総資産回転率は「どのくらい効率的に収益を獲得しているか」を確認するうえで役に立つ指標の一つ。貸借対照表と損益計算書のみを準備すれば総資産回転率は計算可能。今回はその計算式や収益の目安と改善法までを解説していく。
目次

財務分析の必須スキル「総資産回転率」とは

「総資産がいかに効率的に売上を生み出すか」、これは経営を効率化させるうえで重要な課題だといえる。総資産回転率を理解することで財務分析や自社の経営に役立てることができるだろう。まずは総資産回転率の概要や他の指標との違いを簡単に解説していく。
総資産回転率の概要
総資産回転率とは「総資産を使ってどのくらい効率的に売上を得られたか」を表す指標だ。1年間に総資産が何回売上高として回転したかを表すため、単位には「回」が用いられている。例えば1年間の総資産回転率が10回である場合、1年間で総資産が10回売上高として回転したことを表す。なお回転とは、「投資(商品の製造や購入)→販売→売上の回収」という一連の流れを表している。
総資産回転率は、高ければ高いほど好ましい指標だ。例えば総資産回転率が1回の場合、保有する総資産を活用して1回しか商品の生産や販売、現金化を実現できていないことを表す。一方で総資産回転率が10回の場合、10倍も生産や販売、現金化を実現したことを表している。(総資産の金額が同額である前提)
以上の理由より、総資産回転率が高いほど(同じ総資産の金額で多くの売上高を稼いでいるほど)、資産活用の効率性が高いと判断できるわけだ。
総資産回転率と総資本回転率との違い
総資産回転率と類似する用語に「総資本回転率」というものがある。資産とは、個人または法人が所有している金銭や土地・建物などの総称だ。貸借対照表においては、流動資産と固定資産、繰延資産の合計金額である。一方で資本とは、商売や事業をするのに必要な元手や過去の生産活動が創出した生産物のストックのことだ。
辞書的には、上記のような違いがあるものの実際の計算式や数値自体は同じとなる。そのため、厳密な意味の違いこそあるものの、基本的には同じ概念であると考えても問題ないだろう。
総資産回転率と利益率との違い
総資産回転率とROE(自己資本利益率)やROA(総資産利益率)などの利益率の違いは、分析する着眼点だ。総資産回転率は、効率的な資産の使い方に着眼しているため、分子には売上を使い単位には「回」を用いる。一方でROEやROAは、資産の稼ぐ力に着眼しているため、分子には利益(売上から費用を引いた額)を用い単位には「%」を用いる。
資産の使い方と稼ぐ力は、似て非なるものだ。それぞれの指標から得られる示唆は異なること多いので、状況に応じて使い分けることをおすすめしたい。
必ず覚えておきたい「総資産回転率の計算式」
総資産回転率は、損益計算書に記載されている売上高を貸借対照表に記載されている総資産で割ることで計算できる。総資産回転率の求め方を計算式で表すと以下の通りだ。
・総資産回転率(回)=売上高 ÷ 総資産
なお総資産には、以下の計算式で求めた期中平均値を使う場合もある。期末の総資産を使う場合と比べてより厳密な総資産回転率を算出できる点がメリットだといえる。
・期中平均の総資産 =(期首の総資産 + 期末の総資産)÷2
例えば期首の総資産が1億円、期末の総資産が2億円の場合、期中平均の総資産は以下の通り計算できる。
・期中平均の総資産=(1億円 + 2億円)÷2=1億5,000万円
総資産回転率の計算例
総資産回転率の求め方を深く理解するために、簡単な計算例を使って求めるプロセスを確認しておこう。なお今回は、期末の総資産のみを使って総資産回転率を計算する。例えば総資産1億円、売上高12億円というケースでは、総資産回転率は以下の通りだ。
・総資産回転率(回)=12億円÷1億円=12回
このケースでは、保有する総資産を使って商品の生産から現金化までを12回実現したことになる。
数値の良し悪しを判断する「総資産回転率の目安」
総資産回転率を計算しただけでは、その数値が良いか悪いかを判断することはできない。総資産回転率を基準に収益獲得の効率性を判断するには、同業種の平均と比較することが重要だろう。そこでこの章では、総資産回転率の良し悪しを判断するために目安となる業種別平均を解説する。
最適な水準は業種によって異なる
総資産回転率の最適な水準は、業種によって異なる。なぜなら業種によって総資産回転率の平均に大きな差があるからだ。例えば小売業や卸売業は、商品の仕入から現金化までのスパンが短いため、他の業種と比べて総資産回転率は高い傾向がある。一方で不動産・物品賃貸業は、物件や土地などの高額な資産を保有し販売スパンが長いうえに賃貸収入が主なため、他業種と比べると総資産回転率は低い水準だ。
このように業種によって総資産回転率の平均が異なるため、全業種の平均や他業種の企業と比較しても業績の改善に役立つ示唆は得にくい。業績の改善に役立てるためには、同業種の平均と自社の総資産回転率を比較するのがよいといえる。
総資産回転率の業種別平均
中小企業庁が公表している「中小企業実態基本調査」によると2018年度における業種別の平均総資産回転率は以下の通りだ。
・建設業:1.25回
・製造業:1.02回
・情報通信業:1.06回
・運輸・郵便業:1.17回
・卸売業:1.70回
・小売業:1.78回
・不動産・物品賃貸業:0.35回
・学術研究、専門・技術サービス業:0.66回
・宿泊・飲食サービス業:1.03回
・生活関連サービス・娯楽業:1.05回
・サービス業(その他) :1.22回
ちなみに全業種の平均は1.12回だ。前述した通り小売業や卸売業は他業種と比べて高く不動産・物品賃貸業は他業種よりも低いことが分かるだろう。
日数で表す「総資産回転期間」とは
総資産活用の効率性を判断する際、回数ではなく「日数」で表した数値を用いる場合もある。日数で総資産活用の効率性を表した指標を「総資産回転期間」と呼ぶ。この章では、総資産回転期間の概要と計算式を説明する。
総資産回転期間の概要
総資産回転期間とは、総資産を売上高として回収するまでにかかる日数を意味する。総資産回転期間の単位には、「年」「月」「日」が用いられる。例えば総資産回転期間が0.5年の場合、保有する総資産を売上高で回収するまでに0.5年(6ヵ月)かかることを表す。一方で総資産回転期間が2ヵ月の場合、保有する総資産を売上高で回収するまでに2ヵ月を要すると判断できる。
総資産回転期間が短いほどより少ない時間で効率的に総資産と同額の売上高を獲得できることを表す。そのため総資産回転期間は短いほど好ましい指標である。
総資産回転期間の計算式
総資産回転期間の計算式は、総資産回転率の分母と分子を逆さにしたものである。つまり総資産を売上高で割ることで計算できる。
・総資産回転期間=総資産÷売上高
例えば年間の売上高が4億円、期末の総資産が2億円の場合、総資産回転期間は以下の通りだ。
・総資産回転期間(年)=2億円÷4億円=0.5年
つまりこの例では、総資産と同額の売上高を稼ぐまでに0.5年かかるわけである。なお総資産回転期間を日数ベースで把握したい場合には、1日あたり売上高(売上高を年間の日数で割ることで計算)を使うことが必要だ。一方で単位に月を用いたい場合は、分母に1ヵ月あたり売上高(年間売上高を12ヵ月で割って求める)を用いる。日数ベースで総資産回転期間を計算すると以下の通り求められる。
・1日あたり売上高=4億円÷365日≒109万5,890円
・総資産回転期間(日)=2億円÷109万5,890円≒182日
以上の計算式より総資産と同額の売上を稼ぐまでに約182日かかることが分かる。
非効率な状況から抜け出すための「総資産回転率の改善法」
総資産回転率が競合他社の平均と比べて低い場合、非効率な状況を改善することが好ましい。総資産回転率を改善する方法は、大きく「売上を伸ばす方法」と「総資産を減らす方法」の2種類に大別できる。この章では、それぞれの具体的なやり方や注意点を解説していこう。
売上を伸ばす
1つ目の改善法は、売上高を伸ばす方法である。売上を伸ばせば総資産回転率の分子が大きくなるため、指標も高くなるわけだ。売上を伸ばす方法は多岐にわたる。現状抱えている課題をもとに最も効果的な方法で売上を伸ばすことが重要だ。例えば商品力に問題があるならば顧客のニーズに即した新しい商品を仕入または開発するのが良いだろう。
商品・サービスの販売先が少ないならば、新規顧客の開拓を強化するのが好ましい。また売掛金を回収するまでの期間が長い場合には、必要に応じて短期間で収益を回収できるように取引先と交渉することも求められる。
総資産を減らす
総資産回転率を改善する2つ目の施策は、総資産の削減である。総資産を減らすことができれば総資産回転率の分母が小さくなるため、指標が高くなるわけだ。ただし無理に総資産を減少させると、たとえ総資産回転率が高くなっても事業の継続に不可欠な売上高が減少するリスクがある。売上高が減ってしまっては本末転倒となってしまうため、あくまでも売上に直結していない資産や負債を削ることが重要だ。
例えば事業に使っていない資産や不要在庫を処分したり、借入金を減らしたりする施策が効果的である。こちらの方法で総資産回転率を改善する際には、必要な資産と不要な資産をしっかりと切り分けたうえで、実行するようにすべきだろう。
総資産回転率を改善し効率的な収益獲得を
総資産回転率を改善すれば、より効率的に資産を活用し収益を獲得できる。より少ない資本で多くの売上を稼げるようになるため、経営資源を増やすのが困難な企業は、積極的に総資産回転率の改善を試みてみるのがよいだろう。ただし、やみくもに資産を減らすと売上も減るリスクがあるため、あくまで「売上を増やす」「不要な資産を減らす」という方向性で総資産回転率を改善するようにしていきたい。
文・鈴木 裕太(中小企業診断士)