事業税は、個人・法人のどちらにもかかる地方税の1つだ。所得税や法人税に比べて税率が高くないため、あまり気にしていない方も多いかも知れないが、経費にできる税金であるため、計算方法や税率を知っておいて損はない。今回は事業税について、課税対象や計算方法などを解説する。

目次
事業税とは

事業税とは、法人や個人事業主が、事務所や事業所を設けることにより、その地域の行政サービスを受けていることに対する税金である。このような性質の課税方法を「応益課税」という。課税の主体は、都道府県である。
個人事業税と法人事業税
事業税には、法人にかかる法人事業税と個人事業にかかる個人事業税があるが、計算方法や税率、納期限や課税方法など、異なる点が非常に多い。ここでは、法人事業税と個人事業税について、それぞれの概要を解説する。
法人事業税とは
法人に対する事業税である。法人の所得などに対して数パーセントの税率で計算されるが、適用する税率は、かなり複雑に分かれている。また、法人の業種によっては収入金額が課税対象になったり、法人の規模によっては資本金などが課税対象になったりして、計算方法も細かく分かれている。
法人事業税は、事業年度終了の日から原則2か月以内に、都道府県税事務所に申告して納税しなければならない。ただし法人税と同様、定款によって2か月以内に決算を確定させることが難しいなどの理由があれば、申請によって申告期限の延長が可能である。
ところで事業税とは、事務所や事業所を設けることによって発生する税金であるが、複数の都道府県に事務所がある場合は、法人事業税の額を、各都道府県に分けて納付する。どのように分けるかは、業種に応じて定められた「分割基準」によって按分する。
個人事業税とは
個人に対する事業税である。個人の事業所得や不動産所得などに対し、業種に応じて3%~5%ほどの税率で計算されるが、所得の計算方法は独特である。なお、複数の都道府県に事務所がある場合は、基本的には従業者の数で按分する。
事業税は経費として計上できる
支払った事業税は、その全額を法人や個人事業の経費とすることができる。会計処理に使用する勘定科目は、法人の場合「法人税、住民税及び事業税」であり、個人事業の場合「租税公課」である。経費に計上できるタイミングについては、法人の場合は事業税の申告書を提出した事業年度、個人事業の場合は事業税を支払った事業年度などになる。
個人事業税の対象者と計算方法
ここでは個人事業税について詳しく解説する。
個人事業税の納税対象者
個人事業税を納税するのは、一定の事業を行う個人事業主である。一定の事業とは、第一種から第三種まであり、次のとおり分類されている。
第一種事業(37業種)
物品販売業、保険業、金銭貸付業、物品貸付業、不動産貸付業、製造業、電気供給業、土石採取業、電気通信事業、運送業、運送取扱業、船舶定係場業、倉庫業、駐車場業、請負業、印刷業、出版業、写真業、席貸業、旅館業、料理店業、飲食店業、周旋業、代理業、仲立業、問屋業、両替業、公衆浴場業、演劇興行業、遊技場業、遊覧所業、商品取引業、不動産売買業、広告業、興信所業、案内業、冠婚葬祭業第二種事業(3業種)
畜産業、水産業、新炭製造業第三種事業(30業種)
(A)医業、歯科医業、薬剤師業、獣医業、弁護士業、司法書士業、行政書士業、公証人業、弁理士業、税理士業、公認会計士業、計理士業、社会保険労務士業、コンサルタント業、設計監督者業、不動産鑑定業、デザイン業、諸芸師匠業、理容業、美容業、クリーニング業、公衆浴場業、歯科衛生士業、歯科技工士業、測量士業、土地家屋調査士業、海事代理士業、印刷製版業 (B)あん摩・マツサージ又は指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業、装蹄師業
個人事業税の税率
個人事業税の税率は、業種の区分で次のように分かれる。
業種 |
税率 | |
第一種事業 | 5% | |
第二種事業 | 4% | |
第三種事業 | (A) | 5% |
(B) | 3% |
個人事業税額の計算方法と申告
個人事業税の税額は、次の方法で計算される。
【個人事業税額の計算式】
課税標準額×個人事業税の税率
- 課税標準額とは
税額を決める基準となる金額のことだ。個人事業税の課税標準額は、次のように計算される。
【課税標準額の計算式】
事業所得+事業専従者給与の額-事業専従者給与控除額+青色申告特別控除額-事業主控除など
- 事業専従者給与控除額とは
通常、個人事業主は親族に給与を支払っても、それを必要経費にすることはできない。しかし、個人事業主と生計を一にする親族がその事業に専従している場合は、一定額を必要経費として控除することができる。この控除額が「事業専従者給与控除額」である。
事業専従者給与控除額は、個人事業主が青色申告者か白色申告者かで、次のように変わる。
- 青色申告の場合 全額(「青色事業専従者給与に関する届出書」に記載した金額の範囲内)
白色申告の場合 配偶者は86万円まで、その他の親族は1人あたり50万円まで
青色申告特別控除とは
個人事業主の事業所得や不動産所得、山林所得から控除できる、所得税を計算する際の控除額である。 金額は65万円(あるいは55万円)、10万円となる。青色申告特別控除は、所得税を計算する際の特別ルールなので、事業税の計算には使えない。
- 事業主控除とは
事業主控除とは、個人事業税独自の控除額のことで、年間290万円となる。したがって、ここまでの計算額が290万円以下であれば、事業税は発生しない。ただし、事業年度の期間が12か月を下回る場合は、290万円を月割り計算する。 開業初年度などに注意が必要だ。
- その他の控除とは
青色申告者の損失の繰り越し控除や、事業のために使用する一定の資産を売却したために生じた損失の控除ができる。
- 個人事業税の申告について
個人事業税は、原則、翌年3月15日までに課税対象となる所得を申告するルールだが、所得税の確定申告や住民税の申告をすれば、申告は不要となる。所得税の確定申告をする際は、申告書の第二表に「事業税に関する事項」という欄があるので、そこに記載すればよい。
そうすると、その申告内容から都道府県が個人事業税の額を計算し、後日、通知してくれる。納期限は、原則8月と11月の年2回だ。
法人事業税の対象となる企業と計算方法
続いて法人事業税について、東京都の税率などをもとに解説する。
法人事業税を納税するのは?
事業所や事務所を設けて事業を行っている、ほぼすべての法人が対象となる。公益法人であれば、収益事業を行っている場合に対象となる。
法人事業税の税率
法人事業税の税率は、地方税法で税率が定められているが、自治体はそれを上回る税率を条例で定めることができる。したがって、税率は、都道府県のホームページなどで確認する必要がある。また、資本金の額が1億円を超えるなど規模の大きい法人には「外形標準課税」といって通常の法人と異なる課税方法や税率が適用される。ここでは、東京都の税率を基に解説する。
- 税率は法人の業種・種類・規模で決まる
法人事業税の税率や計算方法は、法人の業種や種類、規模の違いによって、複雑に設定されている。まず、業種については
- 電気供給業、ガス供給業、保険業、貿易保険業
- 小売電気事業、発電事業
- それ以外 で、計算方法が異なる。
今回、「それ以外」については、便宜上「一般の業種」と呼ぶことにする。一般の業種はさらに「法人の種類」で計算方法や税率が変わる。
法人の種類は、
- 普通法人(下記の法人にあてはまらないもの)
- 特別法人(医療法人や一定の組合、信用金庫など)
- 外形標準課税法人(資本金の額が1億円を超える普通法人) に区別される。
そして、それぞれの法人に適用される税率は「法人の規模」によってさらに分かれる。大きな差はないが、規模の大きい法人であれば「超過税率」、該当しなければ「標準税率」が適用される。超過税率が適用されるのは、普通法人のうち資本金等の額が1億円を超える法人や、所得金額が2,500万円を超える法人、収入金額が2億円を超える法人などだ。以上の内容をまとめると東京都の法人事業税の税率は、次のようになる。(令和2年4月1日以降に開始する事業年度の税率)
- 一般の業種
【普通法人】
事業税の額 |
課税標準 | 標準税率 | 超過税率 |
所得割 | 年400万円以下の金額 | 3.50% | 3.75% |
年400万円超 | 5.30% | 5.67% | |
年800万円以下の金額 | |||
年800万円超の金額 | 7.00% | 7.48% |
普通法人にかかる事業税は「所得割」という。所得割は、所得の額が課税標準額になる。
【特別法人】
事業税の額 |
課税標準 | 標準税率 | 超過税率 |
所得割 | 年400万円以下の金額 | 3.50% | 3.75% |
年400万円超の金額 | 4.90% | 5.23% |
【外形標準課税法人】
事業税の額 |
課税標準 | 超過税率 |
所得割 | 年400万円以下の金額 | 0.50% |
年400万円超 | 0.84% | |
年800万円以下の金額 | ||
年800万円超の金額 | 1.18% | |
付加価値割 | 収益配分額など | 1.26% |
資本割 | 資本金等の額 | 0.53% |
外形標準課税法人とは、資本金等の額が1億円を超える普通法人(一般社団・財団法人などを除く)のことだ。普通法人や特別法人にかかる税が「所得割」のみであることに対し、外形標準課税法人については、事業の外形的な要素(資本金や給与など)を税額に反映させることによって、課税の公平性を保っている。
外形標準課税法人の税率は、一見すると他の法人よりも低く見えるが、「資本割」は資本金等の額、「付加価値割」は報酬や給与、支払利息、賃借料などが課税標準となるため、高額になりやすい。なお、普通法人、特別法人、外形標準課税法人の「所得割」の税率は、所得の低い部分に低い税率が適用されている。
しかし、資本金の額が1,000万円以上で、事業所や事務所がある都道府県が3つ以上ある会社の場合、低い税率の適用はない。たとえば、外形標準課税法人のうち上記の要件にあてはまる法人の税率は、所得の低い部分も1.18%になるということだ。
- 電気供給業、ガス供給業、保険業、貿易保険業
事業税の額 |
標準税率 | 超過税率 |
収入割 | 1.00% | 1.07% |
電気供給業などにかかる事業税は「収入割」といって、収入金額が課税標準となる。ただし、小売電気事業、発電事業に該当するものは、次の扱いとなる。
- 小売電気事業、発電事業
令和2年度税制改正によって、課税方法が見直された業種になる。
【普通法人・特別法人】
事業税の額 |
標準税率 | 超過税率 |
収入割 | 0.75% | 0.80% |
所得割 | 1.85% | 1.94% |
【外形標準課税法人】
課税標準 |
超過税率 |
収入割 | 0.80% |
付加価値割 | 0.39% |
資本割 | 0.16% |
事業税の税率や計算方法を正しく理解しよう
事業税の課税対象や計算方法は、個人、法人、業種、会社規模によりそれぞれ異なることを解説した。なお法人事業税は、法人が税額を計算するが、その際、税率に変更がないか、最新の税率で計算できているかどうかを提出する前に都道府県のホームページなどを見て確認しておくとよいだろう。
文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)