消費税の「インボイス制度」導入によって、事業者によっては大きな影響があるとされている。特に消費税の免税事業者は、インボイス制度適用後に取引量の減少や消費税負担の増加を招く可能性もある。今回は、消費税のインボイス制度の仕組みや事業者に与える影響について説明する。

目次

  1. インボイス制度と消費税の関係
    1. インボイス制度とは?
    2. そもそも消費税の仕組みはどうなっているのか
    3. インボイス制度が与える影響
    4. インボイス制度が必要な理由
    5. インボイス制度の導入スケジュール
  2. インボイス制度で企業が対応すること
    1. 適格請求書発行事業者の対応
    2. 免税事業者の対応
  3. インボイス制度の意義を理解し、適切な準備を心がけよう

インボイス制度と消費税の関係

インボイス制度で消費税負担が変わる?免税事業者でも注意が必要な制度の中身
(画像=takasu/stock.adobe.com)

インボイス制度と消費税の関係を明らかにしつつ、インボイス制度とはどういうものなのか解説していく。

インボイス制度とは?

インボイス制度は2016年度の税制改正において導入が決定された制度である。正確には「適格請求書等保存方式」と呼ばれ、消費税の計算方法と消費税計算の根拠資料が変更されるものである。まずは、インボイス制度の概要を説明する。

「インボイス」とは送り状のことであり、貿易において、物品輸送時の税関への申告・検査などで提出義務のある書類である。インボイス制度とは、貿易におけるインボイスのように、所定の内容を記載した「適格請求書」を基にして、消費税の計算をすることを義務づけるものである。

「適格請求書」とは、所定の項目を記載して売り手が発行する請求書のことで、買い手に対して適用税率や消費税額等を正確に伝えるために使用する。この「適格請求書」は、適格請求書発行事業者のみが発行できる。

「適格請求書発行事業者」とは、あらかじめ税務署に登録を申請し、税務署の審査を受けて登録された事業者のことである。適格請求書発行事業者の登録状況については、国税庁のWEBサイトでの公表が予定されている。

そもそも消費税の仕組みはどうなっているのか

インボイス制度を理解するには、消費税の仕組みについての理解が必要である。

事業上の取引を行った時、売上代金を請求する際には、消費税を乗せて請求する。売上が100万円の場合、消費税率が10%であれば、110万円を請求する事となる。このとき、自社の取り分は100万円であり、10万円は国に納めるべき税金を仮受けしているものである。 一方、仕入や経費が請求される際は、消費税分の金額を加算した請求書が届く。仕入が40万円の場合、消費税率が10%であれば、44万円が請求される。このとき、自社の負担額は40万円であり、4万円は国への消費税を仮払いしているものである。

消費税の負担者はあくまで消費者であり、事業者は消費者と国の間で消費税を受け払いしているのに過ぎないからである。消費税は、負担者と納税者が異なる間接税に該当する。前述の事例の場合、税務署には、売上にかかる仮受消費税10万円から仕入にかかる仮払消費税4万円を差し引いた6万円を、申告して納税することになる。

以上が、原則的な消費税の申告納税であり、申告義務のある事業者を「課税事業者」という。

これに対し、年間の売上高や給与支払額が一定規模を超えない事業者については、消費税の申告と納付の義務が免除されることがある。このような業者を「免税事業者」という。免税事業者は、適格請求書発行事業者となれないため、適格請求書を発行することはできない。

インボイス制度が与える影響

インボイス制度の導入によって、事業者にはどのような影響があるのだろうか。課税事業者である買い主と、免税事業者である売り主のそれぞれの視点で確認してみよう。

・課税事業者への影響

課税事業者である買い主A社について、以下のような取引があったと仮定する。

  • A社は消費者に対して売上代金100万円を請求し、上乗せした消費税10万円を仮受した
  • A社はB社から40万円で仕入れを行い、上乗せされた消費税を4万円を仮払いした
  • 納付すべき消費税は「10万円–4万円=6万円」となる

インボイス制度適用前は、税務署に消費税を申告して、A社は6万円を納付する。

これに対して、インボイス制度導入後は、以下の二つのパターンが発生する。

①40万円の仕入れを行い、適格請求書に基づいて消費税を4万円仮払いした
②40万円の仕入れを行い、適格請求書ではない請求書に基づいて消費税を4万円仮払いした

①の場合は、従来通りの消費税の計算と変わらない。影響があるのは②の場合だ。

適格請求書ではない場合は、仮払いした4万円を消費税計算に用いることができなくなるため、申告して納税すべき消費税が10万円になる。つまり、仕入にかかる40万円分を、A社がそのまま負担することになってしまうのだ。

仕入先が適格請求書発行事業者であるか否かによって、A社の消費税の負担額が変わってくることが分かる。取引を行う際には、相手が適格請求書発行事業者かどうかの確認が必須となるのだ。

・免税事業者への影響

次に、免税事業者である売り主B社について、以下のような取引があったと仮定する。

  • B社がA社に対して売上代金40万円を請求し、上乗せした消費税4万円を仮受した
  • B社は仕入がなかった
  • 納付すべき消費税は「4万円–0万円=4万円」となる

インボイス制度適用前は、本来であれば税務署に4万円を納付しなければならないが、免税事業者は消費税の申告と納税が免除されているため、4万円はすべてB社の手元に残ることになる。これを「益税」と呼び、本来納付すべき税金が事業者の利益となっていることが、以前から問題視されている。

国が本来受領すべき消費税は、消費者が負担した100万円の消費税10万円である。通常ならば、A社が6万円、B社が4万円を納付すれば10万円になるが、B社が免税事業者であるため、国は6万円しか受け取れなくなるのだ。

インボイス制度導入後は、この益税の問題がなくなると考えられている。

課税事業者である買い主A社への影響で記載したように、免税事業者であるB社が請求した消費税は、買い主が消費税の計算に入れることができない。すると、課税事業者としては、免税事業者とは取引をしないという選択をせざるを得なくなるか、もしくは、消費税の負担分を免税事業者に求めてくることも考えられる。

免税事業者は、課税事業者となるか、消費税分の負担という取引条件の悪化を受け入れざるを得なくなる可能性もあるのだ。

インボイス制度が必要な理由

インボイス制度は、二つの効果をもたらすと考えられる。

まずは、益税の排除である。免税事業者による益税は、国に納付すべき消費税が免税事業者の手元に残るため、免税事業者以外の事業者には、税制度に対する不信感をもたらしている。免税事業者との取引については消費税の計算をできなくすることや、課税事業者が増加する事は、益税の問題の解消につながり、税金に関する透明性が高まることとなる。

また、適格請求書を通じて消費税率や消費税額を明示するため、消費税計算を容易にするとともに、買い主と売り主の税金計算が適正化されることとなる。

インボイス制度の導入スケジュール

インボイス制度は、消費税率の8%から10%への増税タイミングに合わせて、2021年4月1日から開始予定であった。しかし、消費税の増税が当初の予定から延期されたことに合わせて、開始日が2023年10月1日に延期された。インボイス制度開始までのおおまかなスケジュールは以下の通りである。

2019年10月1日 消費税を8%から10%に増税
2021年10月1日 適格請求書発行事業者の登録申請書受付開始
2023年3月31日 適格請求書発行事業者の登録申請書提出期限(2023年10月1日から登録を受ける場合)
2023年10月1日 インボイス制度開始・免税事業者の経過措置Aの期間
2026年10月1日 免税事業者の経過措置Bの期間
2029年10月1日 経過措置の終了

免税事業者の経過措置Aの期間とは、免税事業者からの仕入や経費でも、税額の80%は消費税計算に入れてもよい期間である。

免税事業者の経過措置Bの期間とは、免税事業者からの仕入や経費でも、税額の50%は消費税計算に入れてもよい期間である。

経過措置終了後は、免税事業者からの請求書は、消費税計算には全く用いることができなくなる。

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インボイス制度で企業が対応すること

ここからはインボイス制度で企業が対応することを連絡請求書発行事業者と免税事業者の場合に分けて解説していく。

適格請求書発行事業者の対応

適格請求書発行事業者は、以下のような項目を記載した請求書や納品書を発行しなければならない。

① 「適格請求書発行事業者」の氏名や会社名と登録番号
② 取引を行った年月日
③ 行った取引の内容(軽減税率の対象品目であれば、その旨を明記する)
④ 適用税率ごとに合計した対価の額(税抜き・税込み)と適用税率
⑤ 消費税額など(端数処理する場合は、一請求書当たり、適用税率ごとに1回ずつ)
⑥ 請求書や納品書の交付を受ける事業者の氏名や名称
適格請求書発行事業者は、発行した請求書や納品書の写しを保管する必要がある。上記の事項について誤りや変更があった場合は、正確な書面を出し直さなければならない。

免税事業者の対応

免税事業者のままでは適格請求書を発行できないため、以下のいずれかを選択することになる。

  • 適格請求書発行事業者に登録し、課税事業者になる
  • 免税事業者であることを継続し、取引機会損失や取引条件悪化の可能性を受け入れる

適格請求書発行事業者となれば、適格請求書が発行できるようになり、取引については今まで通り問題なく行うことができる。

免税事業者でありながら課税事業者を装うといった不正を行った場合、国税庁が事業者名を公表しているため、取引先による調査などで容易に不正が発覚し、信頼が失墜することは想像に難くない。

免税事業者が課税事業者となれば、消費税申告が必要となり、税務申告の手間とコストがかかる上、消費税の納税が発生することもある。これらを勘案して、免税事業者のままでいるか、課税事業者になるかの選択を検討しておく必要がある。

当事業年度が課税事業者か免税事業者になるかは、2年前の事業年度の売上高が基準になっている。また、現時点では免税事業者でも、インボイス制度が開始される2023年10月1日を含む事業年度の2年前の年間売上高が1,000万円以上になるなど、要件を満たす場合は強制的に課税事業者となる。

なお、免税事業者が、インボイス制度が開始する2023年10月1日を含む事業年度に適格請求書発行事業者登録を受けることとなった場合には、登録を受けた日から課税事業者となる。

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インボイス制度の意義を理解し、適切な準備を心がけよう

インボイス制度の導入は、消費税において大きな変革である。この制度導入に伴い、課税事業者としては請求書様式の変更や書類の保存、免税事業者は課税事業者の選択などの対応が求められる。

インボイス制度は、益税の問題の解消や消費税計算の適正化を達成し、適正かつ公平な課税を実現することを目指している。インボイス制度の意義を正しく理解し、制度に対応するとともに、対応の漏れや不備がないように準備しておくことをおすすめする。

文・新井良平(バックオフィスLABO代表)