法人は記帳処理の方法を正しく理解すると、経理処理の負担を大きく抑えられる。特に三分法と分記法の2つは、経営者として確実に押さえておきたい基礎知識だ。今回は各方法のメリット・デメリットに加えて、具体例を使いながら仕訳のルールも確認していこう。
目次
三分法とは?基本的な記帳処理方法をチェック

三分法とは、商品売買に関する仕訳を行う際に「仕入・売上・繰越商品」の3つの勘定科目で処理をする方法のこと。記帳処理方法には他にも「分記法・総記法・売上原価対立法」があるものの、これらの中でも三分法は最もポピュラーな方法であるため、特に経理を行う者はしっかりと基礎を身につけておくことが重要だ。法人の記帳処理はやや複雑だが、三分法を押さえておくだけでさまざまな取引を処理できるようになる。
では、三分法による仕訳がどのように行われるのか、一般的な形式を紹介しよう。
・商品を仕入れた場合の仕訳
借方 | 貸方 | ||
仕入 | ○○円 | 現金 | ○○円 |
・商品を販売した場合の仕訳
借方 | 貸方 | ||
現金 | △△円 | 売上 | △△円 |
・決算時の仕訳
借方 | 貸方 | ||
繰越商品 | ××円 | 仕入 | ××円 |
仕入と売上の額をそのまま記載できる三分法は、実務に適しているため多くの企業で採用されている。ただし、ケースによっては別の記帳処理方法が適している可能性もあるので、経営者や経理担当者は各記帳方法の概要を理解しておくことが必要だ。
そこで以下では、三分法以外の方法についても詳しく解説していく。
分記法とは?
分記法とは、「商品」「商品売買益」の2つの勘定科目で仕訳を行う記帳処理方法のこと。販売に関する仕訳を行う際に、その商品の原価と売買益の2つを貸方に記入するため、三分法のように決算整理をする必要がない。
ただし、分記法では商品を仕入れたときの仕訳だけではなく、販売したときの仕訳でも「原価」を記入する必要がある。例えば、大量の商品を取り扱う企業は、原価の確認だけで膨大な時間がかかってしまう恐れがあるので、分記法を採用する前には原価チェックのフローや手間を確認しておきたい。
総記法とは?
総記法は、上記の2つに比べるとメジャーな記帳処理方法ではない。
総記法では、商品の仕入・販売の両方で「商品勘定」を用いる。そのため、一見するとシンプルな方法に思えるかもしれないが、原価と売価が混ざった状態で仕訳を行うので、記帳内容から企業の実態を読み取ることが難しくなる。
また、三分法と同じく決算整理が必要になる点も、総記法のデメリットと言えるだろう。
売上原価対立法とは?
売上原価対立法は、「商品・売上原価・売上」の3つの勘定科目で仕訳をする方法だ。商品を販売したときに、勘定科目を「商品」から「売上原価」に振り替える形で仕訳を行うので、分記法と同じく決算整理が不要となる。
また、売上原価対立法では商品売買によって発生した利益をリアルタイムで確認できるが、商品ごとの売上原価の把握が必要になるため、大量の商品を取り扱う場合は処理に手間がかかる。
三分法で記帳処理をするメリット・デメリットとは?
各ケースに最適な記帳処理方法を選ぶには、各方法の特徴を正しく理解しておくことが必要だ。そこでここからは、各記帳方法のメリット・デメリットを解説していく。
まずは、最もポピュラーな方法である三分法のメリット・デメリットをまとめたので、以下でしっかりとチェックしていこう。
三分法のメリット
三分法の最大のメリットは、記帳処理をスムーズに進められる点だ。決算時を除いて、仕訳の計算が一切不要になるため、ルールさえ覚えれば経理処理に慣れていない人でも簡単に取引を処理できる。
複雑なルールが多い会計において、省力化を図れるメリットは予想以上に大きい。特に人材が限られた企業では、記帳処理を簡易化するだけで人材採用や育成のハードルが下がるので、従業員を有効活用しやすくなるだろう。
三分法のデメリット
一方で、決算整理が必要になる点は三分法のデメリットと言える。三分法は、商品の仕入れ時・販売時の記帳を簡易化した手法であるため、そのままの状態では自社の実態をつかむことができない。
また、決算整理が必要になる影響で、決算時の負担が予想以上に増大するリスクも考えられるので、三分法を採用する場合は決算を強く意識しておく必要がある。
ひと目でわかる!各記帳処理方法のメリット・デメリットまとめ
では、三分法以外の方法には、どのようなメリット・デメリットがあるのだろうか。自社に適した記帳処理方法を選ぶために、各方法の特徴を以下の表で確認していこう。
記帳処理方法のメリット・デメリット一覧表
記帳方法の種類 | メリット | デメリット |
・三分法 | ・記帳処理がスムーズになる | ・決算整理が必要 ・業績をリアルタイムで把握することが難しい |
・分記法 | ・商品売買の利益と在庫残高をリアルタイムで把握できる ・決算整理が不要 |
・売上原価の把握が必要になる ・決算まで、売上高と売上原価の合計額が把握できない |
・総記法 | ・使用する勘定科目が少ない | ・決算整理が必要 ・決算整理が複雑になりやすい ・仕組みを理解することがやや難しい |
・売上原価対立法 | ・決算整理が不要 ・利益や在庫残高をはじめ、さまざまな数値をリアルタイムで把握できる |
・売上原価の把握が必要になる ・日々の仕訳に手間がかかる |
上記の記帳処理方法を仕訳のスピードで並べ替えると、「三分法>総記法>分記法>売上原価対立法」の順になる。ただし、決算整理に目を向けた場合は、「分記法=売上原価対立法>三分法>総記法」のように順番が変わるため注意が必要だ。
また、リアルタイムで業績を細かく把握したい場合は、分記法もしくは売上原価対立法が望ましい記帳方法になる。特に経営戦略を頻繁に見直す経営者は、売上高や売上原価まで把握できる売上原価対立法を採用すると、分析に必要な指標やデータを簡単に導き出せるようになるだろう。
しかし、全体的なバランスで見ると三分法・分記法が優れているため、実務ではこれら2つの方法が多く採用されている。では、それぞれの記帳方法がどのような業界で採用されているのか、以下で一例を紹介しておこう。
三分法・分記法が採用されている主な業界
記帳方法の種類 | 採用されている主な業界 | 具体例 |
・三分法 | 商品の種類が多い業界。 | 小売業や製造業など |
・分記法 | 商品の種類が少ない業界。 | 不動産業や宝石店など |
上記の内容から、薄利多売の企業では三分法が、厚利少売の企業では分記法が適している可能性が高いと言える。ただし、厚利少売のビジネスであっても場合によっては売上原価の把握に手間がかかるため、分記法を採用する場合は「商品の種類が多くないか?」や「すべての商品の原価を簡単にチェックできるか?」などを確認した上で冷静に判断しよう。
具体例を使って仕訳の方法を分かりやすく解説!
最後に、ここまで紹介した4つの記帳方法に関して、具体例を用いながら仕訳のルールを解説していく。経理作業の負担を抑えるために、特に採用する記帳処理方法については正しいルールを身につけていこう。
なお、仕入費などの数値は統一したほうが分かりやすいため、以下のモデルケースを用いて解説を進める。
モデルケースにおける仕訳に関するデータ
仕訳に用いるデータ | 金額 |
・商品の仕入費(仕入原価) | 10万円 |
・商品の販売価格(売価) | 15万円 |
・期末商品の残高 | 17万円 |
1.三分法の仕訳例
前述の通り、三分法では仕入原価や売価をそのまま使用して仕訳をする。したがって、商品の仕入れ時・販売時・決算時の仕訳は、それぞれ次の通りとなる。
・商品を仕入れた場合の仕訳
借方 | 貸方 | ||
仕入 | 10万円 | 現金 | 10万円 |
・商品を販売した場合の仕訳
借方 | 貸方 | ||
現金 | 15万円 | 売上 | 15万円 |
・決算時の仕訳
借方 | 貸方 | ||
繰越商品 | 17万円 | 仕入 | 17万円 |
上記を見ると分かるが、三分法で仕訳をすると商品売買の利益が数値として記載されないため、どうしても決算整理が必要になる。仕訳の方法や見た目はシンプルだが、決算整理や経営分析にはやや手間がかかるので注意しておこう。
2.分記法の仕訳例
次は、同じモデルケースにおける分記法の仕訳例を見ていこう。なお、分記法では商品売買を資産として計上するので、前述の通り決算時の仕訳(決算整理)は不要となる。
・商品を仕入れた場合の仕訳
借方 | 貸方 | ||
商品 | 10万円 | 現金 | 10万円 |
・商品を販売した場合の仕訳
借方 | 貸方 | ||
現金 | 15万円 | 商品 商品売買益 |
10万円 5万円 |
上記の「商品」とは、簡単に言えば仕入費(原価)のことだ。販売に関する仕訳を行うときには、貸方に「商品・商品売買益」を必ずセットで記入するため、後から見直すだけで利益を簡単に把握できる。
3.総記法の仕訳例
総記法の仕訳は三分法とやや似ているが、使用する勘定科目や決算時の仕訳が異なる。
・商品を仕入れた場合の仕訳
借方 | 貸方 | ||
商品 | 10万円 | 現金 | 10万円 |
・商品を販売した場合の仕訳
借方 | 貸方 | ||
現金 | 15万円 | 商品 | 15万円 |
・決算時の仕訳
借方 | 貸方 | ||
商品 | 5万円 | 商品販売益 | 5万円 |
総記法を採用する場合は、決算時の仕訳で「商品販売益」を記載する必要がある。商品販売益とは、商品の売価から売上原価を差し引いた額のことだ。
仕訳自体は分かりやすい形となるが、最終的に算出した商品販売益から期末残高や取引の実態をつかむことはできないので、実務において総記法が採用されるケースは極めて稀である。
4.売上原価対立法
最後に、売上原価対立法の仕訳についても確認していこう。
・商品を仕入れた場合の仕訳
借方 | 貸方 | ||
商品 | 10万円 | 現金 | 10万円 |
・商品を販売した場合の仕訳
借方 | 貸方 | ||
現金 売上原価 |
15万円 10万円 |
売上 商品 |
15万円 10万円 |
商品を仕入れた場合の仕訳はシンプルだが、販売に関する仕訳では4つの勘定科目を記載するため、売上原価対立法はほかの方法に比べると手間がかかる。しかし、上記のように取引の実態が分かりやすい形で記録されるので、後から見返すだけで自社の業績や経営状態を簡単に把握できる。
決算も見越して、総合的に使い勝手の良い記帳方法を
本記事で紹介したように、商品売買の仕訳は採用する方法によって大きく変わってくる。一般的には三分法が多く採用されているものの、ケースによっては別の方法が望ましい場合もあるので注意が必要だ。
特に三分法と分記法の2つは、業種や事業内容によって使い分けられることが多いので、それぞれの特徴はしっかりと理解しておきたい。また、頻繁に経営分析をしたい場合や、より細かく業績を把握したい場合には、売上原価対立法もひとつの選択肢になるだろう。
なお、商品の仕入時や販売時の仕訳のみに着目すると、決算整理に大きな手間がかかる恐れがある。そのため、単に記帳が楽な方法を選ぶのではなく、決算も見越して総合的に使い勝手の良い記帳方法を選ぶようにしよう。
▽署名フォーマット
文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)