相続や世代交代などで事業を引き継ぐ事業承継。会社の規模や業績などによっては、会社分割を行うことでスムーズな引き継ぎができるケースもある。引き継ぎが円滑に進むよう、会社分割の基本事項およびケース別の活用方法をあらかじめ確認しておきたい。

目次

  1. 会社を後継者に引き継ぐ「事業承継」とは
    1. 承継方法1:親族内承継
    2. 承継方法2:従業員承継
    3. 承継方法3:社外承継
  2. 「会社分割」とは事業の全部または一部を分割すること
    1. 会社分割の方法1:吸収分割
    2. 会社分割の方法2:新設分割
  3. 事業承継で会社分割が有効なケース3つ
    1. ケース1:後継者が複数人いる
    2. ケース2:不採算事業がある
    3. ケース3:後継者に実践の場を与えたい
  4. 会社分割時の注意点は?
    1. 注意点1:税務上の取り扱いが複雑
    2. 注意点2:簿外債務が引き継がれる
    3. 注意点3:3分の2以上の株主の同意が必要
    4. 注意点4:社内の士気が低下する可能性も
  5. 会社分割を活用しトラブルのない事業承継を実現しよう

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会社を後継者に引き継ぐ「事業承継」とは

円滑な事業承継に有効な会社分割。活用方法を3つのケースで紹介
(画像=imacoconut/stock.adobe.com)

「事業承継」とは、会社を後継者に引き継ぐこと。事業承継で引き継ぐべき項目には、以下の3つがある。

1.人材:後継者・従業員
2.資産:自社株式・事業用資産・資金
3.経営資源:経営理念・技術・ノウハウ

また、事業承継には以下の3つの方法がある。それぞれの特徴とメリット・デメリットを確認しよう。

表1.事業承継の3つの方法

承継方法 詳細
1.親族内承継 子供や親族に承継
2.従業員承継 従業員や役員に承継
3.社外承継 株式譲渡やM&Aにより承継

承継方法1:親族内承継

親族内承継とは、子や孫・兄弟といった親族に事業を承継する方法。配偶者への承継も、親族内承継にあたる。中小企業庁が発行する中小企業白書によると、2019年に親族内承継をした企業は全体の34.9%で、もっとも多い割合を占めた。

・親族内承継のメリット
親族内承継のメリットは、信頼できる親族に会社を引き継げること。人となりをよく知る親族に引き継ぐことで、適材適所の引継ぎを実現できるだろう。また引き継ぐことを見据えて、早い段階から経営理念やノウハウを伝えていけるのも、親族内承継の魅力だ。

・親族内承継のデメリット
親族内承継のデメリットは、親族内のトラブルが起きる可能性だ。相続人が複数いる場合などは、誰が承継するかを巡りトラブルになる可能性がある。その他、親族に引き継ぐ場合には、株式の譲渡による相続税や贈与税が発生する。そのため円滑に引き継ぎを行うには、納税のためにまとまった資金を用意しておく必要があるだろう。

承継方法2:従業員承継

従業員承継とは、親族以外の役員や従業員から後継人を選ぶ方法。2019年には33.4%の企業が従業員承継を選んでおり、2番に多く行われた承継方法となっている。

・従業員承継のメリット
従業員承継のメリットは、従業員の能力や人柄を熟知したうえで引き継げる点。勤続年数が長く実績がある社員であれば、改めて後継として育成する手間も少なくすむ。もともと従業員だった人物が会社を継ぐことで、取引先や金融機関との関係も先代と変わらず続けられるのも従業員承継の魅力の1つだ。

・従業員承継のデメリット
従業員承継のデメリットは、後継者を巡るトラブルが発生する可能性がある点。同じような実績と実力を持つ従業員がいた場合、どちらが引き継ぐかで争いが起きるケースも少なくない。そのほか、先代の手法を踏襲するあまり、後継者が新事業や新体制にチャレンジしにくくなる側面もある。

承継方法3:社外承継

社外承継とは、株式譲渡やM&A「Mergers(合併)&Acquisitions(買収)」などにより、社外に事業が引き継がれることをいう。2019年に社外承継を行った企業は、8.5%だった。

後継者不足により、M&Aによる事業承継を選ぶ中小企業は年々増加。中小企業白書によると、2013年には233件だった事業承継M&Aは2019年には3倍近い616件となっている。

「M&A(Mergers(合併)&Acquisitions(買収)」とは?
M&Aとは、企業の買収・合併・提携のこと。事業承継だけでなく、経営基盤の強化や事業領域の拡大などを目的として行われることもある。M&Aは企業間のみで取り決めるのは難しく、仲介業者に依頼することが多い。

・社外承継のメリット
社外承継のメリットは、自社株式の売却によって資金を得られること。売却額次第では、引退後に必要な資産の形成も期待できる。

また、M&Aの相手方の経営資源を活用することで事業がさらに拡大することもある。親族や従業員に後継者がいなくても、自社製品やサービスなどを次の代に残せることが社外承継の特徴だといえるだろう。

・社外承継のデメリット
社外承継のデメリットは、引き継いでくれる相手を見つけるのが難しいこと。仲介業者に依頼したとしても、後継者が確定するまでに年単位の時間がかかるケースもある。また、経営者が外部から来た人に代わることで、取引先や金融機関との関係・社員のモチベーションに影響する可能性にも注意が必要だ。

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「会社分割」とは事業の全部または一部を分割すること

事業承継では、引継ぎを円滑に進める手段として「会社分割」が行われることがある。会社分割とは企業組織再編手法の1つで、会社の事業の一部または全部を、他の会社もしくは新設する会社に分割することをいう。

会社分割には、「吸収分割」と「新設分割」の2種類がある。それぞれの特徴を確認し、会社に合った分割方法を選ぶことが肝心だ。

会社分割の方法1:吸収分割

吸収分割とは、会社の事業の一部もしくは全部を既存の会社に分割する方法。仕組みを下図で確認する。

円滑な事業承継に有効な会社分割。活用方法を3つのケースで紹介
(画像=image)

吸収分割は、以下の手順で行う。

  1. 双方の会社による基本合意および、取締役会の承認
  2. 分割契約の締結および、契約書の事前開示
  3. 事業を譲渡する会社の株主総会の特別決議・承認
  4. 反対株主の株式買取請求
  5. 債権者保護手続
  6. 書面の事後開示を行い、双方の会社で変更登記

なお、吸収分割にはさらに「分社型」と「分割型」がある。分社型と分割型の大きな違いは、事業を引き渡した対価を誰が受け取るかだ。それぞれの特徴を、以下で確認する。

・分社型吸収分割
分社型吸収分割は、事業を引き継いだ対価を分割元企業が分割先企業から受け取る方法。分割元企業は分割先企業の株主として、資本参加することになる。なお、株式以外に現金などが対価として支払われることもある。

・分割型吸収分割
分割型吸収分割とは、事業を引き継いだ対価を分割元の株主が受け取る方法。分割元の株主は、分割元と分割先の株式を保有することになる。分割型吸収分割では、ほとんどの場合対価として株式が支払われる。

会社分割の方法2:新設分割

新設分割とは会社の一部または全部の事業を、新たに設立した会社に引き継ぐ方法。こちらの仕組みも下図で紹介する。

円滑な事業承継に有効な会社分割。活用方法を3つのケースで紹介
(画像=image)

新設分割は、以下の手順で行う。

  1. 取締役会の決議
  2. 分割計画書の作成および事前開示
  3. 株主総会の特別決議・承認
  4. 反対株主の株式買取請求
  5. 債権者保護手続き
  6. 書面の事後開示
  7. 新設会社にて設立登記。事業を譲渡する会社にて変更登記

新設分割にも、さらに以下の2種類がある。

・分社型新設分割
分割元企業が、対価として新設会社の株式を受け取る方法。分社型新設分割では、分割元会社は新設会社の親会社となる。

・分割型新設分割
分割元企業の株主が、対価として新設会社の株式を受け取る方法。企業内で事業を兄弟会社として独立させるなど、グループ企業を再編する際に用いられる。

事業承継で会社分割が有効なケース3つ

実際の事業承継では、会社分割がどのように取り入れられているのだろうか。ここでは、会社分割を検討したい3つのケースを紹介する。

ケース1:後継者が複数人いる

会社分割が有効とされるケースの1つめは、後継者が複数人いる場合。特に、経営に対する意見が異なる後継者が複数人いるときには、会社を分割して承継させることでトラブルの防止になるだろう。後継者の能力や人柄を考慮した分割と承継を行えば、それぞれの分割会社が大きく成長する可能性もある。

ケース2:不採算事業がある

会社分割が有効とされるケースの2つ目は、不採算事業がある場合。不採算事業を引き継がせたくない場合には、会社分割で切り離し事業承継を行うとよいだろう。

不採算事業でなくても、後継者の能力や手腕・キャパシティなどによりすべての事業を承継するのが難しい場合には、会社分割により承継する事業を絞ることも有効だ。

ケース3:後継者に実践の場を与えたい

会社分割が有効とされるケースの3つめは、後継者に実践の場を与える場合である。後継者を誰にするかが決まっているなら、引き継ぎまでに実践経験を積ませることはとても重要だ。すべての事業を承継する前に一部事業を分割し、じっくりと経験を積ませてもよいだろう。

会社分割時の注意点は?

会社分割時には、おもに4つの注意点がある。対処方法と併せて確認し、円滑な会社分割の実現を目指そう。

注意点1:税務上の取り扱いが複雑

会社分割により資産を移転した際には、時価による譲渡損益が計上され課税対象となる。しかし、一定の適格要件を満たした場合には、譲渡損益の計上が行われず課税されない。適格要件に該当するかは判断が難しいため、専門家である税理士や公認会計士などに相談することが重要だ。

注意点2:簿外債務が引き継がれる

簿外債務は、分割元会社から分割先会社に引き継がれる。簿外債務とは、未払い残業代や買掛金・債務保証など、貸借対照表に記載されない債務のこと。簿外債務の引き継ぎを避けるには、公認会計士など専門家による事前チェックが有効だ。

注意点3:3分の2以上の株主の同意が必要

先述のとおり、会社分割では株主総会による特別決議が必要。特別決議では、3分の2以上の株主の賛成がなければ承認されない。速やかに会社分割の手続きを進めるには、株主が納得する計画書を準備したい。

注意点4:社内の士気が低下する可能性も

会社分割により経営者が変わることで、経営方針や経営理念などが変わる可能性がある。分割前から働いている社員の士気が下がらないよう注意し、目を配ることが重要だ。また併せて、人材流出にも気を付けたい。人材が流出することで、作業効率や開発力が下がる可能性がある。これらの事態を防ぐには、分割後も社員との意思疎通をしっかりと図ることが大切だろう。

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会社分割を活用しトラブルのない事業承継を実現しよう

会社を後継者に引き継ぐ「事業承継」。経営状態や後継者の人数などによっては、「会社分割」の活用が有効だ。事業承継は、すべての経営者にいつか必ず訪れる問題だ。前もってシミュレーションを行い承継方法や手順などを確認することで、トラブルのない円滑な事業承継の実現を目指したい。 (データ出典/中小企業白書)

文・N.ヤマモト