2019年12月11日、IPO(新規株式公開)史上最大の2.7兆円を調達し、「世界最大の上場企業」となったサウジアラビアの国営石油会社、サウジアラムコ。

しかし新型コロナの感染拡大に伴う原油安や、世界的なクリーンエネルギーへの意向による「石油離れ」、石油輸出国機構(OPEC)・ロシアなどの非加盟主要原油国が参加する「OPECプラス」間の協調減産問題など、懸念材料が多々指摘されている。

そうした中、サウジアラビアと日本がブルーアンモニアの輸出・輸入実証実験を開始するなど、ポジティブな動きも見られる。「石油依存国」から「クリーンエネルギー原料の供給国」への転換」が、アラムコの成長のカギとなるかもしれない。

目次

  1. 時価総額約196兆円!IPOの歴史を塗り替えたサウジアラムコ
  2. IPO価格割れ マイナス価格という異常事態も発生
  3. 第3四半期は回復の初期兆候?
  4. 「石油依存国」から「クリーンエネルギー原料の供給国」への転換
  5. 地政学リスクも価格に反映する

時価総額約196兆円!IPOの歴史を塗り替えたサウジアラムコ

史上最大規模のIPO・サウジアラムコ、新型コロナや原油安の打撃から回復できるのか?
(画像=pdm/stock.adobe.com)

サウジアラビアのムハンマド副皇太子が、世界最大の石油会社であるサウジアラムコの上場の意思を初めて公表したのは、2016年1月のこと。あまりの規模の巨大さに、一度は暗礁に乗り上げたものの、構想からほぼ3年という月日を経て、サウジ証券取引所(タダウル)で待望の上場を果たした。

初値は値幅制限の上限である35.2リヤル(約982円)を付け、総株数の1.5%に対して総額260億ドル(約2兆 7,204億円)を調達。時価総額は1兆8,800億ドル(約196兆7,276億円)と、一夜にしてAppleやMicrosoftを上回る「世界最大の上場企業」の座に君臨した。

サウジアラビアが上場に踏み切った背景には、サルマン皇太子が唱える経済改革計画「ビジョン2030」の資金調達があった。

2015年、同国は石油依存経済からの脱出をはかる意図で、自国の株式市場を海外投資家に開放。続いて2016年には国際金融資本市場で175億ドル(約1兆8,311億円)の国債、2017年には95億ドル(約9940億3,113万円)相当のイスラム債券を発行するなど、過去の原油安で悪化した財政再建に乗り出した。

巨額の資金を調達したIPOは、サウジアラビアの経済基盤を強化する上で、重要な資金源となった。

IPO価格割れ マイナス価格という異常事態も発生

しかし上場後に株価が下落基調に転じ、2020年3月8日には公開価格を下回った。直接の原因は原油価格の急落だ。同月6日、OPECとOPECプラス間の定例総会で、協調減産拡大をめぐる交渉が合意に至らなかったことなどを受け、原油価格が軒並み下落。アラムコの株価にも影響したのだ。

さらに、新型コロナウイルスの世界的感染拡大がアラムコの苦境を深めることとなる。世界規模での経済活動の低下により、原油や天然ガス、石油製品などの需要が著しく減少した。

その結果、原油の在庫が積み上がり、4月にはニューヨークの原油先物(WTI)の5月物が、マイナス価格に陥るという異常事態が発生した。つまり取引価格が1バレル=マイナス37.63ドル(約3,937円)の場合、取引相手に37.63ドルを払い、1バレル相当のオイルを引き取ってもらうということだ。

第3四半期は回復の初期兆候?

幸い下落相場は長続きしなかった。6月には協調減産の延長措置が合意に至るというポジティブな材料が後押しとなり、急落前の40ドル(約4,185円)台の水準に回復した。

原油安の影響が直撃した第2四半期の決算報告は、純利益が前年同期比73%減の246億2,100万リヤルと(約6,869億2,460万円)とアナリストの予想を57億リヤル(約1,590億 3,718万円)下回った。

しかし、一部の国・地域で経済活動の再開が加速した第3四半期の純利益は、45%減の442億 1,000万リヤル(約1兆2,335億円)と回復の兆しを見せた。11月14日現在の終値は35.25リヤル(約983円)と、わずかながらIPO価格を上回っている。

アラムコ社長兼最高経営責任者アミーン・ナセル氏は第3四半期の決算報告書で、「世界のエネルギー市場に逆風が吹いたものの、経済活動の再開により回復の初期兆候が見られる」と述べた。さらに上場時の公約である187億5,000万ドル(約1兆9,625億円)の配当を、前四半期から引き続き実施する意向も発表した。

「石油依存国」から「クリーンエネルギー原料の供給国」への転換

ナセル氏はもう一つ、ブルーアンモニアを世界で初めて日本に輸出する実証実験を開始するなど、「世界のエネルギー転換に貢献する革新的なソリューション」に注力している点も強調している。

ブルーアンモニアは、近年次世代エネルギーとして注目されている、ブルー水素を製造するための原料だ。ブルー水素は、化石燃料から生成された二酸化炭素を大気中に放出する代わりに回収・貯蔵するプロセスを通じて製造される。

日本はサウジアラビアからブルーアンモニアを輸入し、燃焼時に二酸化炭素を排出しないゼロエミッション電源として使用する予定だ。水素ベースの燃料は既存の燃料より環境に優しいだけではなく、低コストというメリットもある。

今回の実証実験が成功すれば、サウジアラビアは「クリーンエネルギー原料の供給国」という新たな方向性を見つけることができるだろう。そしてその恩恵は、アラムコの企業価値に反映されるはずだ。

地政学リスクも価格に反映する

もう一つの懸念材料として、中近東の地政学リスクが挙げられる。2019年9月に起こったサウジの石油施設へのドローン攻撃が記憶に新しいが、首謀者に関する明確な証拠が見つからないまま事件は闇に葬られている。

当時はアラムコの上場を目前に控えていただけに、「価格への影響を懸念してあえて過剰反応をさけた」との見方もあるが、同様の攻撃が再発すれば原油価格やアラムコの企業価値に深刻な影響をあたえることは疑う余地がない。

アラムコの経営は原油価格と密接しており、それと同時にサウジ政府の利益にも多大なる影響を及ぼす。投資家は広範囲な角度から、市場の動向を注視すべきだろう。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)