働き方改革が叫ばれる現代では、高度プロフェッショナル制度の重要性が高まっている。雇用の安定にもつながる制度なので、人材不足に悩む経営者はぜひ知識をつけておきたい。導入体制を整えるためにも、重要なポイントを押さえておこう。

目次

  1. 働き方改革につながる「高度プロフェッショナル制度」とは?
    1. 裁量労働制との違い
  2. 上手に運用されていないケースも。高度プロフェッショナル制度の対象
    1. 年収要件
    2. 対象業務に関する要件
    3. その他の適用要件
  3. 高度プロフェッショナル制度を導入する3つのメリット
    1. 1.業務効率や生産性が向上する
    2. 2.過労などの労災問題を防止できる
    3. 3.従業員の雇用が安定する
  4. 高度プロフェッショナル制度のデメリットと注意点
    1. 1.従業員の健康が損なわれることも
    2. 2.成果が出ないと労働時間が増える
  5. 高度プロフェッショナル制度の展望と導入時のポイント
  6. 高度プロフェッショナル制度の導入前には万全の準備を

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働き方改革につながる「高度プロフェッショナル制度」とは?

高度プロフェッショナル制度で働き方を改善!導入のメリットは?
(画像=New Africa/stock.adobe.com)

高度プロフェッショナル制度とは、特定の専門知識や技能を持つ労働者に対して、労働成果によって算出した報酬の支払いを認める制度のこと。企業がこの制度を利用すると、労働基準法における「労働時間・休憩・割増賃金・残業代」に関する規定を除外できるため、労働時間ではなく労働成果に対して報酬を支払うことが可能になる。

高度プロフェッショナル制度は、2019年5月に働き方改革法案の中で可決された。働き方改革の影響で、現在「ワークライフバランス」や「多様な働き方」の重要性が多方面から叫ばれているが、従来の制度や企業文化ではこれらを満足に実現することは難しい。特に日本における「労働時間に対して報酬を支払う」という考え方は、働き方改革の推進を阻害する要因となっていた。

そこで、すでに海外で導入されている「ホワイトカラーエグゼンプション」を参考に考案された制度が、今回解説する高度プロフェッショナル制度である。この制度をうまく活用すると、どのような企業でも働き方改革をわかりやすい形で実現できるため、特に後述する対象者が多い企業は概要をしっかり理解しておきたい。

裁量労働制との違い

国内の労働法制で採用されている「裁量労働制」も、労働成果に対して報酬を支払うことを目的にした制度だ。

この制度では、各従業員の労働時間や残業時間をあらかじめ想定し、仮に実働時間が違ったとしても「みなし残業代」を含めた形で報酬を支払う。つまり、予定していた業務が早く終われば早く帰宅できるため、従業員の立場からするとワークライフバランスを実現しやすい。

このように、裁量労働制の性質は高度プロフェッショナル制度と似ているが、実はこれらの制度には以下のような違いがある。

・高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の違い

高度プロフェッショナル制度 裁量労働制
・対象となる業務 高い専門知識や技能が必要となる特定の業務 幅広い業務が対象
・従業員の年収要件 あり なし
・残業代の有無 なし みなし労働時間が想定していた時間を超えると、残業代が発生
・割増賃金の有無 なし 労働する時間帯によっては、休日や深夜の割増賃金が発生

上記のとおり、裁量労働制は高度プロフェッショナル制度とは似て非なる制度なので、混同しないように注意したい。

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上手に運用されていないケースも。高度プロフェッショナル制度の対象

高度プロフェッショナル制度には、大きく分けて「年収要件」と「対象業務」の要件が設けられている。経営者や担当者がこれらの要件を理解しておかないと、この制度をスムーズに導入することが難しくなる。

ここからは、設けられている要件について詳しく解説していく。

年収要件

高度プロフェッショナル制度を導入するには、従業員に対して年間1,075万円以上の報酬を支払わなくてはならない。これは、厚生労働省が定める「基準年間平均給与額の3倍を相当程度上回る水準」をもとに算定された年収額だ。

なお、業績や成果に応じて支給されるボーナスなど、金額が不確定なものはこの報酬額に含められない。年収として認められるものは、事前に支払いが確定している賃金(ボーナスの最低保証額や一定額の手当など)のみだ。

対象業務に関する要件

高度プロフェッショナル制度の対象業務には、以下の3つの要件が設けられている。

【1】高い専門知識や技能を必要とし、労働時間と成果の関連性が高くないこと
【2】労働時間に関して、使用者から具体的な指示を出していないこと
【3】該当する事業場における労使委員会が、事前に決議した業務であること

2021年2月時点では、対象が以下の業務に限定されていることも押さえておきたい。

・高度プロフェッショナル制度の対象業務

対象業務 具体例
1.金融工学などの知識を用いる金融商品の開発業務 金融商品の開発者
2.金融商品のディーリング業務 ディーラー、トレーダー、ファンドマネージャー
3.企業や市場に関する高度な分析業務 アナリスト
4.事業などの企画運営に関する、高度な考案・助言の業務 コンサルタント
5.新たな技術や商品、役務の研究開発業務 メーカーなどの研究員

高度プロフェッショナル制度の対象業務は将来拡充される可能性があるため、導入を検討している経営者は常に最新情報をチェックしておこう。

その他の適用要件

上記の他、高度プロフェッショナル制度の導入には「労使委員会の設置」も必要だ。対象となる事業場に労使委員会を設置し、運用に必要な事項を決議(委員の5分の4以上の賛成が必要)しない限り、制度を導入することが認められない。

また、業務内容や成果に関するルールを明記した「職務記述書」を作成した上で、労働者からの合意が必要になることも覚えておきたい。導入前の準備には時間がかかるため、スムーズに導入したい経営者は早めの行動を心がけよう。

高度プロフェッショナル制度を導入する3つのメリット

企業が高度プロフェッショナル制度を最大限に活かすためには、同制度のメリットを正しく理解しておくことが必要だ。メリットを把握しておくと、制度に適した経営体制を整えやすくなる。

細かく見ればさまざまなメリットが考えられるが、ここでは経営者が特に押さえておきたい3つのメリットを紹介する。

1.業務効率や生産性が向上する

高度プロフェッショナル制度を導入すると、労働者の時間的な自由度が高まる。従業員によっては、プライベートの時間を増やすために全力で業務に取り組むので、モチベーションアップによる業務効率や生産性の向上を期待できる。

また、残業代や各種手当を目当てにした「無駄な労働」がなくなることも、企業にとっては大きなメリットといえるだろう。

2.過労などの労災問題を防止できる

過労をはじめとした労災リスクを抑えられることも、高度プロフェッショナル制度を導入するメリットだ。効率的に業務をこなす従業員は、一般的なサラリーマンよりも労働時間を短縮できるため、身体的・精神的な負担を軽減できる。

また、各従業員が自分の体調を気にしながら労働時間を調整すれば、過労などのリスクはさらに抑えられるだろう。

3.従業員の雇用が安定する

高度プロフェッショナル制度には、従業員の雇用を安定させる効果もある。労働時間の制限がなくなると、それぞれの従業員が理想的なワークライフバランスを実現しやすくなるためだ。

さまざまな業界で労働力不足が嘆かれる現代において、雇用が安定するというメリットは大きい。

高度プロフェッショナル制度のデメリットと注意点

上記のメリットに魅力を感じたからといって、高度プロフェッショナル制度を安易に導入すべきではない。高度プロフェッショナル制度にもデメリットや注意点があるため、導入前にはそれらを正しく把握する必要がある。

特に押さえておきたいデメリットや注意点を紹介しよう。

1.従業員の健康が損なわれることも

高度プロフェッショナル制度は労働成果を基準とするため、個々の能力次第では従業員の健康が損なわれることもある。労働時間は決められていないが、一定の成果を出すまでは作業を止めることが難しいからだ。

また、成果主義の風潮が強くなり過ぎると、従業員には大きなプレッシャーがかかってしまう。身体的な負担だけではなく、場合によっては精神疾患を抱えてしまうリスクもあるので、就労環境は慎重に整えなくてはならない。

2.成果が出ないと労働時間が増える

高度プロフェッショナル制度では、とにかく成果を出すことが求められる。成果が出ないと報酬が発生しない仕組みなので、場合によっては一般的なサラリーマンの労働時間を超えてしまうこともあり得る。

いうまでもないが、労働時間が間延びするようでは働き方改革やワークライフバランスは実現できない。高度プロフェッショナル制度の導入が、かえって従業員の首を絞める可能性もあるのだ。

・高度プロフェッショナル制度のメリットとデメリット

主なメリット 主なデメリット
・業務効率や生産性が向上する
・労災問題を防止できる
・従業員の雇用が安定する
・従業員の健康が損なわれることも
・成果が出ないと労働時間が増える

高度プロフェッショナル制度には魅力的なメリットがある一方で、致命的なリスクにつながるというデメリットも潜んでいる。特に長時間労働のリスクがある点は強く意識して、体制を整えなくてはならない。

労働者を守るため、同制度では健康面に関する措置がいくつか義務づけられているが、企業によっては独自に制度を設ける必要が生じるかもしれない。

高度プロフェッショナル制度の展望と導入時のポイント

働き方改革が叫ばれる昨今では、労働者に関するさまざまな法律・制度が整備されている。高度プロフェッショナル制度もその一つであり、特に労働時間に関するルールは世界的に見直されているため、日本でも同制度の重要性は高まっていくだろう。

しかし現段階では、長時間労働や賃金格差が生じる懸念もある。改善の余地がある制度なので、今後適用要件や対象業務が変更される可能性が高い。

企業が高度プロフェッショナル制度を導入する際は、「人事評価制度」を抜本的に見直す必要がある。従来の評価制度のまま導入すると、成果を適切に評価できなくなるため、従業員の間に不公平感が生じてしまう。

また、従業員の健康リスクが高まる恐れがあることも、経営者が強く意識しておきたいポイントだ。理想的な就労環境を整備するためには、常に最新情報をチェックした上で企業側も独自に体制を整える必要があるので、高度プロフェッショナル制度を導入する前にきちんと計画を立てるようにしよう。

高度プロフェッショナル制度の導入前には万全の準備を

働き方改革の実現を目指す経営者にとって、高度プロフェッショナル制度はうってつけの制度といえる。しかし、この制度には注意しておきたいデメリットも潜んでいるため、安易に導入を決めるべきではない。

かえって労働者の負担を増やす結果にならないよう、導入前には制度の概要をしっかり理解した上で、万全の体制を整えたい。

▽署名フォーマット
文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)