企業が行うマーケティング活動に対して「消費者が購入までにどのような心理的なプロセスをたどるか」のモデル化がなされている。その中の一つが今回紹介する「アイドマの法則」だ。今回の記事では、アイドマの法則の意味や具体例、マーケティングでの活用方法を解説する。
目次

マーケティングに必須のフレームワーク「アイドマの法則」

はじめにアイドマの法則の概要や活用方法などの基本事項を解説する。
アイドマの法則の概要
アイドマ(AIDMA)の法則とは、企業のマーケティング活動によって消費者が商品を知ってから実際に購買するまでの心理的な過程を表すフレームワークのこと。消費者がたどる5つの心理的なプロセスの頭文字をとって「AIDMAモデル」とも呼ばれている。アイドマの法則では、商品を知ってから購買にいたるまでに以下5つの心理的なプロセスをたどることが一般的だ。
・Attention(注目):広告などにより商品の存在を知る ・Interest(興味):商品に興味を持つ ・Desire(欲求):商品を欲しいと感じる ・Memory(記憶):商品のことを記憶し、購買の検討を行う ・Action(行為):実際に商品を購入する
なお5つのプロセスは、大きく分けると以下の「認知段階」「感情段階」「行動段階」の3つである。
・認知段階とは 商品を認知する段階であり「Attention(注目)」が該当する。
・感情段階とは 商品に対して何かしらの感情を抱く段階であり「Interest(興味)」「Desire(欲求)」「Memory(記憶)」という3つのプロセスが該当する。
・行動段階とは 実際に商品を購入する段階であり「Action(行為)」が該当する。
アイドマの法則の具体例
アイドマの法則を理解するため、消費者が広告により「電化製品の新商品発売」を知ったケースを想定してみよう。
・1.Attention(注目) インターネットでWebサイトを見ていたところ偶然新しい電化製品の広告が目に入り認知にいたる。
・2.Interest(興味) 広告をクリックしたところ新しい電化製品の詳しい性能や外観、値段などが紹介されていた。情報を詳しく見ていくうちに従来の電化製品とは異なる新しい性能に興味を持ち始める。
・3.Desire(欲求) 新しい電化製品に関する意見を各種WebサイトやSNSで調べたところ軒並み高い評価となっていた。多くの著名人が「購入したい」と言っていたことで自身も購入したいと感じ始める。
・4.Memory(記憶) 「購入したい」と感じたものの他の企業が発売する新しい電化製品についても念のため調べておく。比較検討するためにWebサイトをブックマークしておくと同時に商品の特徴をメモに書き記しておく。
・5.Action(行為) 他社製品と比較した結果、性能と価格どちらの点でも最初に見た製品のほうが優れていた。実際に新しい電化製品を購入することを決意しWebサイト上で購入の申し込みを行う。
今回は電化製品を例にしたが、おおむねどのような商品・サービスでも同じようなプロセスをたどるだろう。
アイドマの法則の活用方法
アイドマの法則をマーケティングに活用する方法は、主に以下の2つに分けることが可能だ。
・自社商品・サービスを効果的に販売する方法を見出す アイドマの法則を使えば、「自社の見込み客(商品・サービスを購入する可能性が高い顧客)がどのタイミングでどのようなことを考えているのか」が明らかとなる。見込み客の心理状態をAIDMAのプロセスに当てはめれば効果的に購買意欲を高めることが可能だ。
・既存のマーケティング施策の改善 商品・サービスの品質や価格に問題がないにもかかわらず収益があまり出ていない場合、マーケティング施策に問題があるかもしれない。「既存商品・サービスで展開する施策」と「アイドマの法則で導き出される最適な施策」を比べることで、自社の施策における問題点を明確化できる。明確になった問題点を改善すれば商品の売り上げを増やせるだろう。
各プロセスで効果的なマーケティング施策を検討する
アイドマの法則を理解すれば最適なタイミングで最適なマーケティング施策を実施できるようになるだろう。この章では、5つあるプロセスそれぞれについて効果的なマーケティング施策を紹介する。
認知(Attention)
商品やサービスを顧客に買ってもらうには、商品・サービスの存在を知ってもらわなくてはならない。なぜならどれほど優れた商品でも顧客に知られていなければ売れないからだ。そのためまずは商品・サービスをなるべく多くの見込み客に認知してもらう施策を行わなくてはならない。商品・サービスを認知させる施策としては、インターネット広告やWebサイト、新聞・雑誌など多岐にわたる。
数ある施策の中から見込み客の属性やライフスタイルに合うものを選ぶことが重要だ。例えば「若者層がターゲットならばSNS」「老年層がターゲットならば新聞」といった形で使い分けが不可欠となる。
関心(Interest)
関心のプロセスでは、商品を知っているもののまだ興味がない状態の見込み客がターゲットとなる。そのため自社の商品に対して興味や関心を持ってもらうマーケティング活動を行うことが必要だ。具体的には、商品・サービスが持つ価値やメリットを簡潔かつ分かりやすく伝える施策が効果的である。単に商品の性能を専門的な見地から説明しても見込み客には興味を持ってもらいにくい。
「この商品を利用したらどのようなメリットを得られるのか」を見込み客に理解してもらうような伝え方でなくてはならない。また「興味を持ってもらう」という観点では、芸能人やインフルエンサーを広告で起用するのも戦略として有効である。いずれにせよ見込み客の興味関心をかきたてるような施策を考えることに注力しよう。
欲求(Desire)
欲求のプロセスでは、自社商品・サービスに興味関心を持っている見込み客がターゲットとなる。次は、商品・サービスを購入したいと見込み客に思わせるための施策を行うことが必要だ。興味や関心を持ってもらえても「競合他社の製品やすでに持っている製品で十分」と思われてしまえば実際に商品・サービスを購入してもらえない。
そのためこのプロセスでは、自社商品・サービスが既存製品や他社製品と比べて優れている点を詳細に伝えることが重要だ。例えばBtoBの商品・サービスならば展示会で商品・サービスを実演したり性能や機能が詳しく記載された資料を配布したりするのが効果的である。また一般の消費者が見込み客であればサンプルの提供や無料トライアルで実際に商品・サービスを体験してもらうと購買意欲の喚起が期待できるだろう。
また購買意欲を喚起すると同時に「不満や不安を排除すること」も重要である。新しい商品・サービスを購入する際、消費者は価格の高さや機能の複雑さなど、あらゆる点に対して不満や不安を抱えやすい。電話や対面の営業などにより、そうした不満や不安を一つずつ解消することも購買につなげるうえで重要となる。
記憶(Memory)
商品を購入したいと思っても実際に購入するまでには時間が空くこともある。しかし時間が経過してしまうと購買意欲があった商品・サービスに魅力を感じなくなったり商品自体を忘れてしまったりする可能性も出てきてしまう。この事態を防ぐためには、以下の2つの施策を積極的に実施するのが有効だ。
・買いたいと思ったタイミングですぐに購入させるような仕組みを作る ・顧客の購買意欲や記憶が薄れる前のタイミングで再び商品・サービスの魅力や存在を伝える
例えば前者であればその場で購入した場合の特典(割引や他の商品をプラスで付けるなど)を与える施策が有効だ。後者であればメルマガを定期的に配信する施策が選択肢の一つとなる。
行動(Action)
行動のプロセスでは、すでに購入を決めている見込み客がターゲットとなる。そのため直前で購買をやめる要因を排除することやスムーズに購買させる仕組み作りが重要だ。例えばWebサイトで商品を購入させるならば、見やすい位置に購入ページへのボタンを配置する施策が有効だろう。また返品保証やアフターサービスを充実させれば購入後に後悔する不安を取り除くことができ購買直前で購買をやめる事態を回避できる。
心理的なプロセスを説明するさまざまなフレームワーク
消費者の心理的なプロセスを説明するフレームワークには、アイドマの法則以外にも複数ある。この章では、代表的なフレームワークを4種類紹介していく。
アイサス(AISAS)の法則
アイサス(AISAS)の法則とは、インターネットによる情報探索や共有を考慮したうえで消費者の心理プロセスを説明したフレームワークのことだ。アイサス(AISAS)の法則では、消費者は商品の認知をきっかけとして以下の心理的なプロセスをたどるとしている。
・Attention(注目):広告などにより商品の存在を知る ・Interest(興味):商品に興味を持つ ・Search(探索):商品をインターネットで検索する ・Action(行為):実際に商品を購入する ・Share(共有):商品の情報をインターネット上で他のユーザーに広める
アイドマと比較すると「Search(探索)」と「Share(共有)」が新たに含まれている点が特徴だ。
アイセアス(AISCEAS)の法則
アイセアス(AISCEAS)の法則とは、AISASの法則と同様にインターネットでのマーケティングを考慮したフレームワークのことだ。アイセアス(AISCEAS)の法則では、以下の心理的なプロセスを消費者がたどるとしている。
・Attention(注目):広告などにより商品の存在を知る ・Interest(興味):商品に興味を持つ ・Search(探索):商品をインターネットで検索する ・Comparison(比較):検索結果を基に、他の商品と比較する ・Examination(検討):情報を整理して、商品を購入するか検討する ・Action(行為):実際に商品を購入する ・Share(共有):商品の情報をインターネット上で他のユーザーに広める
AISASに「Comparison(比較)」と「Examination(検討)」のプロセスが加わっている点が特徴だ。より詳細にインターネットを駆使したマーケティング施策を考える場合に適しているだろう。
アイドカス(AIDCAS)の法則
アイドカス(AIDCAS)の法則とは、近年重要視されている顧客満足度を考慮したフレームワークのことだ。このフレームワークでは、消費者の心理的プロセスを以下のように定めている。
・Attention(注目):広告などにより商品の存在を知る ・Interest(興味):商品に興味を持つ ・Desire(欲求):商品を欲しいと感じる ・Conviction(確信):商品に価値があることを確信する ・Action(行為):実際に商品を購入する ・Satisfaction(満足):商品に対して満足を感じる
アイドカス(AIDCAS)の法則は、顧客満足度を高めてリピーターを増やしたい場合に役立つだろう。
シップス(SIPS)の法則
シップス(SIPS)の法則とは、SNSを重点的に利用する消費者を視野に入れたフレームワークのことだ。シップス(SIPS)の法則では、消費者の心理的なプロセスを以下のように定めている。
・Sympathy(共感):企業の価値観や商品に対して共感する ・Identify(確認):商品の価値を確認する ・Participate(参加):商品の購入や拡散により、企業の販売活動に参加する ・Share&Spread(共有・拡散):情報の拡散によりさらなる共感を生む
アイドマの法則やアイサスの法則など既存のフレームワークとはまったく異なる点が大きな特徴だ。SNSを駆使した新しいマーケティングを行う人は、活用を検討してみても良いだろう。
消費者の心理を理解して効果的なアプローチをしたい
アイドマの法則を使えば消費者の心理状態を考慮したうえで「どのようなマーケティング施策を行えば良いか」が明確となる。新しく商品・サービスを販売する人だけでなく既存のマーケティング施策を見直したい人もぜひ活用してほしい。
文・鈴木 裕太(中小企業診断士)