「働き方改革」が進む中、有給休暇や雇用契約に関するルールが変わりつつある。コロナ禍でテレワークが推奨されるようになり、労務管理の仕組みを刷新する必要性は増すばかりだ。時代の変化に対応するために、経営者はどう取り組んでいけばよいのだろうか。

目次

  1. 変わる労務管理のルール、経営者が変革の旗振り役に
  2. 1:毎年5日間、企業側が有給休暇の時季を指定して付与
    1. 経営者に求められる動き・取り組み
  3. 2:36協定で定める時間外労働に罰則付き上限
    1. 経営者に求められる動き・取り組み
  4. 3:労働時間の客観的な把握の義務付け
    1. 概要
    2. 経営者に求められる動き・取り組み
  5. 4:「労働条件通知書」のペーパーレス化
    1. 経営者に求められる動き・取り組み
  6. テレワークにおける適切な労務管理とは?
    1. 労働時間の適正な把握に向けて
    2. 長時間労働対策について
    3. テレワークに要する費用負担の取り扱い
  7. 経営者はこの機会に「HRテクノロジー」の導入の検討を
    1. 勤怠管理
    2. 労務管理
    3. 健康管理
  8. 労務管理は組織の健全性を保つための土台

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変わる労務管理のルール、経営者が変革の旗振り役に

労務管理の最新!働き方改革やテレワークにどう対処するべきか
(画像=imtmphoto/stock.adobe.com)

2019年に「働き方改革関連法」(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)や「改正労働安全衛生法」などが相次いで施行され、企業における労務管理に関するルールは大きく変わった。

働き方改革関連法では時間外労働の上限規制が導入され、時季を指定して有給休暇を5日取得させることが義務化された。改正労働安全衛生法では、労働時間の客観的な把握が厳格化された。労働基準法施行規則も改正され、労働条件通知書のペーパーレス化も可能になった。

また、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向け、国が民間企業に対してテレワークを推進するよう求めたこともあり、企業ではテレワークを行う従業員に対する労務管理のために、新たな仕組み作りが必要になった。

この状況下の中で、経営者は新たなルールの策定や仕組みの導入を人事部や総務部任せにしておくのではなく、自らが「旗振り役」となる気概が求められる。労務管理の考え方や仕組みを会社規模で大きく変えるには、かなりのパワーが必要になるからだ。 ルールを遵守しないとペナルティを科される可能性があるため、注意しなければならない。ここでは、2019年から現在までの法律や施行規則の改正を踏まえ、経営者が把握しておかなければならない労務管理の「新常識」について解説する。

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1:毎年5日間、企業側が有給休暇の時季を指定して付与

働き方改革関連法の施行により、企業は10日以上の有給休暇が与えられる全労働者を対象に、毎年5日間、時季を指定して有給休暇を取得させることが義務化された。

これまでは、労働者は自ら申請しなければ有給休暇を取得できなかったが、企業によっては従業員が上司などに対して取得の申請をしにくいといった課題があった。

そこで今後は、企業側から従業員に取得時季の希望をヒアリングし、企業側が毎年5日間、取得時季を指定する形で従業員に有給休暇を取得させる。「企業側から」という点がポイントだ。

経営者に求められる動き・取り組み

まず、経営者はこのようなルールの変更を社内で周知させる必要があり、まだ従業員に対する取得希望時季のヒアリングが行われてない場合は、早期に実施させるべきだ。

さらに今回のルール変更を機に、企業側が時季を指定する5日の有給休暇以外でも、従業員が休暇取得を申請しやすい雰囲気となるように、管理職の立場にある社員に対して指導するべきだろう。

2:36協定で定める時間外労働に罰則付き上限

労働基準法が改正され、「36協定」(サブロク協定)で定める時間外労働において、罰則付きの上限が設けられた。 36協定とは企業と従業員による労使協定の一種で、協定を結ぶと労働者に時間外労働をさせることが可能になる。しかし特別条項付きの36協定を結ぶことで、実質的に青天井で労働者を残業させることが可能になり、これが従業員の過労死などに結びつくことがあった。

法改正によって、36協定における時間外労働の上限が原則として月45時間・年360時間となり、罰則も加わった。特別な事情がある場合は、労使合意の下で上限の引き上げも可能だが、以前のように青天井ではなく、決して超えてはならない上限が定められたのだ。

経営者に求められる動き・取り組み

時間外労働に関するルールが社内で周知され、労務管理上は時間外労働の上限を超えていないように見えたとしても、残業としてカウントしない「サービス残業」を従業員にさせていれば、働き過ぎの問題は解決しない。

そのため、経営者は新ルールの徹底と同時にサービス残業をなくす努力もすべきで、サービス残業につながる無理な成果目標を見直したり、一定の時間を超えたら社内のすべてのパソコンを使えなくしたりするといった、会社としての取り組みが求められるようになった。

3:労働時間の客観的な把握の義務付け

概要

これまでは、「裁量労働制」が適用された従業員は「みなし労働時間」に基づいて割増賃金が算定されており、実際の労働時間を客観的に把握することは企業に義務付けられていなかった。それが、裁量労働制で働く人の健康問題などにつながっていたのだ。

新ルールでは、裁量労働制で働く従業員や管理監督者などに対しても、企業側が客観的な方法で労働時間を把握することが求められ、長時間労働を行った従業員に対しては医師による面接指導を実施することも企業に義務付けられた。

経営者に求められる動き・取り組み

この新ルールは労働安全衛生法の改正に伴うものだが、上記の他にも企業側に義務付けられていることがある。それは、産業医への情報提供だ。提供が義務付けられた情報としては「面接指導を実施した後の就業上の措置の内容」などがある。

経営者は、労働時間の客観的把握だけでなく、その後の就業上の措置にまで踏み込み、社内で適切な改善が行われているかどうかを、適宜管理職の従業員などにヒアリングをするべきだろう。

働き過ぎの問題は、医師の面談を受けただけで解決するようなものではないからだ。

4:「労働条件通知書」のペーパーレス化

労働基準法施行規則の改正によって、これまで労働者へ書面で交付することが義務付けられていた「労働条件通知書」などが、メールやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などを通じて提示することが可能になった。

スマートフォンやパソコンが普及した昨今、書面よりもメールなどでの交付のほうが、労働者側にとって利便性が高い。ただし、メールやSNSなどを通じて交付できるのは、労働者が希望した場合に限られる。

経営者に求められる動き・取り組み

最近は電子帳簿保存法や行政手続きの簡素化に向けてハンコの廃止など、国も法律の改正を進めている。民間企業においても、それに対応すべくハンコの撤廃による決裁のオンライン化を進めたり、ペーパーレス化を進めたりすることで、組織内における業務効率を上げることが可能だ。

その意味では、経営者にとって「労働条件通知書」のペーパーレス化は良い機会といえる。これを機に、業務フローの見直しをして決裁のオンライン化やペーパーレス化を総務部などと進めてはどうだろうか。テレワークの推進においても、業務のオンライン化やペーパーレス化は重要だ。

テレワークにおける適切な労務管理とは?

ここまで、法律や施行規則の改正によって労務管理のルールがどう変わったかについて解説してきたが、コロナ禍でテレワークが推奨される中、在宅勤務の従業員の労務管理を円滑に行うための仕組みも、できれるだけ早く構築しておきたい。

厚生労働省は「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」を策定・公表しているので、その一部を見ていこう。

労働時間の適正な把握に向けて

テレワーク中の労働時間を把握について、ガイドラインでは「パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録によること」としている。パソコンの使用時間の把握が難しい場合は、始業や就業時に上司にメールを送信する仕組みを導入するといった方法もある。

長時間労働対策について

テレワーク中に従業員の長時間労働を防ぐ対策としては、メールの送付機能や社内システムへのアクセスを時間帯によって制限したり、休日の労働などを原則禁止したりする例が挙げられている。

テレワークに要する費用負担の取り扱い

テレワークでは、インターネット通信費やノートパソコンなどの費用、サテライトオフィスなどの費用が生じることがあるが、これらを労使のどちらが負担するか、あらかじめ就業規則で定めておくことが望ましいとされている。

経営者はこの機会に「HRテクノロジー」の導入の検討を

この記事では、労務管理の新ルールやテレワークにおける対応などについて見てきたが、労務管理の仕組みを変えるにはかなり手間がかかる。そこで、経営者はこの機会に最新のHRテクノロジーを導入し、労務管理などの効率化も一気に進めたいところだ。

HRテクノロジーとは「Human Resource(人事)」と「Technology(技術)」を組み合わせた言葉で、労務管理や勤怠管理に関するHRテクノロジーには以下のようなものがある。

勤怠管理

勤怠管理に活用できるHRテクノロジーとしては、タイムカードの代わりにアプリを使って出勤・退勤時間の打刻ができるシステムや、GPS(全地球測位システム)機能を使って外回りの従業員などの勤務実態を把握するシステムなどがある。

労務管理

労務管理向けのHRテクノロジーには給与や年末調整の計算ソフトなどがあり、勤怠管理のためのソフトウェアと連携できるものも多い。最近は、給与の前払いや即日払いなどにも対応した労務管理システムなども提供されている。

健康管理

健康管理に役立つHRテクノロジーもある。例えば、残業時間やストレスチェックシートの結果から不調リスクの高い従業員をAI(人工知能)が見つけ出すといったソフトウェアがあり、早期のフォローを可能にすることで企業における「健康経営」を推進できる。

労務管理は組織の健全性を保つための土台

働き方改革が進み、コロナ禍でテレワークが推奨される中、経営者が労務管理について考えなければならないことは多い。労務管理は、組織の健全性を保つための土台のような役割を果たすため、新たなルールやテレワークに対応した仕組み作りは避けて通れない。

この記事で紹介したHRテクノロジーの中には、テレワークに対応したソフトウェアも多く、導入することで社内における労務管理の課題の多くを解決できるだろう。ぜひ積極的に導入を検討してほしい。

文・岡本一道