保険会社へ支払う保険料の勘定科目は「保険料」や「支払保険料」として仕訳られる。生命保険や損害保険などの種類や受取人、契約者が個人事業主か法人かでも勘定科目は異なる。本記事では保険料について正しく帳簿ができるように解説する。
目次
保険会社などへ支払う「保険料」について

まずは勘定科目の「保険料」に当てはまる保険の種類や、経費に計上できる保険とそうではない保険について解説する。保険の種類によって勘定科目も異なるため、注意してほしい。
保険料の勘定科目とあてはまる保険の種類
保険料を保険会社へ支払った場合の基本的な勘定科目は「保険料」となる。この「保険料」に含まれるものには、以下のような費用がある。
生命保険 定期保険(掛け捨て保険)の保険料 終身保険(満期がない保険)の保険料 養老保険の死亡保障部分(掛け捨て)の保険料
損害保険 傷害保険の保険料(傷害保険料) 火災保険の保険料(火災保険料) 地震保険の保険料(地震保険料) 自動車保険の保険料(自動車保険料) 強制保険(自賠責保険) 任意保険 運送保険の保険料(運送保険料) 盗難保険の保険料(盗難保険料)
個人事業主の生命保険は経費にならない
注意したいのは個人事業主の場合、自身にかけた生命保険料は生命保険料控除の対象にはなるが、経費には計上できない点だ。
一方、法人が契約者となる生命保険は、種類や契約内容によっては全額経費計上できることもあるが、返戻金や満期保険金は収益計上する必要がある。
経営者向け生命保険、法人向け生命保険なども数多く販売されていたり、「保険を節税対策に活用する」といった内容のノウハウもよく見受けられるが、法人向け生命保険の節税に関する効果は場合によると考えたい。
節税だけではなく、経営者や従業員に万が一のことがあった場合、会社や遺族を守るためにはどれくらいの保障が必要になるかといった部分とのバランスを見て、法人での生命保険加入を検討した方がいいだろう。
損害保険は事業とプライベートでの兼用に注意
損害保険は、事務所や社用車など事業のみに使うものを対象としている場合は全額を経費に計上できる。
ただし、事業とプライベートで兼用しているものを対象とする場合は、事業で使用している比率分のみを経費計上する「家事按分」を行う。経費分の勘定科目は「支払保険料」、プライベート分の勘定科目は「事業主貸」とする。
事業主貸は「事業用資金を生活費として事業主に貸し付けた」と見なす勘定科目だ。つまり「プライベート分の保険料は事業用資金から借りて払った」ということになる。
また、複数年分の保険料をまとめて支払った場合、当年分の保険料の勘定科目を「支払保険料」とし、次年以降分の勘定科目は「前払費用」とする。次回の確定申告では「次年分の保険料を前払費用から払った」という形をとるため、貸借対照表では借方に勘定科目「損害保険料」、貸方に勘定科目「前払費用」として記載する。
貯蓄性のある保険の勘定科目
定期保険の中でも下記のような貯蓄性が高い部分を持つ保険は、いわゆる掛け捨て保険にあたる定期保険とは扱いが異なるから注意しよう。
- 契約後一定期間ごとに保険金額が増えていく「逓増定期保険」
- 保険期間が長期にわたる「長期平準定期保険」
- 養老保険に定期保険の保障を組み合わせた「定期付養老保険」
貯蓄性の高い保険は、支払った保険料は損害に備える「掛金部分」と、返戻にあてられる「貯蓄部分」に区分される。
掛金部分の勘定科目は「保険料」となるが、貯蓄部分は資産計上をする必要があるため、勘定項目も「保険積立金」となる。
例えば養老保険の場合は「死亡保障部分(掛け捨て部分)の保険料」だけが勘定科目「保険料」となる。
保険会社などから受け取る「保険金」について
法人で保険契約を結んでいる場合はもちろん、個人事業主であっても、事業に関連する保険契約を結んでいる場合、会計には「保険料」と「保険金」の、両方が関わってくる。保険料のみではなく、受け取った保険金の勘定科目についても確認しておこう。
受け取った保険金の勘定科目は?
被保険者が死亡するまたは病気やケガなどで、保険会社から保険金を受け取った場合、その保険金の勘定科目は「雑収入」または「受取保険金」となる。
掛け捨て型の保険契約であれば、保険金の全額を雑収入や受取保険金として処理する。
「掛金部分」と「貯蓄部分」の区分がある保険で貯蓄部分を資産計上していたというケースであれば、貯蓄部分にあたる資産をすべて取り崩し、保険金による収入との差額を雑収入や受取保険金として処理する。
もし、収入額よりも貯蓄部分の額が大きかった場合、差額を計上するのは同様だが、勘定科目は雑損失や保険解約損などとなる。
受け取った保険金を従業員や役員に支払った場合の勘定科目は?
受け取った保険金を従業員や役員に支払ったケースを考えてみよう。
例えば、保険に加入している法人の従業員や役員が入院治療をし、法人に対して入院給付金などの保険金が支払われた場合、受け取った保険金を従業員や役員へ見舞金として渡す……といったケースもあるだろう。
この場合、法人が受け取った保険金は勘定科目「雑収入」として計上し、従業員へ支払った見舞金は勘定科目「福利厚生費」として経費計上できる。
それでは、入院給付金の厚い保険に加入しておいて、従業員・役員への見舞金をうんと弾んでしまえばいいのではと考えるかもしれないが、実はそうもいかない。
社会通念上相当とされる金額を超えるような多額の見舞金は、勘定科目も福利厚生費ではなく従業員であれば給料手当、役員であれば役員報酬となり、それぞれ所得税が課されてしまう。
また、ここでもし見舞金が役員報酬となってしまえば、経費計上もできないので注意が必要だ。 ちなみに、「社会通念上相当とされる額」の金額や算出方法などは、法人税法においてははっきりと明示されていない。ただ過去の事例から、おおむね5万円程度ではないかと推測されている。
見舞金を福利厚生として計上する場合の注意点
見舞金を福利厚生費として計上できるのは、対象となるすべての従業員に見舞金を支給している場合に限られる。例えば「入院した2名の従業員のうち、役職が上の従業員にだけ見舞金を支給した」となれば、それは福利厚生費にはならない。
反対に、見舞金を福利厚生費にするためには「入社直後に1日だけ入院した従業員にも見舞金を支給しなければならない」といったことにもなりかねない。
あらかじめ社内で慶弔見舞金規定を整えておけば、勤続年数、雇用形態、支給条件(入院日数など)といった形で支給対象を決めることができ、支給する金額も決めておける。
また、従業員や入院のタイミングによって見舞金が出たり出なかったりして混乱するといったトラブルも防ぐことができるだろう。
なお、保険金に関してこうした処理が発生してくるのは「受取人が法人となっているケース」に限られる。加入者が法人であっても、保険金の受取人が従業員本人やその家族となっている場合、保険金は保険会社から従業員へ直接支払われるため、法人側の処理は無用となる。
保険料・保険金の勘定科目について理解し、正しく経費計上しよう
「保険料」ひとつをとっても、貯蓄部分のあるなしや契約者が誰か、家事按分などさまざまな要素によって勘定科目や経費計上できる金額などが変わってくる。
片や「保険金」も、受け取った場合は「雑収入」で済むが、それを従業員に支給するとなると「福利厚生費」にできるかどうかといったポイントが出てくる。この通り、「保険料」も「保険金」も、勘定科目に関して判断の難しい場面に出くわすことは想像に難くない。
この機に、自社で加入している保険についてしっかり確認しておくことをおすすめする。
文・ライトアップ