近年、人工知能(AI)を活用した新しい取り組みが次々と登場している。人間のリクエストに応える家電やスマートフォン、自動運転車、飲食業や小売業における需要予測など活躍の場は様々である。多くの人がAIの活用によって生活が豊かに、便利に、快適になることを期待する一方、AIへの危機感を拭い切れていない現実もある。

目次

  1. AIの発展を支える深層学習:ディープラーニング
    1. 医療分野におけるディープラーニングの活用
  2. 脳科学とAIの掛け合わせで、さらなる進化が実現する可能性も
  3. AI活用はメリットが大きい反面、不安の声も

AIの発展を支える深層学習:ディープラーニング

AI進化で心の中で思った言葉を話す技術が。その一方で根強いAI脅威論
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

一口にAIと言っても、画像認識や自然言語処理、音声認識など内容は多岐にわたっている。AI発展を支える根幹技術の1つに、「ディープラーニング(深層学習)」というものがある。ディープラーニングとは、大量のデータを読み込んだコンピュータが機械的に学習・分析し、データの特徴や精度の高い解決法を自動で導き出す技術のことだ。私たちが普段何気なく行っている判断を代行させる、もしくは、より速く正確に判断させることを目指している。

年々、開発が進む自動運転車でも、このディープラーニングが重要な役割を担っている。クルマを運転する際に信号や交通標識、他の車、歩行者など視覚や聴覚から得た情報を処理し、それに基づいてハンドルを切ったりブレーキを踏んだりするなどのアクションを起こす。自動運転の分野でも、瞬時の情報処理・判断を正確に行なうことが必要不可欠である。

医療分野におけるディープラーニングの活用

近年、目覚ましい発展を遂げるディープラーニングの技術だが、これらの技術の研究・活用は医療分野においても顕著となっている。東京大学と東京都健康長寿医療センターは、顔の表情などから認知症か否かを判別する方法を開発した。AIに認知症患者の写真を学習させると、実際に92%以上の確率で見分けたという。認知症になる予兆をとらえ、深刻化を防ぐ役割が期待されている。

東京大学の山田篤生助教授らが開発したのは、専門医に近い精度でがんを見つけることができるAIだ。東京大学病院で、ポリープやがんが見つかった患者のカプセル内視鏡検査の画像データを学習させた。そのうえで4,700枚強の画像データをAIに判定させたところ、実際に84%の精度で病変の有無を判定できたという。

脳科学とAIの掛け合わせで、さらなる進化が実現する可能性も

ディープラーニングはAIの発展を支える根幹技術の1つだが、それだけでは物足りないことも事実だ。たとえば、ディープラーニングでは、人の顔や物体の特徴を判別できるようにするため膨大なデータを読み込んで学習する必要がある。しかし、人間の幼児は1、2度見ただけでそれらの特徴がつかめる。つまり、人間の脳は視覚情報処理以外のプロセスも交え、物体を認識するわけだ。ディープラーニングだけでAIを人間の脳の代替とすることは、不可能であることが分かる。

こうした限界を突破する可能性を持つのが“脳科学”との融合だ。人間の脳が機能しているように、視覚情報処理以外のアルゴリズムをAIに組み込むものである。

脳科学とAIを掛け合わせた面白い研究を紹介しよう。「心の中で思い浮かべた言葉を、AIが言葉にして表現する」。そう遠くない未来、こんなことが現実となるかもしれない。

東京工業大学の吉村奈津江准教授は、頭に電極を付けて脳波を測定し、聞いた音や思い浮かべた音を、AIを活用して再現する手法を開発した。簡単な実験では、復元した音のおよそ8割は人が実際に聞き分けることができたという。これまで、例えば「手を動かそう」という脳の指令(脳波)を変換し、実際に機械を動かすことなどについては研究段階ながら成功していた。吉村准教授の研究は、聴覚によって得た情報をAIで解読、言語化する点で画期的だと言える。

AI活用はメリットが大きい反面、不安の声も

今やAI活用は一種の社会現象とも言える。AIのメリットは確かに大きいが、その成り立ちに不安を持つ人もいる。もともと、技術をリードしてきた米国の方がAIへの脅威を指摘する声が大きいという経緯がある。

米IBMの前会長ジニー・ロメッティ氏は、2016年の自社イベントで、「AIへの恐れが高まっている現実はある」と話した。倫理、透明性、プライバシー、雇用など様々な分野での懸念が取りざたされ、インパクトも大きいとしたうえで「それ以上に恩恵が大きい」と結論づけている。その背景として、Amazon、Facebook、Google、IBM、Microsoft、Google傘下のDeepMindがAIに関する普及とベストプラクティスを共有する非営利団体「Partnership on AI」を立ち上げたことにも触れている。

「いつか人類がAIに支配されるのでは」「職業の多くが消えてしまうのでは」といった文明論的な危惧を持つ人もいる。また、完全自動運転車が実現した時、そのクルマが交通事故を起こした場合の責任の所在や罰則の規定についても議論の余地がある。

AIの社会実装が進む中で、私たちの意識や社会制度の変容が追いつかない部分もある。正確な情報や知識を得て、社会はどのようにAIと向き合うべきなのか考えることが求められている。