バイアウトは、主に事業規模の拡大や事業再生などを目的に実施されるM&Aの手法だ。一方でイグジットは、株式の売却により利益を獲得する手法をいう。事業を成長させるために自社にとって最適な手法はなんだろうか。M&Aを考えるならぜひ覚えておこう。

目次

  1. 事業拡大のためにも覚えておきたい「バイアウト」
    1. バイアウトは「企業買収」や「株式の取得」を意味する
    2. バイアウトとイグジットとの違い
  2. 3種類の手法に大別されるバイアウト、その違いを確認
    1. MBO(マネジメント・バイアウト)
    2. EBO(エンプロイー・バイアウト)
    3. LBO(レバレッジド・バイアウト)
  3. 手法別に見たバイアウトのメリットとデメリットを確認
    1. MBOのメリットとデメリット
    2. EBOのメリットとデメリット
    3. LBOのメリットとデメリット
  4. 実行時に備えて覚えたいバイアウトを行う手順
    1. 手順①:SPC(買収を目的とした会社)の設立
    2. 手順②:バイアウトに必要な資金の調達
    3. 手順③:買収の実行(株式の取得)
    4. 手順④:買収した企業とSPCの合併
  5. 目的に応じて最適なバイアウト手法を
鈴木 裕太
鈴木 裕太(すずき・ゆうた)
横浜国立大学在学中に中小企業診断士を取得(現在は休止中)。Webメディアの立ち上げ〜売却に携わり、SEO対策をはじめとしたWebマーケティングを幅広く経験。現在はビジネスの分野に特化したライター業と、他社のメディアサイトの立ち上げ支援を行っている。また、情報サイト”BizLabo”の運営も行っており、会社経営に役立つ知識・ノウハウを伝えることにも力を入れている(月間1.5万PV:2020年1月時点)。

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事業拡大のためにも覚えておきたい「バイアウト」

バイアウトで事業の成長を加速。イグジットとの違いや手順を解説
(画像=naka/stock.adobe.com)

バイアウトとは、「企業を買収する」「株式を取得する」ことを指し、イグジットは、会社の経営者や株主であるファンドが株式を売却することで利益を獲得することを意味する。つまりバイアウトは買い手視点、イグジットは売り手視点から見たM&Aというわけだ。企業買収により事業を拡大したいと考えるならば、「バイアウト」は必須ワードといえるだろう。

バイアウトは「企業買収」や「株式の取得」を意味する

バイアウト(Buyout)とは、日本語で「買収」や「買い占め」を表す。具体的には、企業を丸ごと買収することや株式を取得して経営権を獲得する手法の総称として用いられている。

バイアウトとイグジットとの違い

イグジット(Exit)は、株式の売却を通じて利益を獲得する手法だ。大きく分けると「IPO(株式公開)」「M&A(合併と買収)」のいずれかの方法によってイグジットが行われる。バイアウトとイグジットの違いは「M&Aに対するアプローチ」だ。バイアウトでは、会社の成長や業績の回復を図る目的でM&A(株式の取得)を実施する。

一方でイグジットでは、事業に投資した資本の回収や利益の獲得を目的にM&A(株式の売却)が実施される。つまりバイアウトは買い手視点、イグジットは売り手視点でM&Aを捉えているわけだ。ただし日本では、会社を売却して利益を得る手法をバイアウトと呼ぶケースも少なくない。会社売却としてのバイアウトは、IPOと比べて短期間で利益を獲得できる点がメリットだろう。

また、魅力の大きさから米国を中心にイグジットの手段として、IPOではなくM&Aを選択するケースが増えている。上記の通りバイアウトという用語には、「会社の買収(本来の用法)」と「イグジット手段」という2つの意味がある。そのためバイアウトを用いる際は、どちらの内容を意図しているか、相手に理解してもらうように心がけるのが望ましい。

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3種類の手法に大別されるバイアウト、その違いを確認

バイアウトの手法には、「MBO」「EBO」「LBO」の3種類がある。MBOは、経営陣が株主から株式を買い取る手法であり、EBOは従業員が勤務している会社の株式を取得する手法だ。一方LBOは、金融機関から資金調達した上で買収する手法である。

MBO(マネジメント・バイアウト)

MBO(Management Buyout)とは、経営陣が株主から自社の株式を買収する手法だ。MBOは、主に以下の目的で活用されることが多い。

・経営権を取得し所有と経営を一致させる(経営陣の裁量を増やす)
・上場を廃止し長期的な目線で事業再生を目指す
・親会社からの独立を目指す

MBOの有名な事例としては「すかいらーくグループ創業者による業績回復を目的としたMBO」や「タイムバンクによるメタップスからの独立を目的としたMBO」が挙げられる。

EBO(エンプロイー・バイアウト)

EBO(Employee Buyout)とは、従業員が勤務先である会社の株式を買い取る手法である。EBOの実施目的は、主に以下の3つだ。

・従業員に対する事業承継
・敵対的買収への防衛
・経営および組織のスリム化(意思決定の迅速化)

例えば「ユニゾホールディングスによるエイチ・アイ・エスの敵対的買収を防ぐためのEBO」や「シックス・アパートによる経営・組織のスリム化を目的としたEBO」などが有名な事例である。

LBO(レバレッジド・バイアウト)

LBO(Leveraged Buyout)とは、被買収企業の資産や将来にわたって得られるキャッシュフローを担保とし、金融機関から資金調達した上で企業買収を行う手法のことだ。主にLBOは、自己資金の少ない企業が買収を実行する目的で活用される。主な事例としては「ソフトバンクによるボーダフォン日本法人のLBO」が有名だ。

手法別に見たバイアウトのメリットとデメリットを確認

「どの手法を活用するか」によって、バイアウトの実施により期待できるメリットや注意すべきデメリットは異なる。各手法のメリットとデメリットを十分理解した上で自身や会社の状況から見て最適な手法を選ぶようにしよう。

MBOのメリットとデメリット

MBOのメリットは、会社経営にとって好ましくない株主を排除できることだ。上場企業に投資する株主の中には、短期的な利益のみを追求する者も少なくない。こうした株主が議決権の多数を握っている状態では、短期的な利益ばかりを追求する経営方針となり中長期的な成長機会をつかみ損ね、事業再生や業績の回復に注力できない恐れがある。

MBOによって短期思考の株主を排除すれば、中長期的な視点から経営戦略の策定や事業再生に取り組めるだろう。また、事業が軌道に乗ってきた段階で親会社から自社株式を取得し、経営者として独立する手段として役立つ点もメリットだ。「海外進出などの重要な意思決定を果たす」「IPOや会社売却による多額の利益獲得」といったことも可能となる。

一方でMBOは「経営体制の抜本的な変革が生じにくい」という点がデメリットだ。そもそもMBOは、経営陣が株式を取得する形で経営権をより確実なものとする手法である。経営陣が変わらないため、業績を大幅に改善したり事業を大きく成長させたりするような施策や戦略は生まれにくいだろう。

また、経営陣が株式を買い取ることで非公開企業となる点も大きなデメリットだ。

市場で投資家から出資を募ることができないため、資金調達がスムーズに進みにくくなるリスクもある。

EBOのメリットとデメリット

MBOと比較して抜本的な変革が生じやすい点がEBOのメリットだ。MBOとは異なりEBOでは「現経営陣→従業員」という形で会社経営を担う者が変わるため、業績の改善や事業の成長につながる大きな変革が生じやすい。また、親族内に後継者がいない企業においては、従業員への事業承継を果たせる点もメリットとなる。

ただしEBOでは、従業員が買収資金を準備しなくてはならない。比較的収入や資産の多い経営陣と比べて、従業員が会社丸ごと買収できるだけの資金を準備するのは困難と考えられる。資金が足りない場合には、金融機関などから資金調達する手間が発生するだろう。場合によっては、審査に通らず十分な資金を受け取れない事態になりかねない。

LBOのメリットとデメリット

LBOを行う最大のメリットは、少ない自己資金で大規模なバイアウトを実施できることである。多額の借り入れを行えば、自社の事業規模とは比較にならないほど大きな会社を買収することも夢ではない。買収した会社の業績が好調となれば、自社で地道に事業を続ける場合よりもはるかに大きなリターンを得られる可能性がある。

また、バイアウト後に返済する利息を損金算入することで法人税が課税される利益を大幅に圧縮できる点もメリットだ。LBOは、業績を大幅に向上させる上で非常にメリットが大きいが、バイアウト後に借り入れの返済と利息の支払いが不可欠となる点に注意が必要である。返済と利息の支払いにより多額の支出が発生するため、資金繰りが困難となる恐れがある。

バイアウト対象の企業が想定通り多くのキャッシュフローを生み出していれば問題ない。しかし、想定に反して業績が不調だと返済や利息の支払いが重なり事業運営の続行が困難となり得る。そのためLBOは、ハイリスク・ハイリターンのバイアウト手法といえるだろう。

実行時に備えて覚えたいバイアウトを行う手順

バイアウトによる経営権の取得は、「SPCの設立→資金調達→株式取得→被買収企業とSPCの合併」という4つの手順で進められるのが一般的だ。実際にM&Aによる会社の成長を目指す状況に備えて、あらかじめバイアウトの手順を理解しておこう。

手順①:SPC(買収を目的とした会社)の設立

はじめにSPC(特別目的会社)を設立する。特別目的会社とは、ある特定の目的を達成するためだけに設立する会社であり、いわゆるペーパーカンパニーだ。MBOやEBOにおいては、バイアウトの実施がSPCの目的となる。なおSPCの株主は買収を実行する経営陣または従業員、外部の第三者が挙げられる。

手順②:バイアウトに必要な資金の調達

バイアウトの実行にあたって必要不可欠なのが、株式の買収資金だ。SPCを設立したら株式の買収資金を金融機関や投資ファンドから調達する流れとなる。ただし、買収する者が自己資金を準備すれば金融機関などからの資金調達は不要だ。なおこの際、被買収企業の資産やキャッシュフローを担保に設定すると「LBO」となる。

手順③:買収の実行(株式の取得)

バイアウトに必要な資金が集まったら、その資金を使って買収したい会社の株式を取得する。基本的には、会社の経営権を確保するためにすべての株式を買収する。なお買収を実行するのはSPCだ。SPCが株式の買収を実行することで被買収企業はSPCの完全子会社となる。

手順④:買収した企業とSPCの合併

最後に買収した企業とSPCとの間で合併を行い一つの法人に統合する。一つの法人に統合することで当初の目的であった「買収対象となる会社の経営権取得」を果たす。

以上4つの手順でバイアウトの手続きは完了だ。

目的に応じて最適なバイアウト手法を

株式の売却による利益獲得を目指すイグジットとは異なり、バイアウトは事業の成長や親会社からの独立、事業再生などを目的に株式を買収する手法だ。バイアウトには「MBO」「EBO」「LBO」という3種類の手法がありそれぞれに目的や得られるメリット・デメリットは異なる。3つの手法それぞれの特徴を理解し目的に応じて最適なバイアウト手法を用いることが重要だ。

親会社からの独立や中長期的な経営方針への転換を目指すならばMBO、将来的なイグジット(IPOやM&A)を目指して事業の成長を加速させたいならばLBOを用いると良いだろう。

文・鈴木 裕太(中小企業診断士)