財産評価基本通達とは不動産や株式などの財産の評価方法を示したもの。おもに相続や贈与の際に基準とされるが、ビジネスにおいてもM&Aで参考にされることもある。財産評価基本通達の役割、およびそれぞれの財産の評価方法について解説する。

目次

  1. 相続税や贈与税の課税財産を評価する財産評価基本通達
  2. 財産評価基本通達をどのように活用するのか
    1. 財産評価基本通達における時価
    2. M&Aの際に参考にされることも
  3. 財産評価基本通達は「法令」ではなく「税務通達」
    1. 不動産
    2. 株式
    3. その他(生命保険金、死亡退職金)
    4. 国外にある財産も対象になる?
  4. 相続財産は財産評価基本通達で適切に評価しよう
    1. プロフィール

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相続税や贈与税の課税財産を評価する財産評価基本通達

M&Aでも活用される財産評価基本通達。さまざまな財産の評価方法を解説
(画像=PIXTA)

財産評価基本通達とは、相続税および贈与税の課税財産を評価するための基準となるものである。相続税・贈与税の課税価格を計算するには、相続・贈与された財産の評価をすることが必要だ。ところが相続税法においては地上権・小作権の評価方法のみが規定され(第23条)、あとは第22条に以下のとおり「時価による」と規定されているのみとなっている。

相続税法第22条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。


そこで地上権・小作権以外の不動産や株式、動産、無体財産、生命保険金、死亡退職金などのさまざまな財産の評価方法を決めるための基準となるのが財産評価基本通達だ。

覚えておきたいのが財産通達基本評価は、国税庁長官から各地の国税局長への「通達」という形だということ。「法令」ではないため、国民に対する拘束性はないのが現状となっている。

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財産評価基本通達をどのように活用するのか

さまざまな財産に適用される財産評価基本通達。実際、どのようにして財産の評価をするのか。その方法について詳しく解説する。

財産評価基本通達における時価

相続税法においては財産評価の方法は「時価主義」が採用されている。財産評価基本通達もそれを受け、財産評価は時価によって行うと以下のように規定されている。

財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(相続、遺贈若しくは贈与により財産を取得した日若しくは相続税法の規定により相続、遺贈若しくは贈与により取得したものとみなされた財産のその取得の日又は地価税法第2条《定義》第4号に規定する課税時期をいう。以下同じ。)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。


ここで注意が必要なのは、財産評価基本通達における時価は「いつのものか」および「どのように決められるものか」ということだ。

・いつのものか
財産評価基本通達では上記のとおり時価について、 「相続、遺贈若しくは贈与により財産を取得した日(以下略)」
と規定されている。相続においては財産を取得した日は「被相続人の死亡日」である。時価が、相続税の申告を行う日のものではないことに注意しよう。

・どのように決められるものか
また、財産評価基本通達では時価について、 「それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」
としている。これは、財産を第三者に売却する際の、売り急ぎや買い進みなどがなかった場合の市場価格を意味している。

M&Aの際に参考にされることも

財産評価基本通達は、相続税の課税価格を計算するための財産評価方法を示したもの。不動産や株式など基本的にすべての財産の評価方法が記載されているため、M&Aにおいて財産評価をする際にも参考にされることもある。

ただし、M&Aにおいて会社売却をする際の時価(M&A価格)は、相続税の課税価格を計算するための時価とは考え方が全く異なる。相続税の課税価格は、明確な基準により誰に対しても公平に決められることが重要だ。それに対してM&A価格は、売り手と買い手の考え方や状況によって柔軟に決められることも多くある。

したがって、財産評価基本通達はM&Aにおいて参考にされることはあっても、M&A価格の評価方法として実際に採用されることは少ない。

財産評価基本通達は「法令」ではなく「税務通達」

財産評価基本通達は前述のとおり法令ではない。あくまでも国税庁長官から国税局長への「税務通達」であり、税務署の職員に対しては職務命令としての法的拘束力をもつものの、納税者には従う義務はない。

納税者はあくまでも、法令の自らの解釈により税務申告をすれば十分だ。それに対して税務署が、財産評価基本通達に基づいて課税処分を行った場合には、納税者は処分の取り消しを求めて不服申立てや訴訟提起が可能となる。

実際に、財産評価基本通達の総則5項と6項には、以下の対応が定められている。

(評価方法の定めのない財産の評価)
総則5 この通達に評価方法の定めのない財産の価額は、この通達に定める評価方法に準じて評価する。

(この通達の定めにより難い場合の評価)
総則6 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。


上のとおり、財産評価基本通達では評価法の定めがないあるいは評価が難しい場合には、対応を個別に検討しなければならなくなる。そのような場合の財産の評価額は担当する税理士によっても異なることがある。

不動産に株式……。それぞれの財産の評価方法は?

財産評価基本通達には、さまざまな財産の評価法が規定されている。その中からここでは不動産、株式、その他(生命保険金、死亡退職金)、および国外にある財産についての評価法を紹介しよう。

不動産

不動産の評価法は、土地と家屋それぞれについて定められている。

・土地

土地の評価方法は①路線価②倍率方式――の2つである。土地は、路線価が定められているものと、そうでないものがある。路線価が定められている土地は路線価で、定められていない土地は倍率方式で評価するわけである。

路線価図と評価倍率表は国税庁のホームページで確認できる。路線価が定められている土地の相続税評価額は、次の式で計算できる。

土地の相続税評価額 = 路線価 × 各種補正率 × 土地面積

路線価が定められていない土地の相続税評価額は、次の式で計算できる。

土地の相続税評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率

なお、土地を第三者に貸していたり、あるいは土地に賃貸物件が建っていたりする場合には、土地の評価額は上記で計算される自用地(自分で使っていた土地)の評価額とは、以下のとおり異なったものとなるので注意しよう。

・第三者に貸していた土地の評価額 …自用地評価額 ×(1 - 借地権割合)
借地権割合は土地により20%~90%までが定められている。
・賃貸物件が建っている土地の評価額 …自用地評価額 ×(1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
借家権割合は全国一律で30%と定められている。賃貸割合は、賃貸物件の床面積の割合のことである。

・家屋

家屋は、固定資産税評価額に、次のとおり倍率をかけて計算する。

家屋の相続税評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率

この家屋に関する倍率は、以下のとおり家屋の利用法により異なったものとなる。

・故人が利用していた家屋の倍率 …「1.0」
・第三者に貸していた家屋の倍率 …「1 - 借家権割合」
・賃貸アパートの家屋の倍率 …「1 - 借家権割合 × 賃貸割合」

株式

株式の評価法は、上場株式と非上場株式により異なる。

・上場株式

上場株式の相続税評価額は、原則として「金融商品取引所における相続が発生した日の最終価格」となる。ただし、相続が発生した月を含む前後3ヵ月間の、毎日の最終価格の各月の平均額が、上の価格より低い場合は、最も低い月の平均額を相続税評価額とする。

相続が発生した日が土日・祝日などであった場合は、取引所が休みとなり、その日の最終価格がないこともある。その場合には、相続が発生した日に最も近い日の最終価格を、相続が発生した日の最終価格とする。

・非上場株式

非上場株式の相続税評価法は非常に複雑なものとなる。会社の規模や株主の種類などさまざまな要素を考慮し、評価する必要があるからだ。ここで簡単な説明はできないため、非上場株式の相続税評価額を計算する必要がある場合には税理士に相談しよう。

その他(生命保険金、死亡退職金)

そのほかの相続税評価法として、生命保険金および死亡退職金について見てみよう。

・生命保険金

生命保険金は、保険料を被相続人(故人)が負担していた場合には相続財産とみなされ、相続税が課税される。保険料を誰が負担していたかにより、税金の種類は所得税や贈与税になることもあるから気をつけよう。

生命保険金にはまず、相続税の非課税枠が以下のとおり定められている。

生命保険金の相続税非課税枠 = 500万円 × 法定相続人の数

法定相続人が妻と子ども2人の計3人なら、非課税枠は「500万円 × 3 = 1,500万円」となり、1,500万円までは相続税がかからない。1,500万円を超えた部分にのみ相続税がかかってくることになる。

上の例で1,500万円を超えた、相続税がかかってくる部分については、他の相続財産すべてと合算のうえ、相続税を計算することになる。ただし、相続税には次の基礎控除がある。

相続税の基礎控除 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

したがって、法定相続人が3人の場合なら、相続税の基礎控除額は「3,000万円 + (600万円 ×3人 )= 4,800万円」となる。相続税は、生命保険料を含めた相続財産全体がこの金額を超えた部分に対してかかってくることになる。

・死亡退職金

死亡退職金も生命保険金と同様、厳密には相続財産とはいえないものの、相続税が課税される。死亡退職金にも生命保険金と同様、相続税の非課税枠が設けられている。

死亡保険金の相続税非課税枠 = 500万円 × 法定相続人の数

死亡退職金の相続税は、この金額を超えた部分にのみ課税されることになる。

なお、在職中に死亡した場合には、会社から死亡退職金のほかに弔慰金が支給されることもある。弔慰金にも相続税非課税枠が、死亡原因が業務上か業務外かにより以下のとおり設けられている。

・業務上の死亡である場合の弔慰金の非課税枠 …月額給与 × 36ヵ月
・業務外の死亡である場合の弔慰金の非課税枠 …月額給与 × 6ヵ月

国外にある財産も対象になる?

国外にある財産についても、財産評価基本通達の対象となる。ただし、この通達では評価できない財産については、通達の評価方法に準じて評価するとされている。

相続財産は財産評価基本通達で適切に評価しよう

財産評価基本通達には、不動産や株式をはじめとするさまざまな財産の評価方法が記載されている。ただし、この通達だけでは評価が難しい財産も中にはある。評価が難しい財産については税理士の力も借りながら、相続・贈与の財産を適切に評価していこう。

プロフィール

M&Aでも活用される財産評価基本通達。さまざまな財産の評価方法を解説
(画像=野口和義 氏)

野口 和義 (のぐち かずよし)

野口コンサルタント事務所代表。1983年生まれ。茨城大学情報工学科卒業。中小企業診断士、行政書士、経営革新等支援機関。
最大手ファーストフードチェーンでのマネジメント経験を活かし、組織改革・人事制度・事業計画策定を中心に中小企業の支援に奔走している。
持ち前のホスピタリティの高さから、顧客対応などの面でもお客様から高い評価を得ている。