消費者の購買行動の認識変化を捉える「パーセプションフロー・モデル」が新しいマーケティングの概念として注目されている。競合他社から顧客を自社ブランドに取り込むには、顧客の行動心理を把握する必要があり、その手法や実践すべき方法を解説していく。

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パーセプションフロー・モデルは新しいマーケティングの概念

パーセプションフロー・モデルで顧客の購買行動心理を分析・把握する
(画像= joyfotoliakid/stock.adobe.com)

パーセプションフロー・モデルとは消費者の購買行動に伴う認識や知覚(パーセプション)の変化に注目したマーケティング・マネジメント手法の新しい概念で、元資生堂最高マーケティング責任者の音部大輔氏(現Coup Marketing Company代表)が考案した。

カスタマージャーニーに代わるマーケティング手法として注目されるパーセプションフロー・モデルだが、消費者に知覚刺激を与えることによって自社商品を選択肢として認識させる。その結果、消費者の行動・態度を変容させ、競合他社から顧客を奪うことが可能になるのだ。

▽Coup Marketing Companyのオリジナルテンプレート

パーセプションフロー・モデルで顧客の購買行動心理を分析・把握する
(画像=template)

出典:Coup Marketing Company
perception_flow_template.pdf (coupmarketing.jp)

消費者は具体的にどう行動する?基本的なファクターを解説

パーセプションフロー・モデルによって分析する前に、まず消費者の基本的な行動態様を知る必要がある。人間は日常生活において「知覚」「認識」「行動」という3つのファクターを無意識に使いこなしている。例えば、寒いという刺激を知覚することによって暖房が点いていないことを認識し、エアコンのスイッチを押すという行動に移す。

これを消費行動に当てはめるとこうなる。商店街を歩いているとカレーの香りが漂ってくる(知覚)→カレーが食べたくなる(認識)→カレーショップに入って食べる(行動)。この場合はカレーの香りを漂わせることが消費者に刺激を与えるきっかけになっている。このように消費者に刺激を与え、知覚させることが購買につなげる基本であることを前提に、自社商品・サービスのマーケティング戦略を立てる必要があるのだ。

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顧客の購買行動を把握するための新たなマーケティング手法

パーセプションフロー・モデルの概念が登場する前は、カスタマージャーニーが購買行動を捉えるための手法として使われてきた。カスタマージャーニーは顧客がある商品やサービスを知ってから購入するまでの過程を旅に例えて命名された言葉である。どのようなきっかけで商品の存在を知り、競合他社と比較しながら最終的に購入に至ったかを知ることを目的とするが、あくまで行動を軸に分析する手法である。

impress「マーケティング新概念「パーセプションフロー・モデル」とは?行動にともなう“認識・知覚”で消費者を分析」という記事によると、FICC inc.代表取締役の荻野英希氏は「デジタルマーケターズサミット2018 Summer」の講演でカスタマージャーニーについて語っている。カスタマージャーニーは1990年に米国のIDEO社が開発したものであるが、2018年の時点では米国マーケターの95%がカスタマージャーニーを描けなくなっているという。

荻野氏はカスタマージャーニーが開発された当時は、テレビ広告を見た消費者が店に出向いて商品を買い、家に持ち帰って使用するという購買行動が普通だった。それが現在では認知の経路や店舗の形態、代金の決済方法などが多様化し、単純な購買行動だけ追ってもカスタマージャーニーが再現できなくなっていると語っている。これまで行ってきたカスタマージャーニーという手法は、今の時代には古くなっているのだ。そのカスタマージャーニーに不足しているものを補い、新しい概念を確立したのがパーセプションフロー・モデルである。

カスタマージャーニーにはないパーセプションフロー・モデルのメリット

カスタマージャーニーは消費者の過去の行動を知るために有益だったが、パーセプションの変化まで捉えることはできなかった。それに対してパーセプションフロー・モデルは、消費者がそのブランドを選定するまでの過程や理想とするパーセプションの変化を描くことができるのが大きなメリットである。企業活動においては、チームの連携やマーケティングの早期立案が可能になり、規則的な活動を実行することができる。その結果、会社全体におけるマーケティング効果を確実に向上させることができるのだ。

パーセプションフロー・モデルの具体的な活用方法

パーセプションフロー・モデルの具体的な活用方法を紹介しよう。パーセプションフロー・モデルのテンプレートには5つの構成要素がある。「行動・態度」は消費者が対象になるブランドに対し、どのような目的や結果によって購買行動の変容に至るかがわかる。「パーセプション」は消費者が外的な刺激や情報を受け、どのように解釈し認知したかの反応を示す。「知覚刺激」は消費者に認識の変化をもたらす具体的な外的刺激や情報を表す。

「KPI」は重要業績評価指標のことで、目標の達成状況を観測するために使われる。KGI(重要業績達成指標)がゴールを表すのに対し、KPIはゴールまでの過程を表す。パーセプションフロー・モデルでは、質的なKPIと量的なKPIの2つを示す。「メディア・媒体」はネットやテレビ広告、スーパーに並ぶ目新しいパッケージなどによって効率的に刺激を与えるための方策を表す。

テンプレートを使って自社のマーケティング戦略を落とし込む

消費者の購買行動を競合他社から自社ブランドに乗り換えさせるためには、パーセプションフロー・モデルのテンプレートを使ってマーケティング戦略を落とし込む必要がある。各企業によって商品のジャンルは異なるが、「現状」から乗り換えにあたる「購入」、そしてリピーターとなる「再購入」や「口コミ」まで8つのプロセスがある。

パーセプションフロー・モデルで顧客の購買行動心理を分析・把握する
(画像=template)
パーセプションフロー・モデルで顧客の購買行動心理を分析・把握する
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出典:impress
「マーケティング新概念「パーセプションフロー・モデル」とは?行動にともなう“認識・知覚”で消費者を分析」

パーセプションフロー・モデルは経営者から見た課題ではなく、消費者目線になって考えることが重要だ。上図で具体的に見てみよう。携帯電話を例に「現状」の項目を見ると、この消費者は競合他社の商品を使用している。しかし、競合の商品には満足していないが、ほかのブランドを選択する機会や現在使用している携帯電話の解決すべき問題を認識していない。そこで、競合にはない自社商品の機能やサービスを広告等によってメッセージとして伝える。

「認知」の項目で、メッセージを受けた消費者は競合には提供できないような機能やサービスについて、自社商品を使えば解決できることを認識する。次に「興味」の項目で、消費者は自社のブランドに期待し購入を検討する。そして、消費者はその商品を購入することが良い選択であることを正当化し、「購入」に至る。この段階で「知覚刺激」が極めて重要であることがわかるだろう。

ここまでは第一段階で、そこで終わりではなくこの消費者に再購入してもらわなければならない。そこで知覚刺激の4番目にある「便益を実感できる、正しい製品の使用方法、正しい期待値の設定」をする必要がある。消費者が期待する機能を使いこなせるようにすることで、「使用」→「満足」→「再購入」というプロセスに至ることができる。そして、最終的に自社ブランドに愛着を感じ、使い勝手の良い商品として口コミやSNSで拡散してくれれば、パーセプションフロー・モデルを利用した戦略は大成功といえるだろう。

パーセプションフロー・モデルを使ってどう顧客満足度を高めていくか

パーセプションフロー・モデルを使って顧客満足度を高めていくには、テンプレートの8段階のなかの「満足」が重要といわれている。5段階目の「使用」までは広告戦略によって誘導することが可能だろう。しかし、消費者が満足のいく結果を得られなければ、7段階目の「再購入」に進むことは期待できない。企業は消費者の期待を超えるような商品やサービスを提供することによって、能動的に自社商品を選んでもらえるようになる。

パーセプションフロー・モデルにおいて「知覚刺激」が重要であることは既に述べたが、刺激を与える方法も多様化している。マスメディアの代表的な存在であるテレビ広告のシェアがすでにネット広告に追い抜かれていることからも明白だろう。テンプレートの「メディア/媒体」のなかで、paid、owned、earnedの基本3形態のほかに「その他」を設けて「目新しいパッケージ・製品形状など」物的要素で訴求する方法を取り入れているのも多様化の一環と思われる。

パーセプションフロー・モデルで顧客の購買行動心理を分析・把握する
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出典:Coup Marketing Company

パーセプションフロー・モデルを活用した成功事例

最後にパーセプションフロー・モデルの活用事例を見てみよう。大手不動産会社とインディーズ製作の映画という規模が対照的な事例だが、逆に参考になるのではないか。パーセプションフロー・モデルは対象になる規模の大小にかかわらず有効に活用できることがわかる。

住み替え需要を予測するLIFULLの活用方法

国内最大級の不動産紹介サイトを運営する株式会社LIFULLは、パーセプションフロー・モデルを活用している企業の1つだ。LIFULLが取り組んでいるのが「住み替え予兆モデルによるターゲティング」。人の行動データを分析し「こういう行動をする人は住み替えを検討している可能性が高い」という予測を立てる。そして、収集したデータの分析結果を基にターゲットを設定し、LIFULL側から効果的な行動を起こすことで競合店に打ち勝つという戦略である。

映画で活用したユニークな事例『カメラを止めるな!』

ユニークなところでは、映画『カメラを止めるな!』をパーセプションフロー・モデルに落とし込んで 宣伝活動に利用した事例がある。このパーセプションフロー・モデルのテーマは「映画を観てもらうにはクチコミで戦うしかなかった」というもの。パーセプションフロー・モデルにおける8段階のプロセスの最後が口コミなので、映画は最適な利用対象と考えることができるだろう。この作品はインディーズが製作した300万円の低予算映画なので口コミに頼らざるを得なかったという事情がある。結果はSNSで面白さが拡散され、全国公開への拡大によって2018年の興行収入ランキングベストテンに入る大ヒットとなった。

これからのマーケティング戦略にパーセプションフロー・モデルは不可欠

カスタマージャーニーに代わる新しいマーケティング概念として考案されたパーセプションフロー・モデルについて詳しく紹介した。商品の存在を知ってから購入するまでのシンプルな流れを捉えるカスタマージャーニーでは消費者の心理の変化まで探ることができない。よって現代のマーケティングに対応することが難しくなっているのがわかる。経営者としてはパーセプションフロー・モデルを活用し、消費者の「知覚」「認識」「行動」に刺激を与えるような商品やサービスを提供できるようにすることが求められる。

これからのマーケティング戦略にパーセプションフロー・モデルは不可欠な概念といえるだろう。まだ導入していない場合は、まずはテンプレートを活用し、自社のマーケティング戦略を落とし込んでみることから始めてはいかがだろうか。

文・丸山優太郎