業務効率化や働き方改革が重要視される中、組織再編に興味を持つ経営者は多いだろう。最近では、グローバル化や多角化に適した「マトリクス組織」が注目を浴びている。リスクはあるが、導入に成功すればさまざまなメリットを実感できるだろう。

目次

  1. 働き方改革や業務効率化につながる「マトリクス組織」とは?
    1. プロジェクト型組織や機能型組織との違い
  2. 各企業に適したタイプを選ぶことが重要!マトリクス組織の3つの種類
    1. 1.バランス型
    2. 2.ストロング型
    3. 3.ウィーク型
  3. マトリクス組織を導入するメリットとデメリット
    1. マトリクス組織のメリット
    2. マトリクス組織のデメリット
  4. 難易度の高いマトリクス組織──導入前の課題と失敗例
    1. 1.従業員のケア不足による失敗
    2. 2.マネジメントの情報共有不足による失敗
  5. マトリクス組織の導入前にチェックしておきたい3つのポイント
    1. 1.マトリクス組織が適している企業の特徴
    2. 2.指揮命令系統の利害調整やルール作り
    3. 3.人事評価制度の見直し
  6. マトリクス組織の導入では、専門家に相談する方法も

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働き方改革や業務効率化につながる「マトリクス組織」とは?

マトリクス組織で業務効率化!導入前に知っておきたいポイント
(画像=snowing12/stock.adobe.com/)

働き方改革が叫ばれる昨今は、適材適所に人員を配置することが重要視されている。そのため、最近は人員の再配置を行うなど、組織構成の最適化に取り組む企業が増えてきた。

企業によって組織構成の種類は異なるが、最近注目されているのは「マトリクス組織」。マトリクス組織とは、一人の従業員が複数の部門やミッションに参加し、幅広い業務をこなしていくような組織構成のことだ。一人の従業員に対して、複数の上司(指揮命令系統)が存在する組織と考えればわかりやすい。

マトリクス組織を導入すると従業員の就労環境が大きく変わるため、働き方改革につながる可能性もある。個々の従業員の能力を活かす形で導入すれば、業務全体を効率化させることもできるだろう。

ちなみに、マトリクス組織は新しいものではなく、1960年代のアメリカで考案された。1970年代から1980年代にかけて導入に失敗する企業が増えたため、日本でもしばらく見られなかったが、2016年に大手自動車メーカーのトヨタが導入したことで注目を浴びた。

プロジェクト型組織や機能型組織との違い

企業の組織構成としては、他にプロジェクト型組織や機能型組織などがある。これらの組織構成とマトリクス組織は、何が違うのだろうか。

・マトリクス組織と他の組織構成の違い

組織構成の種類 概要・やマトリクス組織との違い
プロジェクト型組織 新しいプロジェクトを立ち上げるたびに、専門のチームを構成する組織。あくまで一時的な組織である点が、マトリクス組織と異なる。
機能型組織 組織のトップを指揮命令系統として、製造や販売などの各部門が存在する組織。各部門の指揮命令系統が一つなので、部門同士の連携や情報共有が難しい。
事業部制組織 製品別やブランド別など、事業部門別に分けられた組織。「事業部門単位」で組織を構成する点がマトリクス組織と異なり、事業間での連携や情報共有が難しい。

マトリクス組織は複数の指揮命令系統を持ち、かつ継続的な組織であるため、上記のいずれとも異なる。現在マトリクス組織は注目されているが、経営スタイルによっては別の組織構成のほうが望ましいケースもあるので、安易にマトリクス組織を導入するのは危険だ。

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各企業に適したタイプを選ぶことが重要!マトリクス組織の3つの種類

マトリクス組織は、大きく3タイプに分けられる。マトリクス組織の特性を最大限に活かすには、事業内容や規模、将来の目的などを踏まえた上で、各企業に適したタイプを選ぶことが重要だ。

それぞれのマトリクス組織の特徴について、詳しく解説していこう。

1.バランス型

バランス型は、それぞれのプロジェクトチームの中で責任者を選ぶ組織構成だ。すでにプロジェクトに関わっている人物がマネージャーになるので、情報共有や計画の策定などをスムーズに進められる。

ただしマトリクス組織の特性上、責任者となった人物はマネージャー業務だけを行うわけではない。通常の業務も同時にこなす必要があるため、基本的にはマネージャーに大きな負担がかかる。

2.ストロング型

ストロング型では、プロジェクトごとに専門の責任者を配置する。マネージャー業務に特化した人物が責任者となるので、指揮命令系統からの指示が明確になる。

プロジェクトに関わる人員の負担を抑えられる点も、ストロング型の大きな魅力だ。ストロング型は規模の大きい企業や、難易度の高いプロジェクトを抱える企業などで採用されることが多い。

3.ウィーク型

マトリクス組織の中で、特定の責任者を配置しない方法を「ウィーク型」という。ウィーク型のマトリクス組織では、従業員ひとり一人が自分で考えて行動するため、うまく機能すれば業務効率は大幅に向上するだろう。

ただし責任の所在が曖昧になったり、意思決定のスピードが遅れたりするといった、責任者が不在であることの弊害が生じやすいので注意したい。

マトリクス組織を導入するメリットとデメリット

マトリクス組織を導入するかどうかは、メリットとデメリットを正しく把握した上で判断すべきだ。マトリクス組織には魅力的なメリットがある一方で、深刻な経営リスクにつながるデメリットも潜んでいる。

具体的にどのようなメリット・デメリットがあるのか、詳しく解説しよう。

マトリクス組織のメリット

マトリクス組織を導入すると、各従業員が部署やチームの垣根を越えて業務を行うため、会社全体の意思や目標を統一できる。また、情報や意思の共有がスムーズになるので、職能部門と事業部門の相乗効果(業務効率の向上など)も期待できる。

さまざまな業務を任せることで、従業員一人ひとりの能力を活かせることも大きなメリットといえるだろうだ。マトリクス組織では各従業員が多方面から知識やスキルを吸収するため、製品やサービスの品質向上や人材育成にもつながる。

経営者や上層部の負担を軽減できることも、メリットの一つだ。

マトリクス組織のデメリット

マトリクス組織のデメリットとしては、組織が複雑化しやすい点が挙げられる。複数の指揮命令系統が存在するため、意見の対立や摩擦が起こるリスクは必然的に高くなる。

また、責任者のパワーバランスの維持が難しいことや、その下につく従業員のストレスが溜まりやすいこともデメリットといえる。マトリクス組織をうまく機能させるには、組織全体のバランスを考えて人員を配置しなければならない。

・マトリクス組織のメリットとデメリット

主なメリット 主なデメリット
・意思や目標を会社全体で統一できる
・業務効率が向上する
・品質が向上する
・従業員が成長する
・経営トップの負担が軽減される
・パワーバランスの維持が難しい
・従業員にストレスが溜まりやすい
・意見の対立や摩擦が起こりやすい

マトリクス組織は多方面にメリットをもたらすが、上記のデメリットはいずれも軽視できない。特に複数の指揮命令系統が対立すると、会社全体が混乱してしまう恐れがあるので、特にマネージャーは慎重にの選定する必要がある。

難易度の高いマトリクス組織──導入前の課題と失敗例

マトリクス組織にはさまざまなリスクがあるため、安易に導入すると失敗する可能性が高い。導入前に最優先で取り組んでおきたい課題として、「従業員のケア」や「マネジメント層の情報共有」が挙げられる。

マトリクス組織はその性質上、特定の従業員に負担が集中しやすいため、特に従業員のケアに注力しなくてはならない。では、これらの課題を解決しないとどのような失敗を招くのだろうか。ここでは、2つの失敗例を紹介しよう。

1.従業員のケア不足による失敗

業務効率が向上するからといって無理にマトリクス組織を導入すると、一部の従業員に業務が集中してしまう。指揮命令系統にあたる人物は優秀な従業員に業務を任せようとするため、複数の上司から命令を受けた従業員がパンクしてしまうのだ。

そもそもリソース(従業員数など)が不足している場合は、通常の業務をこなしながらマネジメントをする上司がパンクすることもあるだろう。場合によってはリソースの取り合いになるため、経営陣はリソースの最適な配分や各従業員のケアに注力しなければならない。

2.マネジメントの情報共有不足による失敗

マネジメントの情報共有不足も、リソースの取り合いや対立を引き起こす要因だ。各マネージャーが孤立したままプロジェクトを進めると、それぞれの部門の個性や主張が強くなり過ぎるので、チーム間に軋轢が生じてしまう。

情報共有が不足すると、プロジェクトが失敗した責任を押しつけ合ったり、チーム間で進捗が大きく異なったりするといった弊害が生じるだろう。このようなトラブルを防ぐためには、マトリクス組織をの導入する前に、スムーズに情報を共有ができるような環境を整えなければならない。

マトリクス組織の導入前にチェックしておきたい3つのポイント

マトリクス組織の導入前には、経営者をはじめとする上層部がさまざまなポイントをチェックしておかなくてはならない。ここでは、特にチェックしておきたい3つのポイントをまとめた。

失敗するリスクを少しでも抑えるために、これらを念頭に置いて導入を検討してもらいたい。

1.マトリクス組織が適している企業の特徴

マトリクス組織は、どのような企業にもフィットする組織構成ではない。例えば、現状を維持したい企業や小規模企業にとっては、リスクが高い組織構成といえる。

一方で、事業の多角化を目指している企業やグローバル化を予定している企業は、マトリクス組織が最善の選択肢となるかもしれない。プロジェクトの数や規模が大きくなると、チームごとにさまざまな業務を進める必要があるからだ。

同時にこなす必要がある業務を多く抱える企業は、マトリクス組織の導入を積極的に検討したい。

2.指揮命令系統の利害調整やルール作り

マトリクス組織を導入する上で、指揮命令系統の状態は重点的にチェックしておきたいポイントだ。指揮命令系統の間で利害の大きさに差があったり、リソースの使用ルールが曖昧になっていたりすると、どうしてもトラブルが発生してしまう。

マトリクス組織を導入する前に、指揮命令系統の利害を調整し、軋轢が生まれないようなルールを作る必要がある。利害調整やルール作りは、現場の状況を理解していないと進められないため、まずは各部署やチームの現状を把握するところから始めよう。

3.人事評価制度の見直し

マトリクス組織を導入すると、誰がどのような業務を行っているかわかりにくくなるため、人事評価制度の見直しも必要になる。マトリクス組織は一般的な組織構成とは特徴が大きく異なるので、それに特化した人事評価制度が求められる。

新たな人事評価制度の導入にあたっては、従業員一人ひとりの能力やスキル、社内での立場などを把握することも必要だ。事前にヒアリングなどを実施し、上層部が会社の現状を正しく理解しておかなければならない。

マトリクス組織の導入では、専門家に相談する方法も

マトリクス組織の導入を成功させるには、事前に高度な経営体制を築かなくてはならない。その上で各企業に適した組織構成を考える必要があるので、単に成功例を真似るだけでは失敗に終わるだろう。

導入前にさまざまな課題が浮き彫りになった場合は、経営コンサルタントなどの専門家に頼る方法もある。導入には時間とコストがかかるので、実際に導入するかどうかはリスクも踏まえ

文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)