企業倫理は企業活動をしていく上で重要かつ守るべき倫理的な考え方のことをさす。各企業が独自に定める行動規範であり、社会の中で信頼を得ながら事業活動を行う上で重要なものである。企業倫理の基本や作成する意義などをを解説する。

目次

  1. 企業が社会の中で守るべき「企業倫理」とは?
    1. 企業倫理を作成する意義
    2. 企業倫理と企業の法令遵守の違い
    3. 企業倫理とCSRの違い
  2. 行動指針やコンプライアンス…。企業が実践する3つの事例
  3. 不祥事防止強化を目的に定められた企業倫理月間
  4. 企業倫理とも関わりが深い主要法令
  5. 不正や不祥事を未然に防ぐためにも必要不可欠
隈本稔
隈本稔
長崎大学生産科学研究科を修了後、大日本印刷と東レにて製品開発・生産技術職に従事。現在は、長崎にて中小企業を中心にプロジェクト計画・実行支援やスタートアップ支援を行なっている。また、国家資格キャリアコンサルタントを取得し、求職者や企業における社員のキャリア設計・採用定着・対人トラブル改善のコンサルを行なっており、webメディア「職りんく」(https://syokulink.com)を運営している。

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企業が社会の中で守るべき「企業倫理」とは?

今なぜ企業倫理が必要なのか?CSRとの違いを解説
(画像=patpitchaya/stock.adobe.com)

「企業倫理」とは、それぞれの「企業」が独自に定めた「倫理」のことである。

「倫理」とは、道徳やモラルとも言われるものであり、「集団の中で守るべき行動」という意味がある。つまり、企業倫理とは、企業が人や環境の集合体である社会の中で、守るべき「行動規範(ルール)」と言い換えることができる。

倫理は、法律とは違って必ずしも明確なルールがあるわけではない。あくまで企業が自発的に定めた独自の行動規範であるため、各社が定めている企業倫理は同じではない。

しかし、企業が持続的に社会貢献をしながら存続するためには、最低限意識すべき規範があるため、企業倫理には似通った部分も多い。

・企業倫理は「SDGs」の達成にも必要

企業が果たすべき社会的責任に関しては、国際規格である「ISO26000」があり、世界的に持続可能な社会の発展を目指した企業活動が評価されている。2015年の国連サミットでは、「SDGs(持続可能な開発目標)」が採択され、国際的な目標として17のゴールとや169のターゲットを掲げており、SDGsへの意識が世界的に高まる中で、日本企業においてもSDGsに取り組むことが企業のメリットとして捉えられるようになってきた。

日本経済団体連合会(日本経団連)は、日本企業が果たすべき社会的責任を明確にするために『企業行動憲章』を定めており、これまでさまざまな改定を行ってきた。2010年の改定では、持続可能な社会の達成に向けて、企業が企業倫理を徹底しながら企業活動を行うことを目標として掲げている。

「SDGs」のようなグローバルな目標達成のためには、各社による企業倫理の制度化は必要不可欠なのである。

企業倫理を作成する意義

企業が、社員を雇用して事業活動を行う以上は、何かしらの不正や不祥事が発生することがある。

企業として定めた企業倫理がなく、社員個人の倫理観だけに任せていては、何を以って不正や不祥事と判断するかなどの認識にも違いが出てくる。そして、ひとたび不正や不祥事が発覚すると、企業の社会的信頼を著しく損ねてしまう恐れがある。

企業倫理を作成して社内で周知させれば、企業がモラルを持って守るべき規範を、社員に示すことができる。個人間での行動規範や不正等に対する意識が異なる中でも、企業倫理という共通の基準があれば、不祥事等の発生を減らすことはできるだろう。

また、企業倫理を外部に公開することで、企業が不正や不祥事を発生させないためのルールを決めて取り組みを行なっており、社会に対して開かれた存在であることを示すこともできるのだ。

企業倫理と企業の法令遵守の違い

企業が社会の中で持続的に事業活動を行うためには、行動規範を守りながら活動しなければならない。社会における行動規範の一つである「法律」は、自分以外の者が定めた他律的な規程であり、破ることで罰則などが課せられる。「倫理」とは、自律的に定めた守るべき規程であるため、それぞれは補完的な立場にある。

「倫理:自律的な規範」と「法律:他律的な規範」の間には明確な違いがありながらも、切っても切れない関係にあるため、しばしば言葉自体は混同されてしまっている。

企業倫理とは、前述の通り、企業がモラル的な判断から自ら定めた規範を守ることである。企業倫理には、働く環境や道徳的な考え方など、法律だけではカバーできないような範囲をルール化した決まりも含まれる。法令遵守は「コンプライアンス」とも呼ばれており、企業経営に関連する『独禁法』や『労働基準法』『労働安全衛生法』などの法律を守るという意味で、企業倫理とは厳密には異なっている。

ただ、企業倫理を徹底している企業はコンプライアンス意識も高いといわれている。企業がコンプライアンスを維持するためには、まずは企業倫理を定めることが重要なのである。

企業倫理とCSRの違い

企業倫理と関係が深い言葉である「CSR:Corporate Social Responsibility」は、日本語で「企業の社会的責任」と訳されている。

企業が利益至上主義に走らず、市民や取引先、投資家や従業員などを含めたステークホルダー(利害関係者)に対して、そして環境を含めた社会全体に対しての責任を果たすために、戦略を持って行動することだ。

企業倫理は企業が独自に定めた「ルール」であり、CSRとは、企業倫理を徹底しながら社会的な責任を果たす「行動」のことを指す。企業価値を高めるためには、CSRの徹底によってステークホルダーの期待に応える必要があるのだ。

日本経団連は、2004年に『企業の社会的責任(CSR)推進にあたっての基本的考え方』を発表し、日本企業に対してCSRへの取り組み強化を促している。また、『企業行動憲章』に記載されている10ヵ条は、ステークホルダーとの関わりについても記載されており、CSRの指針にもなっている。

CSRに関する取り組みを行うためには、『企業行動憲章』にあるように、企業倫理を高い次元で守り、定められた法律を守るコンプライアンスの徹底が不可欠である。

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行動指針やコンプライアンス…。企業が実践する3つの事例

具体的な事例として社会的にも評価の高い3社の企業倫理に関する取り組みを紹介する。

・大林組

大手ゼネコン大林組では、事業活動の行動指針として「企業行動規範」を定めており、その中に企業倫理の徹底や具体的な取り組みについて記載されている。定款の第3条においても、倫理観を持ち独占禁止法などの法令を遵守する旨が盛り込まれている。

企業倫理徹底のための組織づくりとして、企業倫理委員会や責任者・推進者の設置はもちろん、企業倫理推進体制図も開示されている。また、自社の企業倫理に反する行動を発見した際には相談窓口に報告でき、即時に通報される流れとなっている。

・NTT西日本

NTT西日本では、自社の不正や不祥事の防止、不正の隠蔽抑止などの4つの視点を盛り込んだ「NTTグループ企業倫理憲章」を制定しており、企業倫理やコンプライアンスに対するグループ全体での意識統一を図っている。

大林組と同様に、企業倫理委員会や不正等の内部通報制度も設置しており、法令遵守や事業運営の効率化などを目的として、内部統制システムについても整備を行なっている。

・サントリーグループ

サントリーグループでは、「サントリーグループ企業倫理要領」を定めており、サントリーグループが信頼を築くための土台として、社員一人ひとりが大切にしなければならない基本姿勢を定めている。法律遵守はもちろん、客、取引先、地域・国際社会、自然環境、従業員など、関わるすべてのステークホルダーの期待に応える、より高い水準の倫理的考動を追求し、実践することを目指している。

企業倫理要領の中では、顧客志向の実践やダイバーシティの実現、環境保全や社会貢献などを含めた主要6項目や、主観部署や監査の取り決め、通報窓口の設置などについても記載されている。

ここで紹介したいずれの企業も、企業倫理の徹底においてコンプライアンスの重要性も記載している。また、不正等の相談窓口の設置により、自社の企業倫理を高いレベルで保つための組織や管理体制の構築を意識していることがわかる。

不祥事防止強化を目的に定められた企業倫理月間

日本経団連は、日本における企業倫理やCSRの確立をサポートし続けてきた。1991年には企業の社会的役割を記載した『経団連企業行動憲章』を制定しており、2002年には『企業行動憲章』へと改定した上で、企業の不祥事防止強化を目的として、毎年10月を「企業倫理月間」と定めた。

「企業倫理月間」では、企業が高い企業倫理を改めて意識した上で、社会的責任を果たすことを促しており、各社が独自に「コンプライアンス強化月間」などと設定して活動を行っている。具体的には、企業倫理やコンプライアンスに関する意識調査や、管理職や社員向けのセミナー、グループ報や啓発ポスターによる周知などを実施している。

形骸化しがちな、企業倫理やコンプライアンスに関する取り組みに対して、毎年決められた期間に再度意識づけをする意味でも重要である。自社でも、企業倫理月間に合わせて、社員と一緒に企業倫理やCSRに関する活動を実施してみてはいかがだろうか。

企業倫理とも関わりが深い主要法令

企業倫理とコンプライアンスは切っても切れない関係にあり、企業倫理を守って社会の信頼を維持するためには、主要法令を遵守する意識も重要である。ここでは、企業の不正や不祥事に直接関係する可能性の高い、主要法令についていくつか紹介する。

・知的財産基本法関連

知的財産権に関連する法律としては、「特許法」や「著作権法」などがある。企業が、他社や個人の知的財産権を侵害して商品やサービスを提供することは禁じられており、意図していなくとも罰則の対象となる。

・独占禁止法関連

独占禁止法は、各企業が公正さを守りながら、自由な競争ができるような経済社会の構築を目的としている。複数企業によるカルテルや私的独占などを行なった場合には、故意でなかったとしても責任を問われる。

独占禁止法には、補完的な法律として「下請法」があり、親事業者の下請け企業に対する不当な取り扱いを規制している。

・人権・労働法関連

人権侵害や労働に関する法律には、「労働基準法」や「男女雇用機会均等法」、「障害者差別解消法」などさまざまなものがある。特定の顧客などに対する差別はもちろん、社内外におけるセクハラやパワハラ、マタハラなどの「ハラスメント行為」の防止も必要である。

・個人情報保護法関連

インターネットを利用したサービスが増える中、顧客情報などの個人情報の流出は、法律違反であるだけでなく、顧客以外の一般市民からの信頼も損ねる。

企業は、プライバシーポリシー(個人情報保護方針)などを作成して、自社の個人情報に対する保護意識や情報の取り扱い方について外部に示していく必要がある。

不正や不祥事を未然に防ぐためにも必要不可欠

企業倫理は、企業が独自に定めた経済社会の中での行動規範である。企業倫理を徹底することは、不正や不祥事といった企業の問題を防ぐ意味でも重要だ。

企業倫理は、コンプライアンスやCSRの徹底のためにも必要不可欠であり、それぞれは切っても切れない関係にある。企業倫理に関しては、社員それぞれの倫理観に任せている企業もあるが、企業としての明確な指針を内外に示すことは、コンプライアンスやCSRの観点からも重要である。

「企業の持続的な価値向上」というステークホルダーと企業の共通目標を達成するためにも、自社の企業倫理を明確に作成・公開し、企業倫理月間のような期間を活用した、定期的な企業倫理活動を実施してみてはいかがだろうか。

文・隈本稔(キャリアコンサルタント)