MBAと言えば、昇進や転職のために「経歴に箔をつける」といった動機で取得するイメージが強かったかもしれない。だが、近年は多くの経営者や経営者候補がMBAを取得するためビジネススクールに通っているという。主に考えられる4つのメリットにスポットを当てる。

目次

  1. MBAとは?欧米では「MBA取得者=経営のプロ」と認知される
  2. 企業経営者がMBAを取得する4つのメリット
    1. 1. MBAによって体系的で実践的な経営学が修得できる
    2. 2. MBAで世界に通用するグローバルスタンダードの経営が学べる
    3. 3. MBAの講師は世界のビジネスの最前線で活躍した人たち
    4. 4. MBAはビジネスチャンスを拓く人脈形成にも役立つ
  3. MBAの取得で実践的な経営ノウハウと人脈形成の両方が得られる
大西洋平
大西洋平
経済ジャーナリスト。出版社勤務を経て独立し、ビジネス誌や金融経済誌、一般週刊誌などに経済・金融・企業経営などの分野を中心とした記事を寄稿。これまでにトップインタビューを行った上場企業数は1000社以上に上る。また、著名なエコノミストや経営コンサルタント、弁護士、会計士、金融市場のアナリストやストラテジストなどの取材も多数手掛ける。

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MBAとは?欧米では「MBA取得者=経営のプロ」と認知される

MBAを取得する4つのメリット。プロ経営者に必要なスキルを解説
(画像=mnirat/stock.adobe.com)

MBAはMaster of Business Administrationの略称で、日本では「経営学修士・経営管理修士」と呼ばれ、簡潔に言えば経営に関する知見やスキルを論理的かつ体系的に身につけていることの証しである。日本において「経営学修士」は経営大学院(ビジネススクール)の修士課程、「経営管理修士」は専門職大学院(プロフェッショナルスクール)の専門職学位課程を修了すると取得できる。

MBAの大きな特徴は、机上の学問としての経営に関する知見を深めることよりもプロフェッショナルな経営者を育成するための実践的な教育に力点を置いていることにある。ビジネススクールの元祖は1881年米国のペンシルベニア大学に設立されたウォートン・スクールだと言われており、欧米においてMBAは非常に長い歴史を誇っている。

一方、日本ではかつてのMBAは海外に留学して取得するものだったが、今は国内のビジネススクールでも取得可能である。ただし、その際にはグローバルに通用するものであるか確認しておく必要がある。ビジネススクールやそのMBAプログラムに対し、第三者の立場から評価を行う国際的な機関が存在しており、その認証(お墨付き)を得ていることが大前提となるからだ。世界的に権威のある認証機関として米国のAACSB (The Association to Advance Collegiate Schools of Business)、英国のAMBA (The Association of MBAs)、ベルギーのEFMD(European Foundation for Management Development)の3つが挙げられ、これらのいずれか、もしくは複数の認証を取得しているのが望ましい。

日本のビジネススクールでMBAを取得する場合は、2年間の全日制コースもしくは平日夜間や土曜日のコースのいずれかを選択することができる。オンラインで取得できるコースも登場しているものの、多くの企業経営者や経営者候補はあえて通学するコースを選んでいる模様で、その理由については終盤説明する。

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企業経営者がMBAを取得する4つのメリット

グローバルに見て、MBA取得者は経営のプロと認知される傾向が強い。詳しくは後述するが、欧米の経営者にとってMBA取得はもはや当たり前のことに近い。一般的な人事採用においても、MBAを取得している人物は経営全般について認識していると受けとめられ、将来の経営幹部候補になりうると判断されることが多い。経営は専門職であり、それを専門家であるMBAを取得したプロに任せるという理由からだ。

では、MBAを取得するメリットとして具体的にどのようなことが挙げられるのか?以下に主な4つのメリットを解説する。

1. MBAによって体系的で実践的な経営学が修得できる

第一の理由は、MBAプログラムで学んだ内容を実際の経営にすぐに生かしやすいことにある。つまり、MBAを取得するための講義を通じて経営者としての実践的なノウハウや手腕が磨かれていくことになる。

では、どのような講義が受けられるのかスポットを当てていく。たとえば、1962年創立で日本最古のビジネススクールと言われているKBSは、MBAなどの学位取得プログラムを学べる慶應義塾大学大学院経営管理研究科、短期のエグゼクティブセミナーを受講できる慶應義塾大学ビジネス・スクールから構成されている。同校のMBAプログラムでは実践的な教育手法である「ケースメソッド」が採用されており、学生たちが自分自身の意見をぶつけ合う討論型の授業を通じて実践的な経営能力が身につけられるという。なお、同校は日本で初めて国際認証を取得したビジネススクールだ。

一方、KBSのライバル的な存在に位置づけられるのが早稲田大学大学院経営管理研究科(早稲田大学ビジネススクール=WBS)で、こちらは2016年4月に同大学大学院商学研究科ビジネス専攻と大学院ファイナンス研究科が統合して誕生。学生の多くが企業の経営幹部候補で、近年はファミリービジネス(家業)の継承予定者も目立つという。団塊世代の高齢化に伴ってオーナー経営者の引退が急増しており、事業の継承予定者が経営の実務を学ぶためにMBAプログラムを受講しているのだ。なお、同校の全日制コース(2020年3月修了生)における専門職学位論文題目の一例として「タクシー配車サービスを提供するD社の日本市場戦略に関する提言」や「日本企業の働き方改革におけるデカップリング現象に関する研究」といったものが挙げられる。

また、多くのビジネススクールではアントレプレナーシップ(起業家精神)を育成する講座が設けられ、すでに在学中の時点で自分の会社を興す学生も少なくないようだ。

2. MBAで世界に通用するグローバルスタンダードの経営が学べる

冒頭でも触れたように、もともとMBAはプロフェッショナルな経営者を養成するために欧米で生まれたものだ。欧米流の経営がグローバルスタンダードとなっているだけに、MBAプログラムを学ぶことで世界に通用する経営術を身につけられるとも言えよう。

実際、海外の著名企業を率いるトップの多くがMBA取得者となっている。例えば、アップルCEOのティム・クック氏やナイキ創業者のフィル・ナイト氏、元イーベイCEOで前ヒューレット・パッカードCEOのメグ・ホイットマン氏などといった具合に枚挙にいとまがない。日本でも楽天会長兼社長の三木谷浩史氏やサントリーホールディングス社長の新浪剛史氏など、国内を代表する経営者がMBAを取得しているのだ。

たとえ、コロナ禍であっても人材の流動化はグローバルな規模で進んでおり、日本国内で働く外国人の数も一昔前とは比べものにならないほど増えている。将来的には海外進出を目指している経営者はもとより、一貫してドメスティックな市場でビジネスを展開するつもりの経営者であっても、グローバルスタンダードの経営を学ぶことが重要となっている。

こうした風潮を踏まえ、日本国内のビジネススクールにおいても語学習得やグローバルな人的交流などに注力するケースが見受けられる。経営に関して国際的な感覚を養うことも日頃の業務ではなかなか習得が難しいからだ。

3. MBAの講師は世界のビジネスの最前線で活躍した人たち

すでに、企業の経営に関して相応のキャリアを積んでいる読者に対しては“釈迦に説法”となるかもしれないが、ビジネスはロジック通りに話が進まないことが多々あるし、マクロな世界である経済情勢にしても学説が当てはまらないケースが目立つ。名だたる学者から高尚な教えを説かれたとしても、その内容が現実のビジネスに活用しづらいなら貴重な時間を割くのは惜しいだろう。

だが、MBAプログラムを提供するビジネススクールの講義はより実践的な内容となっているうえ、教壇に立つ人物のキャリアも従来の大学とは一線を画している。単に経営に関して高い知見を有しているだけでなく、現実のビジネスでもそれらを活用した実務経験が豊富な講師が多いのだ。具体例を挙げれば、世界的なコンサルティング会社や投資銀行、ベンチャーキャピタル、グローバル企業などに所属し、経営改革や大型のM&A、スタートアップの育成といった案件に携わってきた人物が講師を務めている。また、著名な企業の社外取締役を歴任してきたキャリアもよく見受けられる。

こうした講師の口から自然と飛び出すのは、実例に基づいた経営に関する知見やノウハウであろう。当然ながら企業経営者や経営者候補であれば、その話に無我夢中で耳を傾けるはずだ。

4. MBAはビジネスチャンスを拓く人脈形成にも役立つ

ビジネススクールは実践的な経営学を身につけられる場であるとともに、人脈形成においても様々なメリットをもたらしているようだ。ここまで何度となく触れてきたように実際の企業経営者や経営者候補、起業家などが集っていることから、今後のビジネスに大きな影響を与えうる人脈形成の場にもなっているのだ。

同期の学生仲間はもとより、講師を通じたOB・OGとの交流も活発で、横だけでなく縦の方向にも人脈が広がりやすい。先述したWBSは大学院ファイナンス研究科を統合したという経緯から金融機関に従事するOB・OGも多く、より多様なバックグラウンドを持つ人たちとの間で交流会も催されているという。

オンライン制のビジネススクールも増えているが、多忙な経営者があえて2年間にもわたって貴重な時間を割いて通学しているのは、直接的に交流することによって人脈が広がっていくことに魅力を感じているという側面も強いのだ。

卓越した経営手腕を身につけたいという志は共通する一方、手掛けているビジネスの領域や展開している業態は多種多様であるからこそ、ビジネススクールに通学することで想像もつかなかったような人脈の広がりが待ち受けている。こうして修了後のことまで先を見据えれば、MBA取得のために充てる時間とコストがもたらすパフォーマンスはかなりのポテンシャルを秘めているはずだ。

さらにつけ加えれば、実務経験が豊富な講師が揃っていることも人脈形成に大きな影響を与えるだろう。講師自身がすでに幅広い人脈を持っており、彼らからの紹介を通じた出会いも期待できるからだ。

MBAの取得で実践的な経営ノウハウと人脈形成の両方が得られる

欧米の経営者の間ではMBAを取得することが半ば常識となっており、講義を通じてより実践的な経営の知見やスキルが習得できる。現実のビジネスで高い実績を上げてきた講師から経験に基づいた講義教が受けられることもその裏づけとなっていよう。

しかも、MBA取得は今後の人脈形成にも大きなプラスとなりうる。だからこそ、企業経営者や経営者候補、起業家などがわざわざビジネススクールに通学してMBAプログラムを受講しているのだ。

言わばMBAは、経営者にとって極めて高いパフォーマンスが期待できる自己投資なのだ。貴重な時間を費やすことに抵抗を感じるかもしれないが、経営者たるもの、有益な投資案件に関心を示さないのは実に惜しいことである。

文・大西洋平(ジャーナリスト)