移転価格税制を理解しておくと、海外子会社と取引をする場合の課税リスクを抑えられる。制度の仕組みは複雑だが、今回は分かりやすいようにポイントに分けて概要をまとめた。海外展開を視野に入れる経営者は、これを機に必要な情報と準備をチェックしていこう。

目次

  1. 海外展開に欠かせない「移転価格税制」とは
  2. 移転価格税制の押さえておきたい5つのポイント
    1. 1.移転価格税制の対象
    2. 2.独立企業間価格の算定方法
    3. 独立企業間価格の主な算定方法
    4. 3.国による移転価格税制の違い
    5. 4.税務調査のリスクを抑える「事前確認制度」
    6. 5.課税を受けてしまったときの対処法
  3. 具体的にどんなケースが移転価格税制の対象になる?
    1. 1.国外関連者と取引を行うとき
    2. 2.国外関連者から利息を回収するとき
    3. 3.国外関連者に利益を移転させるとき
  4. 移転価格税制のリスクに備えて、企業が取り組むべき3つの準備とは?
    1. 1.役員などの関係者に事前説明をしておく
    2. 2.英語の書類を作成・確認できる体制を整えておく
    3. 3.専門家の活用を考える
  5. 悩みを抱えたら、無理をせずに専門家への相談を

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海外展開に欠かせない「移転価格税制」とは

海外展開に欠かせない移転価格税制とは?対象ケースや算定方法を解説
(画像=PIXTA)

移転価格税制は、海外の子会社と取引を行う場合に、その取引価格を独自の基準によって計算することが義務づけられる制度だ。この制度を正しく理解しておかないと、海外子会社と取引をした場合に新たに課税されてしまうリスクが生じる。

この制度は海外子会社との間で取引価格を操作し、不当に節税する行為を取り締まる目的で実施されている。例えば、日本国内にあるA社と、海外子会社にあたるB社(※税金が発生しない地域と仮定)が取引をするとしよう。

このとき、A社が本来は100万円で販売している製品をB社に対して80万円で販売すると、20万円分(100万円-80万円)の利益を海外に移転した状態になる。つまり、A社は海外子会社に対する販売価格を下げることで、税金面で大きな得をしたことになるのだ。

移転価格税制ではこのような節税を取り締まるために、該当するケースについては「独立企業間価格」と呼ばれる基準で取引価格を計算し直すことを義務づけている。

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移転価格税制の押さえておきたい5つのポイント

移転価格税制は海外の税制が絡む制度なので、最初から仕組みをすべて理解することは難しい。そのため、まずは分かりやすい部分から概要をチェックし、少しずつ理解を深めていくことが重要だ。

経営者が特に押さえたい5つのポイントをまとめたので、一つずつ確認していこう。

1.移転価格税制の対象

移転価格税制の対象者は、「国外関連者」と呼ばれる外国法人と取引を行う国内法人である。国外関連者とは、発行済株式総数の50%以上を保有している外国法人や、実質的に支配している(取引依存や資金依存が高いなど)外国法人を指す。

つまり、取引をしている外国法人が海外子会社にあたる場合は、基本的に移転価格税制の対象に含まれる。該当する法人の株式を保有していなくても、実質的な支配が認められれば制度の対象になるため注意しておきたい。

2.独立企業間価格の算定方法

日本国内の独立企業間価格は、「OECD移転価格ガイドライン」に基づいて以下のような方法で算定される。

独立企業間価格の主な算定方法

・独立価格比準法(CUP法) 非関連者の類似の取引を参照し、その取引価格と比較して独立企業間価格を判断する方法。
・再販売価格基準法(RP法) 取引価格ではなく、粗利益の額を非関連者の類似の取引と比較する方法。主に海外子会社から仕入れた製品を、グループ外に再販売する場合に用いられる。
・原価基準法(CP法) 売上原価に対する粗利率を、非関連者の類似の取引と比較する方法。

上記のほか、「利益分割法」や「取引単位営業利益法」、「ディスカウント・キャッシュフロー法」などの算定方法もあるが、基本的には上記でまとめた3つ(※総称して「基本三法」と呼ばれる)が採用されている。算定方法の選び方については、各事案に合わせて最も適切な方法を選ぶことが求められるため、経営者や経理担当者は各算定方法の仕組みをきちんと理解しておくことが重要だ。

3.国による移転価格税制の違い

移転価格税制の概要は、実は国によって大きく異なる。日本の移転価格税制は世界的に見ても厳しいが、そのほかに厳しい地域としては欧米諸国や中国などが挙げられる。

では、仮に日本企業とアメリカの子会社が取引をする場合、2つの国から同時に納税を求められるのだろうか。結論から言えば、答えはノーだ。移転価格税制を導入する国では、二重課税を防ぐ目的で「関係国間の相互協議の申し立て」が認められているため、この協議がスムーズに進めばどちらか一方の国で納税をすることになる。

ただし、状況次第では各国間のトラブル(税金の取り合いなど)に巻き込まれる恐れがあるので、国外関連者と取引を行う場合は、事前に取引に関する方針やルールを明確にしておく必要がある。

4.税務調査のリスクを抑える「事前確認制度」

海外子会社と取引を行っている企業は、税務調査のリスクを抑えるために「事前確認制度」と呼ばれる制度もチェックしておきたい。これは、企業が算定した独立企業間価格に関して、その妥当性を税務当局から容認してもらう制度のことだ。

事前確認制度の申し立てを行った結果、税務当局が妥当性を認めた場合には、一定期間(通常3~5年)否認されない状況を作り出せる。ちなみに、事前確認制度は日本以外の国にも存在するが、処理されるまでの期間が長いことから、特に中小企業に関しては日本の制度のみ利用される場合が多い。

5.課税を受けてしまったときの対処法

企業が算定した独自企業間価格が否認されると、国内もしくは海外のいずれかで課税されることになる。では、課税を受けてしまった場合は、どのように対処すべきなのだろうか。

シンプルな対処法としては課税額をそのまま支払う方法が考えられるが、実は海外子会社が租税条約を締結している国に所在する場合は、相互協議によって税負担が軽減される可能性がある。また、この相互協議が解決に向かわないケースでは、不服の申し立て手続きを別途行うことが可能だ。

この辺りの対応も海外子会社の地域によって変わってくるため、現時点で海外展開を目指している経営者は、現地のルールや日本との関係性を細かく把握しておきたい。

具体的にどんなケースが移転価格税制の対象になる?

移転価格税制に関する基礎知識のなかでも、「対象となるケース」は経営者が確実に理解しておきたいものだ。移転価格税制の対象ケースは、大きく以下の3つに分けられる。

予定している海外展開のプランと見比べながら、対象に含まれるかどうかを慎重に判断していこう。

1.国外関連者と取引を行うとき

海外子会社などの国外関連者と取引を行う場合は、日本もしくは外国から課税される恐れがある。そのため、該当する企業は事前確認制度の申し立てをしたり内部統制を整えたりなど、移転価格税制への対応をしなければならない。

なお、国外関連者の地域によっては相互協議が成立することもあるが、これは日本と租税条約を締結している国に限った話だ。仮に租税条約が結ばれていない地域の国外関連者と取引をすると、一方的に課税されるリスクがあるので注意しておきたい。

2.国外関連者から利息を回収するとき

商品の取引だけではなく、国外関連者から利息を回収する場合も移転価格税制の対象となる。利息に対する独自企業間価格も、類似のケースと比較する形で基準額が決定されるため、該当する企業は事前に情報収集をしておかなくてはならない。

なお、比較対象となるケースが存在しない場合は、借り手・貸し手それぞれの銀行からの調達レートを参考に独自企業間価格を決めることになる。

3.国外関連者に利益を移転させるとき

世界の国々と比べると、日本の法人税などは税率が高い傾向にある。したがって、仮に意図していなくても国外関連者に利益が移転した場合は、高い確率で移転価格税制の対象に含まれるので注意が必要だ。

課税が発生しない形で利益を移転させるには、その利益と関連するリスクなども一緒に移転させる必要がある。つまり、節税を目的とした利益の移転は原則として認められないため、利益を移転させるときには細心の注意を払っておこう。

移転価格税制のリスクに備えて、企業が取り組むべき3つの準備とは?

移転価格税制によって新たに課税されるリスクを抑えるには、万全の準備を整えたうえで海外進出に臨む必要がある。そこで次からは、国外関連者と取引を行う前に済ませておきたい3つの準備をまとめた。

いずれの準備も海外進出には欠かせないものとなるので、海外を視野に入れている経営者はしっかりと読み進めていこう。

1.役員などの関係者に事前説明をしておく

社内の意識が統一されていないと、海外取引をスムーズに進めることは難しい。国内取引に比べると、海外取引はただでさえ大きな手間がかかるので、意思決定に時間がかかると取引の目的を果たせなくなってしまう恐れがある。

したがって、海外子会社と取引を行う前には、役員などの関係者にきちんと事前説明をしておくことが重要だ。場合によっては、株主や経理担当者など多方面への説明が必要になるため、移転価格税制に向けた準備は早めに取りかかるようにしよう。

2.英語の書類を作成・確認できる体制を整えておく

移転価格税制は海外の税制が絡むので、関係書類は英語で記載されているケースが多い。そのため、英語の書類を作成・確認できる体制を整えておくと、必要な手続きをスムーズに進めやすくなる。

また、海外子会社との取引を長期間続けるのであれば、いずれにしろ英語は高い確率で必要になる。最初は英語の書類を確認できる程度で問題ないが、できれば英語書類を作成できるレベルまで体制を整えておきたい。

3.専門家の活用を考える

移転価格税制への対応で悩んでいる経営者には、専門家の活用をおすすめしたい。例えば、移転価格制度を専門的に取り扱っている税理士を頼ると、より効果的な経営戦略を提案してもらえる可能性がある。

幸いにもグローバル化が進んでいる現代では、海外税務を得意とする税理士が数多く存在している。もちろんコストは発生するが、課税のリスクを大きく抑えられると考えれば、支払ったコスト以上のメリットを実感できるはずだ。

ただし、実際に提供されるサービスや報酬体系は税理士事務所によって異なるため、相談先を選ぶ工程でも情報収集は欠かせない。相談先が自社の命運を左右することもあるので、契約を結ぶ税理士は慎重に選ぶようにしよう。

悩みを抱えたら、無理をせずに専門家への相談を

将来的に海外進出を目指している経営者にとって、移転価格税制に関する知識は必須となる。特に本記事で紹介した5つのポイントは、まずは確実に理解しておきたい情報だ。

ただし、移転価格税制はやや複雑な制度であり、なかでも独立企業間価格の算定方法には悩まされやすい。どうしても理解が難しい場合や判断に迷った場合は、海外税務に強い税理士などを積極的に頼るようにしよう。

▽署名フォーマット 文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)