法人ならば、どのような会社であっても少なくとも年に1回は作成するのが決算書である。なぜ作るかといえば、まず、内部で経営に資するためである。他の理由として外部に経営状況を知らせるため、とすることもある。
外部の人、すなわち利害関係者について、どのような場合に決算書を提出しなければならないか、あるいは開示しなければならないのか、それらについて説明する。

目次
決算書を提出する場合の書類の種類と提出期限

決算書を提出しなければならない場合、提出する書類は通常の会社においては2通りある。会社法に基づいた決算書(正確には計算書類という)と、(金融商品取引法に基づいた)有価証券報告書を提出する際の決算書(正式には財務諸表という。便宜上、本稿では計算書類も財務諸表も決算書とする)である。
会社法に基づいた決算書で必要な書類
まず、会社法に基づいた決算書について説明する。
会社法に基づいた決算書で求められる書類は、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書(合同会社の場合は社員持分変動計算書)および個別注記表の4つである。これらの書類は株主総会の1~2週間前までに株主に提示して承認を得る必要がある。
それぞれは、どのような書類であるのか。
貸借対照表は、期末時点での会社の資産や負債などの状況を示した書類である。損益計算書は、期首から期末時点までの会社の経営結果を示した書類、株主資本等変動計算書は会社の元手である資本金やこれまでの経営結果である利益の変動などを記したものである。最後に、個別注記表は貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書についての補足資料である。
有価証券報告書に基づいた決算書で必要な書類
有価証券報告書に基づいた決算書で求められる書類は貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書およびキャッシュ・フロー計算書の4つである。これらの書類は有価証券報告書の一部という形で期末日後3ヵ月以内に提出する必要がある。
なお、有価証券報告書に基づいた決算書で求められる書類、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書については会社法の場合と同じ書類であり、キャッシュ・フロー計算書は会社の資金の流れを記載した書類である。
提出が求められるその他の書類
また、会社によっては他の種類の書類の提出を求められることもある。
まず、連結決算を作成する会社では、会社法に基づいた決算書として連結貸借対照表、連結損益計算書、連結株主資本等変動計算書、連結注記表の作成が求められる。有価証券報告書に基づいた決算書では、連結貸借対照表、連結損益計算書及び連結包括利益計算書、連結株主資本等変動計算書、連結キャッシュ・フロー計算書の作成が求められる(ただし、この場合、キャッシュ・フロー計算書は作成する必要はない)。
また、有価証券報告書を作成する会社について追加で作成する書類がある。上場会社の場合は四半期決算書として、3ヵ月おきに四半期貸借対照表、四半期連結損益計算書及び四半期連結包括利益計算書、四半期キャッシュ・フロー計算書(第2四半期のみ)を作成する。
上場していない会社については、中間財務諸表として半年おきに中間貸借対照表、中間損益計算書、中間株主資本等変動計算書、中間キャッシュ・フロー計算書を作成することとなる。
決算書を提出または開示しなければならない8つのケース
決算書を提出または開示しなければならない状況にはどのような場合があるのか。法律上で求められている場合、法律に基づかないものの提出が求められている場合、様々なケースがある。ここではそのケースをいくつか挙げて説明する。
税務署に提出
すべての会社で義務となっているのが、税務署に提出することである。通常、期末日後2ヵ月以内(延長の申請をしている場合は3ヵ月以内)に法人税の申告書とともに決算書を提出することが定められている。このときに提出する書類は会社法に定められた決算書一式(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表)である。
なお、決算書の内容をより細かく書いた書類として、勘定科目内訳明細書(貸借対照表、損益計算書にある勘定科目の詳細を記載したもの)や法人事業概況説明書(会社の状況を記したもの。簡略した決算書、月ごとの売上、仕入高などを記載する)も作成して提出する。
取引先に提出
あまりないケースであるが、取引を開始する時や、決算日ごとに取引先から経営状態を確認する時に提出を求められることがある。取引先の意図としては、今後の取引の参考にするためであると思われる。会社の決算書を見ることによって財政状態や経営成績を判断し、取引の継続を検討するのだ。
提出する書類は取引先によって異なるが、大抵は決算書単体もしくは税務申告書と一緒に提出するものである。
金融機関に提出
金融機関から借り入れをするために、提出するケースもある。通常は借り入れを申し込む時点や決算ごとに法人税の申告書とともに提出する。銀行は提出された決算書や申告書を事業の状態とともに調べ、内部で格付けを行った上で、融資額の上限などを決定する。
一般開示
決算書は、特定の人や会社に提出する以外に、不特定多数の人に開示しなければならない場合がある。例えば株式会社が行う決算公告だ。それは、会社の決算内容を一般に広く知らしめる意図がある。ただし、例外として有価証券報告書を提出している会社の場合は、このような公告は不要である。
公告の方法はその会社の定款で定められており、官報や日刊新聞での開示、あるいはインターネットのサイトに掲載などのいずれかの形で行われる。開示内容はほとんどの株式会社は貸借対照表のみで、会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上の会社)については貸借対照表と損益計算書を掲載する。
また、有価証券報告書を作成している会社の場合、有価証券報告書そのものが開示されており、その中にある決算書もその他の書類とともに不特定多数の者が閲覧することができる。インターネットサイトであるEDINET (過去5年分)に掲載または、販売されている有価証券報告書を購入することで閲覧可能だ。
なお、有価証券報告書を作成する会社はたいてい、四半期報告書または中間報告書を作成しているので、これらも同じ方法で閲覧することもできる。
他には、会社が任意で決算書を会社法の規定によらずに開示することもある。この場合、開示の方法、開示する書類の内容はその会社の裁量による。
従業員に開示
従業員が開示を求める場合もある。この場合、最低でも有価証券報告書や決算公告を通じた開示をする。ただし場合によっては、従業員が「給与」を通して会社に対する「債権者」になるという考え方もあり、その場合は次項で述べる債権者に対する開示に則って決算書を開示する必要が出てくる。
債権者に開示する
会社法では作成した決算書を備え置く必要があり、債権者が求めた場合は開示しなければならない。開示の方法は以下の通りだ。
- 会社の営業時間内に開示を求めることができる。
- 債権者は決算書そのものまたはその写しを閲覧できる。
- 債権者は実費を支払った上で、計算書類の写しを請求することもできる。
株主に対する開示
株主に対しても会社の決算書を開示することがある。
まず、決算書は株主総会で承認されなければならない。その上で、決算書の内容を議案という形で債権者に示す必要がある。最終的に決定された決算書は、決議の結果として株主に知らされることもある。
投資家に対する開示
資金を獲得するために、金融機関のみならず投資家に対しても決算書を開示することもある。これも法律で定められてはいないので、実際に開示する場合、何をいつまでに開示するかはその投資家との話し合いによって決まる。
ただし、投資家は融資ではなくリスクの高い株式等に投資を行うため、場合によってはより細かい資料、例えば帳簿類の開示を求められることもある。もちろんこれらの開示もお互いの話し合いによって任意に行うこととなる。
決算書の提出は絶対必要か?
決算書の提出は任意であるのか、それとも強制であるのか。先程述べたとおり、状況によって異なる。改めてまとめた。
必ず提出しなければならない時とは?
(1) 必ず提出しなければならないときは、以下の状況となる
(2) 株主に対して決算書を承認してもらうために提出するとき
(3) 法人税の申告書の一部として提出するとき
(4) 決算書について決算公告をするとき
(5) 有価証券報告書を提出するとき
以上の場合は法律で定められているケースであり、少なくともこの場合においては決算書を提出する必要がある。
決算書を提出しないとどうなる?
法律で決算書を提出する必要があるのにしなかった場合は、罰則や課徴金などの罰則が課せられることがある。代表的なものは以下の通りである。
法人税の申告時には決算書の提出が必要であるが、法人税の申告がなかった場合は無申告加算税が課されることとなる。また、場合によっては青色申告の承認が取り消される場合もある。決算公告を出さなかった場合は、会社法の規定で100万円以下の過料が課せられる。
また、有価証券報告書が提出されなかった場合は5年以下の懲役、または500万円以下の罰金が課せられる(両方課せられるときもある。また法人の場合は5億円以下の罰金)。そして、これらとは別に課徴金が課せられる。
決算書の提出が遅れるとどうなる?
決算書の提出が遅れた場合は、提出しなかったときほど厳しくはないものの罰則等が課せられることがある。法人税の申告時に法人税の申告が遅れた場合は、延滞税が課されることがある。有価証券報告書の提出が遅れた場合は、まず、上場企業の場合は上場廃止となる場合がある。
期限を守って決算書を提出
会社が作る決算書について、提出が必要な場面は非常に多い。しかし、決算書には会社内の重要な情報が詰まっているため、慎重に扱う必要がある。決算書がどんなときに開示が必要となるのか、何を開示すればいいのか、いつ開示すればいいのかといった疑問について、一通りの情報について説明した。ご参考になれば幸いである。
文・中川崇(公認会計士・税理士)