新型コロナウイルスの感染拡大下においては、景気動向は読みにくい。こうした中、今後の景気を予測する上ではさまざまな「指標」が役に立つ。特に鉱業・製造業の生産動向や設備稼働率を示す「鉱工業指数」は信頼できる数値としてチェックしておきたい。
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「鉱工業指数(IIP)」から何が分かる?

景気の先行きについて、誰もが100%正確なことは言えない。しかし、国が発表しているさまざまな指標を用いて予測することは可能である。「鉱工業指数(IIP)」も、こうした指標の一つとして代表的なものだ。
この指数は、経済産業省が鉱工業製品を生産する国内事業所の生産状況等を調査し、毎月公表しているものだ。鉱工業製品は幅広く、金属製品工業や電気機械工業、食料品・たばこ工業など、全496品目にもなる。
・鉱工業指数は以下の8種類で構成されている。
指数 | ウェイト | 品目数 |
1.生産(付加価値額ウェイト) | 付加価値額 | 496 |
2.生産(生産額ウェイト) | 生産額 | 496 |
3.生産者出荷 | 出荷額 | 496 |
4.生産者製品在庫 | 生産者製品在庫額 | 358 |
5.生産者製品在庫率 | 生産者製品在庫額 | 342 |
6.稼働率 | 生産能力付加価値評価額 | 163 |
7.生産能力 | 付加価値額 | 163 |
8.製造工業生産予測 | 付加価値額 | 195 |
総務省「鉱工業指数の種類(指数系列)」を参考に作成 ※1から5は速報が翌月下旬までに、各方は翌々月中旬までに公表される。6と7は翌々月中旬、8は翌月下旬に公表。
この指数を読み解くことで、日本国内の企業による鉱工業製品の生産・出荷・在庫に関する動きや設備の稼働状況、さらには今後の生産の見通しなどを把握できる。
鉱工業指数が重要なのは、製造業が日本の基幹産業だから
日本にはさまざまな産業がある中で、鉱業・製造業の動きを示す鉱工業指数が景気の動向を予測する上で特に重要なのはなぜだろうか。
それは、日本において製造業が基幹産業の一つであるからだ。GDP(国内総生産)における経済活動別の構成比で製造業は約20%を占め、全業種の中でトップとなっている。なお、卸売・小売業や不動産業は10%台となっている。
また、鉱工業は景気が悪ければ生産を減らし、逆に良ければ生産を増やすという形で、サービス業よりも景気変動を反映しやすい面もある。こうしたことから、鉱工業指数を読み解くことで日本の今後の景気動向が見えやすくなるわけだ。
最新の鉱工業指数から生産トレンドを読み解く
それでは、鉱工業指数の最新動向を解説していこう。経済産業省が2021年1月29日に発表した2020年12月分の鉱工業指数では、生産指数(季節調整済)が前月比マイナス1.6%の93.2、生産者出荷指数(同)がマイナス1.6%の92.3だった。
この数字だけみると生産が落ち込んでいるように見えるが、指数をさかのぼってみていくと、あるトレンドが見えてくる。以下が2020年1~12月までの生産指数の推移だ。
<鉱工業指数における生産指数(季節調整済)>
年・月 | 生産指数(季節調整済) | 前月比 |
2020年1月 | 99.8 | 1.0% |
2020年2月 | 99.5 | -0.3% |
2020年3月 | 95.8 | -3.7% |
2020年4月 | 86.4 | -9.8% |
2020年5月 | 78.7 | -8.9% |
2020年6月 | 80.2 | 1.9% |
2020年7月 | 87.2 | 8.7% |
2020年8月 | 88.1 | 1.0% |
2020年9月 | 91.5 | 3.9% |
2020年10月 | 95.2 | 4.0% |
2020年11月 | 94.7 | -0.5% |
2020年12月 | 93.2 | -1.6% |
※出典:経済産業省公式ホームページ 新型コロナウイルスの感染拡大が本格化し始めた2020年3月から5月にかけ、生産指数は大きな落ち込みを見せているが、その後は徐々に回復していることが分かる。
直近では2020年11月と12月は前月比でマイナスとなっているが、中期的にみれば生産を持ち直しているトレンドなのだ。経済産業省も2020年12月分の発表において「総じてみれば、生産は持ち直している」と分析している。
今後の生産は「製造工業生産予測指数」を参考に
今後の生産状況はどのように推移していくのだろうか。この点については「製造工業生産予測指数」の結果を参照すれば良い。製造工業生産予測指数における2021年1月見込みは、前回調査からプラス1.8ポイントの8.9となっている。つまり、鉱業・製造業による生産活動はさらに活発になる見通しだ。
そして、このように生産活動が徐々に持ち合わせのトレンドにあるということは、企業による設備投資が徐々に増えていくことにもつながっていく。
設備投資が増えると、その分、関連設備などを扱う企業の売上が高まり、日本の基幹産業である製造業からさまざまな業種に良い影響が広がっていく。
終息しないコロナ禍、まだ楽観できない
指数の推移からは、生産は持ち直しトレンドにあり、設備投資も今より活発になることが予想される。ただし、現在はまだ新型コロナウイルスの感染拡大が終息しておらず、楽観を許さない。
日本政府のワクチン接種が計画通りに進むのか、2021年7月に延期された東京オリンピック・パラリンピックは本当に開催されるのか……。こうした懸念が最終的にどうなるかによって、鉱業・製造業の生産動向も少なからず影響を受けるだろう。
景気動向を読む上では、依然としてしばらくは平時に増して、経済産業省が毎月発表している鉱工業指数の推移をしっかりと注視していく必要がありそうだ。
文・BUSINESS OWNER LOUNGE編集部