日本における転職者数は2019年に過去最多を記録し、2020年から2021年の現在に至るまで依然高い数値にあるようだ。育てた人財をつなぎとめるためにはキャリアパスを明確に提示することが有効だが、それは従業員のモチベーションを高めるものでなければならない。企業が従業員にどのようにキャリアパスを示すべきかを解説する。

目次

  1. キャリアパスとは従業員に目標に対しての道筋を示すこと
    1. 「キャリアパス」と「キャリアプラン」は明確に異なる
  2. 企業がキャリアパスを導入するメリット
    1. モチベーションの向上につながる
    2. 離職率の低下と採用コストの抑制につながる
    3. 優秀な人材が集まる
  3. キャリアパスには「単線型」と「複線型」がある
    1. 単線型キャリアパス
    2. 複線型キャリアパス
  4. さまざまな選択肢から進むべきキャリアを選べる
    1. 管理職を目指す
    2. 専門職を目指す
    3. 転勤せずに昇進を目指す
    4. 女性の出産などを想定したキャリアを明示する
    5. 海外赴任を目指すキャリアパス
  5. キャリアパスの策定は事業の成否を左右する

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キャリアパスとは従業員に目標に対しての道筋を示すこと

従業員の離職の要因にも!キャリアパスを企業としてどう示すべきか
(画像=jirsak/stock.adobe.com)

「キャリアパス(CareerPath)」という言葉を解説すると「キャリア」は「職歴」を意味し「パス」は「道」となる。つまり、キャリアパスとは仕事において目標を定め、そこに向かって進んでいくための道筋のことを表す。企業としては従業員に対してキャリアの道筋やそのために習得すべき能力・専門性を示すものだが、キャリアパスを明確に従業員に明示していない企業は数少ないというのが現状のようだ。一説によると、地域や業種によってはキャリアパスを作成している企業は2割に満たないという。

企業としてキャリアパスを作成・明示しないと、従業員は目指すべき目標が曖昧になってしまい、仕事に対して何をどう頑張ればよいのかがわからなくなる。つまり未来への展望を持って、業務に励むことができなくなってしまうのだ。

「キャリアパス」と「キャリアプラン」は明確に異なる

キャリアに関する用語には「キャリアプラン」もあるが、「キャリアパス」と「キャリアプラン」は明確に異なるものなので、誤解しないようにしたい。

キャリアパスは企業が従業員に対して明示するものだが、キャリアプランは従業員自身が考えるものだ。また、キャリアプランは広義的な意味で使われる場合、転職や独立などによるキャリアアップなどの計画も含まれる。

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企業がキャリアパスを導入するメリット

キャリアパスを明示することは従業員だけではなく、企業にとってもメリットは大きい。ここでは代表的な3つのメリットを解説する。

モチベーションの向上につながる

キャリアパスが明示されると、将来目指すべき姿やそれに到達するまでの期間を従業員自身で定め、自らの能力を早期に高めようという自己啓発意識の醸成につながる。つまり、モチベーションの向上を期待できるのだ。

離職率の低下と採用コストの抑制につながる

上記の通り、従業員が現在働く企業で昇進に向けて努力することは業績の向上に寄与することはもちろん、離職率の低下にもつながる。結果的に企業の採用コストが抑制されるという効果も期待できる。

優秀な人材が集まる

企業の採用活動でも、キャリアパスを活用できる。求職者がキャリアパスを確認できるようにしておけば、入社後をイメージしやすくなるため、応募増につながる。応募が増えると、それだけ優秀な人材を獲得しやすくなるはずだ。

キャリアパスには「単線型」と「複線型」がある

キャリアパスは、「単線型キャリアパス」と「複線型キャリアパス」(マルチキャリアパス)に大別される。

単線型キャリアパス

「単線型キャリアパス」は、例えば「一般職→課長→部長→エリア長」のようにキャリアの経路を1つだけ提示するものだ。事業規模が小さい企業や事業部門が1つしかない企業では、単線型キャリアパスになりやすい。

複線型キャリアパス

一方で「複線型キャリアパス」は、上級職への昇進のみをキャリアパスの経路とせず、専門職として働くルートや海外赴任のルートなどを含め、さまざまなキャリアパスを従業員に提示するものだ。

従業員の中には、管理職ではなく専門職を目指す人材もいれば、配属された部署で能力を発揮できずにいる人材もいる。このようなことを想定し、従業員にさまざまなキャリアパスを明示すれば、多様な人材が能力を発揮しやすくなる。

さまざまな選択肢から進むべきキャリアを選べる

キャリアパスには「単線型キャリアパス」と「複線型キャリアパス」があるが、事業規模が小さい会社においても、できれば複数のキャリアパスを設けておきたい。選択肢が多くなるほど、多様な働き方のニーズを受け止めやすいからだ。

ここからは、さまざまな企業のキャリアパスの事例を紹介する。経営者が自社におけるキャリアパスについて考える際の参考にしてほしい。

管理職を目指す

ある介護系企業では、まだ多くの知識や技術を有していない介護職員が、マネジメント職や施設長などの管理職を目指すためのキャリアパスが明示されている。キャリアパスの段階は5段階で、詳細は以下のとおりだ。

<キャリアパス>

  1. まだ多くの知識・技術を有していない介護職員
  2. ある程度の知識・技能を身に付けた介護職員
  3. 実務経験を経て「介護福祉士」の試験に合格した介護福祉士
  4. 一定程度のキャリアを重ねた介護福祉士
  5. マネジメント職や施設長などの管理職

このキャリアパスにおいては、「2」から「3」へのステップアップに向けた養成カリキュラム、「3」から「4」へのステップアップに向けた、チームリーダーとして必要な知識を習得するための研修プログラムなどについても説明されている。

ちなみに、このキャリアパスの「5」では、介護現場でのスペシャリストを目指すルートも用意されており、最終的に「複線型キャリアパス」となっている。

専門職を目指す

前述の介護系企業の場合は、キャリアパスの最終段階で管理職または専門職を選ぶ形式だったが、さらに早い段階から専門職を目指すことを前提にしたキャリアパスを明示している企業もある。

あるIT企業では、IT専門職を目指す人も総合職を目指す人も経験する「共通キャリアパス」を明示した上で、その後IT専門職を目指す人向けのキャリアパスも用意している。

<共通キャリアパス>

  1. 初級プログラマー
  2. 準中級プログラマー
  3. 中級プログラマー

<IT専門職キャリアパス>

  1. 準上級プログラマー
  2. 上級プログラマー
  3. 初級SE
  4. 準上級SE
    (※SEとは「システムエンジニア」のこと)

この企業でも各段階へのステップアップに向け、取り組むべき事項が明文化されている。例えば「3」から「4」に向けては、「構造化プログラミングや可読性の高いコード記述などを習得する」とある。

さらにIT専門職キャリアパスの「7」の後は、選択キャリアパスとして「ITコンサルタント」を目指す道なども明示されている。

転勤せずに昇進を目指す

ある通信系企業では、ショップスタッフからエリア長への昇進を目指すキャリアパスだけでなく、勤務エリアに関するキャリアパスも明示されている。

<昇進に関するキャリアパス>

  1. ショップスタッフ
  2. リーダー
  3. チーフ
  4. 副店長
  5. 店長
  6. エリア長

<勤務エリアに関するキャリアパス>

  • 地域限定勤務(転勤なし)
  • 支店管内勤務(支店管内で転勤あり)
  • 全国勤務(全国で転勤あり)

勤務エリアに関するキャリアパスが複数明示されているのは、従業員によっては家庭の事情で転勤が難しい人や地元で働き続けたい人、もしくは全国を巡りながら活躍することを希望する人がいることを想定しているからだ。

女性の出産などを想定したキャリアを明示する

女性従業員の中には、出産や育児による将来の休職について不安を覚える人もいる。そのような人に向けて、出産・育児休職を取得した場合のキャリアパスを明示し、安心して長く働いてもらえるように工夫している企業もある。

あるヘルスケアメーカーのキャリアパスはユニークだ。出産の予定がある場合、入社時期を遅らせることができる制度を用意しており、入社の段階からキャリアに関する不安を取り除こうと努めている。

出産や育児を経て入社もしくは復帰した後は、フレックスタイム制で働くことを選べるキャリアパスも用意されており、育児と仕事を両立できるよう配慮している。

海外赴任を目指すキャリアパス

企業によっては海外に事業所を有しており、海外赴任のチャンスを与えられるところもある。このような企業においては、海外赴任までのキャリアパスが用意されていることが多い。

ある経営コンサルティング企業では、スタッフ級、リーダー級、管理職級の人材それぞれに対して、選抜・研修を含めた以下のような海外赴任へのキャリアパスを提示している。

<スタッフ級人材向けのキャリアパス>

  1. 選抜(潜在的能力や意欲を重視)
  2. 人材基礎トレーニングやスキルアップ研修
  3. 海外派遣前研修初級編
  4. 海外赴任(現地スタッフクラスとして駐在)
  5. 赴任中ワークショップ
  6. 帰任
  7. 帰任後ワークショップ

<リーダー級人材向けのキャリアパス>

  1. 選抜(経営センスや適応力などを重視)
  2. リーダーシップ・マネジメント研修
  3. 海外派遣前研修中級編
  4. 海外赴任(現地主任・課長クラスとして駐在)
  5. 赴任中ワークショップ
  6. 帰任
  7. 帰任後ワークショップ

<管理職級人材向けのキャリアパス>

  1. 選抜(経営能力や海外実績を重視)
  2. リーダーシップ・マネジメント研修
  3. 海外派遣前研修上級編
  4. 海外赴任(現地部長・社長補佐クラスとして駐在)
  5. 赴任中ワークショップ
  6. 帰任
  7. 帰任後ワークショップ

キャリアパスの策定は事業の成否を左右する

ここまで、キャリアパスの基礎知識のほか、具体例を5つ挙げて解説した。

いずれも、ステップアップのための「研修」や「自己啓発」の機会がセットで設けられている。企業側がステップアップに向けたスキルアップを支援することで、従業員は自ら選んだキャリアパスを実現しやすくなる。

キャリアパスに関して経営者が注意すべきは、多様性を意識することだ。国が進めている「働き方改革」は、「働く方々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で『選択』できるようにするための改革」と定義されている。

働き方に対する考え方が多様化する中、さまざまなキャリアパスが用意されている企業は求職者から見て魅力的であり、優秀な人材を獲得しやすくなる。それは、業績の向上にもつながるはずだ。

つまり、適切なキャリアパスの策定は事業の成否を左右するものであり、経営者として軽視してはならないということだ。

文・岡本一道