労働基準監督署(労基)は、事業所が労働関係法令を遵守した経営を行なっているかを監督する役割を担う。違法性があれば指導を行い、臨検監督だけでなく経営者からの相談も受け付けているので、自社で問題が発生する前にアドバイスを求めることもできる。

目次

  1. 労働基準監督署とは企業の違反行為を監督する機関
    1. 労働基準監督署はどのような組織か
    2. 他の労働関係機関との違い
  2. 労働基準監督署は経営者からの相談も受け付けている
    1. 経営者から労働基準監督署への相談事例
  3. 労働基準監督署が企業に対して行うこと
    1. 労働基準監督官が持つ3つの権限
  4. 労働基準監督署からの是正処置の具体的な流れ
    1. 1.事業場への訪問(定期、労働者からの申告など)
    2. 2.労基担当が企業に訪問・調査を実施
    3. 3.労基から是正勧告や指導を受ける
    4. 4.是正勧告に従って改善を行う
  5. 労働基準監督署への相談事例を自社の課題抽出に活用する
  6. 労働基準監督署に通報されないような経営が大前提
隈本稔
隈本稔
長崎大学生産科学研究科を修了後、大日本印刷と東レにて製品開発・生産技術職に従事。現在は、長崎にて中小企業を中心にプロジェクト計画・実行支援やスタートアップ支援を行なっている。また、国家資格キャリアコンサルタントを取得し、求職者や企業における社員のキャリア設計・採用定着・対人トラブル改善のコンサルを行なっており、webメディア「職りんく」(https://syokulink.com)を運営している。

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労働基準監督署とは企業の違反行為を監督する機関

労働基準監督署(労基)とは?経営者が理解すべき役割を解説
(画像=LIGHTFIELD STUDIOS/stock.adobe.com)

労働基準監督署(以下、「労基」)は、労働基準関係法令への違反に対する事業場への監督や設備導入等の届出の受け付け、労災補償の事務などを行う厚生労働省の第一線機関である。労基は、労働に関する以下のような法律に従い監督指導などの業務を行っている。

  • 労働基準法
  • 労働安全衛生法
  • 労働者災害補償保険法
  • 最低賃金法
  • じん肺法
  • 家内労働法 など

経営者にとって最も気になるのは、これら労働基準関係法令の違反の恐れがある場合に行われる「臨検監督(監督指導)」ではないだろうか。労基は、定期的および労働者からの相談などがあった場合に事業場に対して臨検監督を行っている。2000年以降の臨検監督の実施状況は以下の通りだ。

労働基準監督署(労基)とは?経営者が理解すべき役割を解説
(画像=グラフ)

上記のグラフで「その他の監督」に該当するものが、労働者の相談・申告などで労基が臨検監督を行った事業場の数であり、その数は4万件前後。その中で実際に労働基準関係法令への違反が認められたのは実に6~7割と、高い水準で推移している。

労基の臨検監督が行われるということは、自社の経営において何かしら労働関係法令から逸脱した事案が発生しており、労働者に負担を強いている可能性が高いのである。

労働基準監督署はどのような組織か

労基は、全国に47局ある都道府県労働局から指揮監督を受けている組織で、全国に321署および4支署ある。

労働基準監督署(労基)とは?経営者が理解すべき役割を解説
(画像=組織図)

労基は以下の4つの部署に分かれており、それぞれ基づいている法律や業務内容が異なる。

1.監督課

「労働基準法」に基づいて、労働者からの不当労働に関する相談や、法律違反行動に対する行政指導などの申告を受け付けている。違法性が疑われる事業場に対して調査や指導を行う「臨検監督」を実施する部署であり、是正指導だけでなく、危険な機械・設備等の使用停止命令を行う行政処分も実施する。

2.安全衛生課

「労働安全衛生法」に基づき、事業場に対して労働者の安全と健康を守るための措置を取るように指導を行う。新規の機械・設備等の導入届や工事計画の審査を行うほか、労働者に対する健康診断の実施チェックや健康に有害な作業が行われていないかなどの確認のために、事業場に立ち入ることもある。

3.労災課

「労働者災害補償保険法」に基づいて、業務や通勤の際に発生したけがなど、労災が疑われる事案に対して、実地調査や関係者への聴き取りを実施し労災保険給付を行う。

4.業務課

主に、労基における会計処理などの庶務経理事務を行う。

他の労働関係機関との違い

労基には名称が似た機関がいくつかあるが、それぞれ役割は異なるため、利用前に理解しておく必要がある。

・労働基準局との違い

労働基準局は、労働局や労基に対して指揮監督を行う厚生労働省の内部部局である。労働関係法令の施行や運用内容について下部組織に通達を行う立場であり、経営者や労働者からの個別の相談などは基本的に受け付けていない。

・労働局との違い

労働局は厚生労働省直下の機関であり、労基の上部組織にあたる。労働局の中に労働基準部や職業安定部などがあり、労使間の個別労働紛争への指導対応も行っている。

労基と同じように、経営者や労働者からの個別相談を受け付ける「総合労働相談コーナー」を設けている。

・公共職業安定所との違い

公共職業安定所は労基と同じ第一線の相談窓口であるが、職業相談や助成金の支給、雇用保険といった雇用に関わる相談の受け付けを担当している。

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労働基準監督署は経営者からの相談も受け付けている

労基は、労働者はもちろん事業主である経営者から、以下のような相談を受け付けている。

  • 労働条件:賃金や労働時間、解雇などについて
  • 労災保険:勤務中や通勤時に発生した労働災害について
  • 安全衛生:労働災害や職業性疾病等の防止について

労基署労基は、企業が法律違反を起こしていないか管理監督をするだけでなく、労働法に関連した経営者の悩み相談にも対応しているのだ。

労働基準関係法令への違反が認められて是正指導が行われた場合、悪質なケースでは社名公表に至ることもある。自社で問題が起こらないよう、事前に労基に相談を行うことも重要なリスクマネジメントである。

経営者から労働基準監督署への相談事例

経営者は、具体的にどのような相談を労基にしているのだろうか。一部事例を紹介するが、自社でも同じような悩みがある場合は、労基に確認を行った上でアドバイスを求めよう。

<労働条件の相談事例>

  • 「週40時間制」の導入や「36(サブロク)協定」の適法な運用について
  • 雇用した労働者を解雇するための条件について
  • 最低賃金の制度やそれ以下で雇用するための方法
  • 就業規則の作成や変更方法

<労災保険の相談事例>

  • 労災保険に加入するための方法や保険料の計算について
  • 労働災害や職業病が事業場内で発生した場合の対処法
  • 労災保険に経営者や役員が加入する方法
  • 労災保険を請求する場合の手続き方法

<安全衛生の相談事例>

  • 各種資格を要する作業の種類について知りたい
  • 全国の労働災害の発生状況について知りたい
  • 安全衛生のコンサルタントはどうすれば受けられるか

労働基準監督署が企業に対して行うこと

労基は、事業場に対して臨検監督などを実施でき、労働基準監督官がその実行にあたる。労働基準監督官には、具体的にはどのような権限があるのだろうか。

労働基準監督官が持つ3つの権限

労働基準監督署(労基)とは?経営者が理解すべき役割を解説
(画像=権限)

・1.帳簿および書類の提出の要求

臨検監督を行う場合には、「労働者名簿」「就業規則」「出勤簿(タイムカード等)」「賃金明細書」など、労働関係のさまざまな帳簿の開示を事業場に対して要求できる。

・2.経営者や労働者への尋問

臨検監督のために事業場に立ち入った上で、労働基準関係法令の違反の可能性がある事柄について、経営者や労働者に対して事実確認などを実施できる。

・3.司法警察としての逮捕・送検手続き

労基は、臨検監督で違法性が認められる事業場に対しては指導を行うが、それにもかかわらず是正されない状況が続けば、重大かつ悪質と認定した上で検察庁への送検や逮捕もできる。

労働基準監督署からの是正処置の具体的な流れ

労基が事業場に対して行う「臨検監督」は、定期的に行うものと労働者の相談に応じて行うものがある。ここでは、臨検監督の一般的な流れについて解説する。

労働基準監督署(労基)とは?経営者が理解すべき役割を解説
(画像=臨検監督の流れ)

1.事業場への訪問(定期、労働者からの申告など)

臨検監督は、事業場の定期的な計画的選定と労働者からの申告で実施される。原則経営者等に対して事前通告をすることはないが、場合によっては、事前に必要書類の準備の連絡や出頭要求が届くケースもある。

基本的に臨検監督を拒否することはできず、妨害行為や虚偽報告などがあった場合は、「労働基準法第120条」により、30万円の罰金が科される。

2.労基担当が企業に訪問・調査を実施

労働者からの相談内容や事前の計画に沿って、臨検担当者が事業場に立ち入った上で調査を実施する。調査に際しては、事業場の経営者や担当者への事情聴取や労働関係の帳簿などの書類確認、労働者へのヒアリングなどが行われる。

3.労基から是正勧告や指導を受ける

調査の結果、法違反がなければ臨検指導は終了となるが、法違反や改善すべき点が認められれば指導等を受けることになる。是正勧告書や指導票などの書類によって通達され、設備等に労働者への危害を及ぼす懸念が認められる場合は、使用停止命令書が届くこともある。

労基からの是正勧告や指導は、あくまで「行政指導」に該当するため法的強制力はないが、基本的には改善の検討が必要だ。

4.是正勧告に従って改善を行う

是正勧告を受けた場合は、事業場側は違法箇所に関する是正・改善の報告を労基に対して行わなければならず、是正が認められなければ再度監督・指導を受けることになる。それでも改善を行わなかったり、是正勧告を無視するなどの対応をすれば、書類送検されることもある。

労働基準監督署への相談事例を自社の課題抽出に活用する

労基には、労働者から多くの相談が寄せられているが、その内容は類似したものが多い。経営者にとっては、自社で同様の問題が発生しないために認識しておくべき事例とも受け取れるだろう。

労働者からの相談事例としては以下のようなものがあり、労働基準関係法令に従って対応を怠らないように努めなければならない。

  • 採用や労働条件:労働契約の内容と業務内容や労働条件が異なっていた
  • 賃金:割増賃金の未払い、経営悪化に伴う一方的な減給
  • 労働時間:残業時間の超過、年次有給休暇が取得できない
  • 解雇:突然の不当な解雇通告、解雇予告手当の支払いについて
  • 安全衛生:健康診断の実施対象者か否か、ハラスメントの相談先がない
  • 就業規則:就業規則がない、就業規則が開示されていない

労働基準監督署に通報されないような経営が大前提

労基は、経営者が労働基準関係法令を遵守して、労働者に対して負うべき責任や義務を果たしているかどうかを監督する立場にある。

労基の「臨検監督」は、違法の可能性がある事業所に対して行う強制捜査であり、経営において何らかの問題を抱えており、実際に労働者に対して被害を与えている可能性が高い場合に行われる。

経営者として全ての労働関係法令を理解する必要はないが、自社で労働基準法や労働安全衛生法をないがしろにして労働者に負担を強いないためにも、社会保険労務士などの専門家はもちろん労基にも相談を行って、健康経営を目指したアドバイスを求めることが重要であろう。

文・隈本稔(キャリアコンサルタント)