社員の技能を上げたり業務に役立つ知識をつけたりして生産性を高めるため、教育や研修を受けさせることがある。こうした場合にかかる費用は経費計上できるのであろうか。どのような条件や範囲であれば経費になり、どのような処理になるのかを、場合に分けて説明していこう。

目次

  1. 勘定科目を選ぶ時の考え方
    1. 勘定科目の設定は任意でよい
    2. 同じ内容の取引については科目の選択を統一する
  2. 研修に関する費用は経費として計上できるか
    1. 会計上の経費として計上できるもの、できないもの
    2. 税金計算上の経費として計上できるか?
    3. 研修費として計上できる研修とは
    4. 社内に講師を呼んだ際の勘定科目
  3. 研修に関する費用で研修費として計上できないもの
    1. 業務上必要かどうかで判断してよい費目
    2. 交際費として計上することも
    3. 研修旅行の扱いについて
    4. 福利厚生として計上することもある
  4. 業務に必要かどうかで判断。研修費以外の科目での計上も検討する

勘定科目を選ぶ時の考え方

研修費を経費計上するには?勘定科目とその範囲についても解説
(画像=PIXTA)

勘定科目はさまざまあり、会計処理をする際にどれを選択すればよいか悩むものである。以下に基本的な勘定科目選択の考え方について示す。

勘定科目の設定は任意でよい

そもそも勘定科目とは、会計処理をする際に必要になる分類のようなもので、金額の集計単位となり、決算書表示の際の名称となる。法律で「〇〇にかかる費用は研修費」などと定められているわけではなく、各社が自由に決定するものである。

とはいっても、集計単位となるため、会計処理や経営管理のしやすさを考慮して勘定科目を決定すべきだ。一般的な勘定科目は会計ソフトや各種情報サイト等にあるが、自社独自の勘定科目を設定して運用している会社もある。細かく煩雑になりすぎないように注意が必要である。

同じ内容の取引については科目の選択を統一する

同じ事象が発生した場合は、同じ勘定科目を使用することになるため、勘定科目ごとに範囲や定義を定めておくとわかりやすい。この定義が曖昧であると、費用の増減分析や予算管理などが困難になる。

たとえば、10万円以下の備品は消耗品費、電話や郵送やインターネットにかかる費用は通信費、などである。これにより、切手を購入した際に、切手は備品ではないため消耗品費ではなく、郵送にかかる費用なので通信費、といつでも同じ判断ができるようになる。

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研修に関する費用は経費として計上できるか

次に、経費にできるかどうかはどのようにとして決まるのかをみていこう。これは「会計上の経費」と「税金計算上の経費(損金という。)」と2つに分けて考える必要がある。

会計上の経費として計上できるもの、できないもの

会計上の経費について言えば、会社が業務上必要だと思えば経費になる。会社としての意見や認識によって決めることができ、自由度が高い。会計上で経費として認められないのは、経営者が会社の資金を用いて私物を購入したり飲食をしたりした場合だ。業務上必要な経費ではなく、経営者に返金を求めるため、実質的に経営者にお金を貸し付けた、もしくは未収入金や立替金という債権を持つことと同義になる。

会計上の研修費について言えば、会社が業務上必要だと認め、業務遂行等のために実施したものであれば経費として差し支えない。ただし、研修の実態の確認が必要である。研修や勉強会という名目の飲み会であったり、一部役員による研修旅行という名の私的旅行があったりする場合は、本当に業務上必要な経費なのかを判断し、経費にしないこともありうる。

税金計算上の経費として計上できるか?

次に税金計算上の経費である「損金」について解説する。法律で規定されているため、会計とは話が変わってくる。法人税法第22条では、損金を以下のように定めている。

  • 「売上原価」や「販売費、一般管理費その他の費用」である
  • 会計上で経費として計上している

ただし、債務が成立していない費用や金額が合理的に算定できない費用、別途規定があるものなどは損金から除かれることになる。これは法律で定められたものであるため、会社の意見で決められるものではない。ここに会計と税務の差が生まれることになる。

よって税務上、研修費を損金とするには、会計上経費として計上していることがまず前提となる。そして、すでに研修が実施され、金額が確定していれば、会計上の経費をそのまま損金とすることができると考えられる。

研修費として計上できる研修とは

では、研修費として計上できるのは、どれくらいの範囲の研修なのだろうか。研修とは言っても範囲は広い。社員同士で行う集合型研修、社外から講師を招くもの、セミナーや講演に出向くもの、インターネットで見るもの、教材で自習するものなどがある。

これらは業務上必要であれば研修費として計上することができる。会社の知識や社会人としての一般常識やマナー、業務の知識や技能などを身につけることを目的としている研修は、業務上必要といえるだろう。

また、研修旅行という形で社員が旅行に行くことがある。これも、旅行先で事業に関する工場見学がある、業務に関係する他社サービスを視察する、といった実態と業務上の必要性によっては、経費としても差し支えない。

一方、業務に関係のない研修を会社負担で従業員が受講した場合、実質的に経済的な利益を従業員に与えるものと税務署に判断され、給与として従業員に所得税が課税される可能性がある。この場合も会計上は、研修費または給与として経費に計上することは可能である。

なお、研修費として計上できる金額に上限はない。経費の上限についての一般論として、会計上の経費に上限はないといってよい。税務上については、交際費など一定の金額に限って損金算入が認められているものがあるので、費用ごとに上限額の確認が必要といえる。

社内に講師を呼んだ際の勘定科目

セミナー会社に研修を依頼した場合は、勘定科目として研修費を選んで会計処理をするのみでよい。一方、個人の講師を呼んだ場合で、かつ講演料を払った場合は、源泉徴収税の徴収が必要となる。「個人への講演料払いは源泉徴収する」と法律で規定されているためである。

100万円までは金額の10.21%、100万円を超える部分は20.42%を差し引いて本人に支払い、徴収した所得税は預り金として処理し、支払い月の翌月10日までに税務署に納付が必要となる。源泉徴収は費用を支払う側の義務であるため、これを怠ると、源泉徴収して納付すべき所得税の未納付があるものとして、所得税の未納付分に不納付加算税と延滞税を加算した金額の納付が必要となってしまう。

個人の講師から受け取った請求書にたとえ源泉徴収税の計算がない場合でも、こちらで計算し、源泉徴収することになるので注意が必要である。

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研修に関する費用で研修費として計上できないもの

研修費は業務上の必要性があれば経費計上できることを説明してきた。では、研修に関係する費用はどのようなものでもすべて研修費にできるのであろうか。

業務上必要かどうかで判断してよい費目

研修に関係する費用とはたとえば、研修を他社に依頼する費用のほか、参加する役職員の人件費、交通費、使用する機材や教材費、配布資料の費用、食事の費用、などであろう。これらの費用で業務上に必要なものは研修費として差し支えないと考える。

交際費として計上することも

ただし、食事については、一般的な食事の費用から過度に乖離した高価なものは、交際費と判定されることも考えられる。研修の前後に慰労目的の会食がある場合も、その部分は研修費とはならず、交際費となる可能性がある。これが業務との全く関係ない会食であれば、参加者の給与とされる可能性もある。

そして、研修に外部の取引先を呼ぶ場合も、研修として扱いが異なる。研修への参加費を当社が負担する場合や本来負担すべき金額から大幅な値引きをおこなった場合は、取引先に対する交際費とされる可能性がある。

そもそも交際費とは国税庁によると「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」とされている。実質的に交際費相当であるのか、研修を受けてもらうことによって当社が経済的に便益を受けるため合理性があるのか、研修の内容や必要性に照らして、判断するものと思われる。なお、研修後に取引先を含めて宴席をもつ場合は、その部分のみ交際費となる可能性が高い。

いずれにしても、会計上の経費計上を否定するものではなく、研修費、給与、交際費、といった分類にて経費計上されることになる。税務上は、その分類に応じた扱いがなされる。

研修旅行の扱いについて

なお、以下のような研修旅行は、会社の業務を行うために直接必要なものとはならず、参加者は給与として所得税が課される。

(1) 同業者団体の主催する、主に観光旅行を目的とした団体旅行
(2) 旅行のあっせん業者などが主催する団体旅行
(3) 観光渡航の許可をもらい海外で行う研修旅行
出展:国税庁タックスアンサー「No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行」

福利厚生として計上することもある

研修に付随したレクリエーション部分は、研修費ではなく福利厚生費となることも考えられる。たとえば、研修旅行という名目で3泊4日の社員旅行に行った場合をみてみよう。

2日目は集合研修で、その他の日程は自由行動で観光ができる場合、すべてを研修費とすることは実態と合っているだろうか。この場合、たとえば費用を日数で按分するなどして、旅費のうち研修に係る部分は研修費、その他部分は福利厚生費として計上することが望ましい。

そして、レクリエーション旅行として福利厚生費処理した場合、参加者が受ける経済的利益が給与課税されるかどうかが次の論点となる。研修費から論点がずれるが、少し紹介しておく。次のような社員旅行については、参加者は給与として課税されない。

  • 少額であること
  • 旅行の期間が4泊5日以内であること
  • 旅行に参加した人数が会社や事業所全体の人数の50%以上であること

ただし、以下のような旅行は除く。

  • 役員だけで行う旅行
  • 取引先に対する接待、供応、慰安等のための旅行
  • 実質的に私的旅行と認められる旅行
  • 金銭との選択が可能な旅行(社員旅行に参加するか、不参加の場合は5万円もらうか、を選べる場合)

上記を総合的に勘案して判断される。「少額」についての金額基準はないが、国税庁ホームページには、会社負担が10万円なら少額と判定されているようである。また、裁判例がいつくか出ており、会社負担が24万円の場合に、給与とされたケースがある(国税不服審判所 平22.12.17裁決)。

業務に必要かどうかで判断。研修費以外の科目での計上も検討する

社員が研修を受けるための費用は、業務に関係する部分は研修費とできるが、会計と税務で扱いが異なることを見てきた。研修に付随する飲食費や社員の慰安に関する費用、社外の取引先等の研修への参加、業務上の必要性、などから、交際費や給与、福利厚生費となる場合がある。

研修に関する費用だからとすべて研修費に計上するのではなく、その研修の目的や内容、参加者、スケジュール等を確認し、実態に応じて処理することが必要になることに注意が必要である。

文・新井良平(バックオフィスLABO代表)