企業経営を継続させていくために「人」は最重要な資源である。一方で「人」は人件費を伴うため、企業経営に対する貢献と人件費は最適な関係であることが望ましい。今回は人件費をテーマに最適な人件費の考え方と現在の日本企業を取りまく現状を踏まえた解決策を解説する。

目次

  1. 人件費とは?
    1. 賃金・賞与
    2. 退職金
    3. 福利費
  2. 人件費の考え方で重要な労働分配率・労働生産性とは?
    1. 労働分配率
    2. 労働生産性
  3. 最適な人件費達成のために必要な考え方
    1. 生産性向上を実現しなければならない
    2. 働き方改革を念頭におく
  4. 最適な人件費のための3つの解決策
    1. 業務プロセスの見直し
    2. 社員のスキルアップ
    3. IoT・AIの活用
  5. 経営者の人件費の考え方次第で労働生産性は向上する

人件費とは?

計算
(画像=Jirapong/Adobe Stock)

人件費とは、社員に支払う賃金などに代表される企業経営に必要な費用の一つだ。賃金以外でも人にかかわる費用は人件費として扱われる。最適な人件費を費用として投資することにより企業経営は継続および成長ができるのだ。

賃金・賞与

社員にとって賃金や賞与は、企業で働くうえで重要な項目だ。経営者は社員の貢献に正当に応える賃金や賞与を支払わなければならず、そのことが最適な人件費につながる。そのためには、明確で分かりやすい給与制度の設計や公平な評価制度に基づいた昇給、業績や貢献度に連動した賞与規定の設計に努めなければならない。

退職金

東京都産業労働局がまとめた「小企業の賃金・退職金事情(平成30年度版)」の調査結果によると退職金制度について「制度あり」と回答した企業は71.3%だった。そのうち75.9%が退職金制度として「退職一時金のみ」と回答している。退職一時金の準備は、社内準備が64.4%と最も高く次いで中小企業退職金共済制度が48.5%となった。(複数回答あり)

退職金についても経営者は、賃金・賞与と同様、明確で分かりやすく公平な制度を構築する必要がある。

福利費

福利厚生は従業員の健康、医療、住宅、ライフサポート、文化・体育・レクリエーションなどをサポートする取り組みであり企業経営にとって重要である。一方で福利厚生費にかかる費用は上昇傾向だ。一般社団法人日本経済団体連合会の「第63回福利厚生調査結果報告書」によると2018 年度の 企業の福利厚生費は、全産業平均で従業員1人1ヵ月あたり11万3,556 円だった。

企業経営者は、費用対効果を考えた制度運営を構築しなければならない。

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人件費の考え方で重要な労働分配率・労働生産性とは?

人件費の考え方で企業経営者が忘れてはいけないのは「労働分配率」と「労働生産性」だ。

労働分配率

労働分配率とは、企業が生産活動によって得られた付加価値のうち労働者側の受け取り分である。つまり「企業のもうけをどのくらい人件費として支払うか」という割合だ。企業業績が上がった場合、「労働分配率を上げるべきだ」という考え方がある。これは、労働分配率を上げることで賃金が上昇しその分消費が伸び経済成長につながる効果が期待できるという予測に基づくものだ。

一方で企業経営者は、自社の競争力を維持するために労働分配率を上げることについて慎重にならざるを得ない状況があるのも事実だろう。近年のグローバル化は、人件費の水準も競争力維持のための大きな要素になっているのである。

労働生産性

労働生産性とは、以下のような算式で表すことができる。

  • 労働者1人あたりの生産性=生産量÷労働者数
  • 1時間あたりの生産性=生産量÷(労働者数×労働時間)

上記は社員1人あたりや1時間でどのくらいの生産を上げたかを表す数値である。生産性の向上は、働き方改革の中でも取り上げられ企業経営を成功に導く重要な指標の一つだ。生産性の向上とは、「同じ労働でより多くの成果を上げる」「より少ない労働で同じ成果を上げる」といったことを指す。例えば人材不足が深刻化する中で社員のスキルアップにより同じ人員でより一層高い売上を上げること。

また業務見直しによってより一層短い時間で従来と同様の品質の仕事を仕上げることも生産性向上の達成の具体例になる。

最適な人件費達成のために必要な考え方

最適な人件費達成を考えるとき前提として考えなければならないのが、日本企業を取りまく社会環境の変化だ。働き方改革では、日本の課題として「少子高齢化による人手不足」「社員の働き方ニーズの多様化」を挙げている。人手不足の中で社員のニーズを満たした働き方を実現するためには、企業は生産性を上げることが必要だ。

さらに企業は生産性を上げることによって賃金面でも社員の賃金引き上げを求められている。企業経営者にとっても社員一人ひとりの生産性が上がり企業の業績がアップかつ企業経営が良好になっていくことは望ましいだろう。一方で生産性を伴わない賃上げは、経営を圧迫することが明白で実現することは難しい。

さらに企業経営者にとっての最適な人件費達成には、生産性に結びつかない慢性的な残業など会社風土に根付いた職場環境の実態把握と改善が必要だ。

生産性向上を実現しなければならない

最適な人件費達成は、同時に企業の生産性向上を実現させ企業を将来に向けて維持・成長させるものだと経営者は再認識すべきである。最適な人件費達成は企業経営を成功させるために必要な要素の一つなのだ。

働き方改革を念頭におく

最適な人件費達成に向けた企業の取り組みは、社員にとっても魅力ある職場づくりや多様な働き方のニーズに応じた働きやすい職場づくりに通じるものでなければならない。最適な人件費達成に成功した企業は、働き方改革を念頭においた取り組みを実施している。

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最適な人件費のための3つの解決策

最適な人件費のためには、「業務プロセスの見直し」「社員のスキルアップ」「IoT・AIの活用」という3つの解決策が有効だ。それぞれ独立したものではなく相互に関連した取り組みである。ここでは、解決策を活用することで最適な人件費の実現を成功させた企業の事例を含め解説しよう。

業務プロセスの見直し

最適な人件費のためには業務プロセスの見直しが有効な解決策になる。中小企業庁による2018年度中小企業白書では、中小企業における業務プロセスの見直しの現状をアンケート調査の結果をもとにまとめている。2018年度中小企業白書によると業務プロセスの実態は以下の通りだ。


業務プロセスの見直しの実施状況
割合
全社単位の見直し 20.70%
部門単位での見直し 26.70%
チーム単位の見直し 14.00%
従業員レベルの見直し 24.90%
見直しを行っていない 13.80%

中小企業では業務プロセスの見直しの取り組みが積極的に実行されていることが分かる。業務プロセスの見直しの具体的な方法は、企業の実態に合わせて考えることが必要だ。特定の社員のみしかできない属人化が見られる企業であれば「業務のマニュアル化や標準化」によって他のメンバーでも業務が可能となり属人化による業務の集中が緩和されることが期待できる。

「業務の棚卸・見える化」が必要な職場もあるだろう。業務プロセスの見直しを企業の施策として実施していない期間が長いと不要な業務や同じことを重ねて実施している重複業務が発生しているケースがある。「過去からの決まりごと」「いままでのやり方」などをいったん見直して現在の視点と常識で棚卸することが必要だ。

時代は高スピードで変化し企業を取り巻く社会環境も短期間で変化している。ITを採用したシステムも急速に進化しているので業務プロセスの見直しをすることで効率化が進み残業の削減も期待できるだろう。業務プロセスの見直しが企業に最適な人件費の社員への分配を推進するのだ。

社員のスキルアップ

最適な人件費を実現するためには、社員のスキルアップも重要だ。社員がスキルアップし生産性が向上すれば賃金アップが可能となり従業員のモチベーションアップと退職防止にもつながってくる。社員のスキルアップが可能となる研修教育制度などを考えていくことで企業は優秀な人材に成果や貢献度に応じて最適な人件費を支払うことが実現する。

さらに求職者に対しても働きたいと思う企業価値をつくりだすことになるのだ。社員のスキルアップに成功した中小企業が実施している事例は具体性がある点で共通している。多くの企業の問題点で共通するのが一部の担当者への業務の集中だ。調査を事業として行うA社の事例では、特定の調査に受注が偏る傾向があった。

受注が偏ると、特定の調査と検査のスキルを持った社員に業務が集中してしまう。A社は他の社員のスキルを一覧化できるスキルマップを作成し、スキルアップを実行することで、受注によって部門を超えて柔軟にリソースを割り当てることができる体制を実現した。A社は、スキルマップ作成からスタートし社員のスキルアップによる多能工化を実現。結果的に業務を平準化できた成功事例である。

A社は効果として年間の1人あたりの平均労働時間を1,500時間から1,400時間に減少させ最適な人件費を実現した。

IoT・AIの活用

最適な人件費の実現として効果が期待できる取り組みにIoT・AIの活用がある。近年のIoT・AIの進化は目覚ましく従来人間が行っていた業務をIoT・AIが実行できる範囲が拡大傾向だ。中小企業のIoT・AIの活用は多岐にわたりアイデアによって可能性は広がっていく。IoT・AIを活用したシステムを提案する企業も数多くあるので企業経営者は自社の状況と課題をつかみ最新のIoT・AIの活用を検討すべきであろう。

IoT・AIの活用については、最適な人件費を実現させた成功企業の事例を見るのが分かりやすい。B社は飲食業を経営する企業であるが事業の問題点として「来店客数の予測」がうまく把握されていない点があった。その結果、大量の食材のロス、非効率なリソース管理による人件費ロス、社員の疲弊と不満が常に存在していた。

B社は、事業の問題点解決のため「来店客数の予測」の精度を向上させることを重点課題として定め具体的なプランとして「AIの導入」を実行した。その結果AIは正確な来店客数を予測しB社は「食材ロスの削減」「効率的なリソース管理」「社員の負担軽減」を実現した。B社は、AI導入によって社員数を増やすことなく売上を4倍に加え社員の給与アップを成功させたのである。

C社は、製造業を営む企業であるが慢性的に発生する残業時間の多さが課題とされていた。C社は、残業時間削減をテーマに社内プロジェクトを立ち上げ、社内で行われている業務の棚卸しを行いIoT・AIの活用が可能な業務を検証した。C社は、IoT・AIの導入を積極的に進めることで企業を構成する事務部門、現場・営業部門ともにシステム化が進み業務の迅速さと効率化を実現した。

その結果、残業時間削減を達成し、生産性向上と最適な人件費を達成した。

経営者の人件費の考え方次第で労働生産性は向上する

人件費とは、社員に支払う賃金などに代表される企業経営に必要な費用であり企業経営に対する貢献と人件費は最適な関係であることが望ましい。また人件費の考え方で企業経営者が忘れてはいけないのは、「労働分配率」と「労働生産性」だ。最適な人件費達成を考えるとき前提として考えなければならないのが日本企業を取りまく社会環境の変化である。

最適な人件費のためには、「業務プロセスの見直し」「社員のスキルアップ」「IoT・AIの活用」という3つの解決策が有効だ。

文・Business Owner Lounge編集部