が異なり、自社のメンバーも複数人が採用に関わることになる。
つまり、データの一元管理と共有化ができるツールがあると効率的に進められ、人事採用業務の精度も上がるのである。採用候補者のデータ管理については多くのデータ管理ツールが提案されているので、自社の実情に合わせて採用することが望ましい。
面接・選考から内定者決定までの場面では、どのような人材を採用したいのかという一貫した明確な人事採用基準によって、現場が必要としている人材と採用した人材とのギャップが起こらないようにする必要がある。
さらに、内定・入社後にギャップが生じないように、自社の企業理念、存在意義、人事制度、報酬福利厚生などの伝えなければならない基本事項ともに、内定者のキャリアアップや働き方に対する考え方を自社で実現していく青写真を伝えていく。
内定後は、内定辞退が起こらないように定期的にフォローしていくことも重要な人事採用業務の一つである。内定者とは継続的に連絡を取り、懇親会など社内イベントへの参加を促していくと良い。
中途の人事採用業務の進め方は?
リクルートワークス研究所による「中途採用実態調査」の2019年上半期実績のデータを見てみると、採用において中途採用の割合が増加している傾向がみられる。
人材不足の実態は厳しく、中途採用を強化しても求める人材を確保できない企業が半数以上ある。そんな中で50代以上の採用が増加しており、企業が中途採用で対象とする年齢層が高くなっている点にも注目だ。
中途採用は、社員の退職や経営を改善するための人材の見直し、新規事業のスタート、グローバル化やシステム化に対応する人材の必要性など、企業運営や業務継続のためにリソースが必要となったときに発生する採用であり、年間を通して採用が行われる。
新人採用と比較すると、中途採用はどのような人材が欲しいかという人物像が具体化されやすく、即戦力を求める色合いが濃いのも特徴だ。
中途採用の進め方は、新規採用と同様に採用計画、求人、面接・選考、内定の順で進められるのが一般的だが、新規採用より短期間で選考が進められる傾向がある。求人媒体は求人サイトの他、人材紹介会社、リファラル(社員紹介)などを活用する。
人事採用業務の効率化をはかるには?
企業経営にとって採用は最重要課題であるが、採用には採用媒体の活用や会社説明会になどのコストがかかることを忘れてはならない。採用計画を立てるときにはコストも含め検討する必要がある。
金銭以外にも、採用に関わる社員のリソースや人事採用業務にあたる時間といったコストが発生する。このように人事採用業務は大きなコストが必要になる業務であるため、効率化によってコストダウンをはかることは、企業経営に良い影響を及ぼすことが期待できる。
採用業務の効率化をはかるには、まず人事採用業務の棚卸が必要である。業務を行う流れや業務内容を改善することで一定の効率化が進むだろう。
大きく効率化をはかるためには、人事採用業務自体を見直すことが必要になる。たとえば、採用管理システムやアウトソーシングの導入だ。この2つの解決策には劇的に効率化がはかれる可能性があるのと同時にコストが発生する。現状と比較し、将来に向けて企業運営上の費用対効果があるのかどうかを十分に検討することが重要だ。
人事採用基準はどうやって決める?確認ポイント4つ
人事採用で最も重要なのは、「どのような人材を採用したいのかという一貫した明確な人事採用基準」である。人事採用基準が最適化され明確に共有化されていれば、採用後にギャップが生まれることがなくなり、早期退職の防止にもつながるのである。
人事採用基準の最適化と共有化のチェックポイントは以下の4点になる。
- 人事採用担当と現場面接官との間に面接評価におけるギャップが生じていないか
- 採用選考評価が面接官によってばらつきが多くないか
- 人事採用基準が高すぎて不採用者が多くないか
- 早期退職が多発していないか
人事採用担当の選び方は?
経営者が人事採用担当者を選ぶときには、人事採用担当者の実情を考慮する必要があるだろう。企業において人事に関わる社員は一概にエリートと見られがちだが、年間を通して業務量が多く多忙でストレスも多い。採用実績のいかんは担当者の能力以上に景気などの社会情勢が大きく影響するため、評価が難しい仕事である。
経営者が人事採用担当者を選ぶ場合は、人事採用担当者の厳しい実情をこなすことができる人材を候補として考える必要があるだろう。
人事採用の求人募集方法はさまざま
採用にはコストがかかることを先に述べたが、人事採用の求人募集方法でコストを考慮するならば、比較的コストが低いハローワークや採用オウンドメディアを活用するのが良いだろう。
ただし、コストには金銭的な面以外にもリソースと時間がある。期間を限定して採用結果を出す確率を高めるには、自社の状況に合わせてセミナーや会社説明会の開催、求人サイト、人材紹介会社などを活用する必要があるだろう。
人事採用業務には、現在から将来に向けてどのような人材が必要なのかを常に考え、最適な採用方法を検討・採用していく役割もあるのだ。
管理システムなども活用し効率的に人事採用を進める
人事採用業務は、単に実務をこなしていくばかりではなく、現在から将来に向けて、どのような人材が必要なのかを絶えず考える役割もある。年間を通して多忙であるという厳しい実情も考慮して人事採用担当者を選ぶだけでなく、費用対効果によっては採用管理システムやアウトソーシングの導入も検討するなど、人事採用業務の見直しもしていくと良いだろう。
文・小塚信夫(ビジネスライター)