大企業を中心にニュース等で目にする「株主代表訴訟」。しかし経営に関わっていれば中小企業でも他人事ではない。むしろ、個人的なトラブルが生じやすい中小企業だからこそ、リスクは高いと言える。株主代表訴訟を理解し、防ぐためのポイントを解説する。

目次

  1. 株主代表訴訟とは
    1. 株主代表訴訟で被告となる役員等
  2. 株主代表訴訟で責任追及する株主の要件
  3. 株主代表訴訟の訴訟対象
  4. 株主代表訴求の手続き
  5. 株主代表訴訟の事例
    1. ヤクルト事件
    2. アパマンショップHD事件
  6. 株主代表訴訟が中小企業でも増加した背景
  7. 中小企業で株主代表訴訟が起こる原因
  8. 株主代表訴訟を防ぐためのポイント
    1. (1)内部統制システムを構築する
    2. (2)自社株を分散させない
    3. (3)取締役の責任を制限する
  9. 株主代表訴訟は経営の健全化で防げる
鈴木まゆ子
鈴木 まゆ子(すずき・まゆこ)
税理士・税務ライター。税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

>>会員登録して限定記事・イベントを確認する

株主代表訴訟とは

経営者なら誰もが当事者になりうる「株主代表訴訟」の基礎知識
(画像=Pakhnyushchyy/stock.adobe.com)

株主代表訴訟とは、株式会社の経営者である取締役に対し、株主が会社に代わってその経営責任を追及し、損害賠償を請求する訴訟手続だ。会社法では、「責任追及等の訴え」という。

取締役などの経営者による違反行為や経営判断のミスなどで会社が損害を被った場合、本来は、取締役らに対して会社そのものが責任追及をしなくてはならない。しかし、代表者としての役割を担う監査役なども、取締役との人間関係で追及の責務を怠ることもある。このような時に、株主が会社を代表して責任追及を行うのが、株主代表訴訟なのだ。

株主代表訴訟と言うと「勝訴した時の利益は株主が享受するもの」と思われがちだが、これは誤解だ。取締役への賠償請求が認められても、賠償金を受け取るのは会社であって株主ではない。株主代表訴訟において、株主はあくまでも「会社の代理」でしかないのである。

株主代表訴訟で被告となる役員等

会社法の前の旧商法では、取締役だけが責任追及の対象だった。しかし、会社法施行以後は『会社法第847条』により次のように対象範囲が拡大した。

・取締役 ・発起人 ・設立時取締役 ・設立時監査役 ・会計参与 ・執行役 ・監査役 ・会計監査人 ・清算人

・訴訟に参加するのは誰か?

株主代表訴訟の原告は株主であり、被告は取締役など会社役員である。会社も参加が可能であり、参加する際は基本的に「原告側として」だが、一定要件を満たせば被告側としても参加できる。

なお、会社が株主からの求めに応じて訴訟を提訴したのなら、株主も訴訟に参加できる。会社と取締役のなれ合い防止の観点から会社法上、認められている。

>>会員登録して限定記事・イベントを確認する

株主代表訴訟で責任追及する株主の要件

非公開会社であれば、単に「株主である」だけで訴訟を行うことができる。しかし、公開会社の場合は、訴訟時点で株主であるだけでなく、6ヵ月前からずっと株主であることが必要だ。

なお、株主の地位は訴訟したら終わりではなく、訴訟が終結するまでその地位を保持しておかなければならない。また、「6ヵ月」という期間は定款により短くすることもできる。

株主代表訴訟の訴訟対象

株主代表訴訟での訴訟対象の中心を占めるのは、役員等の責任追及だが、それ以外にも以下のような事由で訴訟はできる。

・違法な利益供与がされたとき ・不公正な価額での株式やストックオプションの引き受けがあったとき

前者は供与を受けた側に対して利益返還を求め、後者は出資者に差額支払を求めることになる。

株主代表訴求の手続き

株主代表訴訟の権利を有する株主は、最初に会社に対して取締役など役員の責任追及のための訴訟を提起するよう書面で請求する。しかし、その請求にもかかわらず、会社が60日以内に訴訟を提起しないならば、株主は会社に代わって提訴できる。

なお、60日間待つことで会社保有の時効を迎えるなどで回復不可能な損害が生じる恐れがある場合、会社への請求を省略して直接訴訟を提起できる。

また、株主は提訴した後すぐに、会社に対して訴訟告知をしなくてはならない。株主代表訴訟は会社のためのものであり、会社自身にも訴訟に参加する利益があるからである。

株主代表訴訟の訴えを提起する裁判所は、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所となる。なお、株主代表訴訟には費用がかかり、訴状に貼付する印紙代として1万3,000円を負担しなくてはならない。

株主代表訴訟の事例

ここでは、株主代表訴訟の過去の訴訟事例を2つ紹介する。

ヤクルト事件

資産運用業務担当の取締役の指示に従い、投機性の強いデリバティブ取引を行っていたところ、会社に533億円超の損害を被らせてしまったという事件だ。

株主は取締役らに忠実義務違反・善管注意義務違反があったとして損害賠償を請求し、資産運用を行っていた取締役には約67億円の損害賠償が認められた。

アパマンショップHD事件

アパマンショップHD社は事業再編の一つのプロセスとして、傘下の非上場会社を子会社化すべく株式を買い取った。その子会社となるべき会社の株式の買取額は1株5万円だったが、企業価値から算定される株式の評価額は1万円程度だった。

この事実に基づき、株式買取額の決定は役員の裁量権の範囲を逸脱しているとして、株主がアパマンショップHD社の取締役らを訴えた。東京高裁では役員に約1億円の損害賠償が命じられたが、最高裁では役員の経営判断の裁量権の範囲内であるとして原告の訴えを退けた。

株主代表訴訟が中小企業でも増加した背景

株主代表訴訟は大企業だけの問題ではなく、中小企業でも増加している。「株主代表訴訟の8割は中小企業」と言われるほどだ。背景には次の事情がある。

・訴訟のハードルが低い

株主代表訴訟を行うハードルは決して高くはない。訴訟費用に必要なのは1万3,000円の印紙代だけであり、「6ヵ月間の株式保有期間」という要件は公開会社だけに適用される。株式譲渡に制限がついている会社なら、株主になったその日から提訴できる。

・親族関係者による争いが生じやすい

中小企業で多いのが同族会社だ。同族会社とは、経営者一族で出資持分の全部または大部分を保有している会社をいう。この株式保有が経営者に協力的な親族によるものだけなら問題は生じないが、そのような会社ばかりではない。

時間が経過し、株式が創業一族の子や孫の世代に相続されれば、お互いに意見が分かれて対立が生じることもある。経営者に反発する少数株主が、株主代表訴訟を行うこともあるのだ。

中小企業で株主代表訴訟が起こる原因

中小企業において株主代表訴訟が起きる原因としては、以下のようなことが考えられる。

・経営者一族による私的流用

「会社は社会の公器」と言われる反面、「会社は社長のもの」と考えている経営者は少なくない。社長やその親族のプライベートの支出を会社の経費として処理し、会社からの貸付金で不動産を購入するようなケースもあるだろう。

経営者一族による会社資産の私的流用は、会社の利益を圧迫するだけでなく少数株主や従業員の心証を悪くし、会社全体の士気を下げかねない。株主代表訴訟の材料とされても仕方ないことであり、公私を区別すべきなのは言うまでもない。

・取締役会・株主総会がいい加減

中小企業では、「経営者=株主」であることが多く、取締役会や株主総会が適切に行われないことがあり、議事録の発行などがなされないケースもある。このような事態は他の株主からの反発を招きかねず、たとえ身内だけの会議であっても、役員の立場で参加するのであれば馴れ合いは厳禁だ。

・相続・金銭トラブル

自社株の相続や役員同士の金銭の貸し借りに関するトラブルも、株主代表訴訟の原因になりやすい。相続での金銭トラブルは、他の親族株主の私怨を生む可能性もあるため、相続では不公平さを防ぐための事前対策が必要である。また、お金の貸し借りは最初から行わないか、行うなら契約書を作成するなどの対処を行うようにしたい。

株主代表訴訟を防ぐためのポイント

中小企業であるが故に起こりやすい株主代表訴訟を防ぐためには、以下の3点を意識してもらいたい。

(1)内部統制システムを構築する

株主代表訴訟を防ぐためには、役員が不正を行いにくいシステムを作っておくことが重要だ。役員同士がお互いを監視できるような内部統制システムを構築しておけば、訴訟リスクはかなり軽減される。

具体的には、取締役会などの会議の議事録を作成する他、損益計算書や貸借対照表などの財務諸表や試算表の定期的なチェック、内部監査・内部通報制度の確立などである。

ただし、「システムを作って終わり」では、内部統制システムそのものが形骸化し、再び不正が起こる恐れもある。システムがきちんと機能しているか否かも、定期的に確認しなくてはならない。

(2)自社株を分散させない

中小企業に多い同族会社での株主代表訴訟は、自社株が分散している状態であるため、対立派閥や少数株主からの提訴が多い。自社株の分散は、株主代表訴訟だけでなく、株主総会での議決がまとまり難くなるといった問題も孕む。株主代表訴訟がなくても、会社経営が難航する原因になりやすいのだ。

自社株の分散を防ぐためには、以下の2つの対策が効果的だ。

1.分散した株式を買い集める

分散した株式を買い集めるには、株主に交渉しなくてはならない。協力的な株主ならいいが、中には非協力的な株主もいるだろう。そういったときはスクイーズアウト(少数株主排除)を検討するとよいだろう。

2.最初から株式が分散しないような仕組みを作る

株式が分散しない仕組みを作るなら、事業承継の段階で次の後継者に株式を集中させるとよい。ただ、事情により他の親族に株式を譲らざるを得ないときもあるだろう。この場合、相続人等に対する売渡請求について、定款で定めておくとよい。定款に規定があれば、株主が死亡して自社株に相続が発生したときに株式を回収できる。

この他、株式譲渡制限条項を定款に定めるのも有効だ。株主総会または取締役会、代表取締役の承認を必要とする条項があれば、会社との関わりが薄い人間が株主になる状況を防ぐことができる。

(3)取締役の責任を制限する

『会社法第425条』では、役員の職務遂行において善意かつ重大な過失がなければ、賠償責任額を次の最低限度額まで制限できるとされている。

・代表取締役や代表執行役:年間報酬の6倍 ・その他の社内取締役・執行役:年間報酬の4倍 ・社外取締役・会計参与・監査役・会計監査人:年間報酬の2倍

これには株主総会の特別決議か取締役会の決議が必要だが、取締役決議で責任を軽減したいのなら、この旨をあらかじめ定款に定めておくとよい。

この他、役員賠償責任保険に加入・見直しをするといったことも有効だ。

株主代表訴訟は経営の健全化で防げる

株主代表訴訟は、非公開株式会社の株主であれば比較的容易に訴訟を起こすことができる。中小企業は、大企業と比べて内部統制のシステムが構築されているとは言い難く、株主代表訴訟に発展しやすい。

株主代表訴訟を防ぐためには、自社株の分散防止などの対策が有効ではあるが、そもそも株主代表訴訟を起こされないように、経営の健全化に努めることが重要であることを、忘れてはならない。

文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)