敵対的買収の防衛策には、さまざまな手法がある。そのなかでも今回は、「ゴールデンパラシュート」と呼ばれる手法の概要やメリット・デメリットをまとめた。中小企業にとっても無関係な話ではないので、経営者はこれを機に正しい知識を身につけていこう。

目次

  1. ゴールデンパラシュートとは?
    1. ゴールデンパラシュート以外の敵対的買収の防衛策
  2. ゴールデンパラシュートを導入するメリット
    1. 1.経営陣の交代を防げる
    2. 2.株主の利益を守れる
  3. ゴールデンパラシュートを導入するデメリット
    1. 1.株主から強く信用されていることが前提となる
    2. 2.従業員の不満が溜まる恐れがある
  4. 中小企業はゴールデンパラシュートを導入すべき?
  5. 将来的にゴールデンパラシュートの必要性が高まる可能性も
  6. 自社の買収リスクと真剣に向き合う機会を

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ゴールデンパラシュートとは?

敵対的買収の防衛策ゴールデンパラシュートとは?導入メリットを解説
(画像=Dzmitry/adobe.stock.com)

ゴールデンパラシュートとは、役員退職金を極めて高額に設定しておくことで、M&Aによる敵対的買収を防ぐ対抗措置のことだ。では、なぜ高額な役員退職金が敵対的買収の防衛策になるのか、その仕組みを詳しく解説していこう。

敵対的買収が成立した場合、ほとんどのケースでは被買収企業の経営陣が一新される。仮に解任されなかったとしても、経営陣の権限が大幅に減らされると、被買収企業とっては大きなダメージとなるだろう。

このときに役員退職金を極めて高額に設定しておくと、被買収企業からは多額の現金が流出するため、買収意義の喪失や買収コストの上昇につながる。つまり、解任などの強硬手段を取られた場合に、買収企業に対しても大きなダメージを与えられるのだ。

そのため、現代のM&Aにおいてゴールデンパラシュートは、敵対的買収の抑止力や交渉材料として捉えられている。

ゴールデンパラシュート以外の敵対的買収の防衛策

敵対的買収に対する防衛策は、上記のゴールデンパラシュートだけではない。ほかにもさまざまな手法があるため、予備知識として以下の防衛策も合わせて覚えておこう。

敵対的買収の防衛策 概要
・ポイズンピル(ライツプラン) 新株予約権を発行することで、買収企業の株式保有比率を下げる方法。買収コストを高められる反面で、希釈化による株価の下落が生じるため、株主から非難される恐れがある。
・ティンパラシュート 役員ではなく、従業員の退職金や一時金を高額に設定する防衛策。M&Aでは買収後に人員整理が行われる可能性もあるため、被買収企業のリストラ対策として用いられている。
・マネジメントバイアウト(MBO) 経営陣が自社株式を買い取り、自社を非上場化させることで買収を防ぐ手法。TOB(公開株式の買付)を完全に防げる防衛策だが、上場するきっかけを失うため会社の成長速度が下がる。
・プットオプション 株主に対してはすべての株式を買い取れる権利を、債権者に対しては一括弁済の請求ができる権利を付与することで、買収コストを急激に高める防衛策。いずれの権利も、敵対的買収が実施された場合にのみ行使できるように設定しておく。
・黄金株 「拒否権付き株式」とも呼ばれる、決議への拒否権を発動できる株式を発行する防衛策。合併などの決議において、黄金株の保有者が決議を拒否すれば、買収自体を防ぐことができる。ただし、黄金株は1株しか発行できない上に、自社で保有することも認められていない。
・チェンジオブコントロール 経営権が移ったときに、取引先との契約や制限などが解除される条項を盛り込んでおく防衛策。買収をきっかけに取引先との契約が解消されると、生産コストの増加や売上の低下を招くため、チェンジオブコントロールは敵対的買収の抑止力として活用される。
・事前警告型 敵対的買収が発生した場合に行う施策内容を、あらかじめ買収側に公表しておく手法。防衛策としては非常にシンプルだが、買収側からすると「どんな不利益を被るのか?」が目に見えて分かるので、簡単には買収できなくなる。
・ホワイトナイト 自社が敵対的買収のターゲットにされた場合に、別の友好的な企業に買収してもらう手法。最終的に買収をした企業は、「ホワイトナイト(白馬の騎士)」と呼ばれる。

日本はそもそも敵対的買収が珍しい国であるため、国内でこれらの防衛策が発動したケースは少ない。ただし、将来的に敵対的買収が発生する可能性はゼロではないので、上記の防衛策は頭の片隅に入れておこう。

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ゴールデンパラシュートを導入するメリット

敵対的買収の防衛策にはさまざまな手段があり、どの方法を選ぶのかによって被買収企業に生じるメリットは変わってくる。では、今回の主題であるゴールデンパラシュートにはどのようなメリットがあるのか、以下で詳しく解説していこう。

1.経営陣の交代を防げる

ゴールデンパラシュートを導入すると、被買収企業の役員は簡単には解任されなくなる。買収する側の立場からすると、被買収企業の現金流出は何としても避けたいため、特に役員の解任・権利の移転などに関しては慎重な姿勢を見せるようになるだろう。

経営陣の交代さえ防げれば、経営権のすべてが買収企業に奪われることはない。仮に買収が発生しても役員の立場を守れる点は、事業を続けたい経営者にとって非常に大きなメリットとなる。

2.株主の利益を守れる

株式の希釈化を引き起こすポイズンピルとは違い、株主の利益を守りやすくなる点もゴールデンパラシュートのメリットだ。株主の利益を守る形で敵対的買収の防衛策に取り組めば、将来的に高い評価を受けることにもつながる。

また、ゴールデンパラシュートの導入には原則として「株主からの承認」が必要となるので、株主の意思を確認してから導入を決められる。そのため、経営陣が株主から信用されていれば、経営陣・株主のお互いが納得した形で防衛策に取り組めるだろう。

ゴールデンパラシュートを導入するデメリット

一方で、ゴールデンパラシュートには軽視できないデメリットも潜んでいる。特に以下で挙げる2点は、深刻なトラブルにも発展しかねないデメリットであるため、経営者は注意しながら読み進めていこう。

1.株主から強く信用されていることが前提となる

株主の立場からすると、役員退職金を高額に設定するゴールデンパラシュートは、役員の過剰な自己防衛手段に見えることがある。特に株主との間で信頼関係を築けていなければ、「利益相反取引」とみなされる恐れもあるだろう。

したがって、株主からの承認が必須となるゴールデンパラシュートは、株主からの信用がなければそもそも成立しない。また、一般的な株主は「より利益を分配してくれる経営者」に魅力を感じるので、新しい経営陣より能力的に優れていることも求められる。

これらの条件を満たしていない場合、株主総会で承認を受けることは非常に厳しくなるため、ゴールデンパラシュート以外の防衛策を検討する必要に迫られる。

2.従業員の不満が溜まる恐れがある

ゴールデンパラシュートは、ティンパラシュートのように従業員の立場を守れる防衛策ではない。そのため、従業員の立場から見ても、ゴールデンパラシュートは役員の自己防衛手段として映る可能性がある。

つまり、社内の意見を無視して強引にゴールデンパラシュートを導入すると、多くの従業員が不満を溜めこむかもしれない。その結果、役員と従業員の信頼関係が崩壊すれば、仮に敵対的買収から会社を守ったとしてもその企業に未来はないだろう。

中小企業はゴールデンパラシュートを導入すべき?

上記のメリット・デメリットを見比べたときに、果たして中小企業はゴールデンパラシュートを導入すべきなのだろうか。結論から言うと、導入すべきかどうかはその企業のポジションや経営目標によって変わってくる。

例えば、ほとんどの中小企業は自社株式に「譲渡制限」を設けることで、取締役会の承認がない限りは株式を自由に譲渡できない仕組みになっている。また、仮に譲渡制限を外したとしても、その企業に特別な価値がなければ敵対的買収のターゲットにされることはない。したがって、これらのケースに該当する中小企業に関しては、ゴールデンパラシュートの必要性はほとんどないと言える。

一方で、株式上場を考えている中小経営者は、自社の買収リスクと慎重に向き合っておきたい。上場する証券取引所によっては、譲渡制限を外さない限り上場審査基準を満たせないケースがあるためだ。例えば、自社が最先端の事業を営んでおり、国内外から多くの注目を浴びた状態で株式上場を目指すと、譲渡制限を外したタイミングで買収される恐れがある。

そのため、特に短期間での成長を目指している中小企業はあらゆるリスクを想定し、敵対的買収に対しても万全の防衛策を用意しておくことが重要だ。もちろん、ゴールデンパラシュート以外の方法も選択肢になるので、広い視野でよりベストな防衛策を選んでいきたい。

将来的にゴールデンパラシュートの必要性が高まる可能性も

日本は敵対的買収の例が少なく、中小企業には前述の譲渡制限があるため、現時点におけるゴールデンパラシュートの必要性はそれほど高くないと言えるだろう。しかし、近年の動向をみると、将来的にゴールデンパラシュートが必須になる可能性も十分に考えられる。

例えば、現代ではグローバル化が世界中で進んでおり、異なる国の企業が合併をするケースが増えてきている。日本企業による海外企業M&Aも増加しているが、必ずしもこの立場が逆転しないとは限らない。海外企業が日本に興味を示し、優秀な国内企業を片っ端から買収しようとすることもあり得るのだ。

また、国内に限定しても、M&Aの件数は2010年頃から伸び続けている。現在のところは友好的買収が中心ではあるが、世の中のM&Aに対する抵抗感がなくなれば、積極的に敵対的買収をする企業が現れるかもしれない。

このような実情を考えると、中小企業の経営者がゴールデンパラシュートについて考えることは、決して無駄ではない。今のうちから有益な知識・情報を身につけることで、いち早く自社を防衛するための施策に取り組めるだろう。

自社の買収リスクと真剣に向き合う機会を

今回解説したゴールデンパラシュートは、経営者の立場から見てもやや専門的な話だ。しかし、会社の成長を目指しているのであれば、そのうち敵対的買収の防衛策について考えさせられるタイミングが訪れる。

将来的には、敵対的買収に関する知識が必須となる可能性もあるので、これまで特に買収を意識してこなかった経営者は、これを機に自社の買収リスクと真剣に向き合ってみよう。

文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)