IT化の波は、保守的と思われがちな農業分野を大きく変えるかもしれない。今、農業分野に切り込む多種多様なベンチャー企業が登場している。今回は、画期的な取り組みを行う6社を厳選して紹介する。技術革新が目覚ましい今こそ、改めて農業分野に注目したい。

目次
農業系ベンチャー「アグリテック」が熱い

AI・ビッグデータ・IoT・ドローンなどの先進的なテクノロジーと、既存の業界と組み合わせた「X-Tech(クロステック・エックステック)」が注目されている。X-Techには、「医療×IT」のメディテック、「金融×IT」のフィンテック、「法律×IT」のリーガルテックなど、さまざまな種類がある。
その中でも、農業(Agriculture)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた、「アグリテック」が注目を集めている。また、アグリテックによって実現される農業を「スマート農業」「スマートアグリ」と呼ぶこともある。
アグリテックのベンチャー企業は、農家など生産者だけをターゲットにしているわけではない。下記のようなさまざまな人をターゲットとして、多種多様な事業を展開している。
- 週末だけ野菜づくりを楽しみたい人
- 農業に興味のある人
- 農業を学びたい人
- 野菜を買いたい人
今回はターゲット別に、農業系ベンチャー企業の興味深い事業を紹介していく。農業系ベンチャーの現在を知りたい人、農業系ベンチャーへの投資チャンスを探りたい人、農業系ベンチャーに参入したい人は、ぜひ参考にしてほしい。
農家の人向けのサービスを展開する農業系ベンチャー4選
まずは農家の生産性を大きく向上させる可能性のある、農家の人向けのサービスから解説する。代表的な農業系ベンチャーを3つ紹介しよう。
1.自動収穫ロボットを提供する「inaho株式会社」
inaho(イナホ)株式会社は、人工知能を使った自動野菜収穫ロボットを提供している農業系ベンチャー企業だ。野菜の収穫においては、その都度、人間の「判断」が必要とされてきた。しかしinahoのロボットは、収穫に適した状態の作物を画像認識で判別し、自動で収穫できる。
ロボットは農家に貸し出すという方式をとっている。そのため農家側としては、初期費用やメンテナンス費用がかからないのもうれしい点だ。利用料は収穫高に応じて決まるため、「設備投資をしたものの、投資額を回収できない」といった事態を防げる。
農家の負担軽減・業務効率化の観点からいっても、消費者にとっての高品質・低コストの観点からいっても、自動収穫技術の果たす役割は大きい。今後、技術の発展とともに自動収穫ロボットは広く普及していくだろう。
2.農業用ドローンを開発する「株式会社Nileworks」
株式会社Nileworks(ナイルワークス)は農業用ドローンを開発した。上空30センチから50センチを自動飛行させ、薬剤散布と生育診断を同時に自動でできる。
特別な操縦スキルは必要なく、開始ボタンを押すだけで離陸から着陸まで自動飛行が可能だ。誰が作業しても、同じ精度で散布できる。また、生育調査用カメラでデータ取得することで、診断結果に応じた最適な農薬・肥料を散布してくれる。
3.農業コンサルティングをする「株式会社農業総合研究所」
農家を対象にした農業コンサルティング事業を行う農業系ベンチャー企業の需要も大きい。
株式会社農業総合研究所は、「新しい農産物流通プラットフォーム」をかかげ、生産者・直売所と提携し、新鮮な野菜をスーパーマーケットなどに届ける事業を行ってきた。また、農産物流通チャネルを構築し、海外輸出入なども取り扱っている。
こういった事業で蓄積されたノウハウをもとに、農業コンサルティング事業を行っている。コンサルティングでは、生産・流通・販売などあらゆる面で、支援を受けられる。サービス内容には、経営支援・調査・ブランディング・講演などがある。
4.農業データ分析に取り組む「株式会社システムフォレスト」
株式会社システムフォレストは、農業データ分析に取り組んでいる。
現在、熊本県立農業大学校や熊本県立鹿本農業高等学校に、温度・湿度・照度・CO2濃度などを計測する各種センサーやカメラを設置し、データ収集を行っている。同時に、クラウド上に栽培環境や生育状況がわかる「栽培データ」をグラフ・図表・画像で表示させることに取り組んでいる。
パソコンやスマホでリアルタイムの情報を確認できるようになれば、農業の生産性は大きく向上するだろう。
一般消費者向けのサービスを展開する農業系ベンチャー2選
最後に一般消費者向けのサービスを提供する農業ベンチャーを2社紹介したい。一般消費者と農家を結ぶ魅力的な取り組みだ。
1.収穫体験付きバーベキューを提供する「株式会社アグリメディア」
株式会社アグリメディアが提供する収穫体験付きバーベキュー場「ベジQ(ベジキュー)」。地元農家の新鮮野菜・旬の野菜の収穫体験をしたあと、そのままバーベキューを楽しめる。とれたての野菜をその場で焼いたり、お肉に巻いたりして食べれば、野菜の魅力を再発見できるだろう。
バーベキューや収穫に必要な器材はすべて用意されており、手ぶらで楽しめるのも安心だ。普通のバーベキューに飽きてしまった人も、新鮮な体験ができるだろう。
2.直接売買アプリを提供する「レッドホースコーポレーション株式会社」
生産者と購入者を直接つなぐアプリ「OWL(アウル)」を提供するのは、レッドホースコーポレーション株式会社だ。「OWL」を活用すれば、誰もが契約農家を持つことができ、市場を通さない直接流通で食材を入手できる。
自治体公認の生産者しか登録できないため、購入者は安心して食材を買える。飲食店経営者なら、こだわりの野菜でお店のブランド力をあげたり、おいしさを追求したりできる。生産者は、内容量や値段を自由に決めて、規格外品も販売できる。
生産者・購入者ともにスマホ1つで取引できるのも、メリットとして大きいだろう。手数料削減によって、生産者・購入者ともに金銭的なメリットも得られる。
「OWL」は日経新聞やマイナビ農業など、複数のメディアで取り上げられている事業だ。今後の動向に注目しておきたい。
農業を始めたい人向けのサービスを展開する「アグリメディア」のサービスとは?
次に農業を始めたい人向けのサービスを展開する企業を紹介する。代表的な農業ベンチャーは株式会社アグリメディアだ。同社の特に注目を集めるサービスを3つ解説していこう。
1.シェア畑
株式会社アグリメディアが提供する「シェア畑」は、全国の遊休農地・遊休地をリメイクし、農園として都市住民に提供するサービスだ。全国99ヵ所で運営されている。
種・苗・肥料・農機具・資材などすべてがそろっているため、利用者は手ぶらで行っても野菜づくりを楽しめる。また、野菜作りの経験が無くても、菜園アドバイザーがレクチャーしてくれるため安心だ。
年間30種類以上の無農薬栽培の野菜を収穫することも可能だ。いずれは農業を始めたい人はもちろんのこと、大学生が友人同士で利用したり、子どもの教育を兼ねて家族で利用したり、幅広い目的の活用が考えられるだろう。
2.農業学校
株式会社アグリメディアは、農家を目指す人向けに農業学校「アグリアカデミア」も開講している。2万5000人以上に野菜づくりを教えてきたアグリメディアのノウハウを、体系的に学べることが魅力だ。知識と実践のバランスを重視した講座は、多くの人に支持されている。
週末に開校され、畑で直に有機野菜づくりを学べる。栽培知識や技能に加え、野菜づくりの原理原則を基礎から学べ、新規就農の事例や農業界の現状についても講師が丁寧に解説してくれる。
最近では、二拠点生活である「デュアルライフ」が新しい生活スタイルとして注目されている。デュアルライフを送るデュアラーの中には、平日は都市部に住んで仕事をし、週末は家族で田舎に行き野菜づくりやアウトドアを楽しむ人もいる。
そんな生き方が注目される中で、農業学校という事業はますます広がりを見せるだろう。
3.ファームヘルプ
人手不足の農家と、農業を学びたい人・経験したい人をマッチングするサービスが「ファームヘルプ」だ。株式会社アグリメディアが提供している。野菜づくりの経験者だけでなく、未経験者もファームヘルプに申し込める。
申し込み後、研修を受講すれば、ファームヘルパーの資格が授与される。その後、登録農家の農作業に1日から参加できる。
農業に興味があり、実際に農家で作業してみたい人や、農家の人と話したい人にとって、貴重な体験ができる機会となるだろう。農家側からすると、収穫時期や植え付け時期など、繁忙期にあわせて必要な分だけ人手を借りることができる。
農業系ベンチャーに参入するなら?
アグリテックの市場規模は、今後大きく成長すると見込まれている。こういった背景から、農業系ベンチャー事業に参入しようと考える経営者は多い。
農業系ベンチャー事業に参入しようと思うなら、まずは自分が持つ既存事業と農業の掛け合わせを考えるといいだろう。「これまで培ってきた技術力を、農業に活かせないか」という視点が大切だ。
既存の農業の枠組みにとらわれる必要はない。新たな発想で、新規ビジネスを創出するオリジナリティこそが、成功のいしずえとなるだろう。
また、生産者である農家や野菜を仕入れる店舗に接触し、課題をヒアリングするのも事業創出のヒントになるはずだ。農業は専門分野であるため、思い込みだけで事業を創ろうとしても、成功しないことが多い。現場の声を大切に、地域創生や社会貢献の視点もまじえて、新規事業の創出をはかるようにしたい。
アグリテックが示唆する未来の農業の在り方
アグリテックの台頭によって、農業の在り方は大きく変わっていくだろう。
自動収穫ロボットやセンサー技術に発達によって、私たちの食卓に並ぶ野菜は高品質・低コストになるとともに、「体験」として農業をとらえる傾向は強くなると予想される。農業が、食生活を支える産業ではなく、趣味・娯楽の1分野とされる時代がくるかもしれない。
これからは、現在の市場のニーズをくみとることにとどまらず、10年先・20年先まで見据えて事業展開する「先見の明」が経営者に要求されるだろう。そんな時代背景を踏まえ、さまざまな分野にアンテナを張るとともに、柔軟な発想でビジネスチャンスを開拓するようにしたい。
文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパート)