強い組織を創るためには「人事評価制度」が非常に重要な役割を果たす。従業員の昇格・降格の判断を誤れば、企業の人的資源を最大限活用しにくくなり、企業の成長が阻害されてしまう。人事評価制度における昇格・降格の在り方について考察していく。

目次

  1. 人事評価制度における「昇格」と「降格」
  2. 能力的評価〜職務の遂行能力に対する評価
    1. 「能力的評価」において経営者が留意すべき点
  3. 業績的評価〜従業員の成果や実績を数字で評価
    1. 「業績的評価」において経営者が留意すべき点
  4. 情意的評価〜仕事に対する姿勢や働きぶりなどを評価
    1. 「情意的評価」において経営者が留意すべき点
  5. 「降格」した従業員を適切にケアし、成長のチャンスに
  6. 幹部クラスも従業員に「範」を示すべき
  7. 人事評価制度や降格した従業員のケアを通じて、強い組織を創る

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人事評価制度における「昇格」と「降格」

人事評価制度と昇格・降格のポイント。強い組織を創る人事ケアとは
(画像=takasu/stock.adobe.com)

人事評価制度は、従業員の業務状況や成果を把握・評価し、適切な人事・処遇を行うための制度だ。一般的には、この人事評価制度を通じて従業員の昇格・降格の判断が下される。組織としては当然、優秀な人材を昇格させた方が企業の成長にプラスに働く。

一方、企業においては事業部や部署ごとに上級ポストの数は限られている。定年退職や従業員の転職などによって上級ポストが空くケースもあるが、基本的には優秀な人材を昇格させる際には降格させる人材を選ぶ必要も出てくる。

つまり、企業にとって昇格と降格は切っても切り離せない関係であり、人事評価制度においてはセットで考える必要がある。ただし、評価に関する基準が曖昧だと昇格・降格の判断を誤ってしまうことにつながるため、注意が必要だ。

詳しくは後述するが「能力的評価」「業績的評価」「情意的評価」ごとに細かな評価項目を立て、それぞれの項目で客観的な評価・スコア化を行ったあと、最終的に昇格・降格の判断を行うのが一般的な流れだ。

では早速、人事評価制度における昇格・降格の判断に必須とされる「能力的評価」「業績的評価」「情意的評価」についてそれぞれ説明していこう。

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能力的評価〜職務の遂行能力に対する評価

「能力的評価」は、その従業員が担当している職務の遂行能力に対する評価だ。担当している業務によって必要な「専門知識」や「専門スキル」は異なり、能力的評価では主にどれだけこうした専門知識や専門スキルをその従業員が有しているかを評価する。

ちなみに、能力的評価においては専門知識や専門スキルをどれだけ有しているかだけでなく「理解力」「実行力」「コミュニケーション能力」などもあわせて評価するのが一般的だ。これらが欠けていては実務上、継続的に良い成果を残せにくいからだ。

まとめると、能力的評価で評価する項目は通常だと以下の通りとされることが多い。

<能力的評価で評価する項目一覧>

評価項目 概要
専門知識 どれだけ担当業務に関する専門知識を有しているか。経験年数や資格の有無なども考慮の対象となる。
専門スキル どれだけ担当業務に役立つ専門スキルを有しているか。経験年数や資格の有無なども考慮の対象となる。
理解力 業務の内容や目的、上司からの指示などに対する理解力をしっかりと有しているか。
実行力 当初決めたスケジュール通りに業務を進めていくことができているか。難易度が高い業務もこなせるか。
改善力 担当業務において改善が必要な点に迅速に対応できているか。自ら改善点を見つける力はあるか。
判断力 状況を俯瞰し、担当業務においてその都度適切な判断が下せているか。
指導力 自分の部下に対して、その部下の成長につながるような指導ができているか。
コミュニケーション能力 会社内の上司・同僚・部下や取引先の担当者とのコミュニケーションが円滑にとれているか。

「能力的評価」において経営者が留意すべき点

中小企業などの小さめの組織の場合、従業員の能力的評価に社長・経営者が直接関わるケースも多い。その際に注意すべき点としては、その従業員の直属の上司やプロジェクトチームのリーダーなどの評価にもしっかりと耳を傾けるということだ。

こうした視点は、社長・経営者が評価対象の従業員と接点が少ない場合に特に重要となるが、別な理由もある。能力的評価は後述する「業績的評価」とは異なり、数字で判断することができないため、評価する人によって評価結果にブレが生じてしまうからだ。

また、経営者は各項目の評価ウエートを事前に決めておくことも重要だ。事業にスピード感を求めている場合は「実行力」の評価ウエートを高くするなど、あらかじめ工夫すると良い。

業績的評価〜従業員の成果や実績を数字で評価

「業績的評価」では、その従業員の成果や実績を数字で評価する。たとえば、営業担当者であれば「テレアポの獲得件数」「契約の獲得件数」「総契約金額」「売掛金の回収率」「利益率」「顧客のリピート率」などが対象となる。

こうした数字を評価する際には、事前に設定した目標と結果を比べる形での評価となるため、達成可能性が低い目標を事前に設定してしまうと、結果的に適切な評価に結びつかないことを留意しておくべきだろう。

たとえば営業担当者の場合、業績的評価で評価する項目は以下の通りとなる。

<業績的評価で評価する項目一覧(営業担当者における例)>

評価項目 概要
テレアポの獲得件数 電話やメールなどでどれだけアポイントを獲得することができたか。
契約の獲得件数 最終的にどれだけ契約件数を積み重ねることができたか。
総契約金額 全ての契約案件の金額は合計いくらになったか。
売掛金の回収率 取引先の売掛金をしっかりと回収できているか。
利益率 自社にしっかりと利益が残る契約内容となっているか。
顧客のリピート率 契約先が継続して取引を続けてくれているか。

「業績的評価」において経営者が留意すべき点

業績的評価では「数字」が査定で重要視されるが、成果を出すまでのプロセスも一定程度考慮するよう、経営者は評価担当者に働きかけるべきだ。

売上に貢献する営業部などの「直接部門」では、特に自然と成果主義に偏重しやすい。現場で数字が重視されることは当然のことではあるが、成果主義に偏重し過ぎると組織力の低下に結びつく上、契約獲得を目指すまでのプロセスの改善点などが見つけにくくなる。

情意的評価〜仕事に対する姿勢や働きぶりなどを評価

「情意的評価」では、仕事に対する姿勢や働きぶりなどを評価するのが一般的だ。具体的には「規律性」「積極性」「責任感」「協調性」などを評価する。

担当している業務に関する専門知識や専門スキルが少なく、成果にまだ結びついていない社員であったとしても仕事に対する姿勢や働きぶりが良ければ、将来性に期待が持て周りの社員にも良い影響を与える。

能力的評価と業績的評価だけでは、こうした人材が社内で埋もれがちになるため、情意的評価を軽視することは厳禁だ。情意的評価の評価項目をまとめると以下の通りとなる。

<情意的評価で評価する項目一覧>

評価項目 概要
規律性 企業におけるルールや部署・プロジェクトごとの取り決めなどをしっかりと守れているか。
積極性 上司に指示される前に自ら積極的に行動しようとしているか。チャレンジ精神があるか。
責任感 責任感を持って与えられた業務を遂行しようとしているか。
協調性 社内の上司や部下としっかりとコミュニケーションを取り、チームワークを重んじて業務を遂行しようとしているか。

「情意的評価」において経営者が留意すべき点

情意的評価も能力的評価と同様、数字では判断できない。そのため、評価する人によって評価が分かれるケースが多く、その人を評価する客観的な「目」は多いに越したことはない。

社員数が少ない企業においては、この「目」の役割を社長・経営者が果たすこともできる。ただし、そのためには普段から社員の働きぶりを観察していることが大前提だ。経営者から直接良い評価を受ければ社員のモチベーションも高まるため、一石二鳥だ。

「降格」した従業員を適切にケアし、成長のチャンスに

こうした「能力的評価」「業績的評価」「情意的評価」を通じて、昇格させる社員と降格させる社員を決めることとなるが、強い組織を創る上で特にポイントとなるのが降格した従業員に対するケアだ。

従業員にとって降格は決して喜ばしいものではなく、モチベーションの低下にもつながる。場合によっては転職を考えるきっかけにもなりかねない。一方、降格した社員に対して適切なケアを行えば、降格を成長のきっかけとさせることも可能だ。

そのためには、降格の判断に至った理由を本人に丁寧に説明することや、欠けている能力・スキルを高めることができるポジションを与えることなどが必要となる。具体的な目標を設定し、再び昇格するチャンスも与えるべきだ。

こうした取り組みのためには、降格した人の上司となる人と人事部の連携が不可欠で、社員数が少ない企業では経営者が直接その上司と今後の方針について話す場を設けても良いだろう。

幹部クラスも従業員に「範」を示すべき

昇格と降格に関しては、経営陣も「範」を示すべきだ。年功序列を重んじる企業だと、幹部クラスの社員は能力にかかわらず永年降格なしというケースも少なくない。こうした状況であっては、降格した従業員に示しがつかない。

そのため、幹部クラスの社員に対しても「能力的評価」「業績的評価」「情意的評価」もしくはそれに類する人事評価制度を適用した方がベターだ。そして、降格した幹部社員がその後に成長を果たせば、降格となった従業員のモチベーションも高まるはずだ。

こうしたことから、社長・経営者は幹部クラスに対する降格も決して躊躇しないで行うことが重要となる。

人事評価制度や降格した従業員のケアを通じて、強い組織を創る

人事評価制度と昇格・降格の判断に関する考え方などについて解説してきたが、経営者は人事評価制度を新設もしくは改善する際「能力的評価」「業績的評価」「情意的評価」を必ず含めるようにし、人事部や評価担当者とも評価の狙いやポイントなどが共有できるよう努めることが求められる。

そして、最後に改めて強調したいことが降格した従業員のケアである。挫折を味わい、そこから成長した人間は強い。優秀な人材を昇格させ、降格した人材を成長させることができれば、その企業は非常に強い組織を形成していくことができるはずだ。

文・岡本一道