弁護士の顧問料など社外へ報酬を支払う場合、所得税を源泉徴収する義務が課される場合がある。該当の報酬を支払う場合、報酬から所得税を源泉徴収し国に納付することが必要だ。義務がある以上、源泉徴収の対象になる報酬や計算方法、納付の時期について把握しておくことは重要である。そこで本記事では源泉徴収が必要な社外への報酬、従業員の給与等について解説していく。

目次

  1. 報酬の支払いには源泉徴収義務の可能性が
    1. 一定の報酬の場合、支払者である企業に納税の義務がある
    2. 源泉徴収した所得税は原則翌月10日までに納付
    3. 「納期の特例」を受けると負担を減らせる
    4. 納税が遅れるとペナルティが
  2. 源泉徴収が必要な報酬の例
    1. 1.従業員への給与等
    2. 2.税理士や弁護士への顧問料
    3. 3.広告宣伝のための賞金
    4. 4.原稿料や講演料
    5. 5.外交員などへの報酬
  3. 源泉徴収が不要な4つの例
    1. 1.毎月8万8,000円未満の従業員への給与
    2. 2.支払先が法人の場合、ほぼ徴収義務なし
    3. 3.報酬と明確に区分された消費税
    4. 4.弁護士などに委託する本来企業が国などに支払うべき金額
  4. 源泉徴収する所得税の基本の計算
    1. 基本は支払う報酬の10.21%
    2. 支払先によっては報酬から一定額を差し引く
    3. 従業員への給与は「源泉徴収額表」を利用
  5. 源泉徴収に関する諸手続きをステップで解説
    1. STEP1.開業、移転時に税務署に届け出
    2. STEP2.所定の納付書を利用し、所得税を納付
    3. STEP3.従業員の年末調整を行い、源泉徴収額と本来の納税額を合わせる
  6. 源泉徴収は納付の特例を受けると手間が小さくなる

報酬の支払いには源泉徴収義務の可能性が

この報酬、源泉徴収する?しない?所得税の義務と計算について解説
(画像= SFIO CRACHO/Adobe Stock)

企業は源泉徴収する義務があるため方法や期日、特例などについて周知しておくことは重要だ。ココでは押さえておきたいポイントを4つに分けて説明する。

一定の報酬の場合、支払者である企業に納税の義務がある

所得税の納税義務は、本来は所得を受ける側に発生がするが所得税法では「源泉徴収義務者」が定められている。一定の報酬の支払いを行う側は、所得を受ける側に代わりに所得税を徴収し納付する義務が課されているのだ。

源泉徴収した所得税は原則翌月10日までに納付

支払う報酬から源泉徴収した所得税は、報酬を支払った月の翌月10日までに納付する必要がある。特に月末の報酬などはスケジュールがタイトになりやすいので留意したい。

「納期の特例」を受けると負担を減らせる

源泉所得税の納期の特例を受ける要件

・給与を支払う従業員が常時10人未満
・申請書を所轄税務署へ提出し、承認を受ける

「源泉徴収の納期の特例」を受けると納付の回数を減らすことができる。対象は給与等の特定の報酬に限られているが1~6月分の報酬は7月10日、7~12月分の報酬は1月20日にまとめることが可能だ。特例を受けるには従業員の数が常時10人未満の必要がある。利用できるのはスタートアップ期などの企業に限られるだろうが、源泉徴収の負担を減らすことができる手段だ。

納税が遅れるとペナルティが

源泉徴収した所得税を所定の日までに納めなかった場合、延滞税が加算される可能性がある。スケジュールをしっかり管理したい。

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源泉徴収が必要な報酬の例

源泉徴収は支払先や支払う名目が複数ある。ここでは源泉徴収が必要な報酬例を5つ解説していく。

・従業員への給与等
・税理士や弁護士への顧問料
・広告宣伝のための賞金
・原稿料や講演料
・外交員などへの報酬

1.従業員への給与等

従業員への給与、賞与の支払いは源泉徴収の対象になる。退職金制度を設けている場合、退職金の支払いも対象だ。ただし一定以下の通勤手当や旅費、出張費などは源泉徴収の対象外となる。

2.税理士や弁護士への顧問料

社外の税理士や弁護士、また司法書士など特定の資格を持つ個人に支払う報酬は源泉徴収の対象になる。交通費や出張費を負担する場合、一定の範囲内でかつ直接ホテルなどへ支払うものは対象に含める必要はない。

3.広告宣伝のための賞金

自社商品の広告宣伝のため、賞品や現金などの金品を個人に支払う場合、源泉徴収の対象となる。懸賞クイズや抽選などのキャンペーンを行う場合が該当する。賞品が旅行に限定されているものや50万円以下の賞品や現金は源泉徴収の対象にならない。

4.原稿料や講演料

原稿料や講演料に含まれるもの
・挿絵やデザイン、校正、書籍の装丁、写真など
・作曲やレコード吹き込み
・翻訳、通訳
・著作権や工業所有権の使用料
・技芸、スポーツなどの教授、指導に対する報酬
・金商法28条第6項に係る投資助言業に対する報酬

原稿料や講演料に対して報酬を支払う場合も源泉徴収の対象になる。取材費や調査費などの名目で支払う場合でも実態が報酬であるなら源泉徴収が必要だ。注意したいのは、いわゆる原稿料や講演料以外にデザインや著作権などの報酬も対象になる点である。原稿の取り扱いや講演を行っていない企業でも源泉徴収の対象となる可能性に注意したい。

例外的に「懸賞応募作品などの入選者に対する賞金や、新聞などへの投稿に対する謝金」のうち1人に対して1回5万円以下の金額は源泉徴収が不要だ。

5.外交員などへの報酬

自社商品の販売を外部委託契約などで企業と直接雇用契約を結んでいない者(外交員)に委託している場合、その報酬も源泉徴収の対象だ。外交員への報酬に給与が含まれる場合も対象となる。

源泉徴収が不要な4つの例

報酬の中には源泉徴収が不要なものもある。ここでは源泉徴収が不要な4つの例を取り上げる。

・毎月8万8,000円未満の従業員への給与
・支払先が法人の場合、ほぼ徴収義務なし
・報酬と明確に区分された消費税
・弁護士などに委託する本来企業が国などに支払うべき金額

1.毎月8万8,000円未満の従業員への給与

従業員のうち給与が月に8万8,000円未満である場合は源泉徴収する必要がない。ただし「扶養控除等(異動)申告書」の提出がない従業員からは、8万8,000円未満の給与であっても源泉徴収義務が発生する。なぜなら申告書の提出がない従業員の場合、給与の額にかかわらず社会保険料を控除した金額の3.063%が源泉徴収の対象となると定められているからだ。

そのためすべての従業員に申告書を提出させたほうがスムーズだろう。前年から継続して雇用している場合は年末調整時に、年中に雇用した場合はその年最初の給与を支払う前日までに提出させる。年中に扶養者の数に変更が生じた場合も提出が必要だ。

2.支払先が法人の場合、ほぼ徴収義務なし

外部への報酬で支払先が法人である場合は、基本的に源泉徴収義務がない。なぜなら法人への報酬で源泉徴収義務があるのは「馬主たる法人への競馬の賞金」のみに限定されているためだ。また税理士などへの顧問料であったとしても税理士法人などと契約している場合は源泉徴収せずに支払ってよい。

3.報酬と明確に区分された消費税

報酬の請求書などで消費税が明確に区分されている場合、消費税は源泉徴収の対象に含める必要はない。報酬に消費税が含まれている場合、消費税額を含めた金額で源泉所得税の額を計算する。

4.弁護士などに委託する本来企業が国などに支払うべき金額

弁護士や税理士、また司法書士などに支払う金銭のうち本来は企業が国などに納付すべき金額でその費用に充てることが明らかな場合は源泉徴収の対象に含める必要はない。弁護士などが代行する登録免許税の納付などが該当する。

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源泉徴収する所得税の基本の計算

実際に源泉徴収を行っていくうえでは計算の基本事項を押さえておくと事務処理がスムーズになるだろう。

基本は支払う報酬の10.21%

源泉所得税の計算は、報酬の支払い先によって計算方法が異なる。主なものは次項で解説するが、基本は支払う報酬の10.21%が源泉徴収所得税となる点は押さえておこう。

支払先によっては報酬から一定額を差し引く

支払先 源泉所得税の計算
弁護士、税理士などへの顧問料
原稿料や講演料
専属契約の個人へ支払う契約金
・報酬が100万円以下の場合
報酬×10.21%

・報酬が100万円超の場合
(報酬-100万円)×20.42%+10.21万円
司法書士、土地家屋調査士、海事代理士など ・(報酬-1万円)×10.21%
※1回の委託ごとに1万円を引く
広告宣伝のための賞金 ・(報酬-50万円)×10.21%
外交員(外部委託の営業員など)などへの報酬 ・(報酬-12万円)×10.21%※支払いに給与等が含まれる場合、12万円から給与等の額を引いた残差を引く

源泉徴収が必要な報酬のうち特定のものは報酬の金額から一定額を差し引いてから税率を掛ける。弁護士や税理士などへの顧問料は報酬から差し引く金額がなく報酬が100万円以下と100万円超で計算方法が異なる。原稿料や講演料、また専属契約する個人への契約金なども同じ計算方法だ。ただし司法書士などへの報酬は1件の委託ごとに1万円を、広告宣伝のための賞金などは50万円を差し引き計算する。

外交員は報酬から12万円を差し引くが、給与を含めて支払っている場合、差し引く12万円から給与の額を差し引き、残差を報酬から差し引く。

従業員への給与は「源泉徴収額表」を利用

支払名目 従業員へ提出させる書類 詳細
給与 扶養控除等(異動)申告書 社会保険料(従業員の負担分)を差し引いた給与から税額表で算出
賞与
退職金 退職所得の受給に関する申告書 退職金の額面から「退職所得控除」を差し引き、残差の半額を速算表から算出
※退職所得控除の額
勤続20年以内 40万円×勤続年数(1年未満切上げ)
勤続20年超  70万円×(勤続年数-20年)+800万円

「扶養申告書」を提出している従業員への給与等は、従業員ごとに源泉徴収する所得税を計算する。「源泉徴収税額表」は国税庁のHPからダウンロードできるため活用すると計算が楽だろう。給与用と賞与用、また退職所得用に分かれているので注意が必要だ。給与や賞与は、給与額面から社会保険料を差し引いた金額を用い税額表から算出する。

退職金は、従業員から「退職所得の受給に関する申告書」を提出させ退職所得控除を差し引き計算する。退職所得の受給に関する申告書が提出されていない場合、退職金の額面に20.42%を掛けた金額の源泉徴収が必要だ。

源泉徴収に関する諸手続きをステップで解説

企業が源泉徴収を行う場合、税務署への届け出や納付などの諸手続きが必要になる。ここでは源泉徴収する際に必要になる手続きや納付に関する内容を解説していく。

STEP1.開業、移転時に税務署に届け出

法人が新たに事業所を設ける場合や移転する場合、1ヵ月以内に所轄の税務署(移転の場合は移転前の税務署)に「給与支払事務所等の開設届出書」を提出することが必要だ。「納期の特例」を受けるなら「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申告書」も提出する。

STEP2.所定の納付書を利用し、所得税を納付

納付書の種類 使用する報酬の種類
給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書 従業員への給与、賞与、退職金
弁護士、税理士、司法書士などの顧問料
給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書
(納期の特例分)
報酬・料金等の所得税徴収高計算書 原稿料や講演料
外交員への報酬
広告宣伝のための賞金など

源泉徴収した所得税を納める場合、所轄税務署や金融機関に備え付けられている納付書(所得税徴収高計算書)を利用する。源泉徴収した所得税の種類に応じて納付書を使い分けるとよいだろう。本記事で述べた報酬なら上記の3種が該当する。注意したいのは「弁護士や税理士、司法書士などへの顧問料」だ。社外への報酬であるが「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書」を用いる点に留意する。

納期の特例を利用する場合も一般の納付書ではなく専用の納付書を利用する点に注意したい。

STEP3.従業員の年末調整を行い、源泉徴収額と本来の納税額を合わせる

従業員にその年最後の給与を支払う月に「年末調整」を行う。年末調整を行う理由は源泉徴収で計算された所得税額と本来の納税額は一致しないからだ。そのため年末調整で従業員が本来納付する所得税額に修正する。年末調整では、従業員に各所得控除に関する申告書を提出してもらう。「扶養控除等(異動)申告書」のほか「配偶者控除等申告書」や「保険料控除申告書」などが該当する。

各種の控除を加味し従業員の本来の納税額を計算していく。源泉徴収で取りすぎていた分があれば還付し不足があれば徴収する。

源泉徴収は納付の特例を受けると手間が小さくなる

所得税の源泉徴収は企業にとって負担を強いる業務だ。創業期にある企業ならなおさら負担が大きいだろう。報酬の支払先が法人の場合は源泉徴収の義務はない。また納付の特例を受けられれば納付の回数を年2回に減らすことが可能だ。従業員が10人未満であれば申請を検討してみてほしい。

文・若山卓也(ファイナンシャルプランナー)