従業員の賃金や処遇を決める「人事考課」の基準は、従業員に進むべき方向を示すメッセージでもある。そのため、経営者はその基準を決して曖昧にすべきではない。ここでは、人事考課における適切な基準作りや、一般的な人事考課の流れを解説する。

目次

  1. 人事考課の基準は従業員に「進むべき方向」を示すこと
  2. 知っておきたい「人事評価」と「人事考課」の違い
  3. 人事考課の第1ステップ:「評価基準の策定」
    1. 業績考課
    2. 能力考課
    3. 情意考課
    4. 「評価基準の策定」において経営者に求められる視点
  4. 人事考課の第2ステップ:「目標の設定」
    1. 「目標の設定」において経営者に求められる視点
  5. 人事考課の第3ステップ:「評価」
    1. 業績考課:「外的な要因」を考慮すること
    2. 能力考課・情意考課:「認知バイアス」に注意が必要
    3. 自己評価シートの提出で評価の乖離を防ぐ
    4. 「評価」において経営者に求められる視点
  6. 人事考課の第4ステップ:「面談・ケア」
    1. 「面談・ケア」において経営者に求められる視点
  7. 時代や考え方の変化を考慮した人事考課の仕組みに

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人事考課の基準は従業員に「進むべき方向」を示すこと

適切な「人事考課」とは?従業員のモチベーションを保つ評価のポイント
(画像=tamayura39/stock.adobe.com)

企業で働く従業員の多くは、昇進や昇給、より多くの賞与を受け取ることを目指しつつ、日々の業務を遂行している。そのため「どのように働き、どのような成果を出せば昇給などに結びつくか」が明確であることは、従業員にとっては非常に重要だ。

経営者側から見ても、従業員が進むべき方向を誤らず業務に励んでくれれば、業績の向上につながる。このような良い流れを作るためには、人事考課の基準や仕組みがきちんと整えられている必要があるため、経営者は決して手を抜いてはならない。

さらにいえば、人事考課の基準や仕組みがあるだけでは不十分で、どう考課していくか、そのプロセスが非常に大切である。すなわち、「公平」かつ「適切」なものであり、なおかつ「透明性」も求められる。これらは、従業員の会社へのロイヤルティー(忠誠度)やモチベーションを大きく左右するものとなる。

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知っておきたい「人事評価」と「人事考課」の違い

ここで、「人事評価」と「人事考課」の違いについて簡単に触れておきたい。これらはいずれも「企業が従業員の評価を行う行為」を指すが、混同して使われることが多い。

厳密に言いえば、「人事評価」と「人事考課」は一般的に以下のように使い分けられる。

・人事評価:従業員の成果や能力、働きぶりなどをさまざまな視点で評価すること
・人事考課:従業員の成果や能力、働きぶりなどから「賃金」や「処遇」を検討すること

このように、「人事考課」は昇給や賞与などの査定を一義的な目的としているのに対し、「人事評価」は特定の目的を伴うものではなく、人事考課よりも広義的な意味で使われることが多いようだ。

ただし、企業によっては「人事考課」の仕組みをあえて設けず、昇給やボーナスなどの査定も「人事評価」で行うところもある。逆も然りだ。

ここからは、「人事評価」と「人事考課」の仕組みを別々に設けることを前提として、人事考課の流れを説明しながら、基準や仕組み作りの考え方について解説する。現在の人事考課は「評価基準の策定」「目標の設定」「評価」「面談・ケア」の4つのステップで行われるのが一般的で、どれが抜けても不十分な人事考課となってしまうため、注意が必要だ。

人事考課の第1ステップ:「評価基準の策定」

人事考課の最初のステップは「評価基準の策定」だ。考課は「業績考課」「能力考課」「情意考課」に細分化される。1つずつ説明していこう。

業績考課

「業績考課」は、各従業員の目標達成度を評価するものだ。評価を行うためには、具体的な評価項目をあらかじめ定めておく必要がある。例えば、営業部であれば「アポイントの獲得件数」や「契約の獲得件数」などだ。

能力考課

「能力考課」は、各従業員の知識や能力・スキルを主に評価するものだ。能力やスキルは数字で表せるものではないため、社内試験などを実施して能力やスキルを数値化する方法もある。

担当業務の遂行において直接的に必要な知識や能力だけでなく、コミュニケーション能力や指導力、調整力なども評価対象となる。これらを評価項目から抜くと、ムードメーカーの役割を果たしている人やリーダーシップがある人などが、適切に評価されにくくなるからだ。

情意考課

「情意考課」は、各従業員の仕事に対する姿勢や態度、働きぶりなどを評価するものだ。「会社のルールをきちんと守っているか」「遅刻・欠勤などの状況」「積極的に業務に関わろうとしているか」などを項目ごとに評価する。

「評価基準の策定」において経営者に求められる視点

業績考課の基準作りは、企業によっては人事部の業務の範疇で、策定・改定の際に社長や経営者が関わらないケースもある。しかし、人事部に経営者の方針が十分に共有されていない場合、経営者として本来重視したい評価ポイントと人事部が設定する基準との間で齟齬が生じる恐れがある。

そのため経営者は、人事考課の基準や仕組み作りには積極的に関わるべきだろう。また、他社の人事考課の事例などを参考にすることも重要で、人事部よりもマクロ的な視点でさまざまな情報を集める必要があるだろう。

人事考課の第2ステップ:「目標の設定」

人事考課の第2ステップは「目標の設定」だ。このステップで最も重要なのは、目標値の「妥当性」である。各従業員の能力・スキルに比べて目標値が高すぎると、その従業員の成長や頑張りを適切に評価できなくなる。

そのため、目標設定の際は従業員と面談し、現実的に達成可能な目標値を定めること・フォローすることが求められる。

「目標の設定」において経営者に求められる視点

利益の拡大を追求する民間企業では、「数字」(成果)が重視される。それ自体は悪いことではないが、数字を重視し過ぎることで「プロセス」の検証がおろそかになり、企業の成長スピードに悪影響を与えることがある。

そのため経営者は、目標設定の際に上司が部下に対してプロセスについての助言などを行っているか、よく観察するとよいだろう。成果主義が強まりすぎると、従業員の成長が阻害されたり、社内不和が広がったりするリスクが高まる。

人事考課の第3ステップ:「評価」

第3ステップは「評価」だ。第1ステップで策定した評価基準、第2ステップで設定した目標と照らし合わせて、各従業員の考課を行う。

業績考課:「外的な要因」を考慮すること

業績考課では評価で「数字」を参考にできるが、目標達成度などを評価する際は考慮すべきことがある。それは、「外的な要因」がその従業員の目標達成度に影響していないかどうかだ。例えば営業部の場合、景気の悪化や消費者行動の変化などが挙げられる。

能力考課・情意考課:「認知バイアス」に注意が必要

能力考課や情意考課では評価者の主観が入りやすいため、評価者は「認知バイアス」が働かないよう注意しなければならない。将来性が期待できる部下や自分が気に行っている部下に対する評価は、認知バイアスによってつい高くなってしまうことがあるのだ。

評価者の主観が評価結果を左右しないように、複数人で評価を行う仕組みを作るなどして、なるべく客観性が保たれるように努めることがポイントになる。

自己評価シートの提出で評価の乖離を防ぐ

評価の際、従業員に自己評価シートを提出させることも有益だ。各項目の自己評価とそれを評価する上席による評価が大きく乖離している場合は、評価を再考する必要がある。従業員の成果を見過ごしてしまう可能性があるからだ。

自己評価シートを作成させることは、従業員が自分の働きぶりを振り返ることにもつながる。

「評価」において経営者に求められる視点

特に中小企業の場合、経営者はできればすべての従業員の評価に目を通したい。あらかじめ設定した目標に対する達成度が低すぎる場合は、目標設定の問題点や上司による指導の課題などが見えてくる。

また、評価者にコメントを添えてもらうことも有益だ。目標を達成できなかった理由や、上司としての指導において至らなかった点などを明文化させることで、経営者は自社の課題を把握しやすくなる。

人事考課の第4ステップ:「面談・ケア」

人事考課の最終ステップが「面談・ケア」だ。評価の結果、昇給・降給などの判断がなされるが、その判断を書面で従業員に伝えるだけでなく、なぜそのような結果に至ったのかについてもプロセスを開示し、面談を通じて言葉ではっきり従業員に伝える必要がある。

特に、昇給額が平均以下だった場合や降給になった場合は、従業員のモチベーションに大きく影響する。そのため、今後その従業員が改善すべきことを伝えた上で、成長のための指導を丁寧に行うことが求められる。

「面談・ケア」において経営者に求められる視点

経営者は、昇給額が平均以下だった従業員や降給になった従業員に対してどのようなケアを行ったか、積極的に評価者にヒアリングをするようにしたい。

前述のとおり、そのような従業員はモチベーションが低下しやすく、離職する可能性も高くなる。評価に対して適切なケアが行われているか、できる限り把握しよう。

時代や考え方の変化を考慮した人事考課の仕組みに

人事考課の在り方は、時代の変化に合わせて変わってきた。かつては「年功序列」が当たり前だったが、1990年代のバブル崩壊によってコストカットや利益率の向上を重視する風潮が強まり、欧米の企業をモデルにした「成果主義」が主流になっていった。

しかし日本で低成長時代が長く続いたため、成果主義が機能しにくくなった。日本経済が成長基調でなければ、民間企業で働く従業員もよい成果を継続的に出すことが難しくなる。それでも成果主義を貫けば、従業員のモチベーションは下がっていくだろう。

このような状況の中で主流になっているのが、この記事で紹介した「業績考課」「能力考課」「情意考課」による、バランスを重視した人事考課の仕組みだ。また前述のとおり、仕組みを考えるだけでなく、「公平」かつ「適切」に考課が行われているか、考課のプロセスも非常に重要となる。

働き方に対する考え方も多様化している。成果主義に固執すると従業員のモチベーションが下がって業績に悪影響を及ぼしたり、場合によっては社会に「ブラック企業」という印象を与えたりしかねない。経営者は時代や考え方の変化も考慮した上で、人事考課の在り方を考える必要があるだろう。従業員が信頼できる人事考課であれば、会社に対する忠誠心も高まり、必然的にモチベーションの高い組織体系を構築できよう。

文・岡本一道