複数の事業を抱える企業にとって「選択と集中」は常に意識したい戦略だ。この戦略によって危機を乗り越えた企業は多く、中小企業にとっても有効な戦略になり得る。ただし失敗事例も少なくないため、実施前にはリスクなどをしっかり押さえておきたい。

目次

  1. 経営の安定性を高める経営戦略──「選択と集中」とは?
    1. 選択と集中の実施方法
  2. 中小企業が選択と集中に取り組むメリットとデメリット
    1. 選択と集中のメリット
    2. 選択と集中のデメリット
  3. 選択と集中は本当に正しい?失敗事例から学ぶ成長を妨げる要因
    1. 【事例1】ハイリスクハイリターンのコア事業に失敗/株式会社東芝
    2. 2.中長期的な視点の欠如による失敗/シャープ株式会社
  4. 成功事例から学ぶ、選択と集中のポイント
    1. 1.不採算事業からの迅速な撤退と、強みを活かしたコア事業/株式会社日立製作所
    2. 2.徹底した従業員へのケア/キヤノン株式会社
  5. 選択と集中の実施前には、現状の分析と綿密な計画を

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経営の安定性を高める経営戦略──「選択と集中」とは?

ビジネスにおける「選択と集中」の必要性。事例で学ぶポイントと問題点
(画像=Kana Design Image/stock.adobe.com/)

デジタル技術やIT技術が発達した現代では、これまでにない商品・サービスを打ち出す企業が増えている。その影響で、これまでは安定して顧客を獲得してきた企業でも、いつの間にか競争力を失っているケースが目立つようになった。

そのような企業にとって有効な経営戦略となり得るのが、本記事で解説する「選択と集中」だ。選択と集中とは、中核となる特定事業(コア事業と呼ばれる)を選択し、その事業に経営資源を集中投下する戦略のこと。

経営資源を投下した事業は必然的に成長・安定するため、選択と集中は失った競争力を取り戻したい企業にとってうってつけの戦略といえる。また、最近では豊富な資金力を持つ大企業に対抗するために、あえて選択と集中を実践する中小企業も見られるようになった。

選択と集中の実施方法

選択と集中は、不採算事業から撤退し、浮いた資金をコア事業に投下することで実施できる。仕組みとしてはシンプルだが、コア事業の選び方や投資の方向性を間違えると大きなダメージを受けるため注意が必要だ。

多くの企業は、以下のような手順で選択と集中を実施している。

・選択と集中の基本的な手順

手順 概要やポイント
【STEP1】経営課題や経営方針の再確認 企業理念を見直し、現時点での経営課題や目指すべき方向性を再確認する。
【STEP2】実施範囲の決定 経営資源を集中投下するコア事業を決める。
【STEP3】コア事業の扱い方を検討 コア事業の商品やサービスを見極め、実施計画の大まかな枠組みを考える。SWOT分析やPEST分析などのフレームワークを用いて分析することが多い。
【STEP4】ノンコア事業の扱い方を検討 集中の対象外となった事業に関して、今後の方針を見定める。撤退する以外に、譲渡や規模縮小、一部サービスの停止などの選択肢がある。
【STEP5】株主や従業員への共有 株主や従業員に計画を共有し、意見を聞く。
【STEP6】計画の再調整 周りの意見を反映した上で、実施計画を完成させる。
【STEP7】実施の報告 株主や従業員をはじめ、すべての関係者に計画の実施を報告する。
【STEP8】選択と集中の実施 計画に基づいて、選択と集中を実施する。

単一の事業しか持たない中小企業であっても、【STEP2】の段階で実施範囲を細分化すれば、選択と集中を実施できる。例えば、事業の要素を「商品・提供エリア・対象顧客」などに細分化し、これらの中から集中投資する要素を決めるような戦略も、広義では選択と集中に含まれる。

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中小企業が選択と集中に取り組むメリットとデメリット

選択と集中によって会社を成長させるには、そのメリット・デメリットを正しく理解しておく必要がある。特にデメリットについては十分に理解しておかないと、かえって業績が悪化する恐れがあるので注意したい。

選択と集中の効果は会社の規模によって若干異なるため、ここでは中小企業におけるメリット・デメリットを見ていこう。

選択と集中のメリット

選択と集中のメリットとしては、まず不要なコストの削減が挙げられる。不採算事業から撤退したり規模を縮小したりすれば、必然的に無駄な支出を減らせるため、多くの企業は経営の安定性を高められるだろう。

また、事業範囲を絞ることで、自社の強みを最大限に活かせることも大きなメリットだ。経営資源が乏しい中小企業でも、一つの事業に注力すると売上やシェアの拡大を狙える。その結果事業価値が高まれば、将来M&Aによって事業を高値で売却できるかもしれない。

その他、優秀な人材を雇ってイノベーションの創出を目指す、マーケティングに力を入れてブランディングを行うなど、選択と集中にもさまざまな手段がある。目的に応じたプランを立てやすいため、選択と集中は多くの経営者にとって有益な経営戦略といえるだろう。

選択と集中のデメリット

一方で、選択と集中の方向性を間違えると、多方面から非難を浴びる恐れがある。例えば、人材の再配置によって従業員の不満が溜まると、優秀な人材が次々に離職してしまうかもしれない。株式会社の場合は、株主から反発されるリスクも想定しておく必要があるだろう。

経営が一極化することで、リスクヘッジが難しくなることもデメリットといえる。経営資源を投下したコア事業が失敗すると、会社の存続自体が危ぶまれる。特に市場のニーズが変化しやすい事業や、他社による代替品が登場しやすい事業は、短期間で優位性を失うリスクがあるため注意したい。

・選択と集中のメリットとデメリット

主なメリット 主なデメリット
・不要なコストを削減できる
・経営の安定性が高まる
・自社の強みを活かせる
・イノベーションの創出につながる
・コア事業の価値を高められる
・優秀な人材が離れることも
・株主から反発されるリスクがある
・リスクヘッジが難しくなる
・選択次第では成長するチャンスを失う

上記のメリットとデメリットを見比べたときに「デメリットのリスクが大きい」と感じる場合は、安易に選択と集中を進めるべきではない。状況次第ではハイリスクハイリターンの経営戦略になるので、リスクに対しては事前に備えておく必要がある。

選択と集中は本当に正しい?失敗事例から学ぶ成長を妨げる要因

選択と集中は、万能な経営戦略ではない。コア事業に集中投資したとしても、その事業がスムーズに成長しない事例は数多く存在する。

「自社にとって選択と集中は本当に正しいか?」を判断するには、コア事業の成長を妨げる要因を事前に把握しておくことが重要だ。ここからは、事例を通して選択と集中が失敗する主な要因を見ていこう。

【事例1】ハイリスクハイリターンのコア事業に失敗/株式会社東芝

日本の大手電機メーカーである東芝は、過去にコア事業を「半導体」と「原発」の2つに絞った。いずれも同社の技術を活かした事業だったが、想定外のトラブルによって状況が一変してしまう。

半導体事業については、2008年に起きたリーマン・ショックの影響で需要が急減した。原発事業は2011年の東日本大震災の影響を大きく受け、巨額な赤字を計上してしまったのである。

結果的に東芝の選択と集中は失敗に終わり、一時は経営危機に陥ってしまった。この事例のように、ハイリスクハイリターンなコア事業に絞ると、不測のトラブルによって成長が阻まれる恐れがあるのだ。

2.中長期的な視点の欠如による失敗/シャープ株式会社

かつては「液晶のシャープ」と呼ばれた電機メーカーのシャープも、選択と集中に失敗した企業だ。同社は業績が順調だった液晶事業を選択し、経営資源を集中的に投下した。

シャープの液晶製品は世界中で評価されたが、その勢いは長くは続かなかった。技術の進歩により製品のライフサイクルが短くなり、液晶製品の価格が全体的に下落してしまったのである。その後同社は業界内での優位性を失い、最終的に買収されて外資の傘下となってしまった。

このように中長期的な視点が欠如すると、選択と集中を成功させることは難しい。特に技術の進歩が目覚ましい業界では、短期的な計画だけではすぐに競争力を失ってしまうだろう。事業の将来性は大手企業でも見誤る可能性があるため、コア事業を絞る前には多方面から情報を収集し、じっくり分析する必要がある。

成功事例から学ぶ、選択と集中のポイント

選択と集中を実施する前に、成功事例もチェックしておきたい。成功事例からは経営戦略を考える際のコツや、実施する上で意識すべきポイントなどを学べる。

コツやポイントを押さえた上で計画を立てれば、選択と集中は有効な戦略となり得るため、以下の成功事例からそれらを読み取ってもらいたい。

1.不採算事業からの迅速な撤退と、強みを活かしたコア事業/株式会社日立製作所

大手電機メーカーである日立製作所は、リーマン・ショックの影響を受けた時期に選択と集中を実施している。同社は過去最大の赤字を計上した直後に、赤字の要因であったテレビの生産からいち早く撤退し、本業の重電に回帰した。

コア事業を重電に絞った日立製作所は、関連企業を非上場化したり売却したりして、次々と組織のスリム化を進めた。その結果同社は重電業界における優位性を取り戻し、順調に業績を伸ばしていった。

この事例のように、不採算事業から迅速に撤退し、自社の強みを最大限に活かせるコア事業に絞ることが選択と集中の成功につながる。したがって、コア事業を選択する前には、これまでのデータから自社の強みと弱みを徹底的に分析することが重要だ。

2.徹底した従業員へのケア/キヤノン株式会社

大手精密機器メーカーのキヤノンは、従業員の雇用を守りながら選択と集中を成功させた企業だ。同社は経営戦略の一環として、パソコン事業をはじめさまざまな事業から撤退したが、大規模な人員整理を頑なに避けてきた。

もちろん、撤退事業に携わっていた従業員は数多く存在した。そこで、キヤノンは事業からの撤退と同時に成果主義を導入する。さらに年功序列制度も廃止し、行き場を失った従業員が安心して働き続けられるような就労環境を整えた。

その結果、同社は雇用を維持しながら業績を見事に回復させた。このように、従業員をしっかりケアしながら施策を進めれば、優秀な人材を失うことなく安定した経営を実現できるのだ。

選択と集中の実施前には、現状の分析と綿密な計画を

選択と集中は万能な戦略ではないが、中長期的な視点をもってそれぞれのリスクを抑えれば、有効な経営戦略になり得る。ただし、そのためには注力するコア事業だけではなく、従業員や株主、顧客、取引先などへの影響を鑑みる必要があるだろう。

今回紹介した事例のように、思わぬトラブルが発生する恐れもあるので、選択と集中を実施する前に時間をかけて現状を分析し、できる限り綿密な計画を立てるようにしたい。

文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)