2018年、「株式公開の常識を変える」と鳴り物入りで、異例の直接上場を果たしたSpotify(スポティファイ)。設立からわずか4年で、月間ユーザー数3.2億人を誇る、世界最大の音楽ストリーミングサービスに成長を遂げ、コロナ禍でさらなる勢力を拡大している。

しかし上場後に株価が急落するなど、決して一路順風だったわけではない。同社が上場後に成功を勝ち取るまでの足取りと、直接上場で成功するために必要な要素をみてみよう。

目次

  1. 賛否両論を呼んだ異例の直接上場とは?
  2. 「既存の株式公開システムの革命」がDPOの意図
  3. コロナの巣ごもり需要で株価高騰
  4. SlackもDPO実施 成功するための要素とは?
  5. ダニエル・エクCEO「本当に重要なのは上場後も成長を続けていけるかどうか」

賛否両論を呼んだ異例の直接上場とは?

異例の直接上場から2年 Spotifyは「ウォール街の勝者」になれたのか?
(画像=prima91 /stock.adobe.com)

Spotifyの上場が賛否両論を呼んだのは、すでに時価総額が200億ドル(約2兆1,027億円)を超えていた同社が、あえて直接上場(Direct Public Offering、以下DPO)という型破りな手段を選んだためだ。

DPOとは、金融機関への主幹事の依頼や事前申し込みや抽選、新規株の発行といった、通常の上場(Initial Public Offering、以下IPO)に必要な手順や第三者の介入を一切省き、既存の株式だけを直接上場する手法だ。

DPOのメリットは主に2つある。1つは主幹事を置かないため、引受手数料などのコストが大幅に削減できることだ。アリババが上場の際に主幹事の金融機関に支払った手数料は、3億ドル(約315億3,448万円)を超えたという。

Spotifyも資金調達ラウンドで、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンリー、アレン・アンド・カンパニーの3社に、総額3000万ドル(約31億5,346万円)もの手数料を支払った過去がある。同社が最終的にDPOを選択したのも不思議ではないだろう。

もう1つは、ロックアップ期間が設けられていないため、既存の株主はすぐに保有株を売買できることだ。ロックアップ期間とは、上場後の一定期間、既存の株主に保有株の売却を禁じるルールを指す。

ベンチャーキャピタル(VC)などの大株主が、上場直後に大量の保有株を売却すると、株価の暴落を招くリスクがある。ロックアップ期間の目的は、このような売り圧力を抑えることだ。

「既存の株式公開システムの革命」がDPOの意図

新規株を発行しない=新たな資金を調達できないにも関わらず、Spotifyが大きな賭けにでた意図は「既存の株式公開システムの革命」にあった。

例えば、上場で株価が高騰した場合、設立当初から成長に貢献してきた社員や支援してきた投資家にとっては、利益を得るチャンスとなる。しかし「企業の価値より金銭的な利益を追究するウォール街」に、このような概念がすんなりと受け入れられるわけがない。

一部の市場関係者は、「ウォール街への反発心は長くは続かない」などと、Spotifyの上場の先行きに懸念を示した。不運にも、否定派の予想はある程度的中することとなる。

ニューヨーク証券取引所への上場当日、Spotifyの株価は165.90ドル(約1万7,442円)を付けた。しかし、投資家が長引く赤字運営にしびれをきらし、年末には110ドル(約1万1,565円)台割れを起こした。業績は堅硬な伸びを維持し続けたものの、その後も長期間にわたって初値を大幅に下回る水準から抜け出せずにいた。

コロナの巣ごもり需要で株価高騰

Spotifyはウォール街に勝てなかった-誰もがそう確信し始めた矢先、一大転機が訪れた。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大だ。

世界各国の巣ごもり需要拡大により、2020年第1四半期の売上は、前年同期比22%の18億 4,800万ユーロ(約2,295億6,669万円)、月間ユーザー数は31%増の2.86億人、有料ユーザー数は1.3億人といずれも過去最高記録を更新。そのうち600万人は新規加入だった。

このようなポジティブな流れを受け、5月以降は株価が高騰。第3四半期は若干成長速度が鈍化したものの、月間ユーザー数は29%増の3.2億人、売上は前年同期比14%増の19億 7,500万ユーロ(約2,451億2,821万円)を記録した。

さらに9月上旬には株価が290ドル(約3万490円)台を突破するなど、快進撃を続けている。11月12日現在の株価は260ドル(約2万7,336円)前後。時価総額は500億ドル(約5兆2,573億円)に手が届きそうな勢いだ。

SlackもDPO実施 成功するための要素とは?

Spotify の上場でにわかに注目を浴びたDPOは、米ビジネスチャットツール、Slack(スラック)の上場でも行われた。

2019年6月、ニューヨーク証券取引所に上場した同社の初値は、参考価格を大幅に上回る38.50ドル(約4,049円)。一時は42ドル(約4,417円)まで上昇し、38.62ドル(約4,062円)で終了した。株価は上場前の48.5%増、時価総額は25億ドル(約2,626億9,377万円)増の195億ドル(約2兆490億円)だった。

DPOのデメリットとして、通常のIPOのように、価格の目安となる「公開価格」がないことが挙げられる。要するに、どれぐらいの買い手がいるのか、いくらで売れるのかも分からない手探りの状態で、大きな賭けにでる要素が強いということだ。

そのため、広範囲な投資家にアピールしづらく、流動性が低くなる傾向がある。また、上場後に株価が不安定になる可能性も指摘されている。

このようなデメリットを考慮すると、DPOで成功するためには、SpotifyやSlackのようにすでに知名度と信用を確立しており、かつ投資家にアピールする強力な事業戦略をもっていることが求められる。ベンチャー事業への投資に熱心な、ビジネスパートナーやベンダーのサポートも欠かせない要素だ。

ダニエル・エクCEO「本当に重要なのは上場後も成長を続けていけるかどうか」

かつてSpotifyのダニエル・エクCEOは、「本当に重要なのは上場後も成長を続けていけるかどうか」と語った。その言葉通り、Spotifyは確実に成長を続けている。

2020年7月には、動画付きポッドキャストの配信を開始し、オーディオブックの歴史に新たな革命をもたらした。また傘下Anchor(アンカー)は、4月からコロナ禍で必須のコミュニケーションツールとなったZoom(ズーム)などの動画チャットをポッドキャストに編集する機能を提供している。

音楽ストリーミング配信という枠組みを超え、「Spotifyが平凡な企業だったことはない」ことを、世界に証明し続けているといえるだろう。「ウォール街への反発心」は、今なお健在のようだ。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)