パソナグループが「地域を活性化させる人材誘致」をスローガンに掲げ、本社機能を淡路島に移転する。地方創生への取り組みに反して東京一極集中が続くなか、パソナのような大企業の大胆な決断が地方創生に与える影響は計り知れない。

目次

  1. 淡路島に本社を移転したパソナの狙いとは?
  2. 大企業の本社移転は地方創生の救世主となるのか
  3. コロナ禍前から取り組まれていた東京一極集中解消の国策
    1. 企業の地方移転によるメリットとデメリットは?

淡路島に本社を移転したパソナの狙いとは?

地方創生の救世主も担う?本社を淡路島に移転したパソナの働き方改革
(画像=安ちゃん/stock.adobe.com)

人材派遣のパソナや福利厚生アウトソーシングのベネフィットワンなどを子会社にもつパソナグループは、人材派遣サービスからHRコンサルティング、教育・研修、ライフソリューションまで、多様な事業を手掛ける東証1部上場企業である。

同社はコロナ禍以前から、少子高齢化問題や貧困問題、介護離職問題など日本社会が直面している課題の解決策として、「地方創生ソリューション」に取り組んできた。具体的には、地方における就農支援事業制度や起業家支援制度を通し、「一人ひとりが自分のライフスタイルに合わせて働くことのできる個人自立社会」への転換を目指すというものだ。

そして2020年9月、新型コロナ対策や働き方改革の一環として、2023年度末を目処に東京本社1,200人の本社機能を担う従業員を、淡路島に段階的に移動させる計画を発表した。この新たな挑戦は、多少なりとも世間を驚かせた。地方の活性化を支援することと、自社の本社機能を移転することでは、まったく次元が異なるためだ。

一部では「島流し」「大企業の東京脱出」など皮肉な見方もあるようだが、パソナグループ創業者の南部靖之代表は毎日みらい創造ラボの取材で、淡路島の活性化に貢献するだけではなく、従業員のワークライフバランスを向上させることが目的だと語った。コロナ禍のリモートワーク定着を機に、従業員に真に豊かな生き方と働き方を通して「心の黒字」を知る機会を与えたかったという。コロナ感染拡大予防策としてオフィスを東京駅周辺に分散したことが、本社機能の地方分散について考える切っ掛けになった。

同氏は「淡路島をオープンカーやスポーツカーが走り抜ける、地中海にあるようなリゾートに創りかえる」という夢も語っている。淡路島のオフィス賃料は東京の10分の1、従業員の家賃は5分の1程度だそうだ。浮いたコストは車のリース代の補助金として支給しており、将来的には高級車や電気自動車の追加補助金の支給も検討している。

大企業の本社移転は地方創生の救世主となるのか

パソナが移転先に選んだ淡路島は、全面積 596平方キロメートル、淡路市・洲本市・南あわじ市の3つの市から成る、瀬戸内海東部の離島だ。美しい大自然に恵まれているものの、他の離島と同じく、若い世代の流出による過疎化が問題視されている。

昭和30年(1955年)には21万人を超えていた人口は年々減少し、2020年7月には13万人を下回った。農畜水産業を活かした産業活性化や、観光客の誘致など、様々な過疎化対策を講じているが、このまま人口流出が進んだ場合、2040年には1990年の6割弱に人口が減少すると予想されている。

このような背景があるだけに、パソナのような大企業の本社機能の移転が、労働人口の減少による経済低迷に歯止めをかけ、地域の活性化に大きく貢献するとの期待感は大きい。パソナはすでに、県立淡路島公園内の宿泊施設やアニメパーク「ニジゲンノモリ」、大型レストラン「モリノテラス」を含む、複数の地域活性化事業に貢献している。

コロナ禍前から取り組まれていた東京一極集中解消の国策

新型コロナの感染拡大を機に、本社機能の地方移転を決めたのはパソナだけではない。情報サービス企業インフォメーション・ディベロプメントは鳥取県米子市に、茶類製造販売ルピシアは北海道虻田(あぶた)郡ニセコ町に東京本社機能の一部を移転させた。

これらの企業に続き、今後、大企業の地方流出あるいは分散は加速するのだろうか?企業の地方移転はコロナ禍以前から、国の施策として取り組まれている課題だった。たとえば、内閣府地方創生推進事務局は、2015年から地方拠点強化税制を施行している。これは地方にある企業の本社機能を拡充する場合、あるいは本社機能を東京23区から地方へ移転する場合、建物取得や雇用促進費用が減税対象になるというものだ。

2017年度までの利用件数はわずか74件と、目標の7,500件には程遠い状況だった。しかし、コロナ禍がもたらした変化により、このような制度を利用するメリットに注目する企業が増えると期待されている。

企業の地方移転によるメリットとデメリットは?

企業の地方移転は東京一極集中の解消や地域社会への貢献だけではなく、企業にもオフィスの賃料や交通費の削減や従業員のワークライフバランスの向上といったメリットをもたらす。その反面、移転先によっては採用力の低下やITインフラが整備されていないなど、デメリットもある。

主な取引先が東京の企業である場合は、オンラインのやり取りが中心となり、それが原因で取引がスムーズに行かなくなる懸念もあるだろう。地方移転を視野に入れている企業はメリットとデメリットの両方を比較し、慎重に決断する必要がある。

パソナを筆頭とする地方移転をリードする企業が、地方創生の救世主になるかどうか、現時点ではまだ分からない。これらの企業が地方経済や社会、そして移動した従業員のワークライフバランスに、今後どのようなポジティブな変化を与えていくのか?その成果次第では、地方移転を検討する企業が増加し、地方創生の大きな追い風となるのではないだろうか。