アップルのiPhoneやiPadの組み立てなどを行う、世界最大の電子部品OEM・ODMメーカー、そしてシャープを買収したことでも有名な鴻海精密工業(ホンハイ)。その主要傘下企業の一つである富士康工業互聯網(Foxconn Industrial Internet、以下FII)は、2018年6月に上海証券取引所に上場し、2015年以来最大の中国IPO(株式公開)として世界中の注目を浴びた。

旋風を巻き起こした上場後は長期にわたり低迷が続いていたが、新型コロナの影響によるテレワークの増加で、クラウドサービス事業が期待材料として浮上。さらに将来的にはAI(人工知能)やビッグデータなど、先端技術を駆使する「製造業のスマート化のパイオニア」として、世界に君臨する可能性が高まっている。

目次

  1. 中国本土を揺るがした衝撃のIPOで約4,297億円を調達
  2. 半年で時価総額が約4.7億円減 「過大評価IPO」との否定的意見も
  3. コロナが追い風に クラウドサービスの需要拡大
  4. 加速する「世界屈指のスマートメーカーへの転身」の野望

中国本土を揺るがした衝撃のIPOで約4,297億円を調達

IPO後に低迷する富士康工業互聯網。加速する「世界屈指のスマートメーカー」の野望
(画像=nikkimeel /stock.adobe.com)

上場当日(2018年6月8日)の株価は44%増の19.83人民元(約314円)という高値をつけ、時価総額は3,900億人民元(約6兆1,784億円)を突破。発行株数は19億7000万株、調達額は271億2,700万人民元(約4297億4,870万円)に達した。

PER(株価収益率)は2018年12月期予想利益に対して17倍と、本土A株メインボード上場のほぼ上限。インターネットを通じた、主に個人投資家向けの事前公募は10億600万株と全体の51.1%を占め、当選確率は総体的に高い0.34%となった。

IPOにはアリババやテンセント、百度など大手中国IT企業から、国家の投資運用部門(SWF)、全国社会保障基金理事会、中国華融資産管理国有企業まで、中国を代表する20機関が参加するなど、超大型IPOへの絶大な期待の大きさを反映していた。

半年で時価総額が約4.7億円減 「過大評価IPO」との否定的意見も

しかし、市場の興奮はそう長くは続かなかった。IPOの翌月には株価がピーク時と比べて33%下落。それにもかかわらず、PER は主要顧客であるAppleを上回る19倍、時価総額は中国版ナスダックChiNext729銘柄の平均を50倍超える規模に成長した。

このような市場の期待とは裏腹に、10月中旬には株価が半分に下落。さらに半年後には時価総額が約3,000億元(約4兆7,526億円)も減少し、市場に暗雲が立ち込め始めた。

「FIIは過大評価されている」と見なしていた一部の市場関係者にとって、このような失速は意外な展開ではなかった。サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙によると、上海のHengsheng Asset Managementのファンドマネージャー、ダイ・ミン氏は、上場直後のFIIを「利益率の低い典型的なアセンブラー(組立業者)」と評価した。

2015年の設立当初からFIIが抱いていた、クラウドコンピューティング・サービスから産業用ロボットまで、多様なITビジネスを展開をするという野望について、「実現には相当の年月を要する」との見解を示していた。

同社の株価はその後も初値を超えることなく、2020年11月13日現在、14.35人民元にとどまっている。

コロナが追い風に クラウドサービスの需要拡大

FIIは「中国本土で最もパフォーマンスの悪い新規株式公開の1つ」の汚名を返上できないまま、低迷を続けるのか-市場が焦燥感に満たされ始めた矢先、パンデミックという一大転機が訪れた。

多数のIT企業が巣ごもり需要の恩恵を受ける中、今年上半期、FIIのクラウドサービス事業の売上高も4%増の795億元(115億ドル)と、総売上高の45%を占めるまでに成長を遂げた。

米ITニュースポータル、CX Techが関係者から入手した情報によると、同社のクラウドサービス事業はアリババ(阿里巴巴)やテンセント(騰訊)など、大手クラウドサービスプロバイダーからのハードウェア製造の外部委託がメインだ。現在はFacebookやAlphabetとも、ビジネス提携をめぐり協議中だという。

加速する「世界屈指のスマートメーカーへの転身」の野望

クラウドサービス事業の拡大は、決して予想外の動きではない。前述した通り、FIIの長期的戦略は、Apple製品の組立業者からAIやビッグデータなどの先端技術を駆使するスマートメーカーへの転身である。

2014年当時、製造業の成長が鈍化していたにも関わらず、ホンハイがあえてFIIの設立に踏み切った意図もそこにあった。

世界のクラウドサービス市場は、AmazonやGoogle、Microsoftといった米大手IT企業が独占している。現在のFIIは微々たる存在ではあるが、そこに秘められた巨大な可能性は否定できない。

例えば同社のプラットフォーム「Fii Cloud」は、中国のMIIT(産業情報省)による「クロスインダストリー(産業間共通の)用インターネットプラットフォーム・ベスト10」の1つに選ばれた。

また2020年6月末に上海で開催された「2020年世界人工知能カンファレンス(WAIC)」では、革新的なAIとクラウドベーステクノロジーを賞賛するアワードを受賞するなど高評価を受けている。

さらに7月には中国大手ソフトデベロッパー、Digital China Software(DCS)の株式の15.19%を5億5,900万元(約88億5,588万円)で取得し、DCS最大の株主となった。DCSのテクノロジーや知識を活用することで、産業オートメーションやソフトウェア、ビッグデータ、AI分野で大きく前進し、より高度なインテリジェント産業システムの開発が加速することは間違いないだろう。

FIIのジュンチー・リー(李軍旗)会長は「インテリジェントな製造・産業用インターネット・プラットフォームを統合することにより、産業チェーンやバリューチェーン、サプライチェーンに相互接続性がもたらされる」と、今後10年間にわたり、製造業に革命的な変化が訪れると予想している。

「(製造革命で)FIIが重要な役割を果たすようになる」という野望に、市場を再び熱狂する日はそう遠くないのかもしれない。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)