営業職の働きぶりは会社の売上に直結するだけに、所属メンバーの成果に個人差が目立つことを気に掛けている経営者も多いのではないか?単にセンスや能力の問題だけではなく、業務の進め方の手順やモチベーションなどに少なからず違いがあり、営業セクションの統括者が口頭で指導しても、なかなか目立った改善が見られないケースが多い。
言い換えれば、それは営業セクション全体をきちんとマネジメントする必要性があるという状況を意味している。そうすることで、所属メンバーが一丸となって目標達成を追求し、最善の成果を引き出せる。
ただ、普段から特に気にも留めずこの言葉を用いているが、マネジメントとは具体的にどのような導きのことを意味するのだろうか?
目次
そもそもマネジメントとは? 営業をマネジメントする目的とは?

組織を運営するうえで「マネジメント」という言葉は、よく使われるが、営業部門におけるマネジメントとはどのようなことだろうか。
マネジメントの意味すること
マネジメントという言葉の直訳は、「経営」や「管理」で、経営者にとって日常的に当然のように行っていることだと思われがちだ。しかしながら、実際には感覚的に組織を率いているケースも多く、明確なロジックに基づいてマネジメントを行っている経営者は意外と少ないかもしれない。
「マネジメントの父」と崇められるピーター・F・ドラッカーは、「組織に成果を上げさせるためのツール・機能・機関」がマネジメントであると説いている。そして、マネジメントを行う人(マネージャー)とは、「組織の成果に責任を負う人物」だと指摘する。
ドラッカーいわく、マネジメントが果たす役割とは、1.組織が果たすべきミッションの達成、2.組織で働く人たちの活用、3.社会への貢献の3つだという。1と2については、経営者なら誰もが切望していることだろう。
3は綺麗事のように受け止める人がいるかもしれないが、自社の製品・サービスがより多くの人たちの役に立ち、広く支持されていくことは、社会への貢献を結びつく。では、具体的にマネジメントとは、何をどうするものなのか?
メンバーの自己実現と会社が追求する目標をリンクさせる
マネジメントにおいて実行すべきことは、「目標設定」と「目標達成のための組織運営」、「成果の評価と改善」である。ほとんどの会社は営業に関して明確な数字(達成値)を打ち出しているだろうが、それが個々のメンバーの目標とうまくリンクしていないために、モチベーションなどに差が生じているケースが見受けられる。
まずは会社として追求する目標と、個々のメンバーが自らの成長のために掲げる目標のベクトルの向きをそろえることが重要である。組織としての目標達成が自己実現に結びつくことを実感できれば、おのずと一人ひとりがやる気を出してくるものだ。
成果の評価と改善により次につなげて能力を最大化させる
組織全体の成果に責任を負うマネージャーが各自の進捗状況を確認・評価し、必要に応じて改善をうながして目標達成をサポートする。先述したように、特に営業というセクションの場合は目標を数字で明確化しやすく、そういった意味でも的確なマネジメントが成果の最大化につながりやすい。
自社製品・サービスがターゲットとしている市場の動向や顧客のニーズなどを分析・予測し、それを踏まえて営業戦略と販売計画を策定することは、いずれの会社も行っているだろう。肝心なのは、こうして定められた目標を追求すると各々のメンバーがどのような自己実現を果たせるのかについて、きちんと連想させておくことだ。
そうすれば、自然と各自の能力の最大化を促せる。現状評価や改善すべきポイントなどに関する認識についても、単なる情報としてではなく、実感として社内で共有できる。
営業のマネジメントで求められるのはチームコーチングのアプローチ
営業におけるマネジメントについて、さらに踏み込んで考えてみたい。士気が成果に直結しやすいセクションであるだけに、チームコーチングのアプローチで臨むことが求められてくるだろう。
STEP1.メンバーの目標管理・行動管理をしながらチーム全体を導く
会社の目標を達成するためには、組織がめざしている方向性とともに、個々のメンバーが自分自身のミッションを明らかにし、PDCA(計画→行動→評価→改善)サイクルを繰り返していくことが必要である。そうすることが成果を目標値へと近づけ、メンバー一人ひとりの成長も促していくのだ。
その際、脇からそれぞれの取り組みぶりを観察しながら、必要に応じて的確な言葉で導いていくのがコーチであるマネージャーの役割である。ただし、あくまで個別に掲げるミッションはノルマではなく、チーム全体の目標達成によって自分が成し遂げたいことでなければならない。
大半の人たちはカネのためだと割り切って働いているわけではなく、自分が取り組む仕事に何らかのやりがいを求めているはずだ。マネージャーは対話を通じて部下から具体的な言葉としてそのことを吐露させたうえで、チーム全体の目標とをうまくリンクさせるのだ。
STEP2.人材の育成とチーム全体の雰囲気を作る
目標を定めて適切に動けるようになると、育まれてくるのが各自の自主性であり、チームのスタッフ間における相互理解だ。メンタルや体調などの変化に伴って目標を見失うことも多々あるので、マネージャーは状況やスタッフの特性に応じてその都度コーチングを行う。さらに、スタッフのモチベーションを高いレベルに保つため、チーム全体の雰囲気づくりも忘れてはいけない。
STEP3.結果の分析、情報の共有をする
最新のSFA(営業支援システム)や CRM(顧客管理システム)を活用すれば、個々の目標や行動記録の管理、成果の分析も円滑に行えるし、他の部署との情報共有や連携も容易だ。また、HRテック系のツールも用いれば、メンバーのモチベーションの推移もモニタリングできる。
営業部門のマネジメントで押さえるべきポイントは3つ
営業セクションをマネジメントしていくうえで特に押さえておくべきポイントとしては、3点挙げられる。
1.単純明快な目標設定
シンプルで誰でも理解でき、すぐにピンとくる目標のほうが腹落ちしやすい。さらに目指す数値目標はなぜその数値なのか、根拠を示し、達成するのが大変でもがんばれば手が届きそうな目標であることが大切だ。そしてその目標について、メンバー自身が納得していることも重要である。
2.個々のメンバーに対する的確な評価
的確な評価も非常に重要なポイントで、マネージャーには部下を適切に評価する能力も求められているだろう。ドラッカーも、「組織は所属メンバーの欲求を満たす必要があり、その具体策が評価(各種の奨励策・抑止策)」といった趣旨のことを述べている。
人は誰しも自分のことを認めてもらいたいもので、否定されることは精神的な苦痛を伴う。とはいえ、いたずらに褒めちぎってほしいと思っているわけでもなく、現状の成果を自分なりに反省していることも多い。
そういった状態をきちんと評価し、どのような改善を施せば満足できる成果まで引き上げられるのかを示唆することもマネージャーの役割だ。正当な評価・助言を通じて、組織に属する個々のメンバーは自らのポジショニングや役目を実感するようになる。
ただし、評価を行う際には、プロセスではなく結果に的を絞るのが鉄則と言えよう。当然ながら、どれだけプロセスが優れていても結果が伴わなければ“本末転倒”で、途中経過にはけっして口を挟まず、結果で評価を行うことに徹するべきだ。
3.ブレのないコーチング
これは、「場当たり的な指導をするな!」ということだ。そして、指導の内容に一貫性を持たせるためにも、きめ細やかなコミュニケーションが求められてくる。
「コミュニケーションは知覚、期待、欲求であって、情報伝達法ではない」といった教えをドラッカーは残しているが、いったいこれは何を意味するのか? 相手が知覚でき、求めている内容のコミュニケーションでなければ、発信側の思いは正確に伝わらないということだ。
頭ごなしに場当たり的な指導をするのは、このコミュニケーションの本質に対して真逆の行為であると言えよう。まずは部下に日頃からこまめに声を掛け、彼らがどのようなことを期待しているのかをさりげなくヒアリングする。
そして、部下が期待していることをテーマに対話を繰り返していけば、コミュニケーションが成立して相互理解も深まっていき、相手の思いをしっかりと汲み取った指導を行えるようになる。つまり、それがブレのないコーチングなのである。
マネジメントの最終目標は、仕事を通じた自己実現
部下とのコミュニケーションに関して誤解してはならないのは、必ずしも低姿勢で接する必要はないということだ。遠慮なく話ができるフラットな関係であることは重要だが、愛想よく振る舞ったり、媚びへつらったりするのは考えもので、ドラッカーは著書において次のような趣旨の指摘を行っている。
「うまく機能している組織には、部下に手を差し伸べることもなく、人づきあいもよくないボスが一人は存在しているものだ。この類のボスは気難しくてわがままでありながら、誰よりも多くの部下を育て、好感度の高いボスよりも尊敬を集めがちである」
それはなぜなのか?こうしたボスは部下に一流の仕事を要求し、自らにも同じことを要求するからだとドラッカーは説いている。おそらく、すぐにアップル創立者のスティーブ・ジョブズを連想した読者も多いことだろう。さらにドラッカーは、「組織に属する人が生産的に働くことにより、仕事を通じて自己実現できること」がマネジメントの役割だと教えている。
ならば、会社組織の中核である営業部門のマネジメントを強化するのは必然だと言えよう。
文・大西洋平(ジャーナリスト)