垂直統合とは、今まで外部に任せていた活動を自社で行うことをいう。競争力を高めるビジネスモデルであり、取引コスト削減やシナジー効果の獲得につながる。うまく活用するためにも、水平統合との違いやメリット・デメリットについて理解を深めよう。

目次

  1. 必要な工程を上流から下流までまとめ上げる垂直統合
    1. 「外部に任せていた活動を自社で担うこと」を意味する
    2. 川上統合と川下統合の2種類に分けられる
    3. 垂直統合を実現する手段
  2. 垂直統合を実施する5つのメリット
    1. 1:外部企業との取引コストの削減
    2. 2:安定的な商品・サービスの供給が可能となる
    3. 3:シナジー効果により技術力や収益性が高まる
    4. 4:新しい戦略・施策を打ち出せる
    5. 5:新しい収益源の獲得につながる可能性がある
  3. 垂直統合にはデメリットもあるので注意が必要
    1. 多額の初期費用がかかる
    2. 大規模な組織変革や方針の変更が必要となる
    3. 経営資源が分散して専門性が低下するリスクがある
    4. 意思決定の難易度が高くなる
  4. 目的も進め方も異なる垂直統合と水平統合
    1. 水平統合は「同業他社との統合」を意味する
    2. 水平統合の目的は「スケールメリットの獲得」や「市場シェアの拡大」
    3. 目的に応じて垂直統合と水平統合を使い分けることが重要
  5. 垂直統合と水平統合では得られる効果が異なる。目的に合わせて選択を!
鈴木 裕太
鈴木 裕太(すずき・ゆうた)
横浜国立大学在学中に中小企業診断士を取得(現在は休止中)。Webメディアの立ち上げ〜売却に携わり、SEO対策をはじめとしたWebマーケティングを幅広く経験。現在はビジネスの分野に特化したライター業と、他社のメディアサイトの立ち上げ支援を行っている。また、情報サイト”BizLabo”の運営も行っており、会社経営に役立つ知識・ノウハウを伝えることにも力を入れている(月間1.5万PV:2020年1月時点)。

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必要な工程を上流から下流までまとめ上げる垂直統合

垂直統合でコスト削減!水平統合との違いやメリット・デメリットを解説
(画像=takasu/stock.adobe.com)

垂直統合は、原材料の生産から製品の販売に至るまでのプロセス(サプライチェーン)において2つ以上のプロセスを一つの企業内にまとめることを指す。主に垂直統合は、合併や買収、アライアンスによって実現されることが多い。垂直統合は取引コストの削減を可能とし、経営の効率化をもたらす。

「外部に任せていた活動を自社で担うこと」を意味する

垂直統合は、簡単にいうとある製品・サービスを作る際に今まで外部に任せていた活動を自社で担うことである。例えば自動車の製造のみを行っている会社の場合、外部の取引先に任せていた「販売」や「原材料の調達」といった活動を自社で行うようにするのが垂直統合だ。

身近な企業でいうと、商品の企画から生産および販売までを行うユニクロが垂直統合型のビジネスモデルを実践している。

川上統合と川下統合の2種類に分けられる

原材料の生産から製品販売に至るまでのサプライチェーンにおいて、原材料の生産に近いプロセスを「川上」、製品販売に近いプロセスを「川下」という。自社から見て川上に向かって統合することは「川上統合」と呼ばれる。例えば商品の製造を行っている会社が原材料の生産に事業領域を拡大するケースが川上統合だ。

一方で「川下統合」は、自社から見て川下に向けた統合を指す。商品の製造会社が販売店を運営するケースが該当する。

垂直統合を実現する手段

垂直統合を実現する手段は、主に「M&A」「アライアンス」の2つだ。M&Aとは、他の会社を買収または合併する手法である。会社の経営権や事業ごと取得する点が大きな特徴だ。

一方でアライアンスは、お互いに経営権を維持したまま複数の会社が特定の目標を達成するために協力する手法である。経営権を取得されたくない場合や簡単な手続きで垂直統合を図りたい場合には、アライアンスの活用が望ましい。

しかし、相手会社とのシナジー効果を最大限発揮したい場合には、M&Aによる垂直統合が適している。

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垂直統合を実施する5つのメリット

垂直統合は、取引先との手数料や輸送費用の削減につながるだけでなく、他社との合併や買収によるシナジー効果も期待できる。加えて、サプライチェーン上における裁量も増大するため、新しい戦略や施策の策定および商品・サービスの安定的な供給にもつながるだろう。

1:外部企業との取引コストの削減

垂直統合で得られる最大のメリットは、外部企業との取引で生じていたコストを削減できることだ。例えば原材料の生産プロセスを統合すれば仕入コストや商品の販売プロセスを統合すれば販売手数料を支払わずに済む。取引コストを削減することで売上高の増加を伴わずに、利益率を高める効果も期待できる。

2:安定的な商品・サービスの供給が可能となる

垂直統合によって、外部企業との取引を減らすほど安定的な商品・サービスの供給につながりやすい。例えば原材料を外部の企業から調達する場合、外部企業の減産(生産量を減らすこと)や倒産などにより自社の生産活動が計画通りに進まなくなる点は大きなリスクだ。

しかし、自社で原材料を生産すれば外部企業の意思決定や倒産に左右されずに済むため、安定的な商品・サービスの供給が可能となる。したがって、

その分の売上や利益も安定し、顧客満足度が低下するリスクも軽減できるだろう。

3:シナジー効果により技術力や収益性が高まる

シナジー効果も垂直統合で得られる魅力的なメリットの一つだ。シナジー効果とは、複数の企業が一つとなることで、お互い別々に事業を行っているときの合計よりも大きな効果を生み出すことである。垂直統合を図ると、異なるプロセスを担っていた会社間で技術やノウハウ、顧客情報などを共有することが可能だ。

その結果、技術力や顧客ニーズに合う商品開発力の向上、販売網や顧客の共有による収益性の向上といったシナジー効果が得られる。

4:新しい戦略・施策を打ち出せる

垂直統合を図ると、自社の裁量を行使できる範囲が拡大する。裁量の拡大により新しい戦略や施策を打ち出すことが可能だ。例えば自社で作った商品を小売店に販売してもらう場合、販売する顧客対象や販売促進および広告宣伝の方法は、基本的に小売店の方針に従わなくてはならない。

一方で、小売分野に垂直統合を図れば販売する顧客の対象や販売場所、販促・広告宣伝などの決定は自由だ。

そのため、うまくいけば競合他社との差別化や客単価の向上、固定客の獲得などにより大きく市場シェアや利益率を高めることも期待できる。

5:新しい収益源の獲得につながる可能性がある

垂直統合では、「製造業の会社が小売業に進出する」といった形で新しい事業を始めることになる。既存事業とは異なる市場に商品・サービスを販売するため、事業が軌道に乗れば新しい収益源となるだろう。

複数の収益源(事業)を持つことで万が一主力事業の収益性が低下した場合でも、別の事業からの収益で会社全体の損失を軽減させることが期待できるのだ。

垂直統合にはデメリットもあるので注意が必要

メリットばかりが注目される垂直統合だが、「多額の初期費用を要する」「専門性が低下しやすい」といったデメリットもある。良い面と悪い面を総合的に考慮した上で、垂直統合を図るかどうかを決定することが大切だ。

多額の初期費用がかかる

多額の初期費用がかかる点は、垂直統合を図る上で無視できないデメリットだ。例えばM&Aによって垂直統合を図る場合、買収資金やM&Aアドバイザーへの手数料などに多額のコストを要する。自力で新しく川上や川下に事業を広げる場合も、設備の購入や新規顧客の開拓などに多大な費用がかかってしまう。

既存事業とは異なるビジネスを行う以上、多額の初期投資は避けて通れないため注意しよう。

大規模な組織変革や方針の変更が必要となる

統合先となる新しい事業領域では、既存事業で培ってきたノウハウや技術、考え方が役に立たないケースが往々にして生じる。そのため、垂直統合によって新しい事業領域に進出する場合には、必要に応じて大規模な組織変革や経営方針の変更をしなくてはならない。

経営資源が分散して専門性が低下するリスクがある

垂直統合では、経営資源が分散することで生じる専門性の低下もデメリットとなる。垂直統合に伴い、これまで主力事業に費やしてきた人員や資金などの経営資源の一部を、新しい事業に投入する必要性が生じるのだ。経営資源が分散し、主力事業で培ってきた専門的な技術力やノウハウが薄まってしまうリスクもある。

自社の強みである専門性が低下すると、長期的には競争優位性の喪失につながる可能性がある。垂直統合を図る際には、主力事業にも十分な経営資源を配分し専門性の低下を防ぐことが必要だ。

意思決定の難易度が高くなる

一般的に垂直統合では、組織の拡大を伴う。事業に携わる従業員や利害関係者の増加はもちろん、考えるべき戦略や施策の範囲・数も増大するため、意思決定の難易度は大幅に高くなってしまう。一つの意思決定を下すために考えるべきことが増えるため、意思決定のスピード低下や誤った意思決定による損失が生じやすくなる。

目的も進め方も異なる垂直統合と水平統合

水平統合は、垂直統合と対極的な手法である。具体的には、サプライチェーン上において現在自社が担っているプロセスと同じ分野で事業の拡大を図る手法だ。水平統合と垂直統合では、目的(メリット)や具体的な進め方が異なるため、違いを理解しておくことが大切である。

水平統合は「同業他社との統合」を意味する

簡単に定義すると、水平統合は「同一業種の他社同士が一つになること」だ。例えば自動車の製造会社であれば、同じく自動車の製造を行う会社とM&Aやアライアンスを行うことが水平統合に当てはまる。身近な事例では、ビックカメラとコジマによる資本業務提携が水平統合に向けた動きとして有名だ。

水平統合の目的は「スケールメリットの獲得」や「市場シェアの拡大」

水平統合の目的は、主に「スケールメリットの獲得」「市場シェアの拡大」の2つである。スケールメリットとは、事業規模の拡大によって得られるメリットの総称だ。水平統合では、同種の事業を行う他社の取得・協働によって既存事業の規模が拡大する。

事業規模が拡大することで、以下に挙げたスケールメリットの獲得が期待できるだろう。

・価格交渉力の向上による仕入および販売コストの削減
・重複する機能の削減によるコストカット
・設備投資の強化による収益性および効率性の向上

一方で市場シェアの拡大とは、ある市場の総売上高に占める自社商品・サービスの売上高の割合である。水平統合によって販売網や商品の取り扱い数が増加することで、市場シェアの拡大を期待できるわけだ。

目的に応じて垂直統合と水平統合を使い分けることが重要

これまで述べてきたように、垂直統合と水平統合では実施する目的(メリット)が大きく異なる。垂直統合と水平統合それぞれのメリットを確認し、目的に応じて最適な統合手段を選ぶことが重要だ。

垂直統合と水平統合では得られる効果が異なる。目的に合わせて選択を!

垂直統合と水平統合は、「どの方向性に統合を図っていくか」という点に違いがある。垂直統合では、サプライチェーン上における川上または川下、水平統合では同業他社が統合対象だ。統合の方向性が異なるため、得られる効果(メリット)も変わってくる。

取引コストの削減や安定的な商品供給を実現したい場合は垂直統合、スケールメリットの獲得や市場シェアの獲得を実現したいときには水平統合を実施すると良いだろう。

文・鈴木 裕太(中小企業診断士)