製薬業界では2020年、中外製薬が時価総額で業界トップに立つという華々しいニュースが報じられた。しかし一方で、製薬業界では現在進行形でリストラの嵐が吹き荒れている。製薬業界の最新トピックスから、その理由を探っていこう。

目次

  1. 中外製薬と武田薬品の時価総額について
  2. リストラのターゲットとなっているMR
  3. 武田薬品もMRなどを対象に希望退職者を募集
  4. コロナ禍でリストラの動きがさらに加速する!?
  5. リストラ強化という製薬業界の厳しい状況

中外製薬と武田薬品の時価総額について

製薬業界はあの企業が巨人・武田を逆転!リストラやコロナ禍の影響は?
(画像=I Viewfinder/stock.adobe.com)

製薬業界の企業の時価総額ランキングでは、2020年2月までは武田薬品工業が首位だった。しかし同3月には中外製薬が武田薬品工業の時価総額を抜き、2021年1月12日時点では10兆円規模まで時価総額が膨らんでいる。すでに国内の上場企業の中で10本の指に入る規模だ。

なぜ中外製薬はこうした躍進を遂げることができたのか。時価総額は株価が上がることで高くなる。つまり、株式投資家からの期待感が高まった理由がそのまま躍進の理由となったと考えられる。同社の小坂達朗会長は「創薬力」が市場で評価されていることに自信を示している。

中外製薬は血友病治療薬「ヘムライブラ」を創薬・販売し、特に海外で売り上げを伸ばしてきた。今期の2020年12月期もヘムライブラの売り上げ増加を見込んでいるようだ。つまり、中外製薬は自前の「技術力」で自社の業績を向上させているわけだ。

なお、2020年12月期第3四半期の連結業績(2020年1~9月)は、売り上げ収益が前年同期比13.3%増の5,765億2,000万円、営業利益が同41.3%増の2,273億1,800万円、最終利益は同38.4%増の1,624億2,500万円となっている。

リストラのターゲットとなっているMR

このように製薬業界では順調に業績を伸ばしている企業もある一方で、希望・早期退職者の募集を通じたリストラ策を強化している企業も少なくない。そして特にリストラの対象として目立っているのがMR職だ。

MRとは「Medical Representative」の略語で、製薬メーカーに勤める医療情報担当者のことを指す。MRは製薬メーカーの営業担当者として、薬の知識などを医師や薬剤師に提供しながら、自社で扱っている薬を使ってもらおうとアプローチをかけるのが役目だ。

こうした営業職は、自社製品を販売して売り上げを得ている企業にとっては必要不可欠となる存在である。しかしその一方で、MRは40代で年収1,000万円超えが当たり前の高収入職種として知られており、企業の業績が悪化してくるとMRの人件費が経営の重荷となる。

またMRのリストラが進んでいる背景としては、単にMRの数が多すぎるということもあるようだ。各社がMRの数を適正な数に調整しようと動き、その結果としてMRに対する希望・早期退職者の募集が目立つようになってきていると考えられる。

武田薬品もMRなどを対象に希望退職者を募集

中外製薬に時価総額トップの座を譲った武田薬品工業も、過去にMRや事務職などを対象とした希望退職者の募集を行っている。2020年8月にその概要が発表され、勤続年数が3年以上で30歳以上の国内ビジネス部門の所属社員が対象となった。

武田薬品工業はプレスリリースの中で、希望退職者を募集した理由として、「変革を支えるための組織力の向上を目的とした人事制度への移行」を進めていることを挙げた。ただいずれにしても、MRがリストラのターゲットとされたことは事実だ。

こうしたリストラが、コロナ禍で今後さらに加速することも考えられる。MRの多くは営業によって契約を獲得できて初めて存在意義が示せる職種だ。しかし、新型コロナウイルスの影響でMRが医療機関を回りにくくなり、会社への貢献度は極端に落ちている。

また、MRが対面営業できない状況でも販売に大きな影響が出なかったケースもあるようで、「MR不要論」が医薬品業界全体でささやかれつつある。こうなってくると、企業は営業職であるMRよりも創薬研究職などの採用に力を入れることを検討し始める。

コロナ禍でリストラの動きがさらに加速する!?

コロナ禍で製薬各社の業績が落ち込めば、さらにリストラが今後強化される可能性も出てくる。

医療情報会社のIQVIAジャパンによれば、2020年7~9月の医療用医薬品の国内売上高は、前年同期に比べて5.1%減少している。新型コロナウイルスへの感染を回避するための受診抑制などが要因だ。

また、新型コロナウイルスの影響で創薬に向けた治験が思うように進まなければ、将来の企業業績にも大きな影響が出るだろう。こうしたことから、コロナ禍の影響で足元の業績や将来見通しが苦しくなっている企業は少なくない状況だと考えられる。

コロナ禍とは関係なく、後発医薬品(ジェネリック医薬品)を選択する人が増えたことや薬価の引き下げによって収益力が落ちた企業もあり、製薬企業を取り巻く状況は実に厳しいものとなっている。

リストラ強化という製薬業界の厳しい状況

MRとして働く会社員にとっては戦々恐々とした状況が続くが、こうした流れは簡単には止まりそうもない。新型コロナウイルスのワクチン開発で大手製薬会社に対する注目が高まる一方で、こうしたリストラ強化の流れが製薬業界で強まっていることも知っておきたい。

文・BUSINESS OWNER LOUNGE編集部