人生において多角的に物事を見ることは重要だが、それは企業活動にも当てはまる。多角経営とは、経営基盤の安定性を確保するために、一つの企業が複数の業態・業種を経営することである。

多角経営という言葉自体は聴き馴染みがあっても、「どういうメリットがあるのか」「どのような企業が取り入れているのか」など、疑問に思うことが多いかもしれない。そこで今回は、この多角経営にスポットを当てて解説する。

目次

  1. バブル期に多くの企業が挑戦した多角経営
  2. なぜ企業には経営多角化が必要なのか
  3. 経営多角化のメリット4つ
    1. 1.経営基盤が安定する
    2. 2.ビジネスの可能性が広がる
    3. 3.シナジー効果が期待できる
    4. 4.リスク分散ができる
  4. 経営多角化のデメリット3つ
    1. 1.コストがかかる
    2. 2.経営効率化が難しい
    3. 3.大きな損失を招く可能性がある
  5. 多角経営の成功事例
    1. 1.富士フイルム
    2. 2.セブンイレブン
    3. 3.ソニー
    4. 4.オリックス
    5. 5.ヤマハ
  6. 多角経営の失敗事例
    1. 1.ユニクロ
    2. 2.ライザップ
  7. 多角化戦略を成功させるには
    1. プロフィール

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バブル期に多くの企業が挑戦した多角経営

企業の多角経営はなぜ必要?多角化の理由や成功・失敗事例を紹介
(画像=PIXTA)

バブル期と呼ばれる1986年~1990年頃には多くの企業がこの多角経営に挑戦した。バブル期といえば経済が絶好調で、「とにかく作れば何でもモノが売れる時代」だった。すでに日本のものづくり大国としての地位も確固たるものであり、儲かっている企業はさまざまな事業に手を出した。

もちろん時代は移りゆくもので、バブル崩壊とともに「何でも売れた時代」は幕を閉じることになる。粗悪な製品や、内容の薄っぺらなサービスはまったく売れなくなり、そうした雑な多角化を行っていた企業は生き残ることができなかった。

「ならば同じものを作り続けていればよいのか?」というと、もちろんそういうわけではない。企業は時代の流れに合わせて、資源を有効活用する必要があり、そのための多角経営であるということが重要なのである。

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なぜ企業には経営多角化が必要なのか

どうして企業に多角経営が必要なのか、それは現在のビジネスが持続可能なものではないからである。どれだけ上手くいっているビジネスであっても、いずれは過去の遺物となり、世間に忘れ去られていく。

現在のビジネスが上手くいっているのは、市場と企業のサービスがマッチしているからである。しかし市場の姿は時々刻々と変わっており、市場の成熟・衰退もあれば、有力な競合他社の台頭など、さまざまなケースが考えられる。

そうした場合を考えてみると、一つの事業だけに集中し、今が上手くいっているから大丈夫だと考えることは、経営者の慢心以外の何ものでもない。一つのビジネスには必ず終わりが来る、これこそが多角経営が必要とされる理由だ。

次の章では多角経営のメリットを詳しく確認し、必要性の理解をより厳密なものにしていく。

経営多角化のメリット4つ

多角経営を行うメリットについては、大きく4つに分けて解説をしていく。どれも重要な要素であり、それぞれがつながっているものである。

1.経営基盤が安定する

前述したように、多角化戦略の大きなメリットがこの経営基盤の安定である。当然の話ではあるが事業が1つしかなければ、それが駄目になった瞬間、組織はたちまち崩壊してしまう。しかし事業を複数抱えていれば、仮にそのうちの1つが潰れてしまっても、他の事業でどうにか巻き返しを図ることができる。

確かに「企業の核となる事業」は必要かもしれない。しかしそれだけに依存してしまっては、組織としての強度が低く、移ろう時代に対応していくことができないのだ。もちろんスタートアップ企業の資金力では、そうやすやすと事業を増やしていくことは難しいだろう。しかし企業規模を拡大していく過程で、こうした「柔軟性」について考えてみることはとても重要である。

2.ビジネスの可能性が広がる

多角化をすると、さまざまな事業を並行して営むことになるので、当然ビジネスの可能性が広がっていく。たとえば、IT企業が「ITに関する事業」だけをやっているよりも、「ITと教育を組み合わせみよう」と考えたほうが、より多様なビジネスを実現できるだろう。

このように事業を増やすことによって、「それまで獲得することのできなかった知見」を得ることができ、多様な視点が養われることになる。そこからまた次のアイデアが生まれ、その好循環を繰り返していくことによって、よりクリエイティブな組織が生まれていくのだ。

3.シナジー効果が期待できる

シナジー効果というのは、要するに「相乗効果」のことである。新しい事業を増やすことによって、そこで蓄積されたノウハウが既存の事業に生かされる。このように「1+1が2以上になっていくもの」をシナジー効果という。

たとえば、鉄道会社が「温泉地」や「不動産」などの事業をすると、鉄道を含めた沿線の経営をまとめることになり、相乗効果が期待できる。沿線に何もなければ人々はただ鉄道を利用するだけだが、温泉や住宅・学校などの誘致を行うことによって、その分の利益がすべてその鉄道会社のものになるのだ。

4.リスク分散ができる

これは経営基盤の安定にもつながる話だが、リスク分散ができるというのも、多角経営の大きなメリットだ。そもそも企業経営は不安定なものである。「安定した生活をしたいから企業を経営する」人間はおそらくいないだろう。経営者や企業は常にリスクと隣り合わせになる。

先ほども触れたように、法令強化やイノベーション、ニーズの変化などは、企業経営にかなり大きな影響を与える。不慮の事態に陥った時に、リスクを分散できているかどうかはとても重要なのだ。

経営多角化のデメリット3つ

多角化戦略は、「やればやるだけよい」というものではない。ここでは多角経営のデメリットについて解説する。

1.コストがかかる

一つ目のデメリットは何よりも「コストがかかる」ということだ。ノーコストで始められる事業は存在しない。事業を始める以上、当然そのための資源が必要になってくる。

「シナジー効果が期待できる」というメリットはあるが、それはどちらかというと長期的な話であり、短期的に見れば新規事業への初期投資が経営を圧迫することになるだろう。多角経営のシナジー効果を得るためには、ある程度の投資やリスクが必要になることを理解しておく必要がある。

2.経営効率化が難しい

単一の事業をやっている場合と比べて、経営効率化が難しいというデメリットもある。単一事業の場合のように大量発注することは難しく、どうしても事業毎で発注作業を行わなければならなくなる。

また資源の重複という問題もある。基本的に複数事業を展開していれば「事業間で資源のやり取り」をすることはできるが、どうしても重複してしまう部分が出てきて、資源の活用が非効率的になってしまうのだ。特に自力の高くない企業は、自社の経営資源を精査し、多角化戦略をしっかりと吟味する必要があるだろう。

3.大きな損失を招く可能性がある

事業には、成功もあれば、失敗の可能性もある。そもそも多角経営は「新しい市場に新しいサービスを展開していく」ということである。そうなれば当然、事業失敗というリスクが付き纏い、仮に頓挫すれば会社にとって大きな損失を招く危険性がある。

既存のビジネスを拡大する場合は、もともと蓄積していたノウハウを生かすことができるため、そこまで大きなリスクが伴うわけではない。しかし新しい市場に参入するとなれば、当然参入障壁もあり、「その市場にすでに存在する競合他社」と互角以上に渡り合う必要が出てくる。

特にブランディングが上手くいっていない企業は、新事業の難易度はより高くなるだろう。

多角経営の成功事例

それでは次に、「多角経営の成功事例」と「多角経営の失敗事例」をみていく。実際の企業例を挙げ、どのように成功したのか、どのように失敗したのかを解説する。

1.富士フイルム

富士フイルムはまさに「多角化戦略の教科書」とも呼ぶべき、多角化戦略を成功させた企業の一つである。同社はもともと「写ルンです」で知られるように、カラーフィルム業界を牽引していた企業だ。しかし、やがてカラーフィルムは、デジタルカメラの普及により、販売数が大幅に減少していく。

売上が伸びず経営は危機に瀕するが、ドキュメント事業を行ったり、医薬品・化粧品業界に参入したりするなど、多角化戦略を実行。結果的に売上は増大し、大きな成長を遂げた。

2.セブンイレブン

大手コンビニエンスストアであるセブンイレブンは、プライベートブランドを立ち上げることによって、独自の地位を築いていくことになった。また小売業にとどまらず、金融業(セブン銀行)などの事業を展開していくことによって、多角化に成功したのである。

3.ソニー

ソニーは「非関連多角化」の成功例としてよく語られている。音楽やゲーム、生命保険など、いたるところでソニーの名前を聞くことがあるのは、多種多様な業種の企業をM&Aで吸収合併していたからである。特に本業のエレクトロニクス事業が低迷した時は、金融事業がリスクの分散に役立った。

4.オリックス

オリックスといえばもともとは機械のリース事業だったが、金融事業などをはじめとした「関連多角化」を成功させている。「非関連多角化」を成功させていたソニーとは対になる存在で、本業のノウハウを生かしつつ新事業を展開していった格好の例である。

5.ヤマハ

ヤマハは楽器メーカーとしてスタートした。現在は英語教室やリゾート開発など、まったく関係のない分野に進出する「非関連多角化」を成功させている。

多角経営の失敗事例

次に多角経営の失敗事例についてみていく。

1.ユニクロ

ユニクロを経営するファーストリテイリングは、2002年に「SKIP」というブランドを立ち上げ、生鮮野菜に関する事業をスタートさせた。しかしまったく関連のない事業だったことも災いしてか、結局多額の赤字を出すことになり、早々に市場から撤退することになった。

2.ライザップ

ライザップは健康食品の通販事業から始まり、パーソナルトレーニングジムの展開で一躍有名になった企業だ。「ライザップといえばビフォーアフターのCM」というくらい日本に浸透した。ライザップはM&Aを通じて多角化戦略を行っていたが、結局上手くいかなかった。

多角化戦略を成功させるには

ここまで多角経営についてみてきた。多角経営は、リスク分散やシナジー効果など魅力的なメリットがある反面、事業失敗リスクなどのデメリットも伴う。中途半端な気持ちで多角化に手を出せば、必ず失敗に見舞われてしまうだろう。

多角経営をしたいと感じたら、まずは自社のビジョンをしっかりと見直し、多角化戦略は自社の理念に見合っているのかどうか、経営資源を投入してでも実行する価値があるのかどうかを、しっかりと精査する必要があるだろう。

どれだけ有力な経営資源を持っていても、本業をおろそかにしては元も子もない。多角化を考える時こそ、まずはしっかりと足元を見直そう。

文・野口和義(野口コンサルタント事務所代表)

プロフィール

企業の多角経営はなぜ必要?多角化の理由や成功・失敗事例を紹介
(画像=野口和義 氏)

野口 和義 (のぐち かずよし)

野口コンサルタント事務所代表。1983年生まれ。茨城大学情報工学科卒業。中小企業診断士、行政書士、経営革新等支援機関。 最大手ファーストフードチェーンでのマネジメント経験を活かし、組織改革・人事制度・事業計画策定を中心に中小企業の支援に奔走している。 持ち前のホスピタリティの高さから、顧客対応などの面でもお客様から高い評価を得ている。