年次有給休暇にまつわるトラブルや悩みは後を絶たない。年次有給休暇の時季変更権の意味や認められるための要件を解説。パワハラと認定されないための注意事項も紹介するので、年次有給休暇の時季変更権について知りたい経営者はぜひ参考にしてほしい。

木崎 涼
木崎 涼(きざき・りょう)
FP・簿記・M&Aシニアエキスパート。大手税理士法人で多数の資産家の財務コンサルティングを経験。多数の資格を持ちながら、執筆業を中心に幅広く活動している。

目次

  1. 年次有給休暇の時季変更権とは?
    1. 年次有給休暇とは?要件と付与日数をおさらい
    2. 年次有給休暇を労働者に与えることは雇用者の義務
    3. 労働者が持つ時季指定権とは?
    4. 雇用者に認められた時季変更権とは?
  2. 雇用者の時季変更権が認められる2つの要件
    1. 要件1.事業の正常な運営を妨げる場合に認められる
    2. 要件2.雇用者は労働者が希望日に年休をとれるよう配慮する必要がある
  3. 雇用者の時季変更権が認められるモデルケース
  4. 雇用者の時季変更権が認められないモデルケース
  5. 時季変更権の濫用は危険!パワハラと認定されるケースも
  6. トラブルを防ぐために経営者ができること

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年次有給休暇の時季変更権とは?

年次有給休暇の時季変更権とは?パワハラ認定されないための基礎知識
(画像=Rawf8/stock.adobe.com)

まず、年次有給休暇の要件や付与日数、年次有給休暇に関する注意点を解説する。また、労働者に与えられた時季指定権と雇用者に与えられた時季変更権の意味をわかりやすく解説する。

年次有給休暇とは?要件と付与日数をおさらい

年次有給休暇とは、一定期間勤務した労働者に対して与えられる休暇のことだ。「有給」という文字の通り、減給対象にならない休暇を指す。

年次有給休暇が付与される要件は下記の2つ。

1.雇用した日から6ヵ月が経過している。 2.全労働日の8割以上出勤している。

また、勤続期間と付与される休暇の日数は下記の通り。

雇用した日から数えた勤続期間 付与される休暇の日数

6ヵ月            10日
1年6ヵ月          11日
2年6ヵ月          12日
3年6ヵ月          14日
4年6ヵ月          16日
5年6ヵ月          18日
6年6ヵ月以上        20日

年次有給休暇を労働者に与えることは雇用者の義務

年次有給休暇は労働者の権利であり、労働者から申し出があった場合、雇用者は年次有給休暇を与えなければならない。年次有給休暇の取得を拒否することは法律違反となるため、注意が必要だ。

年次有給休暇については、就業規則に必ず記載する義務がある。就業規則を作成して行政官庁に届け出る義務があるのは、常時10人以上の労働者を雇っている場合だ。

「働き方改革関連法案」により、2019年4月1日からは、雇用者は10日以上の年次有給休暇が与えられる労働者には、毎年5日間時季を指定して年次有給休暇を取得させることが義務づけられた。

正社員だけでなく、パートタイム労働者にも年次有給休暇は付与される。パートタイム労働者の場合、1週間の労働日数や1年間の労働日数に応じて、正社員より少ない年次有給休暇が付与される。

パートタイム労働者の年次有給休暇の取得を拒否することも、法律違反となるため、くれぐれも年次有給休暇に関する労働者とのやり取りには注意したい。

労働者が持つ時季指定権とは?

年次有給休暇をいつ取得するかは、基本的に労働者の自由だ。これを、労働者の時季指定権と呼ぶ。使用者は労働者から年次有給休暇の取得の請求があった場合、原則として希望する時期に年次有給休暇を与える必要がある。

雇用者に認められた時季変更権とは?

時季変更権とは、雇用者が労働者の年次有給休暇の時期を変更してもらう権利のこと。労働者が請求した日に年次有給休暇を取得すると、事業に深刻な影響が出て正常な運営が妨げられる場合、雇用者は年次有給休暇の時期を変更できると決められている。

ただし、年次有給休暇を取得させないことは法律違反となる。何度も時季変更権によって時期を変更した場合、労働者が「年次有給休暇を取得させないための策略だ」ととらえると、トラブルに発展するケースがある。

また、時季変更権があるからといって、労働者が年次有給休暇を取得する時期を雇用者が自由に決められるというわけではない。労働者には時季変更権指定権があることを前提に、時季変更権を考える必要がある。

時季変更権は雇用者の権利だが、あくまで労働者との調整の上に成り立つものだと理解しておきたい。

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雇用者の時季変更権が認められる2つの要件

時季変更権は雇用者の権利だが、労働者の時季指定権との調整が必要であり、時季変更権と認められなければ雇用者は労働者の権利を侵害したことになってしまう。時季変更権は無条件に認められるものではないため、要件を満たすかどうか、慎重に検討しながら対応する必要がある。

続いては、年次有給休暇の時季変更権が認められるための具体的な要件をみていこう。

要件1.事業の正常な運営を妨げる場合に認められる

年次有給休暇の時季変更権が認められるのは「事業の正常な運営を妨げる場合」だ。これは、具体的にどのような状況をさすのだろうか。

たとえば、次のようなケースは、「事業の正常な運営を妨げる場合」と認められる可能性がある。

・管理職が2人いる職場で、1人の管理職が年次有給休暇の取得を希望した。しかし、希望日はもう1人の管理職が事情によって出勤できない日だった。管理職が不在では、その日の業務に支障をきたすことになる。

・繁忙期のとある日に、複数の労働者が年次有給休暇の取得を希望した。希望通り年次有給休暇を与えると、当日の業務がまわらなくなる可能性が高い。

・自分自身の責任において、〇日までに仕上げる必要がある業務を抱えた労働者が、〇日に年次有給休暇の取得を希望した。〇日までに業務を仕上げるめどは立っていない。期限を過ぎると、顧客の信頼を失う恐れがある。

やむを得ない事情がある場合、雇用者は時季変更権を理由に、労働者に年次有給休暇の取得時期をずらすよう伝える権利がある。過去の判例では、「事業の正常な運営を妨げる場合」について、下記の要素を加味して総合的に判断するとされている。

・事業の規模 ・業務内容 ・労働者の職務内容 ・繁忙度 ・代替要員確保の困難度 ・代替による事業への影響の程度 ・休暇期間の長短

要件2.雇用者は労働者が希望日に年休をとれるよう配慮する必要がある

「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当したとしても、雇用者がただちに労働者に年次有給休暇の取得時期を変更するよう強く迫ることはできない。雇用者は、労働者が希望日に年次有給休暇をとれるよう、できる限り配慮する義務があるからだ。

たとえば、代わりに出勤できる社員がいないか確認したり、現場の体制を見直したり、納期を調整したりして、年次有給休暇を希望日に取得できるよう努めなければならない。その上で、どうしても調整が難しい場合、労働者に年次有給休暇の取得時期の変更を伝えるようにしたい。

なお、慢性的な人員不足を理由に、労働者が年次有給休暇を取得することで「事業の正常な運営を妨げる」として、時季変更権を行使することはできない。

雇用者の時季変更権が認められるモデルケース

時季変更権が認められるモデルケースをみていこう。

<専門性の高い業務を担うAさんの事例>

専門性の高い業務を担うAさんは、長期間に渡る年次有給休暇の取得を希望した。a社はAさんの業務を担える代わりの人材を探したが、Aさんが年次有給休暇の取得を希望した時期が1ヵ月前だったこともあり、代わりの人材を見つけることが叶わなかった。

Aさんが年次有給休暇の取得を希望した期間に、Aさんにしかできない仕事が予定されており、そのことは2ヵ月前からAさんも知っていた。

Aさんにしかできない仕事が、Aさんが年次有給休暇の取得を希望した期間に完了しなかった場合、a社と顧客の関係性に深刻な影響が出る恐れがあった。

雇用者の時季変更権が認められないモデルケース

続いては時季変更権が認められないモデルケースについてもみていこう。

<たった1人の現場責任者Bさんの事例>

長年に渡る勤務経験があり、現場の責任者として業務全般を監督するBさんは、常々管理者をもう1人増やしてほしいとb社に掛け合っていた。しかし、b社はBさんに人材確保に向けて行動することを約束しつつも、具体的な採用活動を一切行っていなかった。

ある時、Bさんが年次有給休暇の取得を希望したが、b社は「事業の正常な運営を妨げる」として、Bさんが希望する日に年次有給休暇を取得することはできないと返答した。b社は雇用者には時季変更権があり、Bさんはそれに従う義務があると主張した。

b社の対応に怒ったBさんとb社の間で裁判に発展し、Bさんの主張が受け入れられ、時季変更権は認められないこととなった。

時季変更権の濫用は危険!パワハラと認定されるケースも

時季変更権を不当に行使すると、刑事罰の対象となる。労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科される。

なお、30万円以下の罰金は労働者1人あたりにつきだ。たとえば、10人の労働者が対象となった場合、罰金は300万円科される。

一方、時季変更権が認められた場合、従業員は年次有給休暇を申請した日に働く義務が生じる。もし出勤を怠った場合、欠勤扱いとなる。

また、雇用者が時季変更権を行使するにもかかわらず、そのことが就業規則に記載されていない場合も、30万円以下の罰金が科される。さらに、雇用者が10日以上の年次有給休暇が与えられる労働者に5日間の年次有給休暇を取得させていなかった場合も、30万円以下の罰金が科される。

このほか、時季変更権を濫用することで、労働者から「パワハラ」だと訴えられるリスクもある。パワハラで訴えられ、裁判でパワハラが認められると、訴えられた人には前科がつく。悪質であれば、数十万円から百万円ほどの慰謝料の支払いが命じられるケースもある。

時季変更権を濫用すると、会社の損失につながったり、社会的な立場を失ったりする可能性もある。時季変更権を行使する時も、できる限り希望日に年次有給休暇を取得できるよう配慮することが大切だ。また、労働者の状況や心情に配慮し、トラブルにならないよう注意しながら対応していきたい。

トラブルを防ぐために経営者ができること

年次有給休暇の制度は、ここ数年で一気に整備され、中小企業でも年次有給休暇を取得することが当たり前になりつつある。経営者としては、悩ましい面もあるだろう。しかし、勤務期間に応じて休暇をとることは、国が認めた労働者の権利だ。

年次有給休暇の取得を加味した人員配置にしたり、業務の標準化を進めて希望日に年次有給休暇を取得しやすい環境づくりをしたりすることは、長い目で見れば、経営を安定させるだろう。

年次有給休暇について正しい認識を持ち、時代に合った経営のかじ取りをしていくことが大切だ。

文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー)