36協定は、時間外労働を実施する事業所が届け出なければならない労使間協定である。働き方改革による法改正により、2019年には明確な上限時間も定められた。改めて36協定の重要性と経営者としての義務を見直した上で、適切な策定と申請をしてほしい。

目次

  1. 36協定とは就労時間に関する労使間の約束事
    1. 36協定はどのように取り決められるのか
    2. 36協定の取り決め内容
    3. 36協定の特別条項
  2. 36協定は働き方改革によってより厳しくなった
    1. 36協定の改正内容
  3. 36協定に違反すれば罰則もあり得る
    1. 長時間労働が懸念される事業場の監督指導結果
    2. 36協定違反を犯した事業所の事例
  4. 36協定提出の方法と働き方改革以降の新様式
    1. 36協定の届け出方法
    2. 「働き方改革」後の36協定締結における4つの注意点
  5. 36協定に違反しないために経営者が気をつけること
    1. 36協定違反を防止するための3つの心構え
  6. 36協定を正しく締結・申請し社員との約束を守ろう
隈本稔
隈本稔
長崎大学生産科学研究科を修了後、大日本印刷と東レにて製品開発・生産技術職に従事。現在は、長崎にて中小企業を中心にプロジェクト計画・実行支援やスタートアップ支援を行なっている。また、国家資格キャリアコンサルタントを取得し、求職者や企業における社員のキャリア設計・採用定着・対人トラブル改善のコンサルを行なっており、webメディア「職りんく」(https://syokulink.com)を運営している。

>>会員登録して限定記事・イベントを確認する

36協定とは就労時間に関する労使間の約束事

働き方改革で変わる36協定。経営者が理解するるべき労務の基礎
(画像=Alina/stock.adobe.com/)

「36(サブロク)協定」では、労働者が時間外労働を行う上で事前に届け出が必要であり、策定しないまま残業をさせれば法律違反で罰せられる。ここでは、36協定の仕組みについて解説する。

36協定はどのように取り決められるのか

「36協定」は、『労働基準法第36条』で規定されている残業や休日出勤に関する労使間の協定である。法定労働時間を超える勤務を労働者に命じる場合、事前に労働基準監督署(以下、労基)に届け出なければならない。

・36協定はどのように締結されるのか

36協定は、使用者(経営者)と雇用される側である労働者の代表(または労働組合)との間で協議を行った上で締結する。なお36協定は、本社だけでなく支店や営業所なども含めた各事業場でそれぞれ締結しなければならない。

また、36協定は『労働基準法第106条』において事業場内での周知義務が規定されており、労働者が見やすい場所に掲示するか、書面の交付などを行わなければならない。

36協定の取り決め内容

働き方改革で変わる36協定。経営者が理解するるべき労務の基礎
(画像=上限時間)

36協定では、厚生労働大臣の告示によって時間外労働の上限である「限度時間」が定められている。具体的には『労働基準法第32条』に定められている「法定労働時間(1日8時間、週40時間※)」を超えて勤務を命じる場合に届け出が必要だ。
※ 特例措置事業場の場合は週44時間

なお、事業所ごとの就業規則で定める「所定外労働時間」ではなく、「法定労働時間」であることに注意が必要である。

法定休日に関しても、通常は毎週少なくとも1回以上の取得、変形休日制の場合には4週4日の取得が義務付けられており、休日出勤がある場合には、36協定の締結が必要である。

36協定の特別条項

36協定は、臨時的な特別の事情があれば限度時間を超えた就労も可能な「特別条項付き36協定」の締結もできる。なお、締結に際しては以下のような注意点がある。

  • 特別に延長する労働時間は過労死ラインを意識して「必要最低限度」に抑えること
  • 上限時間の拡大は年6回まで(※)しか行ってはならない
  • 上限時間を超えて労働する際の割増賃金率を明記する
    ※ 1ヵ月で決めている場合。3ヵ月で決めている場合は2回まで

特別条項付きの36協定を締結・届け出すれば、ある意味半年間は上限なしに労働できるが、「働き方改革」の施行によって、特別条項についても上限規制が厳しく制度化されている。

>>会員登録して限定記事・イベントを確認する

36協定は働き方改革によってより厳しくなった

2019年から施行されている「働き方改革」では、3本柱の1つに「長時間労働の是正」が盛り込まれており、2020年4月からは中小企業も適用対象となった。「働き方改革」による法改正で時間外労働の上限規制が新たに変更されたため、36協定も変更が必要となる。

36協定の改正内容

働き方改革で変わる36協定。経営者が理解するるべき労務の基礎
(画像=上限時間)

「働き方改革」による最大の変更点は、これまで厚生労働大臣告示で定められていた時間外労働の限度時間が、法律によって明確に設定されたことだ。また、特別条項付き36協定では、6ヵ月間は上限時間なしでの就労が可能となっていたが、こちらも法的な限度時間が新たに設定された。

  • 上限規制の猶予や適用除外

働き方改革後の時間外労働の限度時間に関しては、以下の特定の事業・業務に対して2024年3月31日までの猶予期間が設けられている。

  • 建設事業
  • 自動車運転の業務
  • 医師
  • 鹿児島、沖縄の砂糖製造業

また、新製品開発などの研究開発業務に関しては、働き方改革施行後でも時間外労働の上限規制は適用されないが、1週間に40時間を超えて月100時間勤務した労働者に対して、罰則付きで医師の面接指導が義務付けられた。

36協定に違反すれば罰則もあり得る

36協定の上限時間設定に違反した場合「6ヵ月以下の懲役、または30万円以下の罰金」の罰則が科せられる。

なお、この罰則は違反した労働者1人に対して適用されるため、例えば10人であれば、300万円以下の罰金の支払い義務が生じる。

また、36協定に違反すれば、労基による臨検監督の対象となる可能性も高く、場合によっては労働基準関係法令違反事業場として社名が開示されたり、ニュースで公表されてしまうこともある。

長時間労働が懸念される事業場の監督指導結果

厚生労働省では、36協定違反の可能性があるような違法な長時間労働を行う事業所に対して、労基が臨検監督(監督指導)を実施しており、毎年監督指導結果が開示されている。

2020年9月に発表された監督指導の結果は以下の通りである。

働き方改革で変わる36協定。経営者が理解するるべき労務の基礎
(画像=監督指導)

長時間労働に関する監督指導を実施した3万2,981事業場のうち、47.3%にあたる1万5,593の事業場で違法な時間外労働が行われており、是正・改善の指導が実施されている。また、5,785の事業場では月80時間を超える時間外労働が行われており、136の事業場が200時間を超えているという結果であった。

2020年からは中小企業でも時間外労働時間の上限規制が適用されており、違反事業場に対しては罰則が科されているだろう。この実態を他山の石と捉えるのではなく、自社でもいつ起こるとも限らない問題だと考えておく必要がある。

36協定違反を犯した事業所の事例

36協定違反については、新聞やニュース等でも報告されている。ここでは、36協定違反の事例を3件紹介する。

  • 1.運送業での違反事例

最長で36協定を超える120時間超の時間外労働が発生。労基から複数回の是正指導があったが、改善を怠っていたため書類送検された。

  • 2.飲食業での違反事例

レストラン5店舗の12人の労働者に対して36協定違反の時間外労働を強いた疑いで書類送検。対象の労働者の中には、最長で110時間の時間外労働を行っている者もいた。

  • 3.製造業での違反事例

労働基準法を逸脱した時間外労働だけでなく、労働時間の虚偽報告(労働基準法第104条違反)を行ったとして、書類送検された。

36協定提出の方法と働き方改革以降の新様式

36協定届け出の方法と、働き方改革以降の注意点について詳しくみていこう。

36協定の届け出方法

労使間協議の上36協定の内容について締結を行った後は、以下の書類を作成する必要がある。なお、働き方改革の施行に伴って新様式に変更されているため、中小企業の場合2020年4月以降の36協定の届け出は、新様式で作成しなければならない。

働き方改革で変わる36協定。経営者が理解するるべき労務の基礎
(画像=様式)

労基に対しては、上記の中で自社が行う36協定の届け出に必要な書類を提出する。

「働き方改革」後の36協定締結における4つの注意点

「働き方改革」以降に36協定を締結する際には、以下の4つのポイントを押さえた上で、労使間の締結が必要である。

(1)「1日」「1ヵ月」「1年」それぞれの時間外労働の限度時間を設定する
(2)36協定期間の「起算日」を設定する
(3)休日労働と時間外労働の合計時間は、以下のように設定する
・月100時間未満
・2~6ヵ月平均は80時間以内
(4)特別条項の締結には特別な事由が必要

なお、厚生労働省では36協定の作成支援ツールを無料で提供している。必要事項を入力することで労使協定書や協定届なども出力できるため、36協定の更新や変更の際に活用してもらいたい。

リンク:36協定届出作成支援ツール

36協定に違反しないために経営者が気をつけること

36協定違反を防ぐためには、自社における時間外労働や休日出勤の実態把握と、削減のための取り組みを行う必要がある。厚生労働省発行の『時間外労働削減の好事例集』では、参考企業の長時間労働改善の取り組み事例が紹介されている。

各事業場が取り組んでいる具体的な活動は以下の通りである。

働き方改革で変わる36協定。経営者が理解するるべき労務の基礎
(画像=取組状況)

特に取り組み事例が多い2案件についても、注意が必要である。

「残業を行う際の事前承認制度」は、管理監督者が承認して終わるのではなく、実際に予定した時間で業務が終了したかフォローすることが重要だ。また、「従業員の労働時間の平準化」に関しては、不平・不満が生じる可能性もあるため、個々人の業務分析を行なって業務負荷と能力のバランスまで目を向ける必要があるだろう。

『時間外労働削減の好事例集』では、取り組み実施による人件費削減の効果額や実労働時間の削減結果についても報告されているため、資料を参考にしながら自社の労働時間削減の取り組みに活用してもらいたい。

36協定違反を防止するための3つの心構え

長時間労働を是正するための具体的な取り組みは、各社の事例を参考にしたい。事例以外に、経営者としての行動や心構えも非常に重要である。

  • 1.36協定の内容について周知徹底する

36協定については、社員に対して開示することが労働基準法で義務付けられているが、その重要性や位置付けを理解していない社員も少なからず存在する。社員の36協定に対する認知を高めて、法律遵守の意識を醸成するためには、36協定の重要性についても周知する必要があるだろう。

  • 2.管理監督者に対して労務管理の指導を行う

経営者は経営のトップとして、管理監督者に対する指導を行う立場でもある。「働き方改革」によって労働時間の上限は明確に定められているため、違反による罰則などについては管理監督者にも周知徹底しなければならない。また、超過勤務による過労死の防止のためにも、定期的な研修や指導を心掛ける必要がある。

  • 3.経営者こそ超過勤務を見て見ぬふりをしない

36協定違反となるような超過勤務に関しては、実際に出勤管理簿を確認したり、社内で残業している社員の状況を見たりすればある程度察しがつくはずである。

自社で36協定に違反している兆候を察知したならば、経営者自らが管理監督者等に調査を命じたり、社員からの意見に耳を傾けるなどして、問題と向き合う姿勢が必要だ。

36協定を正しく締結・申請し社員との約束を守ろう

36協定は、時間外労働を行う場合には必ず労基に提出しなければならない。また、労働基準法の遵守だけでなく、経営者が雇用する労働者の健康を守るために、労使間で取り交わした約束事でもある。

働き方改革の施行に伴って、上限規制も法的に明確となっており、違反によって社名公表などのリスクを負うことにもなりかねない。時間外労働削減の取り組みを計画・実行し、「36協定」という労働者との約束を守ることを心がけよう。

文・隈本稔(キャリアコンサルタント)