カリスマ経営者は、強力な魅力で人をひきつけ企業を成功に導いていく。しかし、そんなカリスマ経営者もいつかは引退する。今回は、経営に役立つヒントとして、カリスマ経営者に焦点をあて、その特徴と成功のポイント、引退後に経営を安定させる方法を解説する。
カリスマ経営者と呼ばれる人の特徴

事業を成功させたカリスマ経営者には、いくつかの特徴が見られる。ここでは、企業経営を成功させるために参考になるカリスマ経営者の特徴を解説する。
確固たる経営理念(ビジョン)を持っている
カリスマ経営者に共通する第一の特徴は、確固たる経営理念(ビジョン)を持っていることだ。経営理念は、経営者自身の人生観・世界観・人間観からできたものである。
成功した多くの企業は、明確な経営理念を掲げ、社員一人ひとりに浸透し、日々の業務に活かしている。企業が掲げている経営理念の多くが、企業を立ち上げた創業者の経営理念といえるだろう。また、創業者の多くがカリスマ経営者として、現在もその考え方が企業に引き継がれている。
つまり、カリスマ経営者の経営理念は、企業の経営理念であり、明確な企業の経営理念は企業が成功する基礎となるわけだ。
論理的に考え、話す能力を持つ
カリスマ経営者は、理論的に考え、話す能力を持っている。そのため、明確に自分の考えを伝えることができる。企業経営において、社員全員に伝播し浸透させていく必要があるのは、企業理念とビジョンだ。
企業理念とビジョンを企業に浸透させるには、経営者からの強いメッセージが必要である。経営者が理論的に考え、理論的に話す能力を持っている場合、その企業の企業理念とビジョンは社員に伝わりやすい。
企業理念とビジョンを上手く伝えることができれば、企業全体に浸透し、同じ方向の目標に向かって積極的にアクションを起こしていくことができるだろう。企業経営は成功し、経営者はカリスマ経営者と呼ばれることになる。
個性がありポジティブ
カリスマ経営者は、個性がありポジティブだ。これは多くのカリスマ経営者を思い浮かべてみれば明らかであり、その個性はネガティブではなく、ポジティブである。
カリスマ経営者に共通して見られるポジティブな個性は、生まれながらにして備わっていたものではないケースもあるようだ。
カリスマ経営者の多くは、成功を繰り返して事業を拡大したわけではなく、挫折や失敗を経験しながら、その経験を糧として大きな成功をつかみ取った経歴を持っている。失敗から再起する経験の中で、ポジティブな個性が出来上がってきたとも考えられる。
カリスマ経営者のポジティブな個性は、社員の心を掴み、企業のブランディングを高める。また、商品やサービスを検討するクライアントにとっても魅力的だ。その個性は結果的に、企業経営に良い影響を与えている。
判断力と最後までやり遂げる力がある
企業経営者は、最終的に判断を下すパワーを持っている人物である。経営の重要な決定は経営者が一度決めたら企業全体が目標に向かって動きだす。そのため、企業経営者は用心深く判断を下さなければならない。
カリスマ経営者には、用心深く判断を下す特徴がある。そして、検討に検討を重ね、失敗の可能性がないことを確認したのち自分で判断を下す。
また、カリスマ経営者には、決めた判断は最後までやり遂げる力がある。決めるまでは慎重に検討するが、決めた判断はぶれずにやり遂げる。カリスマ経営者は、検討の期間は情報を集め、広くメンバーの意見を聞き参考にするが、最終判断は自ら考え経営者自身が行う。
自ら判断し最後までやり遂げる力は、カリスマ経営者の特徴であり、その姿勢が部下の信頼を得るきっかけになる。
先を見通す力を持つ
企業が事業に成功するためには、経営者の先を見通す力が非常に重要だ。企業を取り巻く社会環境は常に変化しているため、リスクを察知しチャンスを逃さない経営者の判断は、企業の行方に大きな影響を及ぼす。
経営者にとって、自分のサポートを実行できる幹部人材の存在は重要だ。将来を見据えた優秀な人材を発掘して育成し、活用していく力もカリスマ経営者には備わっている。人材に関しても先を見通す力があるというわけだ。
自ら率先して現場に立つ
経営者が考えている経営理念(ビジョン)を社員に伝播していくために、もっとも有効な手段のひとつが、経営者が自ら率先して現場に立つことだ。カリスマ経営者の多くが現場で行動しており、その姿から社員の信頼を獲得している。
カリスマ経営者流 事業を成功に導く4つのポイントとは
事業を成功させるためにカリスマ経営者はどのようなことを実行したのだろうか。ここではカリスマ経営者が実行した4つのポイントを解説する。
1.変化する情勢にいち早く対応する
変化する情勢にいち早く対応することの重要性を語ったのは、松下幸之助氏である。松下幸之助氏はいわずと知れた日本を代表するカリスマ経営者だ。
彼は、「社会情勢は常に変化しているものであり、企業が変化の中で成長していくためには、社会の変化に適応し、その一歩先を行かなければならない」と述べ「日に新た」という言葉をよく使った。
2.事業に対し情熱・熱意をもって取り組む
事業を成功させるには、事業に対し情熱・熱意をもって取り組むことは基本中の基本だ。
株式会社ジャパネットたかたの創業者でありカリスマ経営者として名高い高田明氏も、企業経営の心構えとして情熱と熱意を挙げている。経営者が強い情熱と熱意を発散し続けることで、その情熱と熱意は周りに伝播していくのだ。
株式会社ジャパネットたかたは、テレビを媒体としたテレフォンショッピングの先駆者とされる企業で、高田明氏が第一線を退いた後も、経営の核となる企業理念やミッションは引き継がれ、良好な経営が継続している。
3.利益率を重視
企業経営の成功は、それを測る基準が非常に重要である。
企業経営者はとにかく会社を大きくしたいと頑張るが、経営者は利益率を重視する意識を持たなければならない。グローバル化が進む中では、事業規模やコスト削減のバランスを考えながらいかに利益率を上げていくかという視点が重要である。
4.社員を大事にする
カリスマ経営者の共通した特徴に、社員を大切にする点がある。カリスマというと、権力をもち、部下が意見をいえず、経営者の考えのみで経営が運営されていく姿を想像するかもしれないが、実際にはそうではない。
多くのカリスマ経営者は、誠実な行動で社員に愛され、進んで社員との時間をつくり、社員の意見をヒアリングしている。社員に誠実に接することで、信頼感が生まれ、求心力(カリスマ性)が生まれているのだ。
カリスマ経営者が引退した後、経営を安定させるには?
カリスマ経営者は企業経営に強い影響力を持っている。そのため、引退した後に経営を安定させるには多くの取り組みが必要だ。ここでは、重要な取り組みを4つ解説する。
数字をもとにした効果検証を行い、経営の良否をチェック
カリスマ経営者が引退した後は、経営が安定して推移しているか見守っていく必要がある。
そのため、数字をもとにした効果検証を行い、経営の良否をチェックすることが重要だ。小売業であれば、売上・購入者数・店舗前交通量・入店者数の数値などをもとに効果検証を行う。
カリスマ経営者の役割を複数人に分割し、マネジメントチームを形成する
カリスマ経営者の多くは、バイタリティーにあふれ、企業の中心となって企業経営をけん引している。魅力的なカリスマ性は、社内社外問わず高いブランディングイメージとして企業経営の大きなプラス要因になっているだろう。
カリスマ経営者の引退後に、すべての役割を引き継いで同様の成果を出すことは、優秀な人物でも困難な場合がある。そんな時に経営を安定させながら事業を継続するためには、しっかりとカリスマ経営者の役割を棚卸して、複数人に分割したマネジメントチームを形成していくことが大切だ。
役割分担を明確に決めておかないと、後継者として適任でない人物が経営権を握ってしまうことになりかねない。また、引退したカリスマ経営者が経営に関わり続けることで、企業経営継続にマイナス要因を引き起こす場合もある。
取引先との関係を良好に保つ
カリスマ経営者は、取引先と経営者自身が強い関係性を持っているケースが多いため、その関係を継続して引き継げるように計画的に取り組むことが必要だ。
カリスマ経営者の気力があるうちに債務整理を行う
カリスマ経営者が経営権を握り、エネルギッシュに企業経営を回しているケースでは、多くの債務を抱えながら経営を切り盛りしていることが考えられる。大きな債務がある状態で後継者が経営を引き継いだ場合、カリスマ経営者と同様に、経営を進められるとは限らない。
カリスマ経営者が経営を降りた時点で、経営が悪化した場合、後継者は社内の反対勢力からのプレッシャーを受けたり、金融機関によっては融資を見直す事態にもなりかねない。
後継者にスムーズに経営を承継するためにも、カリスマ経営者の気力があるうちにできるだけ債務整理をすることが重要だ。
カリスマ経営者に学び引退後の対策も考える
ここまで、カリスマ経営者にはいくつかの特徴があり、その行動にも共通点が見られることを述べてきた。
企業経営者や志の高いビジネスマンは、カリスマ経営者に学ぶ点が多い。また、身近な経営者の中にもカリスマ性のある経営者は数多く存在する。
カリスマ経営者であってもいつかは引退するときが来る。そのときには、経営を安定させて継承するために計画的な対策を進めておく必要があるだろう。
文・小塚信夫(ビジネスライター)