新規事業を始める時は、参入障壁について考える必要がある。この記事では、8つの参入障壁を具体的に解説。参入障壁が高い場合、低い場合のメリット・デメリットを紹介する。既存の事業を守るためにも、新規事業で成功するためにも、参入障壁を見極めることは非常に重要だ。

目次

  1. 新規事業を始めるときに考えておくべき参入障壁とは?
  2. 8つの参入障壁と乗り越える方法
    1. 1.規模の経済性が働くか?
    2. 2.製品の差別化が存在するか?
    3. 3.巨額の投資が必要か?
    4. 4.仕入れ先を変更するコストは大きいか?
    5. 5.流通チャネルの確保は難しいか?
    6. 6.規模の経済性以外のコスト面での不利な点が存在するか?
    7. 7.政府の政策による参入の制限や規制が存在するか?
    8. 8.参入に対し強い報復が予想されるか?
  3. 参入障壁が高い業界の具体例と新規事業を始めるメリットとデメリット
    1. 参入障壁が高い業界とは?
    2. 参入障壁が高い業界で新規事業を始めるメリット
    3. 参入障壁が高い業界のデメリット
  4. 参入障壁が低い業界の具体例と新規事業を始めるメリットとデメリット
    1. 参入障壁が低い業界とは?
    2. 参入障壁が低い業界のメリット
    3. 参入障壁が低い業界のデメリット
  5. 参入障壁を見極めることは事業を成功に導く秘訣
木崎 涼
木崎 涼(きざき・りょう)
FP・簿記・M&Aシニアエキスパート。大手税理士法人で多数の資産家の財務コンサルティングを経験。多数の資格を持ちながら、執筆業を中心に幅広く活動している。

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新規事業を始めるときに考えておくべき参入障壁とは?

新規事業の成功を阻む8つの参入障壁。乗り越え方を具体例で解説
(画像=Gajus/stock.adobe.com)

参入障壁とは、企業が新たな産業・分野で事業を開始しようとした時、事業展開を阻む要因のことをいう。市場の独占、強力な競合他社の存在、製品の差別化の難しさ、専門性の高さなど、さまざまな要因を総称して参入障壁と呼ぶ。

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8つの参入障壁と乗り越える方法

アメリカの経営学者マイケル・ポーター氏は、著書『競争の戦略』の中で、参入障壁を8つに分類した。8つの参入障壁の意味をそれぞれ解説し、参入障壁を乗り越える方法も紹介する。

1.規模の経済性が働くか?

規模の経済性とは、大量生産によってコストを下げることで、価格競争を有利に勝ち抜ける効果のことだ。規模の経済性は、ひとつの参入障壁となる。

たとえば、すでに巨大企業が大量生産によって低いコストで商品・サービスを提供している場合、あとから参入して価格競争に勝つのは難しい。

消費者が品質より価格の安さを重視する商品・サービスで、巨大企業が存在し、大量生産によって価格を引き下げる仕組みを確立している場合、あとから参入して成功を収めるのは至難の業といえるだろう。

規模の経済性という参入障壁を乗り越えるには、価格以外の付加価値で勝負する必要がある。たとえば、品質において消費者に高い満足度をもたらすことができれば、価格競争に巻き込まれることなく独自のポジションを確立できるかもしれない。

2.製品の差別化が存在するか?

「ハンバーガーといえばこのお店」というように、特定の企業の製品が差別化されており、強いブランド力を持つ場合、参入障壁は高くなる。市場に参入して成功しようと思えば、これまでにない商品・サービスを効果的にプロモーションし、ブランドを確立していかなければならない。

これから新規参入を考えているなら、差別化された強いブランド力を持つ製品・サービスがないか、十分な調査をしてから参入することが大切だ。

製品の差別化という参入障壁を乗り越えるには、競合他社が持つブランド力に対抗できるだけの商品・サービスを生み出し、ターゲット設定やプロモーションを工夫する必要がある。

「こんな商品があればいいのに」「こういう時、不便だな」といった身近な実感に焦点をあて、隠れたニーズに応える商品・サービスを生み出せれば、既存のブランドにも太刀打ちできるかもしれない。

3.巨額の投資が必要か?

巨額の投資が必要だと、それだけ参入障壁が高くなる。創業して間もない企業や、一定の規模に満たない企業、業績がかんばしくない企業だと、資金調達をするのは難しい。思うように金融機関から融資を受けられないこともある。

巨額の投資という参入障壁を乗り越えるには、何とかして資金調達を叶える必要がある。補助金や助成金といった公的な支援サービスを活用したり、金融機関の担当者に事業計画をしっかり説明したり、ベンチャーキャピタルを利用したり、資金調達の方法にも色々ある。

ただし、投資額を回収できなければ、借入の返済に苦労することになる。巨額の投資が必要な業界・事業分野に切り込む時は、十分に利益を得られるか、無理なく返済していけるか、慎重に事業計画を練る必要がある。

4.仕入れ先を変更するコストは大きいか?

商品を販売しようとしても、販売先の仕入れ先変更に多額のコストがかかる場合、参入障壁が高くなる。

特に製造業では、部品を変更することで、加工方法を変更したり社内体制を変更したりと、さまざまなコストが発生する可能性がある。また、運送コストがかかったり、審査に時間を要したりすることもある。

仕入れ先変更にかかるコストという参入障壁を乗り越える方法としては、仕入れ先変更にかかるコストをできるだけ抑える工夫や、仕入れ先変更のコストをかけるメリットを相手にもたらすといったことが考えられる。

また、そもそも前段階として、仕入れ先変更にどのくらいのコストがかかるのか、しっかり調査し、十分な検討をしてから新規参入を考えたい。

5.流通チャネルの確保は難しいか?

商品を自社で販売するのではなく、店舗等に委託して販売する場合、流通チャネルの確保が必要だ。既存の商品が広く流通しており、流通チャネルの確保が難しい場合、自社の商品を届けることが難しくなり、参入障壁が高くなる。

流通チャネルの確保という参入障壁を乗り越えるには、複数の流通チャネルを検討し、店舗側と関係性を築いたり、交渉したりする必要がある。店舗側と信頼関係を築くには、自社の商品について正しく伝え、店舗が安心して販売できるよう努めなければならない。

また、自社で直接販売するという方法も考えられる。最近では、SNSを通じて商品を販売したり、ネットショップをかまえたりする事業者も増えてきている。既存の流通チャネルにとらわれず、自由な発想で商品を流通させることも、参入障壁を乗り越える秘けつだろう。

6.規模の経済性以外のコスト面での不利な点が存在するか?

大量生産によって価格を引き下げる以外にも、コスト面で競合他社が有利な状況にある場合、参入障壁が高くなる。競合他社が独自の技術でコストを削減しているなど、自社では真似できない手法で商品・サービスの価格を抑えているケースだ。

競合他社がコスト面で有利な状況にある場合、価格競争になれば、先に損益分岐点を下回るのはこちら側だ。

コスト面で不利という参入障壁を乗り越える方法は、コストを引き下げられるよう工夫するか、コスト以外の付加価値で商品・サービスを差別化するかだ。

7.政府の政策による参入の制限や規制が存在するか?

政府によって新規参入が制限されている業界も参入障壁が高い。たとえば、鉄道や電話、テレビなどは、政府の許可なく事業をスタートすることができないため、新規参入は難しい。また、士業や医療については、事業を営むには専門の資格が必要とされる。さらに、国の許認可が必要なケースもある。

政府の政策による参入の制限や規制という参入障壁を乗り越えるには、政府の許認可を得たり、専門の資格を取得したりするしかない。自分自身でも勉強するとともに、必要に応じて専門のコンサルティング会社を活用したり、すでに事業を行っている業界人とつながりを作っておいたりする必要があるだろう。

8.参入に対し強い報復が予想されるか?

一般的に考えにくい状況だが、新規参入したことで、既存企業から報復を受ける可能性も否定できない。ごく一部の企業が市場において大きな存在感を示している場合は新規参入したことで、営業妨害を受けることもあるかもしれない。

参入に対する報復という参入障壁を正確に予想することが難しいが、参入しようとしている市場で、どのような企業が力を持っているのか、その企業はこれまでどういう経営戦略をとってきて、どのような会社風土なのかを確認しておくといいだろう。

参入障壁が高い業界の具体例と新規事業を始めるメリットとデメリット

参入障壁が高い産業と低い産業を比べ、どちらがいいかを一概に判断することはできない。どのような商品・サービスを展開するのかという点や、どのような参入障壁が存在するかによって、判断は変わってくる。

参入障壁が高い業界の具体例を紹介し、参入障壁が高いことのメリット・デメリットを解説する。

参入障壁が高い業界とは?

8つの参入障壁をもとに考えると、下記の業界は参入障壁が高い可能性がある。

・国家資格が必要で政府の許認可も必要とされる医療業界 ・専門知識が必須の医療機器メーカー等、医療周辺分野 ・鉄道、電話、テレビといった政府の許可が必要な業界 ・国家資格が必要とされる士業 ・高度な専門性が必要とされる製造業 ・巨額の投資が必要で実績が重視される建設業界

すでに巨大企業が市場を独占している場合や、強いブランド力を持つ企業が人気を博している場合も、参入障壁が高くなる。規模の経済性が大きな影響を及ぼす業界も、参入障壁が高いため注意しておきたい。

参入障壁が高い業界で新規事業を始めるメリット

参入障壁が高いというと、ネガティブな印象を持つかもしれない。しかし、参入障壁が高い業界で一度ポジションを確立すれば、過当競争にさらされる心配がない。新規参入してくる企業が少ないことから、シェアや利益率を維持しやすいのもメリットだ。

一定のシェアを確立できた時は、参入障壁を作ることを検討するのも大切な視点だ。

参入障壁が高い業界のデメリット

参入障壁が高い業界のデメリットは、いうまでもなく新規参入が難しいことだ。一度シェアを確立できれば優位に立てるが、シェアを確立するまでが難しい。投資が必要な場合、投資額をどのように回収するかも含めて、慎重に戦略や経営計画を練る必要があるだろう。

参入障壁が低い業界の具体例と新規事業を始めるメリットとデメリット

参入障壁が低い業界の具体例を紹介し、参入障壁が高いことのメリット・デメリットを解説する。

参入障壁が低い業界とは?

8つの参入障壁をもとに考えると、下記の業界は参入障壁が低い可能性がある。

・画期的なサービスを創れるIT業界 ・自分のセンスで勝負できるアパレル業界 ・自宅でも創業できるネットショップ運営 ・アイデア次第で大きな富を生むWebサービス ・初期投資を押さえて個人技で挑戦できるコンサルティング ・学習塾などの教育関連事業

オフィスや店舗をかまえる必要がないと、投資額は一気に下がるため、参入障壁は低くなる。また、小規模から始められるビジネスというのも参入障壁の低さと大きくかかわっているだろう。

参入障壁が低い業界のメリット

参入障壁が低い業界のメリットは、新規参入しやすいことだ。特徴的な商品・サービスを生み出したり、流通チャネルを工夫したりと、アイデア次第で大きく成功できる可能性も秘めている。

また、現在は参入障壁が低くても、将来的に参入障壁が生まれる可能性もある。参入障壁が低いうちに参入しておけば、参入障壁が高くなった時、大きなメリットを享受できる。

参入障壁が低い業界のデメリット

参入障壁が低い業界のデメリットは、事業に成功しても、次々と新たな競合が現れることだ。そのため、競合他社の動向には常に気を配り、商品・サービスの魅力を更新し続けなければならない。

参入障壁を見極めることは事業を成功に導く秘訣

新規事業を始めようと思った時、新たな事業分野に挑戦しようと思った時、参入障壁を分析することは大きな意味を持つ。参入障壁の有無をしっかりと見極め、どうすれば参入障壁を乗り越えられるのか、戦略を練ってから新規事業に乗り出したい。また、現在成功している事業分野があるなら、参入障壁を生み出すことを検討するのもひとつの戦略だ。

文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー)